催眠おじさんVS美少女勇者:地球最大の決戦!RtA 作:ルシエド
六人は、揃って外出の準備を始めた。
「三ノ輪のお嬢が誘われてた町内会のサッカー大会に迎えに行くんだが、来るか?」
「行く」
「食い気味に来たな……あっ車使われてるおのれ鷲尾父……まあいいか歩きとバスで行くぞ」
『しずくは三ノ輪に割と限界感情あるよな……チョロいっつか、ガツンと好きになるというか』
(シズクもそういうとこある)
『ねえよ』
「しずシズ、次のバス間に合わなくなるぞ。はよはよ。園子とみー子'sがもうあんな遠い」
「はーい」
『ん? こいつ今……』
六人は駄弁りながら歩いて、バス停へ。
園子が楽しげに、一番に、ガラガラのバスへと乗り込んでいく。
「わっしー、わっしー、一番後ろの席皆で取っちゃおう!」
「そのっち。バスには他の人も居るんだからうるさくしちゃダメよ」
「須美ちゃんお姉さんみたいね。あ、おじさま、バス代くらい私は払えますよ」
「かまへんかまへん。大人が払うのが筋やで」
「またヒュプノの真似してる……」
一番後ろの数人並んで座れる席に、彼らは並んで座った。
園子に手を引かれて須美が座り、美森が一番右に多少スペースを空けて園子の隣に座る。
おじさんは席の左端に座り、スマホの音楽アプリを起動し、イヤホンで聞き始めた。
そんな彼を、隣に座ったしずくがじっと見つめている。
「……」
「……聞くか?」
「何を?」
『音楽に決まってんだろ』
「音楽だよ。小生はな、この二番が終わって最後のパートに入る前のギターソロが好きなんだ」
「……聞く」
『オッサン、やるじゃねえか。イヤホン初体験だからか、しずくちょっとウキウキしてるぞ』
六人並んで楽しく話している集団の端っこで、おじさんはイヤホンを渡し、イヤホンの付け方が分かっていないしずくの両耳にイヤホンを付けてやった。
「どうだ……いい曲だろ?」
「ん……はい」
『なんかうるせーなこれ』
「時代背景的に言えばこの世界の300年前頃に流行ってた曲だが、この時代でも通じるだろ?」
「うん」
『いや絶対通じねえと思うが? 何この聞き取りにくい英語……』
「時代を超えて通じる名曲っていうのは、やっぱ"違う"んだよなァ……」
「うん」
『いやこれはこの時代じゃ通じねえと思うけど?』
「これが一昔前の時代の曲だなんて信じられねえよな……?」
「うん」
『普通に信じられる。その辺のオッサンがこういう古臭え曲聞いてそうなイメージ』
「やっぱこう……音楽初心者にはさ……古き良き名曲を聞かせてやりてえもんだよな……」
『普通に新しくていい曲聴かせろオッサン。時代に取り残されてんのか?』
(シズク)
『原始人に小学生レベルの知識を披露して感動されて得意げになってる未来人みてえなやつだ』
(シズク)
『はいはい。……このオッサン、しずくが喜んでると思ってんのかねえ。かなり嬉しそうだ』
(シズクは魔法使いさんの感情の機微に敏感)
『あ? こんな怪しげなオッサン、警戒しない方がおかしいだろ。何か変か?』
(別に)
六人はバスを降り、道を歩き始めた。
この辺りはかなり広い土地をふんだんに使っており、サッカー場や野球用のグラウンド、短距離走用の直走路など様々なものがある。
この地区の中学生や高校生のスポーツ大会の予選はここで行われるため、香川一の小中学校がここで決められることも多かった。
「なんだか涼しいね~。わっしーにうちわであおがせてる時みたいだ~」
「熱中症対策にスプリンクラーで水を撒いてるからね……
……ん? ちょっと待って、私そのっちをそんな風にあおいだことないわよ?」
「でも暑い暑い言ってたおじさんをうちわで精一杯あおいでた覚えあるんじゃないかな?」
「……ま、まさか、あの時のおじさまは……素直に甘えてくると思ったら……」
「だってわっしー、インチキおじさんにするくらい私に甘くしてくれないんだもん」
「そのっちぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「きゃー!」
駆け出す二人を見て、シズクが"バカみてえ"と笑っていた。
「美森、暑くないか」
「七月ですからね。暑いこと暑いこと。おじさま用の水分補給茶がこんなにぬるく……」
「いやお前が飲めよ……今日は割と厚着だな」
「薄着で外を出歩くとおじさまが怒りますからね」
「……」
「あなたの美森は男性の注目を集めてませんよ? 何かコメントはありませんか?」
「……お前が熱中症で倒れないかが心配だよ」
「あら……珍しい心配をされた気がしますね。ふふっ」
「あと、んなことで怒らねえから」
「どうだか」
悪戯っぽく笑う東郷美森が、おじさんの少し前を、機嫌良さそうに歩いていた。
『あのバカでっかい胸とか夏は蒸れまくって大変だろうな……しずくは貧乳でよかった』
(こら、シズク)
しずくがシズクを叱って、シズクが笑い、その笑いがほどなくして止まった。
『さて、この辺でいいか』
(? どうしたの、シズク)
『様子見てたんだよ。
知り合いだけど無視してんのか? って最初は思った。
人が多いとこでしずくが気付いた素振りを見せても不味いと思った。
だが様子見もここで終わりだ。こいつをこれ以上放っておいたらやべえ』
(こいつって……魔法使いさん?)
『違えよ』
シズクの声のトーンが落ちる。
しずくは経験上知っている。
シズクがこういう声のトーンになった時は、戦意を抑えに入った時。
戦闘態勢に入る前の、押し込んだ戦意を爆発させる前の、戦闘態勢に入った時のシズクの声の特徴だ。シズクは今、戦おうとしている。
しずくを"うっかり殺す"ところまで行きそうになった親に対し、本気の戦意を見せた時と同じように。
『六人居るだろうが、六人』
(六人? 私と、シズクと、東郷と、鷲尾と、乃木と、魔法使いさんで六人?)
『違う。俺を抜いて、現実に六人いる。
(!)
しずくはおじさんの後ろを見る。
だがそこには何も見えない。
何もない。
ない、はずなのに。
シズクはそこに誰かが居るという。
しずくは自分よりシズクの方を信じている。ジクジクと、染み入るような違和感が、シズクの言葉をきっかけとして、しずくの心に浸潤してきた。
『こいつは何か"力"を使っていつの間にか混ざってやがった。
そこに居るのが当然のように。
そこに居るのが当たり前のように。
周りにそう信じ込ませて、そこに居た。
バスで座る時もお前らは一人分のスペース空けてた。
近くにいるそいつが見えてねえのにそいつにぶつからねえよう距離を取ってた』
何故、五人しか居ないのに、バスの一番後ろの六人席を選んだのか。
右端に座っていた美森は、何故右側にスペースを空けたのか。
見えているはずなのに見えていない。
見ているはずなのに何もない。
何もないはずなのに違和感が募る。
シズク以外、誰もそれが見えていない。
『何がなんだかさっぱり分からねえが、俺の勘が言ってる。コイツはヤベえ!』
ぞわり、としずくの背筋に悪寒が走って、シズクの目に見えた"やばいもの"が一瞬しずくの視界にも映り、しずくの生存本能が警鐘を鳴らす。
"これは自分を殺せる"。
そう思った瞬間に、しずくの中でカチリとスイッチが入った。
しずくが、シズクへと――
『こいつはやべーぞ! お前の命の危機だ! "代われ"ッ!!』
――変わる。
意識が切り替わったその瞬間、シズクの鋭い掌底が、おじさんの背後で鼻息荒くしていたおじさんの背中に突き刺さった。
しずくとシズクは、同じ体を使っている。
肉体の性能は変わらない。
ただ、しずくとシズクという『二つのOS』には、戦闘における適性や、各得意分野の差異が存在しており、肉体の操作能力においても天地ほどの差があった。
パイロットを変えればロボットの動きが目に見えて変わるように、彼女の体もまた、シズクが操作を代わることで初めて才能が発揮できるようになっていた。
「背骨ぶち折れろッ!!」
「げぶぅっ!?」
その一撃は、俗に『発勁』と呼ばれるものだった。
発勁とは、様々な定義を持つが、力の発し方であり、力の作用のさせ方であるという。
究極の形で語るならば、『最も理想的な動きで、最も理想的に力を伝える技』ということになるだろう。
シズクは生まれた時から、これができた。
誰にも教わらないままにこれができた。
しずくは比較的自分の体を操作する才能が無かったが、しずくという精神の海から誕生したシズクという存在は、自分の体を操作する才能に特化していた。
どんなに力があっても、力が伝わらなければ意味はない。
筋肉があっても、力の流れを支配できていなければ野球ボールをまっすぐは投げられない。
150km/hのボールが飛び交う野球のマウンドに、他スポーツトッププロが始球式で招かれても、投げ慣れていない者の球速は100km/hを切る。
たとえ投げることができても、狙った的に当てることは難しい。
普通の人間は"発勁"という力の制御と作用を、経験と鍛錬によって身につけ、ボールをより速くより正確に投げるように、力の支配を習得していく。
しずくとシズクが同じ肉体を使っているのに、天と地ほどの戦闘力の格差がある理由は、ここにあった。
シズクはしずくを守るために生まれてきた。
この世の全てから守るため、強い存在として生まれてきた。
だから強かった。
肉体の弱さに依存しないほどに。
どんな弱い肉体を使っても、強いほどに。
"精神のみに依存する強さの才能"を―――山伏シズクは、持っていた。
確かな手応えと、発勁掌底で転がった謎のおじさんを見て、シズクはこれが幻覚でもなんでもないことを確信し、味方の催眠おじさんに叫ぶ。
「催おじィ! テメェ俺の存在のこと分かってんだろ!
「……! よし、理解した。分からんが理解した!」
おじさんは、説明なしにシズクを信用し、動く。そこには無条件の信用があった。
「―――須美ッ!! アレだ!」
「! アレですね! よく分かりませんが分かりました!」
須美は、説明なしにおじさんを信頼し、動く。そこには不動の信頼があった。
須美が変身し、弓の音が鳴り、矢が『その場の領域』に刺さる。
須美が格別力を込めた魔祓いの力が広がり、高度なバランスで構築されていた催眠領域に綻びが発生し、そして砕けた。
シズクの発勁を背中背骨、腰を中心とした部分に叩き込まれた謎のおじさんが、不敵な笑みを浮かべて立ち上がる。
「……魂分裂型の二重人格。
神の目にも"一人で二人の人間である"と認められる存在。
通常の多重人格者より遥かに高い安定性を持つ者……
その多重人格は姉妹のように育ち、片方の人格は全ての催眠が届かないという」
「あ? 何言ってんだテメー」
「大したものですね、流石催眠の王……
催眠を完全に無効化する女と、催眠を問答無用で解除する女を確保していたとは……」
謎の男は語り口を止めぬまま、震える足で立ち上がる。
「『うんこ』しか喋れなくなるわたくしのプレゼント、楽しんでいただけましたか?」
「! お前が……あの催眠を」
「ええ」
恐るべき男だ。
ここまでの流れで、催眠術師であることは分かる。
だが本当にそうであるならば……おじさんを超える総合力、園子を超える基礎出力値を持っている可能性が高い。
格上の催眠使い。
須美のおじさまを超える脅威。
この男がその気になれば―――寝取られものの薄いブックスが始まってしまう。
だが須美のおじさまの反応は、少し妙だった。どこか懐かしげですらあった。
「お前の顔に……小生は見覚えがある」
「ええ! そうでしょうそうでしょう! あなたなら覚えていると思いました!」
「おじさま、知り合いの方ですか?」
「ああ。
前に居た世界で共闘した。
地球が敵に回った世界。
その世界を救うために集まった『催眠おじさんクルセイダーズ』……
小生が参戦する前に集結した、宇宙の壁を越える催眠おじさん相互扶助戦闘団の一人だ」
「おじさま、友達は選んでください……」
「須美ちゃん。これがおじさまよ」
「催眠おじさんクルセイダーズってかっこいいね~」
「おいしずく、俺の中で耳を塞ぐな、俺を一人にしないでくれ」
「やはり覚えてくださっていたんですね……王よ」
「でも小生の記憶だとこいつこんな強かったかな……
おい、お前。
あの世界は救われたはずだ。
小生も恨まれる覚えは……小生が覚えてないだけであるかもしれんが。
とにかくお前がこの世界に来る理由がよく分からん。この世界を支配したいのか」
「あの地球を救ったあなたが消えた後、私は思ったのです。あなたのアナルの処女が欲しいと」
「ん?」
「ん?」
「ん?」
「ん?」
「ん?」
おじさんからシズクまで、全員の声が揃った。
「そのための拠点が欲しかったのです。
だからこの世界に目を付けました。
理が上書きされた世界……
ここは星全体の理を一気に書き換えるのに向く!
抵抗する人類の力も弱く、あとは神に勝てるかどうか!
あと地の神の王がいい男だと聞いたので前菜としてホモセックスを少々ねフフフ」
「あっ、ふーん……小生そういう目で見られてたの……」
「神樹をファックしに来たというのに、あなたまで見つかるとは! 本当に僥倖でした!」
「やべーな、色々と」
「まずはあなたのアナルを舐めしゃぶり、次に神樹の地の神の王のアナルを舐めしゃぶります」
「本当にやべーぞ!」
シズクが思わず、おじさんを守るように立っていた。
いつもの悪態をおじさんに言うことすらなく、シズクは本気でおじさんを守るべく立った。
ちょっと状況が洒落にならなくなってきたからだ。
美森が目を細め、須美も声を上げる。
「ちょ、ちょっと待ってください! おじさまは私のですよ私の! 私のおじさまです!」
「須美ちゃんと私のおじさまに手は出させませんよ。そのっち、私達も変身を……」
「だまらっしゃい雌豚ども!」
「「 !? 」」
ホモおじさんが声を張り上げる。
「そのおじさまを好きになったのはわたくしが先! あなた達は後から出てきたぽっと出!」
「ぽ、ぽっと出!?」
「わたくしの方が先に好きになったのに! 横からこんな小娘に寝取られるなんて!」
「寝てませんけど……あ、でも、添い寝はしてもらったかな」
「キーッ! そのおじさまはわたくしのもの! いいえ、これからしてみせる!」
「小生普通に怖い」
「男は男と、女は女と、おじさんはおじさんと恋をするべきなのですことよ!」
「催おじ……俺が思うにあんたお祓い行った方がいいぞ……絶対なんか憑いてるってコレ」
「雌豚どもの記憶を消しわたくしとのめくるめくおっさんずラブの記憶で埋めて差し上げる!」
「乃木家の歴史の中で一位を争える地獄だよ~」
おじさんの背筋に、ドバドバと嫌な汗が流れ落ちていた。
其は歴史の陰に隠れし存在。
催眠系のエロ創作は男向けが最大勢力である。
だが、女性向けも存在している。
情報集積サイトで探せば、どこで探しても、男×男の催眠ものは見つかる。
そしてその中には、おっさんが男を催眠でいいようにするジャンルが多くある。
男が女を催眠でどうにかするエロ本・エロ小説・エロSSとは別の系統樹から生まれ、別の道を通って育ち、歴史の陰ですくすく育ったホモなる邪悪。
彼らは催眠で男を捕らえ、中出しで男を妊娠させる。
―――BL催眠種付けおじさん。
其は天の神の王・天照大神を脅かさず、神樹の中心たる地の神の王・大国主を孕ませる者。
花の勇者を脅かさず、催眠おじさんを孕ませる者。
今の四国秩序において、絶対に来てはならない最悪の存在であった。