催眠おじさんVS美少女勇者:地球最大の決戦!RtA   作:ルシエド

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催眠感度24倍

 園子がありのままの自分で話し、おじさんが大人らしくもなく――あるいは誰より大人らしく――園子の会話に合わせ、須美がそこにツッコミを入れている。

 襲撃してきたバーテックスをむしゃむしゃ食べているヒュプノを横目で見ながら、銀は樹海に腰を降ろして須美達の漫才を眺めていた。

 

「園子とわしおじさんが絡むと須美のツッコミが過労死しそうだな……

 いやあれは園子とわしおじさんが須美に構ってほしいのか……漫画の主人公かよ須美」

 

 銀は、戦闘となれば先陣を切り二人を引っ張って行っている自覚がある。

 銀が見る限り、このチームのリーダーは園子以外になく、園子は実際にリーダーとして自由奔放ながらもよくやっている。

 だがそれでも、銀に皆の中心を聞けば、それは須美だと答えるだろう。

 一番勇気のある銀でもなく、一番リーダー適性のある園子でもなく、一番頑張っている須美が中心にいるからこそ、このチームは上手く回っている。

 

 銀は普段根を詰めて真面目に必死に訓練をしている須美が、自分の前や、園子の前や、おじさんの前で肩の力を抜いている姿が好きだった。

 ちょうど、今の彼女のように。

 そんな銀の横に、ヒュプノが30mほどの巨体を降ろした。

 

「ちょい、いいでっかー」

 

「わああああ!? ってプーさんか……いや冷静に考えると絵面おかしいなこれ」

 

「驚かせてえろうすんまへん」

 

「な、何故関西弁……? バーテックスは旧世紀の大阪が生み出していた……?」

 

「御主人様にスマホもろて昔の漫才とか見て覚えたんやで」

 

「どういう言語習得だよ……

 あ、でも、なんか前に園子が言ってたな。

 乃木家の文献にはそういう経緯で関西弁になってた巫女が居たって」

 

「ほー、ほんまでっか! そういう人間もおるんやなあ。なんか親近感湧きますわ」

 

「え? ってか結界の外まで電波届いてるんだ」

 

「せやなぁ。あ、ワテWi-Fiタダ乗りはしてへんで!

 分かる、みなまで言わんといて!

 ワテバーテックスやからな、悪いことしてるやろと思うのが自然や。

 しかしなぁ、ワテは御主人様の催眠で知性まで与えられて生まれ変わったんやで!」

 

「疑ってるわけないだろそんなみみっちぃ悪行!」

 

 勇者がほぼ何もせずバーテックスがバーテックスを倒すという異常事態であるからか、今回の樹海化の解除は微妙に遅かった。

 銀が女の子らしくないあぐらをかき、ヒュプノが樹海に設置して、人間とバーテックスがサシで向き合い語り合うという奇妙な状況が出来ていた。

 

「というかバーテックスの後ろから来たな、プーさん……」

 

「前から勇者と御主人様。

 後ろからワテ。

 そうして挟み撃ちにしたら殲滅楽やろ?

 バーテックスは攻撃方向正面だけってのが多いさかい。

 ワテの方を脅威に見て後ろ向いたら大体ただの的やで」

 

「橋の上に限定された戦場をめっちゃ活用してる……」

 

「あ、御主人様に"いけそうや"って伝えといてくれへん? 今話中みたいやし」

 

「他人のが他の人と話してるから話に入るの気が引けるバーテックス初めて見た」

 

「須美ちゃんはワテの推しやからな……邪魔しとうない」

 

「推しを語るバーテックス初めて見たよアタシ。何がいけそうなのさ」

 

「壁の外のバーテックスの継続的排除」

 

「!?」

 

 銀は思わず、ぎょっとした。

 

「いやな、御主人様前から考えとったらしいで。

 バーテックスって進化するやん。

 でも防衛側もバーテックスなら?

 敵も味方も進化してくやろ。

 そしたら永遠に防衛突破されないやんけ!

 うはは、御主人様が催眠洗脳で味方のバーテックス増やしていけばもっとイケるで?」

 

「ぎゃ、逆転の発想だ……」

 

「最近小型は定期的に掃除してたねん、ワテ。

 バーテックスは小型の集合体やろ?

 食えば食うほどパワーアップや!

 一番強い獅子座より強くなったんで明日から本番や。

 まず大型一掃! あるいは手駒増やし! 御主人様の傷の治りも見て臨機応変にやるで」

 

「わしおじさん、人が見えないとこで色々やってるんだなぁ。

 隠し事であんま信用されないタイプに見えるからちょっと心配になってきた」

 

「せやな。ま、御主人様はこれで安泰とは思ってないみたいやけど……」

 

「え、なんで?」

 

「知らへん。聞いとらんから。ワテは自分の役割を果たすだけやで」

 

 ヒュプノは30mの巨体をのっそりと樹海に横たえ、寝っ転がりながら話している。

 

 銀は言いようのない感情を形容し難い表情で表現し、されど少し考えた後に、はっとして元気よく口を開いた。

 

「あ、そうだ、ちゃんと言わないとな。アタシの家族の分まで」

 

「なんやなんや?」

 

「ありがとう! アタシ達の世界を守ってくれて!」

 

 ヒュプノはきょとんとして――バーテックスに表情は無いが銀にはそうだと分かった――、何やらおかしくて笑い始める。

 

「……うはははは! ワテ歴史上初めて人間に感謝されたバーテックスやないやろか!」

 

「かもなあ。アタシ達バーテックスは全て人類の敵だって教わってたしね」

 

「いやいや、どいたしまして! うちの御主人様よろしゅうな!」

 

「あの人は須美一人で十分じゃね? うんまあ、よろしくされとくよ。へへっ」

 

「普段会話相手が御主人様しかおらへんから、もうちょっと話……」

 

 樹海の解除が始まった。

 

 バーテックスは弾き出される。

 

 敵のバーテックスがいれば神樹は樹海を解除しないが、樹海を解除すれば素直に出ていく味方のバーテックスしかいない以上、神樹が樹海の解除を躊躇う理由はなかった。

 

「ああ、待って! 待ってー! もうちょい話す時間くだせーな!」

 

「あ、後で話すから!」

 

「ホンマ!?」

 

「ホンマホンマ!」

 

「夜八時くらいに電話かけても怒らん!?」

 

「面倒臭い時の須美かお前は! いーよ好きにかけて!」

 

「おーきに! ひゃー、初めてのガールズトークや!」

 

「一人称ワテなのに女の子なの!?」

 

 ヒュプノが樹海から急いで自ら退出していくのを見送って、銀が仲間の方を向く。

 

「どうだみー子。小生の肩車の上の景色は」

 

「視点がすっごく高いですね! 樹海が遠くまで見渡せて、ちょっと違う世界みたいです!」

 

「次私ね~!」

 

「一体どういう流れでそうなったんだ? ん?」

 

 最初の頃は"神聖なお役目を真面目にやりなさい!"と言っていた須美が、戦闘が終わったとはいえ樹海でここまで肩の力の抜けた姿を見せていることに、銀は思わず笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 水戸黄門世直しが始まり、ある程度日数が経った。

 おじさん、須美、銀、園子の世直しは止まらない。

 もはや誰にも止められない四国の暴走特急と化していた。

 

 コンビニで買ったおにぎり(おじさんの奢り)を公園のベンチで四人並び、しゃもしゃ食べていると、ふとおじさんは自分が老人扱いだったことに落ち込み始めた。

 

「小生おじいちゃんか……いやまあ小学生から見ればおじいちゃんだな」

 

「大丈夫ですおじさま! おじさまは私のお兄さんと言っても通ります!」

 

「絶対通らねえよ」

 

 須美が持ってきたお~いお茶(脱水症状対策)を四人並びごくごく飲んで、公園を眺め、ぼけーっとしながら四人で公園を眺める。

 おじさんは公園の美人を眺めて採点し、須美が頻繁に話しかけてそれを邪魔し、園子は蝶を楽しそうに目で追って、銀はベンチに背中を預けて"幸せ"を噛み締めていた。

 

「小生焼き明太子めっちゃ好きなんだよな……バリバリ美味くてバリ幸福感」

 

「あ、それなら今度私がおじさまのお昼用に作っておきますね」

 

「お、マジ? お前本当良妻力高いな」

 

「……ん、んんっ、当然です。この高菜おにぎりもいいですよ。おじさま」

 

「隙あらば健康に良さそうなものをねじ込んでくるロリ」

 

「アタシは冒険する気がないからシャケで良いなー。うまうま」

 

「私はこのアルファエッジベータスマッシュガンマフューチャー味にして正解だったよ~?」

 

「めっちゃ冒険してる」

「そのっち……」

「何味だよ!?」

 

 おじさんがちょっと水道に手を洗いに行くと、園子がとてとてとついてくる。

 

「水戸~?」

 

「水道だよ」

 

「水の戸ってことは水戸黄門様って蛇口の偉い人だったのかもね~?」

 

「かもな~」

 

「かもだよ~」

 

「……。水戸黄門して何が変わるんだ?」

 

「インチキおじさんの人生が変わるんだよ~!」

 

「変わる? 変わるか? 変わんなくないか?

 小生人助けは割としたことあるが、人生変わった気はしないんだが」

 

「そうかな?」

 

「悪党側ってのは生まれた時から悪党側ってもんだ。

 善行ちょっとしたくらいじゃ何も変わらん。するだけ無駄な気もする」

 

 おじさんは水道近くのゴミ箱を見て、ゴミ箱の中ではなくその周りにゴミを捨てていくタチの悪い人間が残していったゴミを見て、それを拾ってゴミ箱に入れていく。

 園子は、須美が"おじさまは悪ぶるの"と言っていたのを思い出して、曖昧な表情で頬を掻いた。

 

「第一な。話しただろ?

 世界中善人にしようとしたって、何もかも終わるだけだ」

 

「水戸黄門は世界を変えないんだよ。

 目についた人を助けて回るだけ。

 世界は何も変わらないけど、人は幸せになるの」

 

「……なるほど」

 

「『社会を思い通りにすること』。

 『困ってる人を助けて回ること』。

 これは全然違うと思うんだ。

 だって困ってる人を見捨てないことは、ただ優しいだけなんだから」

 

 おじさんはかつて催眠術で国一つ幸せにしようとし、間違った。

 だが園子はそういう間違いをしない。

 それはきっと、親が『正解』を教えてくれたか、教えてくれなかったかの差。

 

「水戸黄門は外野から来て救っていく人だと思ったから、おじさんにぴったりなんだぜー!」

 

「正義の味方の時点で全然ぴったりじゃねーんだよ!」

 

 『今のこいつの顔とポーズ"○><"の三文字で表せそうだな……』と、おじさんは思った。

 

「それにね、一番大事なことがあるんだよ~」

 

「ほー? なんだよそれ。小生に教えてみろ~」

 

「大丈夫だよ、インチキおじさんならすぐわかることだよ~」

 

「分かんないかもしれないだろ~口で言えメスガキ~」

 

「インチキおじさんは歳の分だけひねくれてるから言葉で伝えるとダメなの~」

 

「ぐうの音も出ねえこと言いやがって~」

 

 こそこそと二人について来ていた須美が、そこで会話に割って入った。

 須美は興奮していた。

 今の水戸黄門の流れに普通に興奮していた。

 彼女はまだ小学生で、小さい頃の夢はお国を守る美少女戦士である。

 

「おじさま! 正義の味方として世直しとかドキドキしますね!」

 

「え、あ、うん、そっすね」

 

「この愛すべき国も犯罪というものはなくなりません!

 それは本来勇者ではなく警察が倒すべき悪!

 ですがおじさまのおかげで、私達にもできることがある!

 小さなことからコツコツと!

 綺麗な庭を作るコツをご存知ですか?

 手で小さな雑草を丁寧に抜いていくことです!

 大雑把な処理をしてはダメなんです! おじさまはいつだって正解の人ですね!」

 

「え、ああ、まあ、うん」

 

「……もしかして、そのっちや私に巻き込まれただけだから、もうやめたいとか……?」

 

「ああいや、楽しいぞ。結構楽しい。助けてお礼言われると嬉しいしな?」

 

「そうですよね! 感謝されることはいいことです。正しいことをできてる気がしますから」

 

 ほっとした様子の須美。取り繕うおじさん。園子がそれを、温かい目で見ていた。

 

「なんだその目は」

 

「べっつに~?」

 

「言いたいことがあるならいえよ、あぁん?」

 

「催眠で言わせてみればいいんじゃないかな。どうぞ~?」

 

「お前初めて会った頃より大分図太くなってきてねえか?」

 

「おじさま! なんでそんなにそのっちと仲良さそうにしてるんですか!」

 

「してねえんだよッ!! 園子が言いたいこと言わねえなら小生が言うけどな!」

 

 おじさんはちょっとキレた。

 

「第一なーにが水戸黄門だ!

 悪とも言えねえ悪ばっかじゃねえか!

 やさぐれ学生レベルの悪しかいねえしよ!

 何だこの世界!

 善性の平均値が高いわ!

 悪が居ねえ!

 居ねえんだよ!

 要らないだろ水戸黄門!

 あのね!?

 悪が居ないなら水戸黄門なんて要らねえの!

 分かれ!

 正義の味方が社会に必要なのは荒れた社会だけなの!

 平和!

 平和で十分健全だろうがよォこの社会はよォ!

 そりゃ犯罪0じゃねえだろうけどさ!

 全員の良識と警察の働きで平和ならもう十分!

 十分良い社会なんだよ!

 そんな世界で水戸黄門しても遊び歩いてるだけだろうが!

 遊んでるだけ!

 そりゃまあ楽しいけどこれは正義じゃなくて遊びだろうがァ!

 反論したけりゃ悪見つけてこいや! 水戸黄門が必要になるレベルのガチ悪を!」

 

「おーい! 大変だ大変!

 あ、ここに全員居たか! 聞いてくれ!

 今アタシに連絡来たんだけど、うちの学校の生徒で親から虐待されてる子がいるんだって!」

 

「見つかったァー!!!」

 

「インチキおじさんおもしろい~!」

 

「小生が乃木園子より面白い人間なわけねーだろうが!」

 

「おじさま、お茶です。落ち着いてください」

 

「ゴキュゴキュゴキュゴキュゴキュゴホゴホッゲホッガハッ!!」

 

「あ、むせた」

 

 須美がお茶でむせたおじさんに歩み寄り、優しく背中をさすり始めた。

 なんとまさかの虐待事案。

 さてどうするかとおじさんは悩む。

 少し気が引ける理由があって、彼は考える。

 頭に結構血が登っていたが須美のお茶、むせこみ、そして須美に背中をさすってもらったことで大分気分が落ち着いてきていた。

 

「須美……お前だけが癒やしだ……」

 

「な、何急に言ってるんですか、もう」

 

 その時、おじさんのスマホが震える。

 表示されていた文字列は『ヒュプノ・バーテックス』。

 おじさんのスマホの一つをヒュプノの頭部に埋め込むことで、ヒュプノは人間のようにスマホを使い、四国内部の電子的なネットワークを人間と同等に使うことができていた。

 四国のスマホでできることは、大体ヒュプノにもできる。

 スマホ自体の充電などの問題も、ヒュプノが身体を組み替えればあっさり解決可能だ。

 

 おじさんのスマホにヒュプノのスマホから連絡が入って来たということは、ヒュプノがよほどの緊急事態だと判断したということだ。

 元大型バーテックス・サジタリウスにとっての緊急事態。

 それは間違いなく最終決戦に繋がる報告であると、おじさんは判断していた。

 

「なんだヒュプノ。状況が変わったか? 天の神は……」

 

『御主人様が登録しとる有料動画配信サイトあるやないですか。

 御主人様のアカウント借りて利用しとるやつ。

 この配信サイトやと見れない仮面ライダーあるんやけど、どないすれば見れます?』

 

「殺すぞ」

 

『ひぇぇ~御主人様に殺されてしまいますぅ~』

 

「てめっ……このっ……! 結界外の大型全部片付けたんだろうなァ!」

 

『はい』

 

「嘘だろ?」

 

『それで……ワテが結界外で大活躍してる間、御主人様は何をしておられたんです?』

 

「……」

 

『きっと水戸黄門的なことで大活躍してたんやろなぁ』

 

「腹立つゥー! クソが! 行くぞ須美、銀、園子! 世直しだ! 結果出すぞ!」

 

 先程よりも遥かにキレたおじさんが歩き出し、水戸黄門様のお供がその後に続いた。

 

 世直しである。

 

 

 

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