催眠おじさんVS美少女勇者:地球最大の決戦!RtA   作:ルシエド

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催眠感度26倍

 気温が大分上がってきたな、とおじさんは感じていた。

 神世紀298年、7月初頭。

 結界に囲まれた四国は季節が再現され、夏は夏らしい暑さが来る。

 「夏を暑くする必要はねえだろ……!」とおじさんは半ギレしていたが、須美父の「外の世界を取り戻した後に人類が外に出て行けなくなるから」で即論破されていた。

 暑さに慣らしておかないと日本人は日本で生きていけないのだ。

 冷静に考えるとイカれた環境の国である。

 

 おじさんは下は長ジーパン、上は大赦の二文字が刻印されたTシャツ(5枚980円)というラフな格好で、扇風機を探し歩いていた。

 扇風機がなければ話にならない。

 おじさんはクーラーより扇風機派であった。そして。

 

「わ゛れ゛わ゛れ゛わ゛ゔぢゅゔじん゛だ……あ゛っ」

 

 扇風機に声を吹き込んで遊んでいた須美を発見した。

 

 須美の顔がカッと赤くなる。

 

「須美かと思ってたら宇宙人さんでしたか。地球には観光で? ご案内しますよ」

 

「おじさまーっ!!」

 

 夏の魔力は恐ろしい。

 

 

 

 

 

 夏の日差しの中、準備を進めるおじさんと、その手伝いを申し出た美森によって、鷲尾家の一角は綺麗に整理整頓されていた。

 

「勉強会、ですか」

 

「というか半分作戦会議、半分駄弁って遊ぼうみたいな話だな」

 

「さては勉強会なのは名前だけですね……?」

 

「その通り。そのそのそのっちその通り。こんな暑い中勉強させてもな」

 

「駄目ですよおじさま。こんな暑い中でも勉強するから、国防の精神が育つんですから」

 

「育てるな。違法ブリーダーかお前は」

 

 おじさんはテーブルを並べ、椅子を並べ、椅子の上に柔らかいクッションを置いていく。

 今日の風向きを計算し、部屋の窓と廊下の窓を開けて風通しをよくする。

 数個の扇風機を計算して配置しているのは、全員に風を当てるためか。

 置かれたおやつの苺大福とおーいお茶は彼の趣味だろう。

 優しい人だな、と美森は思った。

 

 美森はテーブルや椅子を拭き、床を掃いて綺麗にしていく。

 椅子の高さを調整して、小学生達の体格に合わせた高さにしていく。

 打ち水もして、周囲の気温も下げ始めた。

 ここでクーラーでも扇風機でもなく打ち水なのが彼女らしい。

 どこからかホワイトボードも持ってきて、おじさんが話をしやすいような環境も作り始めた。

 いい女なのが隠しきれんやつだ、とおじさんは思った。

 

 どっちも自分のことは見えていなかった。

 

「……セミうるせえなあ」

 

 夏に入り、今日もセミが元気に鳴いている。

 

「何匹か庭に、というよりは家の壁に? くっついてるみたいですね」

 

「まあよい。奴らの残りの命は短い。寛大な心で許してやろう」

 

「おじさまの上から目線が留まるところを知りませんね」

 

「小生実はセミは結構好きなのだよな。生き物として、ではなく生き方として」

 

「私はあまり。ああなりたくはないですね。

 ずっと地面の中に居て、地上に出たらすぐ死んでしまうって、辛すぎますよ」

 

「セミって成虫が学生時代みたいなもんだろう?

 人生で一番楽しい時期。

 その時期が人生の最後に来るって考えると、結構ロマンがある気がしね?」

 

「ああ……それは、素敵な考えですね」

 

 おじさんの語る考えが自分の中にしっくりくると、美森はそれだけで、何故か嬉しくなる。

 

「人間は青春が最初の方にあって後は老いていくだけだからな。

 生涯の最後に青春があるセミの生き方がちょっと羨ましい。

 ほら……おじさんもう割と歳だから……なんか須美見守ってる内にアラフォー行きそう……」

 

「セミを見て須美ちゃん関連で勝手に自爆してませんか」

 

「そう、鷲尾セミ……」

 

「これ言いたかっただけだわ!」

 

 美森が目を見開いて、すぐまた花のような笑顔を浮かべる。

 美森は"私と須美ちゃんの笑顔どっちが好きですか?"とこういうところで聞いて来ないから助かる、とおじさんはその笑顔を見ながらぼんやり考えていた。

 美森の笑顔は穏やかで、見ているだけで心が落ち着くような、照れに似た不思議な感情が湧き上がってくるような、そんな気持ちになる。

 

 おじさんは美森の笑顔から少し目を逸らし、彼女の服を見る。

 上は白のキャンディスリーブブラウスで、下は青の巻きスカート系のサッシュスカート。

 半袖に短めのスカートが涼しげで、生地の薄さが夏を感じさせ、襟元や袖口にあしらわれた花の刺繍が可愛らしい少女らしさを引き立てている。

 

 普通の少女が着ればかなりハイセンスな私服である、というだけで終わる話だったが、人並み外れてスリーサイズが優秀な美森が着ると、大分凶器だった。

 かなりえっちだった。

 

「みー子、お前その服……」

 

「あ、どうですか? 先週買った服なんですけど、似合ってますか?」

 

「いや服買ったことはいいんだ、自由にすりゃいいと思いますよ、そんなことより」

 

「そんなことより? そんなこと?」

 

「……似合ってていいと思うぞ。普段美人度が高いお前が可愛らしいバランスになってる」

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

 面倒臭え女だな、とおじさんは遠回しな褒めを要求する美森をジト目で見る。

 美森が本当に嬉しそうに微笑むものだから、"まあいっか"と彼は思ってしまう。

 

 ちょっとねだるとすぐ美森を喜ばせる言葉を吐き出すおじさんの方に根本的な理由があるということに、彼だけが気付いていなかった。

 

「それで、そんなことよりなんでしょうか?」

 

「いや……お前……薄着すぎ……いやなんでもない」

 

「なんでしょうか?」

 

「上着要る?」

 

「要りません。暑いですから」

 

 美森が服の胸元をパタパタと動かし、服の中に空気を送ると、おじさんが懸命に表情を変えないようにして歯を食いしばる。

 見えたのか、見えてないのか。

 "見えて"動揺したのか、"見えてない"けど動揺したのか。

 美森にもそれは分からない。

 けれど、おじさんが動揺を隠したことだけは分かった。

 

「ドキドキしますか?」

 

「ハラハラする」

 

「ハラハラ……?」

 

「体ばっかり成長して警戒心が育ってねえ、ガキのまんまだ」

 

「この案件に関しては子供っぽい考えで動いてるのはおじさまの方だと思いますけどね」

 

「なんか言ったか?」

 

「ちゃんと聞こえてるのに『なんか言ったか?』でごまかすのはかっこ悪いと思います」

 

「ぐっ」

 

「でも私はおじさまのことが大好きな女なのでごまかされてあげるのでした」

 

「こ、こいつ……!」

 

 おじさんは作戦会議用のメモ用紙を丸めて美森に投げつけた。

 美森は慣れた様子でキャッチし、投げ返す。

 "こいつ未来の小生と何度もこれやってるな"とおじさんは気付き、美森は楽しそうに笑む。

 年下にからかわれている気がして、おじさんはちょっとイラッとした。

 更におじさんが投げ返した用紙の球が、美森の服の胸元から、胸の谷間にスポッと入った。

 

「あっ」

 

 おじさんの判断は速かった。

 マズい。

 これはマズい。

 この流れで会話を続けてはならぬ。

 確実に死ぬ。

 そんな思考が、彼の頭の中に流れる。

 

 判断は一瞬で、おじさんは怒涛の会話でこの流れをとにかく勢いで押し流すことを決めた。

 何気なく、いつものような会話で。

 けれど会話が途切れないように。

 うやむやにしなければ、何かが死ぬ気がしたから。

 

「大和撫子になろうとしてる須美を見習えコラ」

 

「私はおじさまが面白みのない大和撫子は好きじゃないからこうしてるだけなんですけどね」

 

「え、なに、そういうやつなの?」

 

「冗談です。ふふっ」

 

「ふふっじゃないが? え、待て、どうなんだそこは」

 

「もう。女の子のこういう言葉に一々うろたえるからからわれるんですよ、おじさま」

 

「中学生のくせに歳上のおじさんより世の中分かってる感じに振る舞うのやめてくれ」

 

 おじさんは流れるように会話を繋げ、"おじさんと話しているだけで楽しい"とでも言いたげに笑う美森に会話を合わせ、会話を続けていく。

 うやむやにせねば、うやむやにせねば、と思いながら。

 

「八月が来るな……」

 

「夏休みですね」

 

「いや園子の誕生日があるから何か考えたいなぁと」

 

「おじさまそういうところ本当マメですよね……」

 

「お前には負けるわ。お前友達の誕生日絶対忘れないタイプやろがい」

 

「一説にはそうですね」

 

「全説でそうだろ」

 

 ふぅ、ごまかせたな、と思ったおじさん。

 

 ちらっとおじさんを見て、おじさんに背を向け、耳を赤くして胸の谷間を探り始めた美森。

 

 会話が止まった。

 

 駄目でした。

 

 

 

 

 

 日が昇っていくと、気温は上がっていく。

 汗ばんだ首を、須美はおじさんに貰ったタオルで拭いていた。

 右には暑さをものともせずきゃっきゃした様子で、テーブルの上にサンチョというキャラクターのぬいぐるみを乗せた園子が笑っている。

 左には勉強が苦手だからか、ちょっと緊張した様子の銀が座っていた。

 良い姿勢で真面目に話を聞こうとしている須美が逆に浮いている。

 

 おじさんは美森が運び入れてくれたホワイトボードを叩き、冷徹なる口調で語り始めた。

 美森はいない。

 

「お前達が立派な大人になれるよう、小生が直々に授業してやろう」

 

「お願いします! おじさま!」

 

「まずはそうだな……実話を教訓として話そう。

 最初の話のタイトルは、『ゴキブリ食ったけど再生数58回のYouTuber』だ」

 

「タイトルからアクセルベタ踏みすぎじゃないですか?」

 

 人生のためにはなりそうだった。

 

「こういう形の勉強をさせる会は初めてだからな……

 そうだ、何かリクエストはあるか?

 興味ある話から話を広げていったらそれはそれで覚えやすいだろう」

 

「私はー、うーん、あ、そうだ!

 前の話の続きが聞きたいな。インチキおじさんのアンチスレが出来た話!」

 

「おじさまのアンチスレが出来た話!?」

 

「3スレ目で落ちたから続きはないぞ」

 

「3スレ目で落ちた?!」

 

 空気がわちゃわちゃとしてきた。

 

「しゃーない、適当に陣形の話でもするか。

 まずこれは史実にあった兵士の三人一組の連携で……」

 

「今日のわしおじさんは気合い入ってんなあ」

 

「嬉しいんだよ~、だから気分は恩返しなんじゃないかな~」

 

「嬉しい?」

 

「ん」

 

 おじさんがペンをホワイトボードにぶつけていく。

 

「インチキおじさんは赤の他人が救われると自分も救われた気になる純粋なとこあるから~」

 

 そして頭がホワイトボードにぶつかった。

 

 虐待されていた子供と須美のあれこれを見て救われたおじさんを『純粋』と表現した園子に、変にからかわれるよりよほど大きな衝撃を受けて、おじさんは口をパクパク動かす。

 動かすだけで何も言えない。

 ようやく絞り出した言葉は、パワーのない悪態であった。

 

「てめっ……このっ……いじりネタにする気か……!?」

 

「え~どうしよっかな~」

 

「最近妙に催眠効いてんだか分かんねえ奴らが多い……!

 理由は分かってる……! テメエだ催眠使い乃木園子……!」

 

「私関係ないよ?」

 

「お前以外に誰が居るんだこのお気楽極楽楽々娘!」

 

「ひゃぁ~」

 

「催眠で周りに小細工してから自分の記憶消すくらいの小細工はしてそうで頭痛え」

 

 園子が周りを催眠で助けて、催眠で助けた記憶を恒久的に消してしまえば、おじさんが痕跡すら見つけられない可能性はまあまあある。

 園子がそのレベルの催眠術を身に着けているかは知らないが、ありえない可能性ではなかった。

 

 おじさんは全人類の記憶を調べ上げたわけではないし、催眠の度に記憶を全部見ているわけでもないが、この世界で催眠関連で何か妨害されたとしたら園子以外にない、と考えている。

 そうでなければ、須美が催眠を振り切ったことの説明がつかない。

 再度掛け直したところ普通に須美に催眠はかかったので、無効化されている空気もなかった。

 

「ま、ま、園子もやってないって言ってますし。

 きっとやってないんですよ。

 園子は嘘で自分を守る子じゃないし、アタシは園子を信じたいっすね」

 

「……チッ、三ノ輪のお嬢に感謝しろよ。同じ疑惑があったら、二度はない」

 

「二度はなかったらどうするの~?」

 

「お前が名前すら知らないブサイクな同級生と恋人にさせて一ヶ月後に解除する」

 

「やめて」

 

「園子がマジトーン!?」

 

「フン……メスガキが小生に勝てるわけがないんだよなぁ」

 

「おじさま」

 

「お、なんだ須美。今日も小生は勝ってしまっ―――」

 

「今のは冗談でも二度と言わないでください。いいですね?」

 

「はい」

 

「女の子なんですよ?」

 

「はい」

 

「勝てるわけがないとかいう話はなんだったんすか」

 

 銀がたははと笑って、おじさんの後ろに回って、笑顔でその背を押した。

 

「疲れてるんすよわしおじさん。ほらほら座って。肩叩きますよー」

 

「おっ……いいね、いい感じ、ちょうどいいよ」

 

「あざす!」

 

「君の父親に三十割増しくらいで褒めと称賛の言葉伝えておくね……アーギモヂイイ……」

 

「75%デマカセじゃないすか!」

 

七五賛(しちごさん)って言うだろ?」

 

「言葉の曲解があまりにも強い……」

 

 その時、おじさんのスマホの着信音が鳴った。

 おじさんはノータイムで通話を繋げず切った。

 

「えっ、なんで切ったんですか」

 

「この着信音はヒュプノからの着信だからっすかねえ~」

 

「あっ……なるほど。心中お察しするっす」

 

「ぎ、銀が私の知らない理由でおじさまと通じ合ってる……」

 

「もー須美はすぐジェラるー。アタシくらい許しなよ」

 

「ジェラってないわよ! え、というか、通話切ってしまっていいの……?」

 

「あいつ緊急事態はLINEで文字打つから。その方が速いらしいが小生には分からん」

 

「喋るよりSNSの一言打つ方が情報伝達が速い女子高生みたいですね」

 

 あまり間を空けず、今度は園子のスマホに着信があった。

 園子はあまり迷わず取り、銀が"来ちゃったなぁ"という風に苦笑し前髪をいじる。

 

「はいもしもし、そのっちです~」

 

『はいもしもし、ワテもそのっちです~』

 

「じゃあ小生もそのっちです~」

 

「そのっち~」

 

『そのっち~』

 

「そのっち~」

 

「やべえ! 園子排気ガス大気汚染だ! 空気が狂った!」

 

 ヒュプノ・バーテックス、会話に参戦。

 

 スマホがスピーカー会話状態に切り替わり、部屋の真ん中のテーブルの上に置かれたスマホを通して、バーテックスが堂々と人間の勉強会兼作戦会議に参加してきた。

 

『御主人様ワテの扱い酷くありませんか』

 

「クソ妥当だと思う」

 

『おお、おお、御主人様の忠実なる下僕になんちゅうことを!

 傷付きましたわ! 謝罪と賠償とコンビニのサラダチキンを要求します!』

 

「おっかしいな……こいつも催眠の強制微妙に外れかけてんのなんでだ……?」

 

 スマホの向こうで、バーテックスがうははと笑う声が聞こえた。

 

『ところで御主人様、週に何回須美ちゃんで抜いてるんか教えてくれまへんかグヘヘ』

 

「園子、スマホの通話切るぞ。小生はこれからヒュプノの脳をリセットしてくる」

 

「は~い」

 

『ま、待ってーな! ごめんなさい! すんまへん! 許して!

 なんかこういう下ネタで仲良くなっとる男子高校生見てそうしようとー!』

 

「お前男だったか?」

 

『そういや定義上ワテ女やったわ』

 

「……チッ、生まれたてで他人との距離感も知らん赤子ゆえ許すが、その内許さなくなるからな」

 

『お、おーきに! 感謝感激雨霰!』

 

 うははと笑う声がまた聞こえた。

 

『でも実際どうなんです? 須美ちゃんそういう目で見とるんやないですかブヘヘ』

 

 ささやくような声で、おじさんにだけ聞こえるよう、ヒュプノは声量を調節して言う。

 おじさんがスマホを――その向こうのヒュプノを――ゴミを見る目で見た。

 

「人生で一度もそういう目で見たことねえわ」

 

『はぁーよう居るんやでこういう人。愚かな人類の特徴や』

 

「こいつ人類クソにわかの新参の癖に訳知り顔で人類語りやがる」

 

『よう居るわなあ。

 尊いから抜けないとか。

 ガチ恋だから抜けないとか。

 美しいから抜けないとか。

 アクア様とか邦キチとかシロ×小峠では抜けないとか。

 ……おためごかしをぉー!

 "○○ではシコれない"言うとけばキャラ理解度高い奴気取りできるからやろ!』

 

「狭い常識で人類を分かった気になって戯言ほざくの最高に愚かな生物って感じだな」

 

『ワテが狭い見識で人類が愚かやと思て滅ぼそうとする暴走AIみたいやて!?』

 

「まあ半分くらいは」

 

『まあええ!

 話戻しますわ!

 可愛い!

 それでええやろ!

 エロい!

 それでええやろ!

 抜ける!

 そう言えばええ!

 好きやから性欲!

 好きやからセックス!

 それが人間やろがい!』

 

「こいつ人類クソにわかの新参の癖に訳知り顔で人類語りやがる」

 

「せ、せせせせせセッ」

 

「……ここでこの単語に反応するのが銀だけなのが本当に"らしい"な」

 

 須美は知ったかぶるためにそれっぽい表情で黙っている。

 会話の流れは大体分かっていない。

 園子は割と分かっている。

 露骨に反応しないだけで。

 銀は顔を赤くして慌てていた。単語の意味は分からなくても、何を言っているかは分かった。

 

 おじさんのスマホの情報と四国の情報を収集し、吸収し、ヒュプノは人生経験の総時間を除けば普通の人間と何も変わらない精神性を獲得していた。

 『須美ちゃんエッロ』

 『本当に小学生?』

 『ちょっとパンツ見せてよ』

 『御主人様ちょっとえっちなことして乱れさせて』

 『ワテ御主人様みたいなおちんちんあらへんので……』

 という感情が湧き上がるくらいには、人間に近くなっていた。

 レズ・バーテックス!

 これが"人間の常識では測れないほどに速いバーテックスの進化速度"の反映であることを、おじさんはちゃんと理解している。

 

 人間の敵として置けば絶望的な強敵、人間の隣人に置けば怖いくらいに異様な速度で進化する味方……バーテックスとは、そういうものだった。

 

『"須美じゃ抜けない"……はぁー、もう呆れるわ、凡庸凡庸』

 

「小生凡庸!?」

 

「おじさまは凡庸じゃありません! ところで抜けるってなんですか?」

 

「『炭酸か何かだろう』」

 

「なるほど……」

 

『うっわごまかしかたがズッル!』

 

 スマホの向こうで、うははとヒュプノが笑い、「ふっ」と気取った声が聞こえる。

 

『でもきっと……それが愛なんやね……』

 

「こんなに軽く感じる愛って単語初めて聞いたわ」

 

『せやから……人間はそうして生きるのが美しいんやろな……』

 

「その薄っぺらい言葉はどこで仕入れてきたんだ? 天の神? 製紙工場?」

 

 んふっ、と、園子が吹き出しそうになった口を抑えたのが見えた。

 

『はー、御主人様が冷たいわー。ほんならワテらの成長を見せなあかんな』

 

「成長?」

 

『銀ちゃん!』

 

「はいはい、あれね」

 

 通話が繋がっている園子のスマホを銀が持ち、二人……一人と一体の掛け合いが始まる。

 

『上司は上司でも優しい上司ってなーんや?』

 

「そんなものはない!」

 

『はい正解! 明日は明日でも希望のない明日ってなーんや?』

 

「そんなものはない!」

 

『はい正解! パンはパンでも食べられないパンってなーんや?』

 

「フライパン!」

 

『ぶっぶー! 正解は、そんなものはないでしたぁ!』

 

「『 HAHAHA! 』」

 

「お預かりしてる小学生のお子さんに何芸仕込んでんだテメエええええええええええ!!!」

 

 

 

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