催眠おじさんVS美少女勇者:地球最大の決戦!RtA   作:ルシエド

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催眠感度15倍

 須美は三ノ輪銀と乃木園子に対し、偏見を持っていた。

 いや、正確に言えば、この三人は須美の誕生日パーティーまで、三者が相互に偏見を持っていたというのが正しいだろう。

 

 須美は銀をよく遅刻するだらしない子だと思っていて、園子のことがよく分からなかった。

 銀は須美を真面目すぎる堅物だと思っていて、園子をよく寝る寝坊助だと思っていた。

 園子は銀を気が強くて苦手だと思っていて、須美を真面目で厳しくて苦手だと思っていた。

 

 けれどもそんなものは、ご飯でも食べながら一度腹を割って話せばなくなってしまう程度の、とても小さな偏見だった。

 おじさんが企画した誕生日パーティーは、いい機会になったと言えるだろう。

 

 須美は不器用だけどまっすぐで。

 銀は元気で、底抜けに良い子で。

 園子は不思議な空気を纏う、善意の塊のような女の子だった。

 まだまだ三人は相互理解を進められていないけれども、仲間として、友人として、背中を預け合える程度には仲良くなって、初陣を迎えた。

 

 銀、そのっち、と須美が呼ぶ。

 なんだ須美、と銀が元気よく応える。

 なぁにわっしー、と園子がのんきに応える。

 名字で呼ばず、気安く呼び合うようになったのは、親しい友人関係の第一歩だった。

 

 心の臓が震えるような初陣だった。

 

「来たぞ須美……世界の敵、バーテックスだ!」

 

「ええ。見えてるわ。まだ遠いけど」

 

「頑張ろうね~」

 

 世界の時間は止まり、別の世界の理で上書きされた。

 神樹が時間を止め、木々で世界を塗り潰したこの世界の名は、『樹海』。

 七色に光り輝く木々が世界を覆う、樹海である。

 『樹海化』と呼ばれる、時間停止と世界の塗り替えが同時に行われるこの神樹の権能こそ、おじさんが完全に力負けしてしまった世界改変の正体だ。

 時間停止に抗えない者は、この世界に立ち入ることすら許されない。

 

 瀬戸大橋を樹海化によって変化させたこの戦場が、人類の最後の防衛線だ。

 

「敵が大きいよ~」

 

「安芸先生の言っていた通りね……」

 

「ビビんなよ、園子! 須美!」

 

 橋の上に限定された樹海を、バーテックスが進む。

 それを勇者が迎撃し、バーテックスを撃退する。

 勇者の迎撃が失敗し、バーテックスが橋を渡りきって神樹に到達すれば人類滅亡。

 ルールはとても分かりやすく、シンプルだ。

 

 ゲームで言えば、神樹を防衛するタワーディフェンスゲームに近い。

 須美、園子、銀……三つの駒が倒れれば、世界はなすすべなく燃え尽きる。

 自然と、少女らも武器を握る手に力が入る。

 

 須美の思考の深くで、おじさんがかなり強めに差し込んだ催眠と言葉が蘇る。

 

―――『いかなる状況においても自分が傷付く事態は絶対に回避しろ』

 

―――自殺も戦傷も、親に心配をかける。避けるべきものだ

 

 おじさんは十年二十年と解けない催眠をかけたつもりだったが、この催眠は時間をかけて既にかなり緩められていた。

 おじさんがリスクマネジメントを重視し、定期的に周囲の人間に催眠を重ねがけするタイプでなければ、あるいはそれ以外の催眠も中和されてしまっていたかもしれない。

 

 戦いの前に、弓に触れ、握り、弦を弾き、神樹が与えた勇者の力を全身に感じ、深呼吸してより己の深くまで感覚を伸ばす。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、須美はこの習慣をずっと続けていた。

 その意味を、須美は日に日に強く感じている。

 

「行きましょう、銀、そのっち。私達の世界を―――守るために!」

 

 初陣の彼女らは拙く、連携も不格好で、チームと言うにはあまりにも不揃いだった。

 

 けれど、想いは一つだった。

 

 守りたいものが同じなら、勇者は共に戦える。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 美森の読み通り、初戦は危なげなく終わりに向かう。

 前衛の銀が双斧を振るい、中衛の園子が槍を握って立ち回り、後衛の須美が矢を放てば、三人が今日までの訓練を活かして動くだけで、バーテックスは押し切れた。

 問題は、少女らが防衛側であるというところにあった。

 

「銀! そのっち! もうちょっと樹海を守らないと!」

 

「分かってるけどさー! これ思ったよりキツい!」

 

「もうこれ防衛考えないで攻撃に集中した方が被害減らせるよ~!」

 

 樹海化した世界は、バーテックスの攻撃や、時間経過でどんどんダメージを蓄積していき、蓄積されたダメージに応じて、世界が元に戻った時に悪影響が出る。

 事故。

 災害。

 不幸。

 そういった形で、樹海化前の世界に還元されてしまう。

 ガス爆発が起こり、山崩れが発生し、不幸に巻き込まれた人が傷付き死ぬ。

 

「急いであいつを倒さないと……!」

 

「分かるけど、銀! 迂闊に前に出ないで! 私の矢に合わせて!」

 

「大丈夫だよ! 焦らなくても、あいつもう大分弱ってるよ! わっしー、撃って!」

 

 神樹を守ること。

 樹海を守ること。

 怪物を倒すこと。

 この三つを並行することは、ルーキーの少女達にはかなり困難なことだった。

 

 三人の中で唯一焦りのなかった園子が仲間に声をかけ続けたことで、戦いは順調に勇者優勢のまま進み、美森の記憶にある初戦と似て非なる形で危なげなく終わる。

 

「お、終わった……?」

 

「割と楽勝だったな!」

 

「でもちょっと怖いところもあったね~」

 

 結果だけ見れば、極めて短時間で戦闘は終了した。

 樹海の損害も軽微。現実への影響もほとんどない。

 勇者に付いた傷は須美の頬の傷一つのみ。

 バーテックスを討滅することはできなかったが、撃退し追い返すことに成功した。

 

 ()調()()()()ほどに順調に、彼女らは戦いを終えたのである。

 

「あ、樹海が元の世界に戻ってく」

 

「ひょーぅ、パーティーの再開だぜ~」

 

「……あ、そうね。お父様にお母様、おじさまも心配してるかしら……?」

 

 戦いに夢中になっていた須美が、頬の傷に気が付いたのは、家に帰って顔を洗おうとして頬の傷に沁みてから。

 その時ようやく、須美は自分がおじさんにどう見られていたかを自覚する。

 「しまった」と思った時にはもう手遅れで、須美は己の不足を恥じた。

 

 叔父に心配なんてかけたくなくて、辛い思いもさせたくなくて、ただ自分が立派に戦ったことを褒められたかっただけで―――だから、次からはもっと上手くやろうと、須美は思う。

 

 大切な人達の笑顔を守り続けるためには、自分が無傷で帰って来なければならないことを、鷲尾須美はちゃんと分かっていた。

 

 

 

 

 

 須美が強くなるには、努力と目標が必要だ。

 "こういう勇者になろう"という明確な目標と、そこに向かうための努力が。

 幸いにも、須美には美森が居た。

 勇者としての完成度を高めた未来の自分という、理想の目標が。

 

 須美の武器は弓、美森の武器は銃であったが、立ち回りのフォーマットがほぼ同じで、武器が違うにもかかわらず、須美は理想の立ち回りを美森から学ぶことができた。

 

「須美ちゃん。この時代のあなた達は、本当は基本的に勝てないの」

 

「え?」

 

「この時代の勇者の武装では、本来バーテックスを倒せない。

 撃退はできるわ。でもそれだけ。

 バーテックスを討滅するには、私達の世代の勇者システムじゃないといけないの」

 

「そんな……じゃあどうすればいいんですか!?」

 

「大丈夫。

 おじさまが大赦を掌握したから。

 私の勇者システムを解析して、ほどなく須美ちゃん達のシステムも強化されるわ。

 勇者システムを開発しているところも、もうおじさまの催眠の支配下にあるから」

 

「そう……なんですか?」

 

「ええ」

 

 勇者システム。

 勇者が神樹の力を効率よく運用するためのシステム。

 神の力というオカルトと、アプリによる機械的制御というデジタルの融合。

 東郷美森の世代のシステムを導入することは、須美達を桁違いに強化することになるだろう。

 

「本来この時代の勇者は敵を倒せない。

 撃退しかできない。

 だからおじさまに負担が行って……その後、その後……?」

 

「東郷さん?」

 

「……ごめんなさい、なんでもないわ」

 

 東郷は消えた記憶を手繰るが、何も掴めず、頭を振って話を続ける。

 

「私はしばらくおじさまの傍に付くわ。

 樹海に入るか入らないかくらいは自分の意志で決められるから」

 

「おじさまの傍で何をするんですか?」

 

「その内分かるわ」

 

「一緒に戦ってはもらえないということでしょうか?」

 

「大丈夫よ。そんなに遠くない日に状況は変わると思うから」

 

「え?」

 

 美森の言うことはハッキリしない。

 いや、意図的にハッキリさせていないのだろう。

 わざと多少ボカした言い回しを選んでいる。

 

「あなた達が敵に勝てなくなるか。

 おじさまがあなたの強さを信じられなくなるか。

 それか、"あの日"が来るか―――私が参戦するとしたら、そのどれか」

 

「あの日?」

 

「須美ちゃん」

 

 それはきっと、美森にとって大切な何かが、そこにあるから。

 

 『鷲尾須美が自分で考えて出した答え』の価値を、美森が知っているから。

 

 だから美森は答えを提示し、「これを選んでほしい」とは言わない。

 

 わざとボカして、「自分で考えなさい」と暗に言う。

 

「自分の名前に恥じない選択をしなさい。

 鷲尾須美として恥じない選択を。

 東郷美森として恥じない選択を。

 それでも人生には後悔が付き纏うけど、きっと、それが正しいことだから」

 

 美森は『他人』にはこんな風に接しない。

 『他人』にはこんなことは言わない。

 美森にとって『自分』である須美に、美森は希望を創る言葉を投げかけた。

 

 それは須美にはまだ、希望であると感じられない言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神世紀298年5月8日。

 須美の誕生日、及び彼女らの初陣から、一ヶ月が経過していた。

 今日もキンタマキラキラ金曜日である。

 訓練休憩中の須美、銀、園子の輪の中に、訓練を見に来ていたおじさん――スポドリとタオルの差し入れ持参――が加わり、四人でまったりと談笑していた。

 

 大赦の治療の甲斐もあって、須美の頬にもう傷跡は残っていない。

 けれどおじさんは、まだそこに傷があるような気がしていた。

 目には見えないけどある"気がする"……悔いが見せる幻である。

 

「インチキおじさん~、私が今思いついた心理テストしない~?」

 

「やるやる~」

 

「おじさまのこのそのっちへの順応っぷりはなんなの」

 

「わしおじさんなんなら初対面の瞬間から園子に順応してたからな……」

 

「おじさま、そんなにそのっちと息が合うなら、乃木家に引っ越したらどうですか?

 別に私は止めませんよ。

 おじさまだって息が合うそのっちと一緒の方が楽しいでしょうし。

 私は仏頂面で面白い話もできませんし、そのっちみたいな愛嬌も全然ありませんから」

 

「見ろよ乃木のお嬢、須美がジェラシーしてるぜ~」

「ジェラってるぜ~」

 

「してません!」

 

「でも安心しろ、小生はずっと須美だけのおじさまだから~」

「私はわっしーだけの親友だから~」

 

「須美……頑張れ! アタシはもう知らん」

 

「あーもう!」

 

「小生クソウケる」

 

「おじさま!」

 

 大人の威厳というものを保つ気が一切ないおじさんと、気心知れれば大の大人にも物怖じしないそのっちが共鳴すると、もはや須美では対応不可能なコンビが成立してしまう。

 銀は匙を投げた。

 最大の問題はおじさんも園子も須美が大好きということで、そこに疑いの余地はなく、ゆえにこそ須美は怒るに怒り切れないという、ヘンテコなループが成立してしまっていた。

 

「インチキおじさん心理テストやらないの~?」

 

「やるやる~」

 

「おじさまはどんなノリにも合わせて行けるところありますよね……」

 

「園子と須美とアタシで対応全然違うから、わしおじさんのキャラ未だに掴めないぞ」

 

 おじさんは相手によってそれなりに対応を変える。

 銀相手なら銀がはっちゃけたノリを出しやすい話し方に。

 園子相手なら、天然で不思議ちゃんの園子のリズムに合わせる。

 大人相手には適当に敬語を使って合わせることもある。

 おじさんが素の性格を一番出しているのは、おそらく須美と話している時だ。

 

 自分と同じ会話ペースの人間と出会ったことのない園子からすれば、自分のペースに合わせてくれるおじさんはたいそう話しやすかった。

 

「あなたは大切なものをなくしてしまいました。悲しいね」

 

「ほう。小生の大切なものがなくなったのか」

 

「だから大切なものを探さないといけません。どこでなくしたか考えるんだよ~」

 

「なるほど……そういう心理テストか」

 

「場所の候補は五つだよ~。

 わっしーの服の内側の胸、背中、おなか、スカートの中、靴の中の五つです!」

 

「ん? 待ってそのっち」

 

「……。須美の背中で」

 

「わっしーの背中を探した人は……えっちです!」

 

「そのっち待って」

 

「なるほど心理テスト……ちなみに小生が胸って言ったら?」

 

「えっちです!」

 

「おなかは?」

 

「えっち~」

 

「スカートの中は?」

 

「すけべ~」

 

「靴は?」

 

「へんたいさん~」

 

「小生詰んでるわこれ」

 

「そのっち!」

 

「うーわー」

 

 須美が園子の頭を両手で挟んで、猛烈な勢いで前後に揺らす制裁をかました。

 制裁を受けている園子は須美に構ってもらえるのが嬉しいのか上機嫌で、制裁をかましている須美の方に余裕がないという奇妙なことになっていた。

 

「そのっち! あなたはいつもいつも!」

 

「まあ待て須美。

 正直小学生女子としてはどうかと思うが……

 多分これは園子の親愛の証だ。

 小生のノリに合わせてくれたんだろうと思う。

 須美に構ってほしいというのもあるだろう。

 そんな猛烈に揺らしてやらんでももうちょっと」

 

「そのっちがスキップしてるの見て真似して足を挫いたおじさまは静かにしててください!」

 

「!? 待て須美お前これちゃんと催眠かかってる?」

 

「ひええ、須美がお怒りだ、これはもうわしおじさんでも止められないぞ!」

 

「小生もしかして須美にスキップもできないおじさんと思われてるのか」

 

「ひゃ~、わっしーがお説教モードなんよ~」

 

「そのっちは嫌いじゃないけど言いたいことはあるのよ! まずは……」

 

 

■■■■■■

 

 

「……ということなのよ。って何今の!?」

 

「小生がスキップできないと思われていたから須美の長いお説教をスキップしたぞ。催眠で」

 

「催眠で!?」

「うおお! 須美のお説教が消えたぞ!」

「まるでゲームみたい~」

 

「まあ具体的に言えば時間感覚と会話の記憶と現状認識弄っただけだけどな」

 

「おじさま!?」

 

「やめなイキリ須美太郎。小学生の園子に長いお説教は酷なんだぞ」

 

「イキリ須美太郎!?」

 

「乃木のお嬢。

 そういう方向のネタはむさ苦しいおっさん専用だ。

 可愛い少女が使うと彼氏ができなくなるから以後封印しておきなさい」

 

「はーい」

 

「須美をからかうのは須美を苛立たせない範囲なら良いぞ。反応が可愛いからな」

 

「はーい!!」

 

「なんで二回目の返事の方が声大きいの! そのっち!」

 

 声を上げる須美が楽しそうにしていることは、この場の誰にも分かっていた。

 二人は友人で、一人は家族だったから。

 おじさんと園子がまた変な会話を始めて、それを優しげな目で見守る須美を見て、銀は曇りのない笑顔で須美に語りかける。

 

「よかったな須美」

 

「何が?」

 

「須美が守りたかったものって、これだろ? じゃあよかったじゃん」

 

「―――」

 

 銀の言葉が、須美の胸の内にすとんと落ちた。

 

 楽しい日々。

 愉快な会話。

 平和な時間。

 幸せの実感。

 何気なく流れる今の時間こそ、須美が戦って守ろうとしたもの。

 須美の目の前で笑い合う大切な人達こそ、須美が頑張って守ろうとしたもの。

 

 人はそれを、幸福と言う。

 

「銀は良いことを言うわね」

 

「お、そうか? へへっ、須美の考えてることはわかんないけどさ、友達じゃん?」

 

「銀……」

 

「悩んでたら気になるし、悩みが晴れてるの見たら嬉しいよ。そうだろ?」

 

「……ええ、そうね」

 

 須美の中の、須美がまだ言葉にできていなかった気持ちを、銀が言葉にしてくれた。

 

「私はそのために戦ったんだわ」

 

 戦うことを決めて良かったと、今の須美は、心の底からそう思える。

 

「あーあー待て待てそのっちさん小生肉体的には普通の人間の耐久度だからそれ死んじゃう」

 

「ご、ごめんなさーい!」

 

「何やってるの!?」

 

 耳に入って来たおじさんとそのっちの窮地の声に、須美は全力疾走で助けに入った。

 

 

 

 

 

 須美の日常は、学校、訓練、たまに休日の繰り返し。

 その合間におじさんや美森、親しい友達との笑い合える日々が挟まる。

 辛く苦しい時もあったが、その何倍も幸せで、その幸せが須美の力になっていく。

 毎日笑っていられることの幸せを、須美は噛み締めていた。

 

 その日、須美、園子、銀は体を休めつつも敵の襲撃を警戒し、鷲尾家にて自宅待機していた。

 いわゆる警戒態勢である。

 銀と園子は漫画を読んでいたが、須美がロケットペンダントをパチパチといじり、時々中の写真を見て優しげな表情を浮かべてるのを見て、漫画を放って須美に話しかけてきた。

 

「お、かっこいいじゃん須美。なにそれ? ロケットに写真入ってんの?」

 

「この前のお誕生会の写真~?」

 

「ええ。おじさまが手作りのロケットにしてくれたの」

 

「わしおじさん出来ることと出来ないことが極端だな……」

 

 須美の誕生日の、色んな人が集まって須美を祝っていた時の写真が中に入っている。

 須美の首から下げられたロケットペンダントは、須美の大切で暖かな思い出を中に綺麗に封じ込めていて、須美が望めばいつでもそれを見れるようになっていた。

 

「わっしーは叔父さんのことが大好きなんだね。

 私も優しくてツキノワグマみたいな叔父さんが欲しいな~」

 

「ツキノワグマ……?

 おじさまは私が守るわ。

 世界も、お父様も、お母様も、皆も。

 じゃないと、私は勇者なんて名乗れないもの」

 

 須美はロケットを握り、力強く宣誓する。

 

「おじさまは、私が傷一つ付かないで帰って来ることを願ってる。

 それは本当に難しいことだわ。

 でも、せめて、その想いには応えたい。

 私もおじさまに傷一つ付いてほしくないって思いながら、お役目に挑むの」

 

 須美の覚悟が、強い想いが、園子や銀にも伝わっていく。

 この真面目さが、真剣さが、真っ直ぐな想いが、園子と銀の心に力をくれる。

 その愚直さを不器用と小馬鹿にする者もいるかもしれないが、少なくとも園子と銀は、須美のこの不器用なまでに真っ直ぐな心を、尊敬していた。

 

「敵を倒すことじゃなくて、人を守ることが、私達が勇者である証明になるはず」

 

「だな。守ろう、アタシたち三人で!」

 

「三位一体! だね~」

 

 かくして。

 

 未だ終わりは遥か先の戦いの、二戦目が始まる。

 

「―――来る」

 

 世界の時間が止まる。

 

 世界が樹海に塗り潰される。

 

 前回戦ったバーテックスより更に大きな天秤型のバーテックスが、戦場に現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美森の記憶は正しい。

 彼女らは序盤には生死の危機にも陥らない。

 もう少し後になれば段々と追い詰められていくが、逆に言えばそこまで絶対の危機はない。

 美森の記憶の通りに事態が展開すれば、そうなるはずだ。

 美森が持ち込んだ未来の勇者システムも反映され、強化された須美達が相手では、この段階のバーテックスはまるで相手にもならない。

 

 二戦目が終わり、須美達はまたしても危なげなく、バーテックスを追い返した。

 

 今度は勇者達に傷一つない。

 須美は自分の体の傷をチェックして、自分が無傷であることを再確認してほっとする。

 

「……よかった。これならおじさまも心配しないわね」

 

 樹海の破壊度合いは前回より増えたが、それだけだ。

 戦いは短時間で終わり、バーテックスは神樹に近付けもしなかった。

 須美の脳内自己採点で百点満点の結果であったと言えるだろう。完勝だ。

 その認識は銀や園子も同様であるようで、誇らしげな銀、いつものように脳天気な表情の園子が須美に抱きついてくる。

 

「楽勝だったな! ずっとこうだといいんだけどなー!」

 

「そうだね。でも連携ちゃんとできてなかったら危なかったかも~」

 

「連携訓練をちゃんとしてたおかげね……銀、そのっち、お疲れ様」

 

 完勝の喜びに浸りつつ、須美は気を引き締める。

 まだまだ戦いは続くのだ。

 今日の戦いは長い戦いの二戦目にすぎない。

 油断すればまた怪我をして叔父を心配させてしまうだろう。

 須美は油断せず、明日からもまた精進していこうと、改めて自戒する。

 

「樹海が消えてく……アタシ、この風景結構好きだな。世界が丸ごと花散る、みたいな」

 

「私も~!」

 

「そうね。本当に綺麗……"散華の美しさ"っていうのかしら、こういうのは」

 

 樹海は、花散るように元の世界に戻っていく。

 

 散らない花は造花だけだ。

 

 どんな花もいつかは散る。永遠を約束されたものなどない。

 

 いかなるものにも、終わりはある。いかなる命もいつか散る。

 

「はー、戻って来た戻って来た。どうする? またわしおじさん迎えに来るかな?」

 

「きっと来るよー! インチキおじさんはわっしー大好きだもんね」

 

「ちょっと、おじさまにばかり頼ってるわけにはいかないわ。

 おじさまに頼らず自分の足で走って帰って……

 あら? 安芸先生の連絡? 随分急いだ感じの文章ね……何かしら」

 

 安芸からの呼び出し連絡を受け、少女達三人はそそくさと移動する。

 

 完勝の報告をしようと少し浮かれていた三人を、険しい顔をした安芸が出迎えた。

 

「あなた達、落ち着いて聞いて。特に鷲尾さん」

 

 樹海化した世界は、バーテックスの攻撃や、時間経過でどんどんダメージを蓄積していき、蓄積されたダメージに応じて、世界が元に戻った時に悪影響が出る。

 事故。

 災害。

 不幸。

 そういった形で、樹海化前の世界に還元されてしまう。

 ガス爆発が起こり、山崩れが発生し、不幸に巻き込まれた人が傷付き死ぬ。

 

 おじさんは生まれた時から今日に至るまで、()()()()()()()()()()()

 そういう人生を送ってきた。

 不幸体質と言うほどではないが、他人より不幸に遭いやすい人生を送ってきた。

 ただひとつを除いて、彼が幸運であったと断言できるものはない。

 

「鷲尾さんの叔父様が、子供を庇って山崩れに巻き込まれたわ。今、手術中よ」

 

「―――」

 

 誰かが悪かったわけではない。

 

 強いて言うなら、運が悪かった。

 

 

 

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