俺の眼前には次元の裂け目が広がっている。カードの《次元の裂け目》ではなく、本物の次元の裂け目が。
「よかった。まだ出入口が残ってて」
正直残っていてほしくなかったが、言葉にはしない。
キャロルという子が世界を壊そうとしているので、一緒に止めてほしいとお願いされた。てっきり拗らせた子の説得ぐらいに考えていたのだが、ここがちょっとアレな世界だというのをすっかり忘れていた。
幻魔がいるんだから、異世界やら亜空間くらいはあるよなぁ。
常日頃から響に男に二言はないとか、男の誓いに撤回はないとか言っている手前、軽々しく前言を訂正したくはない。
深呼吸をして、エルフナインにつづく。そこには見上げるような巨大な城塞があった。
「こっちです」
城の構造は熟知しているのか、エルフナインは迷うそぶりも見せずに歩を進めていく。無機質な回廊にふたりの足音だけが響く。抜けた先は、玉座の間だった。中央にある玉座には、エルフナインとそっくりの女の子が鎮座していた。
「せっかく逃げおおせたというのに、わざわざ舞い戻ってきたか」
「キャロル……もうやめましょう。こんなこと、ボクたちのパパは望んでなんかいない!」
「そんなこと、どうでもいい」
「ど、どうでもいい……?」
エルフナインは面食らった様子で押し黙った。それを見下ろしながら、キャロルが薄く笑う。
「世界の破滅はすでに決まっていることなのだ。それをオレが成す。オレの手で、オレの意思で」
「……違う。キミはキャロルじゃない。キミは……キミは誰?」
「おかしなことを言う。オレはキャロル。オレこそがキャロル・マールス・ディーンハイム」
その時、エルフナインは辛そうな表情を浮かべながら、それでも確かな意志を宿した瞳でこちらに振り向いた。
「遊蓮さん。デュエルディスクを貸してもらえませんか?」
「……ああ」
デュエルディスクからデッキを外し、エルフナインに渡す。エルフナインはそれを腕に装着すると、自身のデッキを差し込んだ。
「キャロル。本当のキミを、ボクが取り戻してみせる」
「――フッ、ならば教えてやろう。運命には逆らえないということを」
『デュエルッ!』
「オレのターン、ドロー。フフッ、貴様はよほど運命に嫌われているらしい。オレは永続魔法《神の居城-ヴァルハラ》を発動。自分フィールドにモンスターが存在しない時、手札から天使族モンスターを特殊召喚できる。来い、《アルカナフォースXXI-THE WORLD》!」
《アルカナフォース
星8/光属性/天使族/攻3100/守3100
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
コイントスを1回行い、その裏表によって以下の効果を得る。
●表:自分のエンドフェイズ時に
自分フィールド上のモンスター2体を墓地へ送って発動できる。
次の相手ターンをスキップする。
●裏:相手のドローフェイズ毎に、
相手の墓地の一番上のカードを相手の手札に加える。
「ザ・ワールドは召喚・反転召喚・特殊召喚成功時にコイントスを行い、その結果によって効果が変わる」
デュエルディスクがコイントスの結果を示す。結果は『表』。
「続けて《創造の代行者 ヴィーナス》を通常召喚。ライフを1500払い、デッキから3体の《神聖なる球体》を特殊召喚する」
《創造の代行者 ヴィーナス》
星3/光属性/天使族/攻1600/守 0
(1):500LPを払って発動できる。
手札・デッキから「神聖なる球体」1体を特殊召喚する。
《
星2/光属性/天使族/攻 500/守 500
聖なる輝きに包まれた天使の魂。
その美しい姿を見た者は、願い事がかなうと言われている。
キャロル LP4000 → 2500
「そして、エンドフェイズに《アルカナフォースXXI-THE WORLD》の効果を発動。神聖なる球体2体を墓地に送り、次の相手ターンをスキップする」
「ボ、ボクのターンをスキップ……」
「選ばれた運命からは誰も逃れることはできないッ! 貴様のターンは消し飛ぶッ! ザ・ワールドッ! 再びオレのターンッ! ドロー、そしてバトルだ。ヴィーナスで攻撃ッ!」
エルフナイン LP4000 → 2400
「――あああっ」
「運命にひれ伏せッ! ザ・ワールドでダイレクトアタックッ! オーバー・カタストロフッ!」
エルフナイン LP2400 → 0
ザ・ワールドの攻撃によってエルフナインが部屋の隅まで吹き飛ばされる。
「エルフナインッ!」
舞い上がった粉塵を振り払い、エルフナインのもとへと駆け寄る。幸いにして大きな外傷はなかった。それでも衝撃で脳が揺れたのだろう、瞳は虚ろだった。
「遊蓮……さん。キャロルを……本当のキャロルを……取り戻して……」
「――ああ、任せておけ」
少しの沈黙を挟み、エルフナインは笑みを浮かべてうなずいた。
振り返り、かつてキャロルだったものを正面に見据える。
「キャロル、いや……『破滅の光』。次は俺が相手だ」