催眠おじさんVS美少女勇者:地球最大の決戦!RtA   作:ルシエド

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 いつもお気に入り・評価・感想などなどありがとうございます。暖かい言葉、いつも拝見させていただいてます(定期的に思い出したように言う)


思い出10倍

催眠剣豪七番勝負

勝負、二番目

四国守護おじさん

神樹の勇者

VS

フレンドに出したサーヴァントを催眠で落とすおじさん

 

いざ、尋常に

 

勝負!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはあまりにも激しい戦いだった。

 あまりにも会話相手が居なすぎてSiriに恋してしまった人間を見張るだけの仕事くらい、目を逸らしたくなるような、凄惨な戦いであった。

 過去最大、過去最悪の一つに数えられる、死力を尽くした激戦。

 地には催眠が満ち、月には新たなクレーターが増えた。

 旧世紀の時代、日本人は月の影を見てうさぎが居ると言っていたが、もはや月の影は絶頂を我慢している対魔忍にしか見えないだろう。

 

 おじさんと園子のコンビが観客100票安芸100票、他0票という善戦の果てに惜しくも予選落ちという悲しい結末を迎え、けれど哀しみを乗り越え戦った。

 催眠剣豪の一人目を遥かに超える力を持った二人目の登場は、否応なしに彼らの危機感を煽り、"このままではいけない"と思わせる。

 銀のあの見事な奇策でああして追い詰めたところまではよかったが、仕留めきれず逃してしまった以上、奴はまた襲撃して来るだろう。

 

 これだけの激戦を繰り広げた相手だ。

 奴は、催眠剣豪七番勝負を通して戦い続ける、最悪の敵になるかもしれない。

 

「ふぅ……『寝返りと寝取りの催眠』……

 恐ろしい敵だった……

 須美達の最強のヒロイン力を守るために小生がスキップしなければ危なかったな」

 

 毎日のように同人誌で寝取られる姿を見られているマシュ・キリエライトはそのせいで、一部のユーザーの脳内でヒロイン力を日々削り落とされているという。恐ろしい話だ。

 催眠おじさんは、見ているだけの人間からすら、何かを削り落としてしまう。

 概念と印象を汚染する、恐るべき病原体だ。

 

「インチキおじさんとわっしーに相互に寝取られ性癖が芽生えるところだったね~」

 

「やめろ!

 ホモ野郎の話を蒸し返すな

 あと小生は奴に勇者に指一本触れさせないよう頑張ったんだぞ!

 そして触れさせなかった! 超絶セーフだセーフ! くらァ!」

 

「ありがとう~」

 

「どういたしまして。銀はよくやったァ!」

 

「うす! 覚えてないすけど!」

 

「お疲れ様です。今戻りました」

 

「おう美森! おつかれ! 大活躍だったな! お前のおかげだ! 愛してる!」

 

「っ……こほん。ありがとうございます。おじさまや皆を守れてよかったです」

 

 今回のMVPは二人。あの活躍をした銀と、狙撃に回った美森だろう。

 催眠おじさんに催眠をかけられたら終わり。なら、催眠おじさんに気付かれないように遠方から狙撃し、催眠おじさんに知覚されないままぶっ倒す。実に見事な一手であった。

 文字にすれば20万字に渡るであろう今回の激戦で、常に四国側がある程度の優位を維持できたのは、催眠おじさんに姿を見せずにひたすら狙撃を繰り返したマンチ女東郷美森の大活躍があったからだと言えた。

 

「大きいみー子の対人の動きは無駄がなくてびっくりするな……」

 

「おじさまは催眠術師ですからね。

 社会から排斥される可能性が高い人です。

 世界の全てを的に回してでもおじさまを守るには、対人を想定しておかないと」

 

「こいつが一番怖いと思う。頼りになりすぎて最高に愛せるわ」

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

「そういやみー子、催眠剣豪と戦ったことあんのか?」

 

「無いですね。仮に来ていたとしても、おじさまが裏でこっそり倒してたんだと思います」

 

「……ふむ」

 

「私が見てた方の歴史では……おじさまは最後の戦いまで、究極形態を失ってませんでしたから」

 

「今の小生に力は足らん。助力を頼むぞ、美森」

 

「はい。この命に替えても」

 

「替えんな替えんな。交換拒否だ」

 

「えー」

 

「えーじゃないが?」

 

 一人倒し、一人撃退した。

 まだ見ぬ催眠剣豪は五人。倒すべき数は六。

 須美、美森、銀、園子に背を向け、おじさんはフレンドに出したサーヴァントを催眠で落とすおじさんが去って行った方に目を向ける。

 

「だが、小生達は、勝負に買って試合に負けた」

 

 悔しげに拳を握るおじさんの横に、園子が寄り添う。

 

「コンクール予選落ち、しちゃったね……」

 

「そのっち先生……」

 

「来年は頑張って入賞しようね! P.D.Q.バッハをバッハと言い張って!」

 

「……はい!」

 

「来年の運営はおじさまとそのっちのコンビだけは受理しないことを願ってます」

 

 それを冷めた目で須美が見ていた。

 

「来年は私とインチキおじさんで飛びながら演奏するんよ~」

 

「へっ、おもしれー女」

 

「へっ、おもしれーおじさん」

 

「おっ、おもしれー雲」

 

「おっ、おもしれー着眼点」

 

「あっ、おもしれー鷲尾の美少女」

 

「あっ、おもしれーわっしー」

 

「「 おもしれー女~ 」」

 

「帰りますよ! おじさま! そのっち!」

 

「おもしれーのはお前ら二人だとアタシは思うよ」

 

 かくして、一つの危機が去り。

 

 

 

 

 

 新たなる危機が、彼らを襲った。

 

 それは、作戦会議――という名のぐだぐだ駄弁り場――の最中に発覚した。

 第一議題、催眠剣豪対策会議。

 第二議題、夏休みの自由研究。

 第三議題、催眠術に抵抗力を持つ精神姿勢。

 第四議題、最近の月9ドラマのハズレ率の高さ。

 第五議題、twitterで相手をバカにして揚げ足を取ることを知性の証明だと思う人種について。

 第六議題に入り、銀は畳の上に正座させられていた。

 

「様々な案件を議論したが、今一番ヤバいのは、おそらくこの件だ」

 

 おじさんがこめかみを人差し指でとんとん叩き、かつてないほどに険しい顔をしていた。

 須美、美森、園子は苦笑している。

 銀は正座した状態で身を縮こまらせていた。

 

「あの……足……痺れ……」

 

「銀」

 

「はい」

 

「もう一度言え」

 

「やー、あのですね。

 夏休み前の遠足の時に弁当要らないって話しされてたの忘れてて。

 母ちゃんに弁当作ってもらっちゃって。

 遠足の昼御飯は普通に皆と焼きそば作って食べてて……

 遠足用のリュックに弁当箱が入ってること忘れてた? みたいな?

 そういえばなんか弁当箱が一個足りないって話を聞いてたことがあった? ような?」

 

「入れっぱなしで腐ってたんだな」

 

「はい……」

 

「それでうちに持ってきたんだな」

 

「はい……」

 

「お前……夏休みに入ってから何日経ってると思ってんだよ……」

 

「だ、だって、気付かなかったんすよ!」

 

「見ろよこの弁当。夏の弁当の腐りやすさを表現した前衛芸術みたいになってんぞ」

 

「芸術なら……アタシのこれにも価値があるのでは!?」

 

「価値のある芸術と価値のねえ芸術があるんだよバカ!」

 

「あんな産業廃棄物をコンクールに垂れ流したおじさまがよく言いますね……」

 

「園子と小生のあれは芸術だから」

 

「芸術レイシストですか……?」

 

「わっしーは国防レイシストでお似合いだね~」

 

「「 !? 」」

 

 おじさんは発酵(奇跡の控えめ表現)した弁当の臭いを嗅ぐ。

 

 ガツン、と鼻越しに脳まで届く刺激臭がした。

 

「あーくっせえ! 野原ひろしの靴下が多分こんな臭い! くっさ!」

 

「そんなに!? あっ、くっさ! 凄い臭い! この距離でもアタシの鼻に届く!」

 

「蓋を開けた時点ですご……窓開けましょう窓」

 

 美森が真剣にヤバさを感じて窓を開けるが、今日は風がないので換気効率は悪い。

 

「うっ……小生の心臓が臭さで止まりそうだ……!」

 

「大変! そのっち、おじさまにAEDを!」

 

「DEAD? ミノさん、インチキおじさんにDEADだって~」

 

「わしおじさんがDEAD? このおじさんは……最終決戦に駆けつけてくれた霊魂?」

 

「インチキおじさん……今でも私達に力を貸してくれるんだね……絶対に勝つから!」

 

「かなり突然に最終決戦が始まったわ」

 

「殺してんじゃねえぞ」

 

 おじさんは嫌そうな顔でビニール袋に腐敗弁当を封印していく。

 

「まあ親に明かす時の言い訳は考えとけ。小生は兜真剣王の棲家の構築に忙しい」

 

 そして一度中断していたカブトムシの飼育ケース調整を再開した。

 

「ただのカブトムシじゃないですか……」

 

「兜真剣王だ。もう正座はいい、足崩していいぞ。反省してるのはよく分かったから」

 

「ひーん、やっと終わったー!」

 

「よしよし、ミノさんよく頑張ったね~」

 

「ありがとう園うァァァァァァ!?」

 

「つんつん」

 

「やめろぉ園子! 足! 足触んな! やめ、やめー!」

 

「ミノさんの今の顔、なんだからすごく"いい"んよ~」

 

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

 

「みー子's」

 

「はい、止めてきます」

「そのっちは本当に銀のこと好きよね……」

 

 須美と美森が園子を引き剥がし、銀はほっと息を吐いた。

 

「ありがとう須美、東郷さん……うぐっ、まだ痺れてる……!」

 

「弁当のことはちゃんと隠さず言うんだぞ。どうせ弁当箱戻さねえといけねえんだから」

 

「ですね……というか最近カブトムシがっつり育ててるんすね」

 

「神樹館の男子の最近のブームらしいぞ」

 

「いい歳したおじさんが同じことしてる説明に全くなってないんですが?」

 

「今、神樹館は手持ちのカブトクワガタを戦わせた勝者にこそ人権があるからな」

 

「人権無い男子居るの!?」

 

「神樹館の男子を支配できればよし。

 最近は日常で催眠使うなとお前らがうるさいからな……

 神樹館の男子を見極めれば、いずれ須美に告白しようとする男子を事前に知ることもできる」

 

「知ってどうすんすか」

 

「えーっ……

 どうすっかな……

 見つけた後のこと考えてねーや……」

 

「瞬間瞬間を適当に生きてますね……うあっ、痺れの波来たっ、ひんっ」

 

「とまあそういうわけで丁寧に育てたのがこの兜真剣王なんだが」

 

 立派なカブトムシが、ケースの中で大きな角を上に突き上げている。

 それを見たおじさんが、愛おしさ全開で飼育ケースごと兜真剣王を抱きしめた。

 

「駄目だ……小生には兜真剣王を戦場に出すことなんてできない……!」

 

「戦う気満々で付けた名前が今となってはおじさまの情けなさの象徴みたいになってますね」

 

「原点回帰してえ。兜真剣王と名付けたあの頃に……」

 

「漫画とかアニメの原点回帰ってどのくらい失敗してるんでしょうか。

 多分成功率は高くないですよね? そういう話聞きませんし。

 原点回帰作品だから見よう、というファンが居ないなら、原点回帰ってそもそも意味が……」

 

「やめろォみー子!」

 

 須美の口をおじさんが塞ぐ。兜真剣王がケースの中で、鼻で笑った。

 口を塞ぐ手を振り払い、須美は腕を組んでちょっと不機嫌そうに口を開く。

 

「おじさまは最近このカブトムシにかかりっきりすぎです。もっと他のこともしたらいいのに」

 

「! すまんな須美、カブトムシなんかに嫉妬させて。もっと構うからな」

 

「し、嫉妬なんてしてません!

 一般論です! 勘違いしないでください!」

 

「でもこの前とか犬に小生が待てして、

 『この犬賢いな~凄いな~』

 って言ってたら須美が

 『私だって待てくらいできます。命じてください!』

 とか謎の対抗心見せてきたし……すまないな須美、嫉妬させて不安にさせて」

 

「し! て! ま! せ! ん!」

 

「小生の中で一番はみー子だぜ。愛する我が姪よ」

 

「……別に、疑ったことはありませんけど」

 

「だからおあぅっつぁ!? 兜真剣王!?

 なんで飛んで体当りしてきたんだ!? 須美をもっと大事にしろってことか!?」

 

「このカブトムシくんだいぶ賢いね~」

 

「お、園子分かる? うちの子は皆賢くてなー、須美も兜真剣王も自慢の子でなー」

 

「インチキおじさんの愛って大分広いよね~」

 

 兜真剣王をケースに戻すおじさんを見て、須美は「はぁ」と軽く溜め息を吐く。

 "愛着が湧いた存在を戦いに出したくない"。

 "できる限り怪我はしてほしくない"。

 おじさんのスタンスは一貫している。

 勇者に対しても、カブトムシに対しても、同じ。

 壁に寄り掛かる須美の隣で、美森も壁に寄り掛かり立っていて、同じように彼を見ていた。

 同じ人間だから、同じものを見ている時、二人の思考は同じになる。

 

「……同じなんですよね」

 

「ええ。同じなのよ」

 

「カブトムシが寿命迎えたらおじさまボロボロ泣きそうですね」

 

「泣いてたわよ」

 

「未来から来た人が断定しちゃうんだ……」

 

「兜真剣王が寿命を迎えた後、そこが本番よ。

 おじさまの悲しみを埋めてあげて、弱ったおじさまを私の方に寄りかからせて……」

 

「……なるほど」

 

「優しさと計算でおじさまを苦しめる悲しみを倒し―――」

 

「おじさまが泣いているところは見ていたくないですからね。それに加えて―――」

 

 好かれたいという打算と、好きな人にできる限り笑顔で幸福で居てほしいという願いが、小中学生らしい――経験の少ない可愛げのある少女らしい――比率で混ざった二人の作戦会議は続く。

 園子はカブトムシの飼育ケースの蓋のところを見て、そこに挟まっている紙らしきものを指先で弾いていた。

 

「これなぁに?」

 

「コバエの侵入とか乾燥とかを防ぐために挟むやつ。新聞紙とか挟むことが多いな」

 

「へー。蠅さん来るんだ~」

 

「……ん? あれ、なんか適当なの挟んだ記憶あるが何挟んだんだっけ」

 

「『新勇者選定計画』だって。私達の次の勇者選び始めてるの? へ~」

 

「うおわァ!」

 

 おじさんは園子が見ていた紙を引きちぎる勢いで奪取した。

 秘密を隠し通すことに長けた大赦人員と比べると、重要書類を新聞紙の代わりにカブトムシの飼育に使ってしまうおじさんは、アホらしいほどに組織人の素質が無かった。

 

「インチキおじさんのガバガバさ私は好きだよ~」

 

「うるせえな! 褒めてねえだろそれ! クソァ! アカンこれ小生クソバカだ」

 

「私達、勇者の任期が終わっちゃう感じ?

 元勇者のお嬢様、小説のヒロインみたいな設定になっちゃうのかな~」

 

 おじさんが深く溜め息を吐く。

 園子がキラキラとした目でおじさんを見つめる。

 その横で足の痺れで苦しみ悶えている銀が転がっている。

 おじさんは隠し通せる気がしなくなってきたので、話してやることにした。

 

「……バレちまったもんはしゃあねえ。

 遅かれ早かれだ。

 これはお前達の次代の勇者じゃねえよ。()()()()()()の選定だ」

 

「! 新しい仲間の人!?」

 

「うむ。昨今の情勢を鑑みてな。スーパー戦隊の追加戦士みたいなもんだ」

 

「わー、私達よりシステムが強力なやつ~。でも、あれ?

 勇者は大赦でも家格の高い家の女の子しかなれなかったような……

 だから私とわっしーとミノさん三人だけだったんだよね? 変わったのかな?」

 

「小生が格式と伝統にこだわるおじいちゃん達更迭して有能な人上げたらなくなってた」

 

「あらら~」

 

「ちゃう、ちゃうんや。

 おじいちゃん達説教長いねん……

 有能なの上に上げたら楽できるそうだって思ったんや。

 今やこの世界は小生のものやしあのそのね、上手く管理したくておほほほ」

 

「あはは、プーさんが言い訳してる時みたい」

 

「おっかしいな……?

 なんか大赦の改革とか望んでなかったんだけど結果的にそうなったというか」

 

「インチキおじさんは一番偉い人には向かない人だよねぇ」

 

「んだとコラ」

 

「目標と計画性が無いのは駄目だよ。

 インチキおじさん、今この世界で一番偉い人なんだから。もっと欲張ろうぜ~」

 

「あ、はい」

 

「んふふ。優しい人が一番上に居るのは、とってもとってもいいことだと思うけどね」

 

 園子は時折、おじさんもハッとするようなことを言う。

 おじさんも、園子も、人の上に立つための教育と経験を蓄積していないのは同じ。

 だから、園子がチームリーダーを余裕綽々でこなすことができて、おじさんが組織のトップに向いていないのは、ただ単純に才能の差であった。

 リスクマネジメントを徹底しているのにどこか抜けているおじさんと、適当にやっているように見えて隙の無い園子。

 

「でもインチキおじさんらしくないね?」

 

「あぁん? なにがだ」

 

「『戦場に出す子供を増やすなんてとんでもない』くらい言うと思った」

 

「……」

 

「こういう話してると、なんだか面白いよね。

 『インチキおじさんらしくない』って思わないと、こんなこと思わないもん。

 インチキおじさんのこと知らないとこんなこと考えないもんね。

 ふっふっふ、相互理解相互理解。私とおじさんもいい友達になってきたってことなんよ~」

 

「……」

 

「なーに隠してるのかな~」

 

「うはははは、何も隠してない隠してない。小生の気まぐれよ」

 

 だから大体の場合、おじさんの隠し事は隠し事にならない。

 須美は美森は深い理解ゆえに。しずくとシズクは共感ゆえに。園子は慧眼ゆえに。おじさんの隠し事を見抜いてくる。

 

「第一なんだねガキンチョがいっちょ前に小生に」

 

「『正直に話して』」

 

「うっ」

 

 おじさんは、たとえ美森のためだったとしても、園子に催眠術を教えたことをこんなにも悔いたのは、この時が初めてだった。

 目をそちらに向けずとも、須美と美森がそれに気付いて驚いたのが感じられる。

 

「油断してる時なら私の催眠術でもインチキおじさんには効くんだよね」

 

「……勇者の数は、まだ増やせる。

 勇者の数が増えれば、戦力が上がり、リスクが下がる。

 人類の敵は、今、あまりにも多すぎる。

 勇者を増やさなければ死人が出るかもしれない。

 勇者を増やせば既存勇者の三人の死亡確率が下がる。

 そう、園子の父親が提言して、小生が説き伏せられて……」

 

「ああ、うん」

 

 乃木園子の言葉のリズムには、二つ有る。

 間延びするような、調子を外すような、独特のリズムで紡がれる言葉。

 漏れ出たような、絞り出したような、静かに積み上げたような、中身が詰まった言葉。

 どちらかの言葉のリズムが偽物というわけでもなく、演じているわけでもなく、どちらも園子の本質であり、どちらも彼女の心から生まれているものである。

 

 前者は園子が気楽に話す言葉であり、後者は彼女の本音のこもった言葉だ。

 

「やっぱり」

 

 その一言には、園子の万感の想いが込められていた。

 愛。怒り。やるせなさ。絶望。嬉しさ。納得。不満。申し訳無さ。幸福。家族愛。新しい勇者の家族への謝意。不安。安心。許したくない気持ち。許したい気持ち。

 園子は感想を一言で済ませて、それら全てを飲み込んだ。

 園子は親の愛を受け止められるくらいには大人で、"園子のために"した親の選択を全肯定できないくらいには子供だった。

 

「園子。……親を責めないでやってくれ」

 

「うん。分かってる。

 お父さんは私のことを想ってくれてるんだって分かる。

 心配される私が勇者として駄目なんだよ。

 ……でも、うん。お父さんは責めないけど、私自身は責めるかな」

 

「何?」

 

「ごめんない。言いたくなかったこと、言わせちゃったよね」

 

「ん? ……ああ、催眠か。

 催眠で他人の心操るの当然のことになりすぎてて一瞬分からなかったわ」

 

「やっぱり私もそんなに好きじゃないかも、これ。

 相手の隠したいことを無理矢理話させるのって気分良くないね。

 友達と催眠で遊ぶのとは全然違うや。

 インチキおじさんは……昔嫌だったとしても、慣れちゃったのかな?」

 

「……さあ、どうだか。覚えてねえよ。

 でもま、お前と違って他人を操ることに罪悪感なんてねえよ」

 

「ふーん」

 

 随分と含みのありそうな"ふーん"であった。

 

 ほっぺたがぐんにゃり変形するくらい体重をかけて両手で頬杖をつく園子。

 園子の視線を受け流すおじさん。

 その間に、須美が割って入ってきた。

 

「四人目が来るんですか……」

 

「須美」

 

「おじさまはどんな人に来てほしいんですか?」

 

 須美にとっての大切な人が、須美そっちのけで話に盛り上がっていると、須美は時々こういうことをする。その時の感情は嫉妬か、羨望か、はたまた寂しさか。

 自然に割って入れたと思っている少女に可愛らしさを感じたのは、おじさんも園子も同様であるようだった。

 

「できればその……

 小生の愛着が湧きようがなくて、最高に強くて頼れる勇者がいいなって……」

 

「贅沢では?」

 

「ちゃうねん」

 

「違いませんよ。

 いや、その、気持ちは分かるんです。

 おじさまはプーさんにもバーテックスなのに愛着を持ってました。

 カブトムシにも愛着を持ってます。

 もちろん、私達にも愛着持ってますよね。

 新しく味方に加えた蠍座にも心は持たせてません。私達、全員その辺は分かってます」

 

「ちゃうねん」

 

「遠慮なく戦わせられる勇者がいいんですよね。

 できればおじさまが好きになれないタイプの子がいいんですよね。

 死んでもお父様が悲しまないような、そんな性格の悪い勇者がいいんですよね?」

 

「……はい」

 

「そんな人居るものでしょうか……

 仮に居たとしても、おじさまが将棋の駒みたいに新勇者を扱える気はしませんけど」

 

「やってみなきゃ分かんねえ。大事なのは他人を粗末に扱うことを諦めないことだ」

 

「何故漫画のヒーローみたいな言い回し……

 諦めなければできることなんでしょうか。うーん。どんな家の子が選ばれてるんですか?」

 

「大赦に繋がりのある家からひろーく探してるらしいぞ。

 細かく説明して娘っ子本人が志望したら候補者にセレクトだ。

 まあ選定は下のやつに任せてるんだが……

 ああ、でもリストは貰ったな。候補者の。弥勒、楠、三好……あとなんだっけ」

 

「もう。ちゃんと覚えておかないといけませんよ、おじさま」

 

「リスト多いんだよ、かなり多い。つまり志望者が多い。

 命かかってる戦闘って通達してるんだが子供は危機感がなくて困るんだよなァ」

 

「インチキおじさん、ちょっといい~? これがそのリストならしずシズ居るよね~?」

 

「あっはっはンなバカなそんなことあるわけいるううううううううううう!?!?」

 

 おじさんがひったくるようにリストの紙を奪い取り、凝視し、顔を真っ青にした。

 

「い、いる……マジで居る……こんな下の方まで見てなかった……何やっとんじゃあいつァ!」

 

「本人が望んだんだろうね~」

 

「兜真剣王ですら戦わせたくねえんだぞ!

 しずシズがセーフなわけあるか!

 カブトムシはクワガタに首を落とされる!

 勇者もバーテックスに首を落とされる!

 首を落とされたら死ぬ! おお、もう……

 やめろォ……傷だらけでも須美と兜真剣王は愛せるが傷はできる限り付けないでくれ……」

 

「私とカブトムシが同列に扱われてるのはどうなんですか……?」

 

 おじさんからすれば、しずく/シズクは、過去の自分を思わず重ねてしまう『普通に育てられなかった子供』であり、救われた自分であり、笑顔が可愛い女の子だ。

 

「クソッ、今から施設に行ってしずシズを問い詰めてきてやる!」

 

「や、やっと痺れが取れてきた……あ、わしおじさん!

 どこ行くんすか! さっきの弁当の続きなんですけど、それで一緒に来てほしいんです!」

 

「えっ」

 

「お願いします! 母ちゃん絶対めっちゃ怒るんですよー!」

 

「え、お、おう」

 

「大赦で一番偉いとかいう肩書き普段全く役に立ってないんですから役立てましょうよー!」

 

「言いやがったな! 誰も言わねえことを! そうだよ!」

 

「お願いしますー!」

 

「分かった分かった! 一緒に行ってやっから!」

 

「やーりぃ! よし、すぐ行きましょう! アタシの親に気付かれる前に!」

 

「ちょっと待て、兜真剣王のゼリーだけは、ゼリーだけは置かせてくれ……!」

 

「あ、なんか兜真剣王くんがケースの壁叩いてる~」

 

「おじさま、兜真剣王の餌は私も何回かあげたことがあります。

 ここは私に任せて先に行ってください! しんがりは任されました!」

 

「美森……! 死ぬんじゃねえぞ! あと、ありがとう! 必ず戻る!」

 

「はい!」

 

「また最終決戦が始まってる」

 

 銀はおじさんという肉盾を連れて行ったことで余計怒られた。

 

 

 

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