【安価】安価の機体でガンプラバトル大会に参加する【安価】 作:ダイハイト
第2ピリオドの試合の後、セイ、レイジ、マオ、フェリーニの4人は参加者控室に集まっていた。
「「「「………」」」」
バトルロワイヤルで生き残り、勝ち点を得られたというのに4人の顔は複雑そうな表情だった。理由は言わずもがな、【あのガンプラ】と【それを駆るファイター達】のことだ。
「……セイ、スタービルドストライクは?」
最初に口を開いたのはレイジだった。
「大丈夫。シールドも左腕もこれ位なら一晩で直せるよ」
「そっか…良かった…」
自分らのガンプラの損傷がそこまでではないと知り、ホッと胸をなでおろしたレイジ。セイも一先ずはホッとした表情でスタービルドストライクガンダムを見ていた。
「…ええ、本当に良かったです。【その程度の損傷】で済んで」
「「っ!」」
ふとマオが呟いた言葉にセイとレイジが表情を強張らせる。2人だけじゃない、マオの隣にいるフェリーニもだ。
「お二人だけやない。ワイもそう、フェリーニさんも。皆さんあんな機体を前によくコレだけの損傷で済みましたよ」
「……ああ、その通りだ」
マオがリフレクターユニットが破損したガンダムX魔王を、フェリーニが両脚が破損したウイングガンダムフェニーチェを見ながら、心底安心したように言葉を零した。
―――【新世騎兵ロードバーサル】
あんなガンプラを作り上げたファイターの【チハ・ショウジ】とそのオペレータ【リターナ・ベル】。オペレータは兎も角、ファイターの方は此処にいる4人(レイジは微妙)は予め皆警戒を持っていた筈だった。
昨日の彼女の試合を見た時もそう。その枠に囚われない規格外な戦いを見て、最大限の警戒を持たなければと改めて感じていた筈だった。
だが、【それでもまだ足りなかったというのか】
「あんなガンプラ、無茶苦茶ですよ。最後のアレもそうですが試合を見直したから嫌でも分かります」
「ああ、俺も改めて見たさ……俺達の所にアレが来る前に何をしでかしたのか」
「…ユウキ先輩」
「ユウキの野郎が…あんな…」
閲覧した試合映像は、それそれはあまりに凄惨な光景だった。
十数機で襲い掛かられたにも関わらずそれらを全て跳ね除け、返り討ちにした。あのメイジン・カワグチのケンプファーが即座に転進して逃走を図り、それを追うように放った一撃は市街地を全て焼き払った。その上あの巨躯で飛行能力まで有し、追撃してきたガンプラを意図も容易く撃墜した。それから自分たちの所へ来たというのだ。
【総撃墜数:19機】
試合後に公開される各ファイターの戦績情報から彼女らが第2試合で撃墜したガンプラの機数。映像で確認できたのが13機の為、残る6機は市街地で放った業火か最後に放ったあの一撃に巻き込まれたのだろう。余談だが、バトルロワイヤルの最終生存者は【26名であり】、参加者の1/3ピッタリではなく1/3を下回っていたのだ。
「「「「………」」」」
再び沈黙が訪れる。ファイターとして決して考えてはいけない言葉が頭の中を過ってしまう。
―――【勝てない】
勝ち筋が見つからない、勝つビジョンが思い浮かばない、イメージの中ですら屠られて終わる。
絶対に認めたくないというのに、頭のどこかで自らに語り掛けるかのようにその言葉が重く圧し掛かってくる。この世界の舞台へ進んだファイターの1人であるという自信が、この言葉を前にして打ちのめされそうになっていた。
「あれ?皆さんはさっきの?」
「……あっ!確かレイジ君だっけ!?それに確か貴方も!!」
ふと掛けられた声に4人は顔を上げる。特に名前を呼ばれたレイジはハッと素早く顔を上げ、声の主を見た。そこに居たのは黒髪で小柄な少女と、彼女よりは少し背が高い金髪の少女の2人。
「あんたは……っ!!確かラルのおっさんとこの!!」
「き、君は確かラル大尉のバーの……いや、それより前に確か!?」
レイジとフェリーニは金髪の少女を見て声を上げる。彼女の方も覚えててくれてたんですか!?と喜ぶ様子を見せた。
「えっと……レイジの知り合いでしょうか?」
「レイジはんにフェリーニはん、この方達どちら様です?」
セイとマオは初対面なようで2人に訊ねると、そのタイミングで2人の後ろからパタパタと走る音が聞こえてきて、
「待ちたまえチハ・ショウジ!!それにリターナ・ベル!!」
メイジン・カワグチが現れた、しかも名前を大きく叫びながら。
「い、今なんと仰りました…!?」
「え…チハ・ショウ……って!?」
「お、おいおいマジか…」
「こいつ等……が…!?」
「「「「ええええええええええええええ!?!?!?!?」」」」
4人は叫ばずにはいられなかった。
・
・
・
・
・
4人改め7人は場所を会場内のレストランに移し、片側にチハとリターナとメイジン、もう片側にセイ、レイジ、マオ、フェリーニの4人が向かい合うように座っていた。
「改めましてチハ・ショウジです。日本代表第2ブロックの優勝者です」
「リターナ・ベルです!本選からイッ…じゃなくてチハさんのオペレータしてます!」
「……メイジン・カワグチだ」
(いや
そんなことを内心4人は思いながらも決して言葉には出さなかった。そんなことをする暇も無いというのもあるが。
「それにしても、久しぶりだねレイジ君。まさかあの時の君があのスタービルドストライクのファイターだなんて」
チハが感慨深そうな言葉で言ってくるがレイジは首を傾げていた。
「あ?テメェと会ったことなんてあったか?隣の奴とは確かに会ったけどよ?」
「ちょ、ちょっとレイジ!!手前だなんて!!」
荒っぽい言葉のレイジをセイが叱責するが、チハがそれを制止した。
「良いの良いの!そういえば【この姿】だと初対面だったしね」
「あん?」
チハはそう言うと手にしていた鞄から何かを取り出そうとする。それを見たリターナが驚いた様子で声を上げた。
「ちょっ!?ちょっとイッチ!?良いの見せちゃって!?」
「良いの良いの!幸い此処には私達だけだし……それに」
「…?」
チハはセイの方を見ながらニコリと笑うと、言葉を続ける。
「…あ~、けど!皆さんこのことは他言無用にして下さいね?」
「「「「????」」」」
レイジを除く4人が何事かと首を傾げ、
「お、おい!ベル…だっけか?今ソイツの事【イッチ】って」
「ん~…っと!あったあった!!」
ガサゴソと鞄を漁りながらチハはとあるものを取り出した。
―――――【真っ白な髪のウィッグが付いた真っ白なフェイスマスク】だ。
「「「「「!?!?!?!?」」」」」
「出しちゃったよイッチ……私にすらギリギリまで教えて貰えなかったのに…」
驚愕する5人に対しリターナだけが呆れた様子を見せる。
「これを……こうして……ヨイショ!」
慣れた手つきで自身の髪を纏め上げ、取り出したそれをチハは躊躇いもなく頭から一気に被った。かなりサイズが小さいかキツイのか、マスクを思い切りグイッと伸ばしながら、無理矢理顔を入れていくように被っていく。
「う、うわぁ……」
「お…おぉ…」
「ええ……」
「マジかよGirl…」
「……(汗)」
色々と引かれる中、チハはそれを被り切った。被ってみれば何とビックリ!フェイスマスクは目の輪郭とピッタリになるようにしか穴が開いておらず、口に至っては唇が見えなくなるまで覆い、下は首どころか肩甲骨までピッチリ覆うというとんでもない代物だ。
「まずこれを被ってだね…」
傍から見れば純白な髪&真っ白な顔、というかもう頭そのものが真っ白なそれが話す姿はもう滑稽を通り越して狂気に近いと5人は感じた。フェリーニなんかは顔が青ざめていた。
「そしてこう!」
チハがそう言いながら更に鞄を漁り、中にあった【何か】を動かした。
その次の瞬間、その白い頭に一瞬だけ【青白い光の粒子】が舞ったかと思うと、
―――――【ステラ・ルーシェ】の顔と髪型になっていた。
「こんな…感じ?」
いつぞやのようにコテンと首を傾げながらステラの顔のチハがそう言った。因みに声も変化していた。
「「「「「」」」」」
5人は絶句した。
「そりゃ(いきなりそんなトンデモやったら)そうだよ」
「……ほぇ?」
「良いからもう解除する!じゃないと話進まないからイッチ!」
「うみゅ」
リターナはチハにチョップかましながら声を上げた。バタリとマオが倒れ、ハッとなったフェリーニが青ざめた顔のまま慌てて介抱する。
なお、【少し離れた場所】でもバタリと音が聞こえたが、この場の7人は気が付かなかった。
・
・
・
・
・
「あ~…成程、ショボくれてたのはそういうことですか。ついでに慌てて追いかけてきたのもそれが理由と」
7人は更に場所を移し、今度はスタジアムと宿舎の間にある広場に集まっていた。顔と声を元に戻したチハは広場で身体を伸ばしながら納得するかのような顔をしていた。
「じゃあまずメイジンさんから。違法なことは何もしてないですよ?当たり前じゃないですか?」
「……誓って言えるか?」
「ええ…【私の立場とファイターとしての誇りに掛けて】誓いましょう」
「…!分かった」
覚悟ある瞳。メイジンとなった自分ですらまだ浮かべたことの無いような強い意志を含んだ瞳を向けた彼女の言葉に、嘘偽りは一切無いとメイジンは感じた。
「それじゃあ残る4人の皆さんに………【あんなものじゃないですよ】?」
「「「「っ!!」」」」
唐突に言い放ったチハの言葉に4人は身震いした。
「知ってるとは思いますけど、私はあの機体の他にも3機のガンプラを所有しています……皆、私
そう言うとチハはどこからか1体のガンプラを取り出した。そのガンプラを5人は知っていた。
「……キルドルブ・NEXT」
フェリーニが複雑そうな顔でその名前を告げる。
日本第2ブロックの予選会、その3回戦と準決勝戦で彼女が使用したガンプラ【キルドルブ・NEXT】、まだ本戦になってからは使用されていないガンプラだ。
「私には想いがあります。私を応援してくれる人、支えてくれる人、励ましてくれる人……色んな人達の想いを一身に背負って、この場所まで来たんですよ」
キルドルブの左肩部の装甲。【AYATO】の文字と戦車が模られたエンブレムが夕日の光を反射していた。
「勿論この機体だけじゃないですけどね。とにかく、私と私達のガンプラはその想いに応える為の力を持てるように作ったんです。ロードバーサルだって、まだ全てを見せた訳じゃありません。何勝手に怖気づいちゃってるんですか?」
「んだとテメェっ!?」
明らかに煽り言葉だ。レイジが声を張り上げるが、それを見たチハはニヤリと笑みを浮かべた。
「さっきから聞いてれば舐めた口訊きやがって!!ふざけんじゃねえぞ!!」
「ちょっとレイジ!」
「レイジ君落ち着け!チハさん貴女もです!!」
セイとメイジンが声を上げる中、チハは続ける。
「……なら、なんです?」
チハの言葉にレイジはビシッと指を突き刺して高々と言い放つ。
「【うちのセイを舐めんじゃねえぞ!!】」
「っ!!!」
まず驚いたのはセイだった。
「さっきからやれ自分のガンプラは凄いだの強いだのまだタネがあるだの、それに想いもどうたらこうたらとか……そんなもんセイだって同じだっつーの!!」
「れ、レイジ……」
セイが驚いた様子を浮かべているが、構わずレイジは続ける。
「セイだけじゃねぇ!マオも、フェリーニも、タツヤだってそうだ!!この場に居る全員のガンプラも強い!まだ見せてない仕掛けだってあると思う!想いだって…皆違うが全員持ってんだよ!!!テメェだけが持ってると思うなよ!?」
「「「「!!」」」」
マオ、フェリーニもハッとした表情になり、メイジンはクスリと笑みを浮かべた。一方のチハも同じく笑みを浮かべ、リターナは何故か目を輝かせていた。
「見ていやがれ【イッチ】!!お前は俺が倒す!」
「……それを言うなら、
「ハッ!だな!」
レイジの隣にセイが立ち、肩を並べる。
「いや!倒すのはウチです!ガンプラ心形流を舐めんといて下さいよチハはん!!」
マオが帽子の鍔をクイッと上げながら、その奥の細い目を開けてチハを睨む。
「若いのはすぐにやる気が出て良いねぇ…けど、勿論それは俺だって同じさ」
フェリーニも表情を引き締め、チハを見つめる。
「私もそうだ。メイジンの名を継ぐ者として、あんなこと程度で怖気づくと思うな!!」
メイジンもチハを見つめ、そのサングラスに彼女の姿が反射する。
「……そうそう、ガンプラファイターはこうでなくっちゃ」
チハは5人のその姿に満足そうに肯く。
「キャー!なにこのラスボスムーブ!!イッチカッコイイー!!」
……リターナは何故か大喜びしながらスマホを構えていた。
「それじゃあ、私達はこの辺りで……リターナ、何撮ってんの?」
「えっ!?い、いや!別に!!それじゃあ皆さんさようなら~!!」
そう言うリターナを引きながらチハは宿舎へと去っていった。
残されたのは5人のガンプラファイター達。けれどもその姿は先程のように小さくはなく、寧ろ各々から熱意と想いがにじみ出るような雰囲気だった。
「よ~し!!セイ!!俺達も行くぞ!!まずはガンプラを直さねぇとな!!」
「……ううん、レイジ。折角1日空くんだ!【ただ直すだけ】じゃないよ!!」
「……へぇ!早速かよセイ!!」
「見ていてください師範…今のワイが持てる全てを【超えたガンプラ】で!必ずこの大会を勝ってみせます!!」
「……はっ!【相棒の手直し】、予定よりも早く仕上げないと駄目みたいだな」
「アランか?私だ…ああ、それについては後だ。【製作段階のアレ】を手配して欲しい、すぐにだ」
レイジが、セイが、マオが、フェリーニが、
「今の【アストレイ】では不安……いや、僕に限ってそんなこと……だが!」
物陰から覗いている和服の彼も。
「5日後に【新機体】が届く。完熟訓練の時間は無いが、お前なら問題ないだろう?」
「……はい」
尚も縛られている彼女も。
―――――世界大会は、まだ始まったばかりだ。
※ラスボスではないです、主人公です。
※世界大会の難易度が急上昇しました。
イッチ作を始めとした機体解説の掲載場所(改定)
-
イッチが掲示板内で解説(セイ君並感)
-
作者が後書きにて解説(次回予告並感)
-
作者が活動報告にて解説(説明書並感)
-
(そもそもいら)ないです