催眠おじさんVS美少女勇者:地球最大の決戦!RtA   作:ルシエド

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 中間発表で一位だったようです。イエーイ!

 いつもお気に入り・感想・評価など、ありがとうございます。全て拝見させていただいており、お褒めの言葉ばかりで恐縮です。一つ一つが励みになっておりますので、後少しばかりついてきていただけると嬉しいです。


催眠感度20倍

 車椅子の上で、包帯ぐるぐる巻きにされた状態の男が、静かに佇んでいる。

 車椅子を押しているのは東郷美森。

 車椅子の上の男を睨みつけるのは、おじさんを襲撃して縛り上げられた大赦の最後の残党。

 

 戦闘で傷が開いて色々と体にガタが来ているおじさんは、車椅子の上で苦痛をおくびにも出さずに、悠々と振る舞い男達を見下ろしていた。

 

「……お前、何が目的なんだ」

 

 大赦の男が、おじさんに問いかける。

 彼らはかつてこの社会の支配者だった。

 神という世界の支配者の下に位置する支配者だった。

 だがもう、そうではない。

 

「ん? そうだな。催眠おじさんは大体世界平和が目的ですが?」

 

「人の心を支配して世界平和か! さぞかし気持ちが良いだろうな!」

 

「正論ありがとう。お前らは正しいよ。

 小さな女の子を鉄砲玉にして世界を守るのも実に正しい」

 

 叔父さんは「ギャハハハ」と笑い、後ろの東郷が「本当にギャハハハって笑う人おじさま以外見たことないですね……」と苦笑していた。

 

「運が悪かったな。催眠系の薄い本ってのは大体最後に正しい方が負けてるもんなんだ」

 

「薄い本って何だこの野郎」

 

「ブハハハハハハ」

 

 おじさんはよく笑う。

 

―――よく笑いなさい、息子よ

―――悪はよく笑うといいの

―――逆に善人が歯を食いしばって頑張ってる時の方が応援されるわね

―――笑って損はないわ。だから笑うのよ

―――あなたに支配されて膝を折る時、あなたの爆笑を見た人は、きっと心も折れるから

 

 それはきっと、親の教育が良かったから。

 

「小生が人の心操って平和平和ってしてんのは否定できんわ。

 けどな、第一、大赦も人の心を支配して平和にしてたんじゃないかね。

 教科書も。

 教育も。

 テレビも。

 娯楽も。

 全部大赦の検閲と修正が入ってたぞ、こえーよ。

 でもまあ、こんだけやれば常識も倫理も画一化できるよな……大したもんだ」

 

「っ」

 

「それが悪いとは言わねえよ。

 この世界の善性と合理性は凄い。

 助けの見込みのない籠城戦をするには最高最強の構造だ。

 世界を守るためにこんな社会にしたなら、純粋に尊敬はできる。

 ……でもな。

 この世界は多分、生きてる人間全員、神の催眠にかかってるようなもんだと思いますわ」

 

「……」

 

「クカカ、おいおい真面目に受け取るなよ。

 真面目すぎるわ。

 この世界の人間本当に善良で斜に構えてないやつ多いな……」

 

「バカにしてるのか?」

 

「……ハッハッハ! そうだな! バカにしてるかも!

 お前らは世界と人類のための支配だったな。

 小生は自分のためにしか支配してねーワ。

 寝覚めが悪くならなけりゃどうでもいい。

 基本的には全部小生の都合だ。小生が都合良くやりたいだけだから説得は無力だぞ」

 

 おじさんが腕を上げる。

 世界のための社会の支配者は、彼が指を鳴らした瞬間、自分のための社会の支配者―――種付けおじさんに屈することだろう。

 

「だから、新しい支配者の思考に染まってもらうしかないんだ。ごーめんな」

 

 指を鳴らされる、まさにその瞬間、縛り上げられた老人が咆哮した。

 

「儂は許さんぞ! 必ずやこの催眠を解き、お前を叩き出してやる!」

 

「おっ、うるせーのが来た」

 

「貴様は許されんことをしているのだ」

 

「まぁ否定できねえな」

 

「小学生の女の子に執心するクソロリコン野郎が!」

 

「まぁ否定できねえな!」

 

「最初にロリを催眠で手中に収めその少女の家に何ヶ月も住んでいる異常性癖がッ!!!」

 

「まぁ否定できねえな!! 客観的に見たら!! 小生そういう動きしてるわ!」

 

「どうせ童顔の大人に見ようと思えば見えなくもないあの子に性欲が止まらんのじゃろゲスが!」

 

「須美は尊いんだよ性欲向けてんじゃねえ殺すぞ」

 

「お、おう」

 

「分かってねえなクソが……

 あいつは容姿も世界一だが何より凄えのは性格なんだよ……

 大事な人のためなら何だってできる、あの心が光なんだよ……!!」

 

「き、気持ち悪いな……あんな子供の心に感動してんじゃないぞ」

 

「しろよどアホが!

 そういうとこなんだよ小生が大赦全員洗脳状態にしてる理由!

 あの心に価値があるんだよ!

 あれは世界より重く扱っていいものなんだ!

 めったに見られない希少で貴重で綺麗で、使い捨て以ての外の心なんだよ!

 うん百年前からどいつもこいつもそういう心を片っ端からすり潰し続けてて腹立つわ!」

 

「な、なんだ、こいつ」

 

「お前らは心操りもしないから心も見えてねーんだよあほばか」

 

「こいつ時々子供っぽいとこあるな……」

 

 縛り上げられていた男の内一人が、そこで話に割って入ってくる。

 

「頼む、催眠で俺の自由意志がなくなる前に、これだけは聞かせてくれ」

 

「なんだね。小生が答えるかは知らんが言ってみ」

 

「私の娘は、私が君にしたことで、君の制裁を受けるのか?」

 

「ほう、娘。娘が心配? あんた父親なのな」

 

「……頼む。

 私の、私の娘には何もしないでくれ。

 君に逆らわないようにする催眠くらいならいい。

 違和感を抱かない催眠でもいい。

 でも、それ以上しないでくれ。

 娘に指一本触れないでくれ。

 君を殺そうとしたくせに何を言うかと思われるかもしれない」

 

「実はちょっと思ってますね小生」

 

「でも私は嫌だったんだ。

 知らない人間に娘が支配されることが。

 娘が自由に生きられなくなることが。

 君の機嫌一つで娘が好きにされてしまうことが、

 死ねと言われれば私は今すぐここで死んで償う。だから、だから……!」

 

「……」

 

「娘には生きてほしいんだ! 叶うなら自由に、健やかに、幸福に……!」

 

 何かが違えば、鷲尾家の父親がここに居たかもしれない。

 何かが違えば、ここで縛られていたのは東郷家の父親だったかもしれない。

 そう思うと、おじさんの手は止まる。

 おじさんのことを深く理解している美森は、静かになったおじさんの思考を、手に取るように理解していた。

 

「そうだな……」

 

 おじさんが悩むフリをし始める。

 美森は"おじさまが言うことは決まってるわよね"、と話を聞き流し始めた。

 

「さて、どうするか……?」

 

 いつまで悩むふりしてるんですかおじさま、と美森は思った。

 

「お前達は小生に小賢しく抵抗活動を行ったわけだしな……?」

 

「くっ……」

 

 いつまで引っ張るんですかおじさま、今の親らしい言葉に感銘受けたのは見てれば分かりますから早く言ってくださいおじさま、と美森は思った。

 彼のそういうところが嫌いじゃない自分に呆れて、美森は溜め息を吐く。

 

 チラッとおじさんが美森の方を見て、美森が表情を取り繕った。

 おじさんは美森を見て思い出す。

 最後に自分が天の神と相打ちになって終わることを。

 で、あるならば。

 その日までおじさんが余計なことをしないのであれば、きっと誰もが生きていけるだろう。

 自由に、健やかに、幸福に。

 

「安心しろ、最悪最後に死ぬのは一人だ。お前達の家族は死なない、ってことらしいぜ」

 

 不幸中の幸い、絶望の中の砂粒一つくらいの希望に、その大赦の父親は心底ほっとしていた。

 

「……よかった。よかった、本当によかった……」

 

 絶望の中で見つけた僅かな希望を、人は信じもうとする。

 それは脳科学分野が解明を続けている頭の作用の一つだ。

 "だからといってこんな悪人にしか見えないやつの言葉を信じるなよ"とおじさんは思うが、そんなことを考えつつも、この父親の娘には近寄ることすらしないようにしようと、決めていた。

 

 そんなおじさんの頭をぽんぽんと、車椅子の後ろから美森が撫でていた。

 

「おい美森ちょっとやめろ、今はそういう流れじゃねえから」

 

「そういう流れですよ」

 

 おじさんは美森に頭を撫でられた感情を隠すために頬杖をつこうとして、折れた指に思いっきり顔を乗せてしまい、痛みで悶絶し周囲から「何やってんだこいつ」と見られていた。

 こほん、と咳払い一つ。

 気を取り直し、おじさんは男と向き合う。

 

「親は大変だな。他人の子供を生贄にしてでも、自分の子供を守りたいと思うもんか」

 

「ああ」

 

 罪悪感はあれど、返答に迷いがない。

 ゆえにこそ、彼は親だった。

 

「殺そうとしたから……私達はもう、お前に何も、言う資格はないのかもしれないが」

 

「あるぞ」

 

「え?」

 

「言う資格はあっても、言う自由はなくなるだけだ」

 

 指が鳴る。

 

 記憶が曲がる。

 

 意志の誘導が始まる。

 

 おじさんの催眠は軽くかけただけでも十年二十年と継続させることが可能で、その気になればおじさんが死んでも一生残る催眠にできる。

 だからこそ、おじさんが定期的にかけ直しているのに、それでもなお明らかに催眠の強制力を無視している勇者達の存在が、際立っていた。

 

 

 

 

 

 神世紀298年6月1日。

 おじさんの体も随分と治ってきた。

 とはいえ完治にはまだ遠い。

 おじさんは自由に歩き回れるようにはなったものの、未だ激しい戦闘が起これば治りかけの傷が悪化するような状態にあり、敵が来ないことを祈るばかりであった。

 

 だが東郷曰く"来るとしたら急いで残り七体を完成させてからだと思います"とのこと。

 十二星座は五体倒した。

 残りは七体。

 東郷曰く『次が作られる』可能性もあるという話だが、そうなるとしても何年後かの話だろうということで、当座の敵はこの七体に絞られた。

 十二星座は、空に輝く七つの星へ。

 

 だが須美、銀、園子の三人は大分安心していた。

 おじさんが凄まじい力を発揮していたからである。

 主人公最強チート小説を読んでいる時のような安心感、「まあ皆幸せになるでしょ」という緩い安堵、まるで空気が水戸黄門のそれである。

 水戸黄門が負けると思ってハラハラしながら見る人はいない。

 

 おじさんの強さは主人公が苦戦しないタイプのなろう系の域にある。

 だが実際は須美に袖を引かれ、美人を見つけても性交を成功させることができず、女漁りも完全に止まっている彼は完全におなろう系だ。

 ロリが一番になってしまった彼と、催眠音声オナニストおじさんに、大した差はない。

 成人女性とおセックスできてないのだから同じだ。

 クソ情けないオナニー野郎が満足にできることなど、戦闘くらいしかないだろう。

 

 なので戦闘で大活躍しないといけないのだが、おじさんはしばらくぶりに全スマホの状態チェックを行って、頭を抱えた。

 現在、23:00。

 自室で床に並べたスマホを眺めていたおじさんは、頭を抱えてうーんと唸った。

 

「稼働状態にあるのが108個。

 使いすぎでバッテリーの調子が悪いのが22個。

 原因不明だけど時々勝手に再起動するのが7個か……

 ああああああああああッ!!

 なんでドコモショップねーんだよ!

 バッテリーだけでも交換したい!

 電池が残り30%くらいから突然電源落ちて0%になってんだけど!」

 

 あと二、三回であれば問題なくフルパワーで戦えるだろう。

 だがフルパワーで戦えば戦うほどに不調は増す。

 前回の五体撃退戦闘だけでも、大分不調は増していた。

 あの究極形態を使用する回数は抑え、対魔忍システムと通常催眠とヒュプノ・バーテックスを上手い具合に使っていくのが最善の選択肢になるだろうか。

 

「かーんど三千倍」

 

 練習も兼ねて軽くTMNシステムを起動するが、ちょっとばかり操作を失敗し、時間感覚限定の感度三千倍が広がってしまう。

 

「あいだだだだだだぐぎゃぐげぎぎぎストップ! 痛いわ! 痛いっつってんだろが!」

 

 ぐえーっ、とおじさんが床を転がり、痛みで思考が止まり、スマホが廊下まですっ飛んで転がっていく。

 このままでは痛みで発狂して死んでしまう……と思われた、その時。

 呆れた顔をした美森がやって来て、スマホのアプリを停止してくれた。

 

「本当に何やってるんですか……」

 

 美森は風呂上がりらしく、髪留めで簡易に一本にまとめた長い髪を、肩の前に流していた。

 上気した頬は色っぽく、髪が肌に張り付いていて、まだ少し湯気が出ていた。

 男なら顔を隠していても"ぐっ"とくるしかない体型が、寝間着の薄着でいつもより分かりやすく出ていて、そんな彼女が呆れた様子で、でも楽しげに笑っているものだから破壊力が高い。

 水色の薄手の寝間着の胸元が開いていて、落ちていたスマホを拾ってアプリを止めたためか、美森の姿勢が前かがみにになっていて、寄せられた胸の部分が重厚に少し揺れていた。

 

 おじさんは全力で、床に頭を叩きつける。額の包帯に血が滲む。

 

「せいはっ!」

 

「何事?!」

 

「フン……小生の冷静さが失われることなどない……」

 

「大分しょっちゅう失われてると思いますけど」

 

 "この子を汚すな"という思考が頭の中を支配している時点で、おじさんはもうとっくに、東郷美森/鷲尾須美に負けてしまっていると言えた。

 

「サンキュー美森ぃいづづづ」

 

「ああもう、もうちょっと寝ててください。膝くらい貸しますから」

 

 傷の痛みに呻いているおじさんの傍に歩み寄り、腰を降ろした東郷が太腿を撫でる。

 膝枕だ。

 今立ち上がっても体に負担があるから無理せず少し寝て休め、ということだろう。

 おじさんは様々な理由から、心底嫌そうな表情を作った。

 

「要らん、膝の安売りするな」

 

「そうやって無理するから……」

 

「お前の足はすらっとして見えたが随分と太かったんだな。触っていいのか?」

 

「もう」

 

 おじさんが美森の内心を分かっているのか、美森がおじさんの内心を分かっているのか、曖昧な時間が流れる。

 おじさんはよろよろと立ち上がり、とりあえず机に腰掛けた。

 風呂上がりの美森は艶やかすぎて目に毒で、男なら誰でも間違いを起こしそうになってしまうため、机に腰掛けるフリをして距離を取る。

 

「第一、無理はどっちだ?」

 

「?」

 

「みー子お前よぉ、この前寝言で困ってることについて話してたぞ。

 寝言で弱音や悩みを口にしてるやつは無理してるやつだって話だ」

 

「えっ……な、なんて言ってました?」

 

「『うう……胸が大きすぎて周りが全員雑魚で困っちゃうわぁ』とか言ってたぞ」

 

「絶っっっっっっっっっっっっっっっ対言ってません!」

 

「でも『私大抵の女より顔もスタイルも良くてごめんなさい』とか思ってるだろ?」

 

「思ってません! 思ってるのはおじさまでしょう!?」

 

「小生にはそう思われてると確信してるんだな……

 さすがだみー子……お前が顔もスタイルも思い上がりっぷりでもNo.1だ」

 

「~~~っ……おじさまのおかげで、私、大分タフになりました……」

 

「だろうな。お前みたいに目立つ女は、そんくらいタフな方がいいぞ」

 

 おじさんは会話の途中に息を整え、痛みを抑え、なんとか立ち上がり、壁に掛けてあった上着を無造作に取って、僅かな湯気も出なくなっていた美森の肩に掛ける。

 美森を優しく立ち上がらせて、おじさんは彼女を部屋まで送っていった。

 

「ほらはよ部屋帰れ」

 

「もう」

 

 美森は困ったように笑い、風邪を引かないようにと無言で自分に掛けられた上着の端を、愛おしそうに掴んでいた。

 

「はよ寝ろ」

 

「おじさまが私が寝るまで見守ろうとするの、久しぶりですね……」

 

「久しぶり? 須美にはよくやるが……そうか、お前は三年分覚えてるのか」

 

「怖い夢を見た時はこうしてくれたこともありましたよ。何度も、何度も」

 

「そうか」

 

「おじさまが私に催眠かけて寝かせてきた時もありました。ふふっ」

 

「楽だからな」

 

「子守唄を歌ってくれたことも、ありましたね」

 

「小生が? んなバカな。小生は歌が下手だから人前で歌わないと決めてたが」

 

「……ふふっ。そういえばその時も、そんなこと言ってましたね……」

 

「……小生はそんなにお前に弱みを見せていたのか?」

 

「私もいっぱい、おじさまに、弱みを見せましたよ……」

 

 美森は話しながらまどろみの中に落ち、やがて眠った。

 

「みー子、ちょっといいか」

 

 返事はない。

 

「眠ったか」

 

 おじさんは背伸びをするが、傷に響いて痛みが走る。

 少し休んでから元の部屋に戻るか、と思うも、その視線は壁だけに向けられている。

 おじさんは美森の方を見ようとしなかった。

 そちらを見れば、眠りについた美森が目に入る。

 無防備な整った顔。

 はだけた胸元。

 普段の礼儀正しい姿勢や所作が隠していた、肉感的な体の各所。

 寝返りを打てば布越しの尻も見えるかもしれない。

 

 おじさんは美森の方を見ないことで、美森へ変な気持ちを抱かないようにしていた。

 セルフコントロールである。

 

「……っ」

 

「ん?」

 

 すると、美森が、何かを言い始める。

 

「……さい」

 

 上手く聞き取れず、おじさんが歩み寄り、耳を寄せる。

 

 それは寝言だった。

 

 催眠で消された記憶が、脳細胞から抽出され、口をついて出る、朝目覚めても覚えていない記憶を語る寝言だった。

 

「守れなくて、ごめんなさい……私のせいで死なせて、私が殺して、ごめんなさい……!」

 

「―――」

 

 美森は謝っていた。

 涙を流していた。

 地獄の記憶を思い出し、何度も何度も謝っていた。

 

 泣きそうになった自分を、おじさんは必死にごまかした。

 

 おじさんは、自分が死んだことはどうでもよかった。

 生きたいとは思っていたが、自分が凄惨に死ぬことは分かっていた。

 それが因果応報だと思っていた。

 だが、死んで悲しませてしまったことだけは、許せなかった。

 自分が殺されることは因果応報であると思えても、自分の死によって美森/須美が泣いてしまうことは―――絶対に、因果応報ではないと、そう思っていた。

 

 愛ゆえに死に悲しみがあるという、ごく当たり前の因果ですら受け入れられないなら、その歪みの果てに得られる結末は決まりきっているというのに。

 

「……ごめんな。

 今度はちゃんとやるから。

 失敗したら記憶も消すから。

 だから……あんま泣くなよ、笑え。笑ってるお前の方がいい顔してる」

 

 おじさんは優しく美森の頭を撫で、涙を拭い、崩れていた服の襟元を正し、掛け布団をかけ直してやり、美森の額に手を乗せる。

 

「さて、かかるかな。『どうか幸せな夢を』」

 

 美森の表情が安らぎ、涙が止まり、謝罪の言葉が止まる。

 

 やがて須美の表情が和らぎ、幸せそうな微笑みが浮かんだ。

 

 悪夢はまた見るかもしれない。だが少なくとも今は、彼女は幸せな夢の中にいる。

 

「穏やかで、安らかであれ。お前を悲しませるものから、夢の中でも、小生が守るから」

 

 夜が明けるまで、おじさんは美森に催眠をかけ続けた。

 怪我の影響でおじさんの催眠の力は回復しきっておらず、かけ続ける必要があったから。

 夜が明けた頃、美森が起きる前におじさんは部屋を去り、さあ寝ようとしたまさにその時。

 

「おじさま! いつまで寝ていらっしゃるんですか!

 早く起きてください! 家の名に恥じない起床時間を心がけてください!」

 

 須美がおじさんを起こしに、飛び込んできた。もちろんおじさんは30分と寝ていない。

 

「え~……小生悪い子なんで……早起きはしないことにしました……」

 

「ダメです! 早寝早起きが健康と長生きの秘訣です!」

 

「しょうがねぇなぁ……」

 

「はい、よくできました。おじさまが朝に居ないと、なんだか寂しいですからね」

 

「さびしんぼうかこの子は」

 

「さ、さびしんぼうじゃありません!」

 

「鷲尾須美サービしエリア……サービスエリア」

 

「大丈夫ですか? まだ寝ぼけてます?」

 

「美森が胸元開いた服着てたらもうその空間がサービスエリアだな……」

 

「おじさま! なんであの人ばっかりそういう目で見てるんですか!

 不潔です! もっと節度のあるふるまいと発言を心がけて―――」

 

 おじさんは寝ぼけまなこでふらふらしながら、朝の食事を須美と二人で、テーブルの上に並べていった。

 

「おはようございます、須美ちゃん、おじさま」

 

「おはようございます!」

 

「おっはー」

 

「「 おっはーって何……? 」」

 

「ぐおおおおおおおおおっ」

 

 東郷がよく眠れた様子で、スッキリした顔をしているのを見て、おじさんは誰にもその理由を教えぬまま、ヘタクソに微笑んでいた。

 

 

 

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