催眠おじさんVS美少女勇者:地球最大の決戦!RtA   作:ルシエド

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催眠感度7倍

「少し安心しました。

 ぶっきらぼうでも良い叔父様が、不器用な姪の面倒を見てくれてるみたいですから」

 

「安心した?

 え、安芸さんそこ不安だったんですか?

 みー子結構しっかりしてません?

 小生こんなしっかりしてる小学生過去に見たことないですけど」

 

「気を張りすぎているところはありましたから」

 

「あ、それは確かに。安芸さんみたいな教師が居てくれたことも幸運でしょうな」

 

「恐縮です。彼女は出会ってすぐの頃は、パンパンに膨らんだ風船のように感じました」

 

「ああ、よくサイズが合う小学生用の服がなくて胸元パンパンに膨らんでますね」

 

「いえそういうのではなく」

 

「そういうのじゃないのか……みー子あれ大丈夫なんですか? 男に襲われません?」

 

「小学生でそういう心配されるの相当ですね……

 ええ、はい、体格も小柄で、小学生相応に警戒心も無いですし。

 当然ながらそれは勇者の保護を考える大赦でも懸念されていた事案でした」

 

「懸念されてたんだ……みー子登下校徒歩ですしね……」

 

「ですが性犯罪率などを鑑みて考慮すべきリスクではない、と結論が出されたみたいですね」

 

「四国民度万歳。小生別に働いてないんで送り迎えに回れますよ」

 

「できる時にはそうしていただけると嬉しいです。

 ……最初の頃は、本当にパンパンの風船みたいだったんですよ。

 大赦のビルに呼び出されて。

 両親と引き離されることが伝えられて。

 戦いのお役目を告げられて。

 気丈に振る舞っていた彼女も、ビルを出る時、少しこぼれた涙を拭いていました」

 

「出ビル姪クライ」

 

「え、今なんて?」

 

「『忘れろ』」

 

「にゃんちゅうっ」

 

 催眠メモリーリセットは一対一での戦闘においても効力を発揮する。

 おじさんは庭ですっと安芸の記憶を飛ばしつつ、横目で東郷家の室内の、親と長話をしている須美を見た。

 まだ時間はありそうだ、と考える。

 

「こんな話してても漫才スキル上がるだけで時間の無駄だ、いけねえ」

 

「上がるんですか……?」

 

「みー子と出会ってからぐんぐん上がってる気がする……

 小生前はここまでトークスキル高くなかった……

 一日15分みー子と話してるだけでぐんぐん実力が上がっている気がする」

 

「進研ゼミか何かですか?」

 

「小生進研ゼミやってて、

 『あ、これ!』

 『見覚えのある問題!』

 『進研ゼミでやった問題だ!』

 『でもわからん!』

 ってなったことしかないんだよな……進研ゼミの15分はすぐ裏切る。みー子は裏切らん」

 

「悲しい話を聞かせないでください」

 

 おじさんは余計な話はせず、単刀直入に聞きたいことに切り込んだ。

 

「安芸さんが知ってる範囲でいいので、みー子達に隠してること全部教えていただきたい」

 

 それがおじさんのスタンスを根本的に変えてしまうと、気付きもせずに。

 

 

 

 

 

 須美はおじさんの隣に座った。

 安芸はもう居ない。

 用が済んだ安芸は帰り、おじさんの傀儡として大赦という組織に潜航しに行った。

 おじさんは空を見上げて、雲の流れを見ながら何かを考え込んでいる。

 "普通の空の雲と僅かに違う規則性で動いている雲"の事実に気付けるのは、この世界で生まれ育っていないおじさん唯一人だけだった。

 

 女心と秋の空、という移り変わりやすいものを指すたとえがある。

 だが催眠をかけられた女心も、神が作った天蓋の秋空も、どちらも移り変わりやすいものなどではなく、掌握され操作されるものでしかない。

 空を見上げながら、ずっと何かを考えているおじさんを、須美が見ていた。

 

「安芸先生と随分長話されていましたね。何の話をされてたんですか?」

 

「んー、真実とか、ま、その辺だな。ケッケッケ、つまらんことよ」

 

「真実……真実ですか……

 冬の朝に布団が吸い取ったはずの起きる気力はどこに行ったか、とかでしょうか」

 

「そんな真実知れるなら今すぐにでも知りてえよ!」

 

 時間帯はまだ昼前。

 夕方くらいまでなら、東郷家に滞在しても問題はないだろう。

 おじさんが催眠を駆使すれば、泊まっていっても乗り切れる。

 だが、須美はもうこれ以上ここに長居する気はないようだ。

 

「もうちょっと居るか? 親と話してていいぞ」

 

「いいです。話すことは全部話しました。

 電話で話す約束もしました。

 ……それに、これ以上ここにいたら、自分がぶれてしまいそうなんです。

 ここから離れたくなくなっちゃう。

 大赦の人が勇者の甘さと弱さを懸念していたのは、正しかったのかもしれませんね」

 

「そうかぁ? うーんどうだろうな。

 この世で唯一絶対に正しいのは小生で他の人間は皆間違えるぞ」

 

「流石ですおじさま!」

 

「そうだろうそうだろう、もっと褒めたまえ」

 

「まるで旧世紀の戦艦武蔵のよう!」

 

「そいつ最終的に魚雷と爆弾何十発も食らってボコボコにされて沈まなかったっけ……?」

 

 おじさんと須美は、帰路につく。

 「娘をどうかよろしくお願いします」と言われ、ヘタクソな微笑みを浮かべて頷いていたおじさんを見上げて、須美は少し嬉しそうにしていた。

 まったりとした速度で、駅に向かう。

 

「おじさま、おじさま、お昼は何が食べたいですか?」

 

「麺」

 

「うどんですね!」

 

「麺としか言ってないんだけど!?」

 

「麺と言えばうどん!

 うどんと言えば麺!

 香川と言えばうどん!

 四国と言えばうどん!

 おじさまには私の好きなものを好きになってほしいんです。

 控え目に言うと鷲尾家の両親みたいに私色に染まってほしいなって……」

 

「随分強欲な控え目っすね。

 一粒で浴槽染め上げる入浴剤並に染めようとしてくるぞこいつ」

 

「『ポケットモンスター 東郷美森/鷲尾須美』

 が発売されたらおじさまは両方買ってくださる人ですからね。

 家族だから、両方の私が好きなもののことをもっと知っていってほしいなって」

 

「言いたいことは分かるがたとえが愉快だな?」

 

「たとえば、ほら」

 

 須美は少し遠くにある史跡――古墳か? と叔父さんは推測した――を指差した。

 

 このあたりは、史跡が多い。

 

「"鷲尾須美"の私は、もうこの辺りのものは見に来ません。

 でも"東郷美森"だった頃は、見に来るのが習慣だったんです。

 両親がよく城や古墳に連れて行ってくれて……

 この国の過去に興味を持って、調べたらとても大好きになりました。

 この愛すべき美しき国を、もっと知って、もっと好きになりたいと思ったんです」

 

「それで右翼系勇者になったのか」

 

「右翼系勇者!? いやそういうのではなくて、愛国なんです、愛国」

 

「愛国とかリアルで言ってる人、小生の人生でお前しか見たことないからな」

 

「ゆくゆくは私の小学校の神樹館も、私の思想で染め上げたいなって……きゃっ言っちゃった」

 

「これ大分ファシズムに足突っ込んで来てる気がする!」

 

 ロリ右翼は催眠種付けおじさんと話していても大分当たり負けしない。

 

「おじさまはご存知かもしれませんが、だから私の将来の夢は、歴史学者なんです」

 

「……初めて聞いたな」

 

「そうなんですか? おじさまは森羅万象全てを知り尽くしてると思ってました」

 

「こいつ自分でおかしなこと言ってる自覚ないのか……?

 ないだろうな! 小生の催眠のせいだし!

 しかし歴史学者か。

 専門の勉強と、大学の進学と……小生は何か手伝えることはあるか?」

 

 須美は一瞬きょとんとして、すぐに夜明けの朝顔のような微笑みを浮かべる。

 

「私の夢を聞いて"何か手伝えないか"って言ってくれたの、おじさまが初めてですよ」

 

 おじさまは即座に何か言おうとして、その言葉を飲み込んで、挑発的な表情で言おうとしたこととは別のことを言う。

 

「ハッ、その辺りの人間に片っ端から催眠でもかけるか?

 すぐに全員『須美ちゃんの夢を手伝いたいです!』とか言うぞ。

 その程度の話だろうこんなもの。誰でも言える台詞だこんなもん」

 

「ふふふ」

 

「何笑ってんだ、『笑うな』」

 

「はい」

 

「……表情変わってないな」

 

「笑ってませんからね。おじさまに微笑んでるだけです」

 

「自動車免許試験の問題みたいな明後日の解釈してんじゃねえ」

 

 須美は微笑んで、隣を歩くおじさんの手を握った。

 

「いいことだ。

 将来の夢があることはいい。

 まあ、そうだな。

 今のところ催眠を解く気はないが、歴史学者になるのはみー子の自由なんじゃないか」

 

「ありがとうございます!」

 

「催眠おじさんの一族には大体目標や目的はあるが、夢は無いからな。応援しよう」

 

「それって違うものなんですか?」

 

「おお、違うとも。

 目標や目的は達成するもの。

 夢はできるかどうかも分からないことに全力を尽くす心だからな。

 遠くを目指して歩くことと太陽に向けて手を伸ばすことは全然違うんだ」

 

「いいですね。私はそういう表現は好きです」

 

「サンキュー。そんで」

 

「おじさま、サンキューではなく、ありがとうです。それは鬼畜米英の言葉ですよ」

 

「あっ面倒臭い女」

 

 おじさまは須美の額に軽くデコピンして、くすぐったそうにした須美に、取り上げていた白木の鞘の短刀を返す。

 

「綺麗な仕上げだな。白くて綺麗だ。悪人以外は刺すなよ、ほれ」

 

「悪人は刺していいんだ……」

 

「善人と自分は切ってもあんま得無いからな。切腹防止の永続催眠強力にかけておくか」

 

 おじさんは切腹を禁止する催眠をかけようとして。

 

「『切腹は―――』」

 

 ふと思いついた、別の催眠をかける。

 

「『いかなる状況においても自分が傷付く事態は絶対に回避しろ』」

 

「……はい」

 

「自殺も戦傷も、親に心配をかける。避けるべきものだ」

 

「はい。おじさまが、そう言うのであれば」

 

 須美は深く頷いて首肯し、おじさんの目を真っ直ぐに見た。

 

「おじさまは私の大切な人です」

 

「おう、そうか。あんがとな」

 

「……わ、私もおじさまの大切な人になれたら嬉しいです」

 

「思い上がるな!」

 

「!? と、突然怒った!? ご、ごめんなさい!」

 

「小生は催眠で従順なみー子はまあ、嫌いではないが。まあ好きな方だが。

 催眠かかってない自意識のある人間は大体苦手だ。その内九割くらいは嫌いだ」

 

「お、おじさまが私のことを好きって……きゃっ」

 

「……ハッピーセットかけたのミスだったかな……」

 

 『彼の言動行動を好意的に解釈・受け入れやすくなる』。である。

 

「でもおじさま。

 私達は血の繋がった叔父と姪です。

 その想いは禁断の愛……私には応えることができません。その想いは胸に秘めていてください」

 

「なんで小生がフラれたみたいになってんだ!?」

 

 おじさんはキレた。

 須美は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 そして、数ヶ月の時間が経過した。

 

 現在、神世紀298年3月31日。金曜日

 数ヶ月という時間は、全能ではないが万能たる催眠おじさんには十分すぎる時間であった。

 おじさんはその期間の一割を大赦などへの工作と掌握に費やし、同じく一割を出会った人間のメンタル掌握とメンタルケアに費やし、残り八割を須美と遊ぶのに費やした。

 完璧なスケジューリングにより、おじさんは様々な準備を完璧に完了させたのである。

 

 そして今日、"壁の外"への調査に向かうことを決めた。

 

「キンタマキラキラ金曜日~」

 

 軽妙に口ずさみながら、おじさんは今瀬戸大橋の上で結界の境界線の前にいた。

 大橋は大赦の重要な防衛拠点であるが、大赦の大橋支部は既におじさんの手中にある。

 おじさんのキンタマキラキラ金曜日を止める者は誰もいない。

 

「ふむ……四国の周囲をぐるっと回る壁……この向こうに外の世界、か」

 

 四国を包む円形の、やや楕円の不可視の結界。

 四国を囲む『壁』に沿って展開されているそれに、おじさんは手を伸ばした。

 おじさんの指先が結界の境界線に触れた瞬間、おじさんの指先が"ジュッ"と焼ける。

 

「あっつ! アツゥイ! 死ぬ死ぬ! あ、死ぬほどじゃないけどめっちゃ痛ェ!」

 

 おじさんは真夏の道路の上のミミズのように、ブザマに路面をのたうち回った。

 指先がちょっと焦げている。

 

「これはあれか、『違う理』を弾く結界か。

 小生一応別世界からの侵略者だからな……

 気を抜いて触れるとしっかりダメージ受けそうだ……」

 

 この結界は物理的な侵入・脱出を阻害していない。

 おそらく徒歩でなら自分以外は簡単に外に出られる、というのがおじさんの推測だった。

 バーテックスが容易に攻めることができ、防衛に勇者が必要だという話も、この出入りの容易さにあるのだろうと、おじさんは考える。

 

 だが逆に、『違う理』を弾く力は凄まじいものがあった。

 おそらく、この結界の外には、『違う理』が渦巻いている。

 結界がなくなれば、即座にこの世界がどうにかなってしまうような、違う理が。

 

「来週からみー子も六年生、実戦間近見込み。

 ……時間が無いんだよな。

 ちょっと神樹様さー、最近になってから『5月に敵来るよ』とか神託しないでくんね?」

 

 おじさんは空を仰ぐが、遠き地の神樹は何も応えない。

 

 おじさんは焦げた指を舐め、肩をぐるりと回す。

 

「よし、行くか」

 

 おじさんは膝をつき、カバンを開き、この結界を抜けて外で活動するために準備してきたものを取り出し始める。

 おじさんもここ数ヶ月遊んでいただけではない。

 八割は遊んでいたが、遊んでいただけではない。

 準備は万全だ。

 

 そうして道具を並べている最中のおじさんに、声をかける者がいた。

 

 

 

「おじさま」

 

 

 

 声を聞き、膝をついたまま、おじさんは振り返る。

 

 その瞬間は―――どこか、絵物語の一幕を切り抜いたような光景だった。

 

 知らない少女であった。

 少なくともおじさんは、これだけの美少女――あるいは美女――を見たことはなかった。

 だけど何故か、知っている気がした。

 

 黒く綺麗な長い髪を、さらりと後ろに流している。

 外国人でもここまで胸尻大きくて腰細い人そうそういない、と言い切れる恵体。

 体にも心にも一本筋が入っているように、姿勢は凛として揺らがないが、その姿勢の中に柔らかさがあって、相手に威圧感や不快感を覚えさせない。

 顔のパーツは"これより美人な顔は作れない"と言えるレベルで、生真面目で勝ち気な目つきをすることが多い須美とは対象的に、垂れ目で優しげな印象を与える目つきが見た者の目に残る。

 総じて、優しげで包容力のある美人、という印象を誰にも与えるような容姿をしていた。

 こんな女が微笑めば、大抵の男はそれだけで惚れるだろう。

 

 知らない人間のはずだった。

 だが知っている気がした。

 『あの子が数年分成長したらこうなるかもしれない』と、おじさんは、ふと思った。

 

「……みー子?」

 

 おじさんがそう言った、その瞬間、その美しい女はくしゃっと表情を歪めて、目の端から透明な雫が流れ落ちる。

 

「みー子、だよな? ん……? まさか、催眠術の奥義を……」

 

「よかった……()()()()()()おじさまに―――また会えた」

 

 美女は膝をついたままのおじさんに飛びつき、抱き締めた。

 おじさんの頭を抱えるようにして、強く、強く、抱き締める。

 もう二度と離したくないと言わんばかりに。

 自分が出せるありったけの力で、おじさんを強く、強く、抱き締める。

 おじさんは何も言わない。

 

「おじさま……おじさまぁ……! なんで、私なんかを守って……!」

 

 美女の瞳から流れ落ちた雫が、おじさんの頭に落ちていく。

 

 おじさんは何も言わない。

 

 というか、言えなかった。

 

「ぐる゛じぃ」

 

「あ、ごめんなさい」

 

「げほっ、ゴホッ、巨乳の海に溺れて溺死しそうになったの人生初めてだぞ……!!」

 

「本当にごめんなさい、危うくこの手でおじさまを殺してしまうところでした」

 

「次から巨乳の波浪警報出しやがれ……!!」

 

 言うだけ言って、おじさんはまたむせこんだ。

 

 

 

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