催眠おじさんVS美少女勇者:地球最大の決戦!RtA 作:ルシエド
思い出1倍
出会えたことが幸福だった。
何気ない毎日が奇跡だった。
繋いでくれた手の暖かさを、私はずっと忘れない。
―――
須美、銀、園子。
勇者三人は同じクラスに集められ、いざという事態に即応できるようにされていた。
しずくはその隣のクラスであった。
まるで、『予備』のように。
会話が時に成立しないほどに無口で、口を開いても話す言葉はゆっくりで、何故かよくわからないところで言葉が途切れる。
しずくは、考えながら話すということができなかった。
話している最中に次の言葉を思い付かなかったり、話そうとした言葉を途中で止めてしまうこともあり、単純に言葉が上手く繋がらないこともあった。
生来の障害があったわけではない。
ただ、家庭環境が悪かった。
しずくの中で、両親という存在は、事あるごとに激昂し、自分を殴る存在だった。
しずくはまず、物心つく前に、"自分を叩く二つのもの"が居ることを認識した。
両親に隠れてこっそり見ていたテレビで、『両親』を学習した。
そして、"自分を叩く二つのもの"が、『両親』であることを理解した。
「うるさい、ドアを開ける時に音を立てるな」
「目障りだから部屋の中をうろつかないで」
「あら……自分のご飯自分で作れたの。ヘタクソだけど。じゃあ明日から自分の分は自分でね」
「何勝手に冷蔵庫のもの使ってるんだ! ふざけるな!」
「お前が家に居ると家の空気が淀むから普段は外行ってろ」
「どこ行ってたのよ! 学校から先生が来てたのよ! 私に恥をかかせて」
「なんだその顔は……親に愛想笑いもできないのか!」
「何その笑い、バカにしてるの!? 生意気なのよ!」
しずくは笑わなくなった。
自分の感情を表には出さなかった。
上手く喋れなくなった。
いや、そう言うのも正確ではないだろう。
しずくはそもそも笑顔を親から教わらなかった。
感情を出す度に親に殴られたから、感情を外に出せなくなった。
上手く喋れた日など、生まれてから一日も無かった。
親はまともな親として与えるべきものの多くをしずくに与えなかったし、しずくに自然に芽生えたものや、しずくが自ら得たものも虐待で叩き潰していった。
だから笑わない。
自分の感情を周りに分かってもらえない。
普通の会話すらできない。
小学六年生の時点で、山伏しずくは最悪の形で『完成』してしまっていた。
「……」
生まれてから一度もいいことなんてなかった。
幸せなんて願ったこともなかった。
ささやかな欲しかったものすら、一つ残らず諦めてきた。
鷲尾須美が運命に選ばれ翻弄されながらも、周囲の人間に恵まれ真っ直ぐに恵まれた少女であるとするならば、山伏しずくは運命に選ばれず、周囲にも恵まれなかった少女であった。
二度も親に恵まれ、"いい偽物の叔父"とも出逢った須美は、『自分は幸せだ』と喜びと共に自認している。
一度もまともな親に恵まれたことの無いしずくは『自分は不幸なんだろうなあ』と、虚無と共にどこか他人事のように認識している。
須美の親は子を殴ったことなどなく、しずくの親は子を殴らない日の方が少なかった。
須美は味方が居た。
味方が居たから頑張れた。
しずくには味方が居なかった。
味方が居ないから、だから、『作った』。
『しずく、頑張らなくていいぞ』
「……シズク」
『俺に代われ。俺が代わりに殴られる』
かくして彼女は、二重人格者となった。
表の人格が『しずく』。新たに生まれた裏の人格が『シズク』。
シズクは、誰も守ってくれないしずくを守るために生み出された。
しずくとは対象的に、粗暴で、暴力的で、怒りを抑えず、感情をありのままに発し、そして何より強かった。
何度も痛めつけられ、心が弱いまま成長できなかったしずくとは違い、生まれたその瞬間から心が強かった。
親に何度殴られようと平気なシズクは、しずくの痛みと苦しみの全てを引き受けていった。
『命の危険を感じるくらい痛かったろ。痛くなくなるまで俺が引き受ける』
「……うん」
『それが俺の生まれた意味なんだからな』
いや、"心が強い"と言うと正確には違うのかもしれない。
心が弱い少女から正しい意味で強い心は生み出せない。
シズクは鈍かった。
周りが見えておらず、他人の気持ちが分からず、殴られた痛みにも平然とする。
『痛みに鈍い』という形でしか、しずくはシズクという"心強き者"を生み出せなかった。
心の強さなんて、彼女は知らなかったからだ。
『俺がお前の一番の味方で友達だ。な?』
「うん」
シズクは常にしずくに寄り添い、彼女を守る。
時に親の言うことに反抗し、しずくの代わりに殴られ、親の虐待で心が壊れそうになっていたしずくを守り、自ら進んでしずくを苦しめるものを引き受けていった。
しずくが苦しまないことがシズクの幸せだった。
しずくの幸せがシズクの幸せだった。
けれど、しずくは幸せにならない。
シズクは"不幸を肩代わりするだけ"だったからだ。
誰もしずくに優しくしなかった。
誰もしずくを幸福にしなかった。
誰もしずくを助けなかった。
誰もしずくを幸せにしないなら、しずくが幸せになれるわけがない。
幸せの絶対量が0のままなのにどうしてしずくが幸せになれるというのか?
『命の危機か多大なストレスにより自動で人格が代わる』という二重人格体質により、シズクだけが、しずくを幸せにするために奮闘してくれていた。
何年も、何年も。
『おいしずく、おい、大丈夫か? クソっ、あいつら、三日も飯抜きやがって』
「……だい。じょぶ」
『お前が命の危険を感じたらすぐ出るからな。大丈夫だ、俺が食料持ってくる。そしたら食え』
「シズクが、食べて」
『この馬鹿! 三日も食べてねえくせに俺に譲ってんじゃねえ! 久し振りの食を楽しめ、な?』
一つ、しずくの二重人格には珍しい特性があった。
二つの人格が、ひらがなとカタカナという違いはあっても、同じ名前であるということだ。
「シズク」
『おう、なんだしずく』
「守ってくれてありがとう」
『いいってことよ。俺がしずくを守るんだからな』
普通、二重人格が生まれれば、それを自分とは別のものと識別するため、自分自身と別の名前を付けようとする心の動きが、人間にはある。
必要だから『自分とは別のもの』を生み出したのに、呼び方が同じだと、自分と同一のものだという意識がどうしても生まれてしまう。
"これも自分だ"とふとした時に思ってしまう。
二重人格の統合が起きてしまうこともある。
ふたつの人格の両方を同じ名前にするのは、必要に迫られて二重人格の統合をする時、時たま行われる治療であるという。
しずくが名前を分けなかった理由は単純明快だ。
単純明快な悲惨が、そこにはあった。
家族は敵。友達は居ない。子供も大人も人生の背景でしかない。
"親に虐待されたら助けを求める"という知識や機能すら持っていなかったしずくは、自分の話し方も母親の真似で、シズクの話し方も父親の真似と、異様なまでに世界が狭かった。
母親の真似をしても上手く喋れない。
実感として理解できる話し方概念が二つしかないから、シズクに父親の方しかあげられない。
親は服に隠れて周りに見えない部分を、殴って、蹴って、痛めつけて。
夏にプールの授業が増えてくると、気を使った痛めつけ方をするようになって。
冬になって長袖で手足や首が隠れやすくなってくると、遠慮がなくなって。
「……やっと変わった!
クソがあのバカ親、殴られて気絶したしずくが起きるまで殴りやがって!
おいしずく、大丈夫か? ……俺が出てくるまで相当に痛かったろ?」
『うん、私は、今変わったから、大丈夫』
「いづづ、傷の手当てしないと俺達このまま死にそうだな……俺がやるしかねえか」
しずくの親は、催眠おじさんから見ても、邪悪ではなかった。
宇宙にはもっと真性の邪悪がいる。
ただ、醜悪だった。
山伏の両親は子供が憎くてこんなことをしているわけではない。
ただ、他人よりずっと心が不安定で、他人よりずっと怒りやすく、他人よりずっと家族への暴力に躊躇いがなかった。
ただそれだけの、普通の醜悪だった。
神世紀という倫理と善良さが神に担保された世界で、倫理と善良さを子供の頃に叩き込まれて、それでも精神と脳の問題で、子供を虐待せずにはいられない。
それが、山伏の家の両親だった。
「……誰か、助けてくれたり、しないかな」
『期待すんな、しずく』
「……」
『期待すれば裏切られる。お前の周りにお前を助けてくれる人間は見当たんねえ』
「……」
『お前が期待されて裏切られたら……俺は、辛い』
「……そうだね」
宇宙の邪悪は正義のヒーローが倒す。
普通の醜悪は警察が倒す。
だから、普通の醜悪に対し、正義のヒーローは来てくれない。それが普通だ。
そして警察が来てくれるまで、普通の醜悪に苦しめられている者は救われない。
優しさを誰からも与えられない人間が、救われるわけがない。
だから、奇跡だったのだ。
しずくが、彼女と出逢ったのは。
始まりは興味だった。
しずくの隣のクラスに三人、勇者という特別なお役目を与えられた人間が居るという。
それに、しずくは興味を持った。
六年生に上がってすぐ、始業式の翌日、少女は"会ってみたい"と、ふと思った。
しずくは勇者に救済など求めていない。
助けてほしいとすら思っていなかった。
救ってほしいとすら思っていなかった。
そういう発想が出て来るレベルの"当たり前の思考"すら、彼女にはなかった。
しずくはただ、見たかったのかもしれない。「自分みたいな無価値な人間の対極にある」と思える人間を。勇者という存在を、見たかっただけなのかもしれない。
『見に行きたいのか?』
「うん」
『……気持ちは分かるけどな。まあ行きゃいいさ』
「……ん」
『神様に選ばれた奴ら、か……俺らとはまるで違うんだろうな。反吐が出そうだ』
しずくは少し期待していた。
幼い子供のように――事実幼い子供だが――『勇者』というものに憧れていた。
シズクは少し辟易していた。
『特別』が、しずくという『特別でないもの』をみじめな気持ちにすることを恐れていた。
けれどシズクは、しずくが何かに興味を持つということがあまりに久しぶりだったために、止めるに止められなかった。
こんなことまで止めてしまったら、しずくが人間ですらなくなってしまう気がしたから。
教室の後ろのドアを開けて、しずくは中を覗き込む。
隣のクラスの三人の勇者は、勇者だという話が広まる前から、話したことのないしずくでも名前を知っているような変なメンバーだった。
真面目で不器用で友達思いで、学校で愛国の話か叔父の話しかしない鷲尾須美。
マイペースで寝てばかりで、本気になればできないことが無い天才の乃木園子。
落ち着きがなくトラブルメーカーで、他人思いで人助けばかりしてる三ノ輪銀。
その内二人、園子と銀が教室に居るのが見えた。
勇者に選ばれた二人が教室で楽しそうに話しているのを、しずくはじっと見ていた。
「ん?」
「!」
そんなしずくに、銀が気付いた。
―――銀にとってはいつものことで、しずくにとっては初めてのこと。
「お、そこの子。どした? 誰かに用? アタシが呼んで来るけど」
「あ、う」
「……アタシ? もしかして、アタシに何か用なのかな」
しずくの視線は逸れ、意思は言葉にならず、指先は意味不明に銀を指差す。
そんな僅かな情報から、銀はしずくの意図を汲み取ってくれた。
誤解がなく、邪推がなく、素直にしずくと向き合っているがために、ズレがない理解。
―――銀にとってはいつものことで、しずくにとっては初めてのこと。
「あ、えと、その」
「落ち着いて。アタシは逃げないからさ」
「……う、うん」
「ゆっくりでいいよ。君が言いたいことを言えるまで、アタシは待つから」
両手を頭の後ろで組んで、銀は陽気に笑っている。
銀はせっかちだが、他人を待つことは苦にしない気性だった。
幼い頃から、自分の時間を他人のために使うことに迷いがない性格だった。
しずくは陽気に笑う銀が、自分に合わせてくれている空気を実感していた。
―――銀にとってはいつものことで、しずくにとっては初めてのこと。
「あ……あ、の」
「うん」
「……ゆ……」
「うん」
「……ゆ、勇者! 頑張ってください!」
「ああ! 応援、ありがとっ!」
銀は心底嬉しそうにして、しずくの手を取る。
「君のおかげで、明日からのアタシは二倍頑張れる! ありがとうな!」
「―――っ」
しずくは嬉しくて、嬉しくて、興奮して、何もかもが初めての感情で、どう対応していいのか分からなくなって、何も言えずに逃げ出した。
呼び止める銀の声が聞こえた気がしたが、足は止まらない。
後者の裏に逃げ込んで、壁に寄りかかって、神樹館の制服の胸元をぎゅっと握って、しずくは青い空を見上げた。
何もかもが混ざって混沌とした少女の心とは対象的に。
けれど、何故か不思議な爽快感と解放感に包まれていたしずくの心の反映のように。
澄み切った青空が広がっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
全力疾走した後の息を整え、しずくは己の内に語りかける。
「生まれて、初めて。……他人の役に立てた気がする」
『……しずく』
「生まれて初めて……誰かを、喜ばせられた、気がする」
『……』
「嬉しい」
『よかったな』
「うん」
個性的で、普通だった。
特別で、普通だった。
選ばれていて、普通だった。
目立つくらい普通じゃなくて、勇者だとは思えないくらい普通だったのが、しずくにはあまりにも印象的だった。
神樹が選ぶことに納得できるくらい、普通じゃなかった。
戦いのお役目が似合うと思えないくらいには、普通だった。
他の子供にはできないことができて、普通の女の子の普通の日常を生きていて、何気ない当たり前のことで他の人が救えない人を救ってしまうような……そんな人を、尊敬した。
そんな人を、尊いと思った。
"普通で特別"。それがあまりにも眩しくて、しずくの胸の奥に、深く刻まれる。
勇者に選ばれた少女の見え方は、見る人によって違う。
銀の親は、「こんな普通の子にそんな運命を背負わせるなんて」と思った。
しずくは、「こんな素敵な人だから勇者に選ばれたんだ」と思った。
親にとって銀は娘だから特別で、普通に愛して、だからこそ勇者に相応だと思えなかった。
しずくにとって銀は普通の女の子に見えて、でも特別にかっこよくて、だからこそ勇者に相応しいと思えた。
『ああいうのを、かっこいいやつって言うんだろうな』
「ん」
『初対面で特に理由もなくしずくに合わせた会話をしてくれた奴は初めてだ』
「優しい」
『ちょっと違うかもな。あいつは、息をするように優しくするのが当たり前なんだ』
何もできないから"無"でしかないしずくから見ても、"暴"以外の方法で他人と接したことのないシズクから見ても、三ノ輪銀は自分からあまりにも遠い存在だった。
他人に優しくできるから、銀の周りにはいつも人がいる。
他人に優しくできないから、しずくの周りにはいつも人がいない。
しずくもシズクも、胸に抱いた気持ちは、純然たる好意と尊敬だった。
嫉妬は無かった。"自分はああなれない"という、ごく自然な納得があった。
しずくもシズクも、家庭環境のせいで、ごく自然に自己評価が低かった。
『他の勇者も見ていくか。鷲尾だけいなかったろ』
「ん」
『乃木は……また寝てたな……あいつ一体一日何時間寝てるんだ……?』
小学生達の会話を盗み聞きして、鷲尾須美が体育館の方に向かったことを知る。
こそこそ体育館に先回りしたしずくは体育館で、妙な雰囲気――雰囲気の違和感を覚えたのはシズクだけ――のオッサンと、オッサンを囲む小学生男子数人を発見した。
オッサンと男子達は体育館の天井を見上げていて、子供達は深刻な表情をしている。
「ほー、なるほど。体育館の天井の梁にボールが引っかかってしまったと。なるなる」
「大人なら取れるかなって思って」
「ほら、身長も高いじゃん」
「すみません、すみません、僕らのせいで」
「いやいいけど。流石に小生が小学生より身長が高いとはいえ体育館の天井はキツイな」
「やっぱり僕らのせいで……」
「だから気にしすぎだ。
『体育館の天井 ボール』でまずはググれ。
世の中の小学生の平均値がどんだけバカか分かってどうでもよくなるぞ。ガハハ」
しずくがオッサンの後ろ姿だけを見ていると、オッサンはノソノソ動き始める。
「……よし。美森、手鏡……っていないんだった。
手洗い場の鏡使うか……おおあったあった、ってなんか一個欠けてるな鏡」
「あ、それ乃木さんが溶解させたやつですね」
「溶解!? なんで!? どんななんだ乃木……『君はボールだ』。よし、小生はボール」
「?????」
「小生を蹴れ! 思い切りだ!」
「あ、おお? は、はい」
「天井のボールのことは一旦置いておくんですか……?」
「いきなりマゾ豚の本性を表して来たなこのおじさん」
「四国の未来を憂うわ」
小学生男子がオッサンを蹴ると、おじさんの体はパチンカスが打ち出した銀球のごとく品性溢れる飛翔で天井へ向かい、天井の梁の間にボールのように挟まった。
「おお!?」
「おおっ!」
「ええ……」
「体育館の天井の梁の間にボールは自然と挟まるものだからな……」
「……?」
「……?」
「……?」
「……?」
極めて精緻で複雑で特殊で説明が冗長になりそうな限定的催眠作用によって、おじさんは体育館の天井に引っかかって落ちて来ないボールになることで天井に到達し、天井の梁の鉄骨の上をプルプル震えながら歩き始めた。
「た、高い! 意外と高いなここ! 小生落ちたら死ぬんじゃね!? ちょっと怖い!」
「おじさん無理すんな! 怪我したら元も子もないぞ!」
「オッサン気をつけろ! かっこつけて立たなくていいぞ! 両手足場につけて!」
「あ、ああ、見てるだけで怖い……無茶しないでください!」
「黙ってろ! ここで小生が回収すればお前ら先生に怒られないんだからまあ見てろ!」
「オッサン……あんたかっこいいぜ! 頑張れ! 応援してる!」
「よっ、男の中の男! でも調子乗んな! 恐怖を忘れたら死ぬよ!」
「あと10m! 10mちょっとだよ! 良い感じ良い感じ! 進んでるよ!」
「その調子その調子!
小生に声援を送ってくれ子供達!
声援の分だけ頑張れる気がする!
……なんだこの部分なんでこんなに滑るんだ!?
これ絶対潤滑用のオイルを業者がこぼして放置してたやつだ! 小生駄目だここで死ぬ!」
「何やってるんですかおじさま!? そこを動かないでください、今助けに行きます!」
「来るな須美! お前も死ぬぞ!」
「映画のセリフ真似してる余裕があるならそこ動かないでください! いいですね!?」
「やめろーみー子ー! 真面目なお前が事情を把握したら先生にチクるだろうが!!」
朝の予鈴が鳴り、しずくはその場に背を向けて教室に戻り始めた。
理解の範疇を超えた光景を見たことでしずくが選んだのは、思考の停止であった。
『頭イカれてるんじゃねえの』
「シズク……」
『いやなんか……イカれてるんじゃねえか』
「シズク……」
『鷲尾須美の身内は駄目だな』
「シズク……」
しずくが自分の教室に戻る途中、ちょっと銀のクラスを覗いて見ると、乃木園子はまだぐっすりと寝ていて、"こいつが一番やべーのかもしれん"と、シズクはちょっと思った。