やはり俺がヤングガンなのは間違っている。   作:nu-

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第1話

「バスン、バスン」と低く重い音が路地裏に響く。

 

目の前で部下が殺された。

先程まで動いていた人間が、ひき肉のような状態で倒れている。

正確に言えば、5.56ミリ口径のライフル用弾丸でミンチにされた。

香港マフィアの幹部の張(チョウ)の前には四人の部下の死体がある。

 

 

とっさに彼は懐から代表的な安物の密売銃、中国製のマカロフピストルを取り出し、目の前の人物に向かって発砲しようとする。襲撃に対して咄嗟に反撃を試みた彼は、何もできずにひき肉になってしまった部下に比べて、優秀な人間であった。

 

しかし、その前に彼の銃を持っていた腕がライフル弾に打ち抜かれ、千切れそうになる。

至近距離とは言え、恐ろしく精確な射撃。

「うがぁあああ」

声にならない悲鳴が口から洩れ、その場に芋虫のようにうずくまる。

自身の高級スーツが血にまみれ、シャツが白から赤に変わる。

 

今回彼らが来ていたのは、この国「日本」で自分たちの国で作った麻薬を売るためだった。

この国には外国に対する諜報機関がなく、他の先進国に比べ圧倒的に仕事がしやすい場所のはずだった。

 

(ぼろい仕事のはずだったのに、くそが!)

そんな張の内心での悪態や葛藤にお構いなしに、死神が近づいてくる。

 

千切れかけた腕を抑え、近づいてくる人物を見る。その瞬間驚きの声が漏れた。

 

「なっ!?」

 

自分の部下をあっさりと殺したのは、おそらく十代やそこらの若い男だった。

それなりに整った顔立ちで目はよどんでいる。いかにも「人を何人も殺していそうな眼」だ。

 

「お前はいったい…?」

 

片手にH&K G36を持ち、タクティカルベストを着込み、ベストの下には大量の予備弾薬があった。男は本当に面倒臭そうに、G36を男の頭に向け、引き金を引く。

張(チョウ)の頭が跡形もなく散らばる。

 

「んなもん、殺し屋に決まってるだろ。馬鹿なのか?」

 

路地裏にあきれたような男の声がひびいた。

 

Chapter1 比企谷八幡は高校生

 

 

俺は千葉県にある県内有数の私立の進学校に通っている高校生だ。顔立ちは普通に整っていると言われるレベルの顔だと自負している。目がいかんせん淀んでいる事と、性格がひねくれている事、学校をさぼりがちな事、人を殺している事を除けば、モテル高校生だと……。

 

いや、やっぱりそこまでモテない。自分の人生を振り帰ると告白された数0という不動の結果が見えてしまう。

 

「はぁ」と誰に向けてでもない行き場のないため息が口から漏れた。

 

今は国語の授業だ。昼飯後の国語の時間とか惰眠をむさぼりなさいと言っているのと同義である。そんな悪魔のささやきに負け、俺は腕を枕代わりにし、くだらない考え事に没頭した。

 

 

高校2年の多感な時期、そろそろ将来についても考えを深めなければならない。クラスを見ていても、授業に真剣に取り組む連中と、こそこそ話している連中では半々くらいだ。クラス替えをしたばかりの時期だからか、授業中も多少浮ついている連中が多いようだ。しかし難関大進学を謳っている人間にとっては受験の始まりの季節でもある。そうじゃない人間にとっても大学進学が当たり前になりつつある世の中で、進学に興味のない人間はいないだろう。以下にも問題起こしていそうな明るい髪をしているイケメンも真剣に授業を受けている。葉山だったか?まあいい、まじめに授業を受けている連中以外にも、残り少ない青春を謳歌しようという連中も多い。

 

 

自身を振り返るとどうだろう。幼少期に企業の陰謀により両親を殺され、殺しの師匠の平塚さんに助けられ、親の仇を取るために、犯罪組織の「ハイブリット」に所属している。ハイブリットはまだ中堅どころの犯罪組織で、やっていることは犯罪者同士のリスクコントロールが主だ。活動は暗殺が主体で、犯罪者への復讐代行もしている。そんな所に勤めている自分自身はどうだろう?

 

 

身長は175㎝と少し、日本人の平均よりは高めだ。黒髪で前髪が長めであり、アホ毛がある。これはマイスイート妹の小町との共通点で、隠れた誇りでもある。身体能力は100mを10秒台で走れる程度だ。飛びぬけて身体能力が高いという事はなく、全て努力で補ってきた。才能といえる才能は、長年の仕事とボッチ生活で鍛えた人間観察と文系科目が得意な事だ。理系はお手上げ、いっちょん分からん。好きなものは、甘いものや小説。苦手なものはやさしい女の子。嫌いなものは、悪者みたいな正義の味方。将来の夢はゴルゴ13みたいな殺し屋になること、小町とのんびり過ごすこと。殺した悪人の数は………。

 

 

こんな人間が果たして、一般の人のような平凡で楽しい人生を送れるのだろうか?

 

 

大切なものを不当に奪われて。

 

 

たくさん頑張って、何も出来なかったあの頃より強くなった。

 

 

たくさん悪人を殺した。

 

 

それなのに世界どころか、まだまだ日本ですら、きれいにならない。今日も仕事が一件ある。

 

 

そこまで考え、大きくため息をつく。これ以上考えるのはやめておこう。気持ちがいいものでもないし。俺としては、やれることをやるだけだ。

 

 

 

悪人だけを殺せるスイッチとかあったら便利なのになぁ。あとついでにリア充が爆発する機能も追加で。

 

うたた寝をしながら、そんなことを考えている俺に鉄拳が下った。見上げると青筋を立てた恩師の姿が。

 

「比企谷、君には放課後の用務員室の掃除を命じる。」

美人な妙齢の女性の一声で、俺の用務員室行きが決定した。どうやら国語の時間にうたた寝をしてしまったことが原因らしい。というか隣の奴も寝てるなら起こしてくれてもいいと思うんだが。まあボッチだと、そういう時に起こしてもらえないよね、そうだよね。

 

しかし注意してもらいたいのが、これはただの罰則ではない。そもそも、わが校の用務員室は二つあり、俺が指示されたのは、ここ数年使われていない物置部屋と化している部屋だ。また本職の用務員の人がいるのは、週に1,2日程度であり、万に一つも利用されない部屋である。そんな場所を掃除する意味はみじんもない。

 

行く理由は簡単、仕事に関係するものだからだ。今回罰則を命じた平塚先生は、俺の殺しの師匠でもあり、上司にあたる人である。美人でスタイルも良いという人間なのに、職業柄結婚が出来ないという定めを背負っている。本人は気にしていないようだが。

 

話を戻すが、元々平塚先生と打ち合わせをした上でのことなのだ。つまり俺は悪くない。

疑問に思う点は、打ち合わせ時は鍵を職員室で普通に渡す手はずになっていた点だが、気にしなくてもよいだろう。決して自身の担当科目で寝ていた腹いせに、クラスメイトの前で指示したわけではないはず………。そうだよね?そうだと言ってよバーニー!

 

 

そんなことを考えていると、用務員室についた。部活棟の近くだけあって、部活中の放課後はあまり人がいない。平塚先生から受け取った用務員室のカギを使い、部屋に入る。

入ると大きなチェロケースのようなものが壁に立てかけられている。それを肩に担ぎ、本日のお仕事会場の屋上に向かう。

 

向かう途中で、ある人物に声を掛けられる。

 

「ヒッキーじゃん!掃除さぼってるの?」

明るい髪色に短めのスカート、いかにもギャルを体現したかのような少女。由比ヶ浜唯だ。

顔立ちもかわいらしく、誰にでも優しい性格で、全国のモテない男子にとって天敵といえる存在である。そしておっぱいも大きい。なに天使なの?悪魔なの?はっきりしてよ!

 

「サボってねーよ。ついでに屋上の掃き掃除も頼まれただけだ。」

この少女と関係があるのは、俺がモテるからと言う訳ではない。てか授業中もモテルか考えてたな。出会いに飢えた男子大学生かな?とりあえず出会い系アプリに登録しちゃう奴かな?誰とも出会えず金が吸い上げられちゃう奴かな?

 

 

そんな事は置いておいて、由比ヶ浜との関係は一つの事件から起きている。それは由比ヶ浜家の犬が轢かれそうになっているのを、入学時に助けたからだ。俺は仕事柄体を鍛えているため、犬が轢かれる前に救出に成功し、自身も無傷。格好よく少女の元に犬を返しに行こうとした際に、自身が乗っていた自転車につまずいて捻挫。入学式には出られなかったが、そもそも興味ないし保健室で休めてラッキーくらいに感じていた。しかし、由比ヶ浜本人は、俺が入学式に出られなかった事を気にしているようで、二年次にクラスが同じになってから積極的に話してくれるようになった。

 

「ふーん、そうなんだ。てかなんで楽器ケース持ってるの?」

すぐに話題を変えて話を振ってくる。今一番触れてほしくないんだけど、その話題!

動揺を隠し、質問に答える。

 

「知らないのか?これは最新の掃除用具入れなんだよ。由比ヶ浜なら知ってると思ったんだけどな。」

完璧な解答には程遠い。何?最新の掃除用具入れって。そうなったらオーケストラの人とか全員楽器の代わりに、掃除用具もって演奏してることになるじゃん。これで騙せるはずはない、次の一手を考えねば。

 

「し、知ってるし!あ、あれでしょ、めっちゃ道具はいるやつでしょ!」

 

とんでもないバカである。焦った表情の由比ヶ浜は非常にかわいく、なんか申し訳ない気持ちになってくる。しかし言わせていただきたい。それで騙されるなよ。思わず怪訝な表情で由比ヶ浜を見てしまう。

 

そんな俺に慌てて「じゃあ、あたし急ぎの急用が入ったから帰るね!また明日!」顔を赤面させながら帰りの挨拶をして、走っていった。

 

 

「途中で気づいたな。。。」

 

 

不意の遭遇もあったが、プロとして見事な対応だった。仕事前に女子と会話が出来、おっぱいにも出会えた。仕事前のコンディションとしては最高だろう。先ほどの出会いを思い出しながら階段を上る。自身の周りの女性は、言っても二桁もいないが…。豊かな女性が多いと改めて実感する。自身の妹の小町もそうなるのだろうか?周囲の男たちが、いやらしい目で小町を見るようになるのか?よし、そんな男が居たらコロス。千葉の兄妹愛は、海よりも深く山よりも高いってことを示してやる。

 

だらだらと考えていると、階段を上り切りそうだ。そして階段を上り切るとともに、息を吐き、先程までのたるみ切った考えを捨てる。

 

あらかじめ手に入れた屋上のカギで、普段施錠されている扉を開け屋上に入る。

周囲に人がいないことを確認し、生徒などが入ってこないようにしっかりとカギを締め、チェロケースをコンクリートの床に置き、独り言ちた。

 

「さて、お仕事の時間ですかね。」

時刻は夕方の五時。

日が沈むまであと1,2時間もないだろう。

 

肩に担いでいたチェロのケースのようなものから金属の塊を取り出す。

重さ5㎏以上ある金属を取り出しながら、ぼやく。

「学校での仕事はこれで最後にしてほしいんだが…。」

これは、かつて米軍が使用していた古い大口径のライフルを特殊部隊用にカスタムしたもので、SOPMOD-M14という。

 

いかつく、それでいて美しいデザインの銃だ。

伸縮可能なストックにレイルシステム(銃に様々なパーツを取り付けられるようにするもの)が追加され、マガジン(弾薬が入っているボックス)には、大型の弾薬20発が入っている。その弾薬は確実に人を殺すために、命中の衝撃とともに爆発する、特殊強装炸裂弾を用いている。

このライフルは暗殺用のため、高性能の消音装置(サプレッサー)と、空薬莢を回収するための袋がついている。そしていざと言うときにために、手元にもう一本予備のマガジンを置いておく。

 

そのままM14についている二脚を設置し、伏射の姿勢を取る。伏射とは地面に伏せた状態で銃を構えることを意味する。よく映画やドラマでスナイパーがしている姿勢だ。軍隊や警察では、狙撃手のほかにも観測手がおり、二人一組で行動する事が多い。八幡も観測手付きの狙撃をしたことはあるが、今回は場所が場所のため一人だ。真のボッチとは人を殺す時まで、ボッチらしい。くだらない考え事をしながら、取り付けたスコープで建物を縫うように射線を確保する。

 

ライフルには「コッキングレバー」と言うものがあり、このレバーを引っ張ることで銃の薬室(発射する弾丸の待機場所)に初弾をおくる。

これをしていないと弾が出てこない。

「ガシャ」という音とともに実弾が装填される。

 

高級なクラブの前に情報通りターゲットが現れる。

野々村和企(ののむらかずき)議員がのった黒塗りのベンツが現れる。あきらかに堅気ではなさそうな人間をぞろぞろおろしながら。

「ボディガードも含めて四人か」

 

この野々村は簡単に言えば悪人だ。女性を強姦したことを警察に揉み消させたり、不正に金を私物化している事をごまかすため、秘書を自殺に見せかけて殺したこともある。ついでに薬物にも手を染めていて、今からヤクザと乱交パーティに参加しようというところ。

 

ウソみたいだが、事実として悪人はいるし、マスゴミのようにクソの足しにもならない情報を、世間に垂れ流し大金を受け取る連中もいる。実際世の中めちゃくちゃで、みんな壊れていることから目をそらしている。まあこんな奴らを消して少しでもきれいにするのが、俺たちの役目なんだが。

 

さて標的までの距離は350メートル。

三百でゼロインさせているので、少し上にスコープを向ける。

風速は幸運にもほとんどない。弾道の落下や風速による影響などの計算はすぐにできるのに、高校数学が苦手なのはどうしてだろうか。

 

 

そこまで考え雑念を払い、ゆっくりと標的と呼吸のタイミングをあわせていく。

 

ここだ

 

そう思い引き金を引く。

「バズン」という低く重い音がひびく。それでも10mも離れれば無音のはずだ。

体に撃った時の反動がきて、それを全身で吸収する。はなたれた弾薬は標的の頭蓋骨を砕き、ある程度めりこんだ所で爆発した。これで右半分の脳が吹っ飛んだことになる。この弾丸は、爆発することで殺傷能力をあげ、また弾丸が粉々に砕け散るからまともな証拠ものこらない。警察などが調べるときに、どこから撃ったのか?どのライフルを使ったのか?すらも特定できないわけだ。

 

そのまま引き金を絞り続け、標的の体に追加で二発撃ちこむ。砕けた骨があたりに散らばり、血液が噴水のように噴き出す。警護についていたヤクザ者らしき人間は、突然の出来事に呆然としている。当たり前と言えば、当たり前だ。狙撃されている方向もわからず、また何人に狙われているかわからない。日本国内で狙撃されることが、そもそも予想されていない。警察や自衛隊ならまだしも訓練を受けたことのない人間が、咄嗟に対応できるはずはない。そんな連中がまともな対応が出来るはずもなく、次々と体に大穴をあけられていく。

 

 

あっという間に高級クラブの前に死体が四つ。どれもミンチよりひでえや状態だ。というか、本当に人間だったかも怪しいくらいの姿になっている。

 

ここまで来ると、ある意味芸術作品とも言えなくもない。作者は比企谷八幡、つけるとするなら作品名は「ゴミ」。創作時間は数十秒。ピカソもびっくりの作品が完成した。クソ以下の人間の末路としては、「お似合い」としか言いようがない。くそはくそのように、くそな結末を迎える。それが世の常だと思いたい。

 

「クリア」

 

標的を含めた全ての攻撃対象を殺害。目撃者は0でいつも通りの完璧な仕事。自身の洗練された技術に惚れ直しそうだ。これが漫画の主人公ならば、きっと美人なヒロインが駆けつけて褒めてくれるのだろうが、現実はそうはいかない。魔法の力で銃が消えたりはしないのだ。

 

 

社会人と同じように、ホウレンソウ「報告・連絡・相談」が大事なのは、犯罪組織だとしても変わらない。仕事が無事終了した事を自身のボスである「白猫」に報告する。犯罪集団のボスが「白猫」という名前なのは、よくわからない。「黒猫」とかの方が、それっぽいと思う。

 

「なんだ、八幡」

 

凛々しい女性の声がする。白猫は美人な女性である。日本人とチェチェン人とのハーフで、年齢は不詳だが、男のロマンがいっぱい詰まった二つの凶器を持っている。けしからん。全く持ってけしからん。Jとか、どんだけなんだよけしからん。

 

そんなバカみたいなことを脳内で考えながら、ぼーっとしていると白猫から

「何か下らんことを考えてないか?」

とあきれ声で忠告をされる。

あら、やだ、奥さん。あたしの思考が読めるのかしら…。

 

「いえ、なんか肌寒いなぁとか思いまして。」

そしらぬ感じで返す俺に対して

「春になったばかりだからな。なんだ…もしやまた女にでも振られたのか?中学の時のように」

にやにやと電話越しに相手が嗤っているのが分かる。

白猫との付き合いは、非常に長い。小町や平塚さんを除けば、1番長く付き合いのある人間だ。そんな人間にとって、俺の考えている事なんて電話越しでもお見通しなのかもしれない。

さすがにあなたのぶら下げている凶器についてとは言えないしな。

 

「いつまでおちょくるんですか、あの時はまだ子供だったんですよ。いろいろと………。」

もういい加減からかうのはやめて欲しい………。自分の黒歴史なんて振り返りたくもないし、見たくもない。「臭いものには蓋をしろ」この言葉を作った人は、偉大な人物だ。これ以上この話を掘り下げられないように、さっと話題を仕事の話に戻す。

 

「標的の始末は終わりました。合計四人です。後は任せます。」

 

「お疲れさま。こちらで後始末をしておくよ。」

仕事の話になると、急に冷静になり凛とした対応に変わる。

 

「後、お願いがあるんですが、学校での仕事はこれで最後にしてもらえません?ばれたら怖いじゃないですか?いろいろと…。」

現在でも少しクラスで浮いているのに、これ以上浮上するのはごめんだ。あまりにも浮きすぎて自身が風船になったのでもないかと誤解したくはない。

 

「その高校の校長とはパイプがあってな、場所も繁華街が見渡せるし今回の仕事にはもってこいだったんだよ。今回だけだから安心してくれ。」

その言葉を聞き、ほっと一息。

「じゃあ、後はお任せしますね。武器ケースは用務員室のロッカーに置いときますね。」

 

「ああ、回収班に向かわせるから大丈夫だ、お疲れ様。」

白猫のねぎらいの言葉を聞き、通話を切る。

 

日ももう沈みかけ。

お腹のヘリもいい感じ。

さて小町の飯を楽しみに帰宅だ。

 

自転車を取りに行く道すがら部活終わりの学生が、明日の事や今日の事を話しながら家路についている光景を見ながら、ふと思う。

 

 

自分以外の誰かに、自分がなっていて

 

 

 

それがきっと平和で明るく楽しいもので

 

 

 

それでいてなんでも打ち明けられる友達や彼女がいたなら

 

 

 

きっとそれは「幸せ」と言える。

 

唐突に視界が暗くなり、思考の沼にはまる。

 

 

「この子たちだけは!」「二人同時に死んだら子供を助けてやる。」「見るな!小町!」「何が起きてるの………?怖いよ、お兄ちゃん。」「君が先に刺しなさい。」「あなたが先に。」「あはははははは」血なまぐさいにおいと共に、忌むべき記憶が呼び起こされる。ぐちゃりぐちゃりと肉を断つ音。臓物のにおい。両親の苦悶の叫び。それを嗤ってみている人殺し共。

 

 

自身の思考に窒息されそうになった瞬間、沼から抜け出した。込みあがる吐気と、殺意を無理やり飲みこむ。

 

おそらくとんでもない顔をしているだろうと苦笑する。

このままでは腐りきった目と青ざめた表情で国家公務員の方々にお世話になってしまう。

 

 

一、二度深呼吸をし、自身に言い聞かせるように

 

「さっさと帰ろう」

とつぶやいた。

 

 

友達も両親も、いないけれど最愛の妹がいる。

そんな家に向かって自転車にまたがり、力強く漕ぎ始める。

 

やはり俺が殺し屋なのは間違っていると本当に思う。

次に生まれてくるなら、違う誰かになりたいと切実に願う。

そんな願いを込めて、お気に入りのThousand foot krutchのBe somebodyを口ずさみながら帰路へとつく。

 

日はもう暮れてしまった。

 

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