膝をついたキャロルの身体から、白い靄が立ち昇る。それは悲鳴のような甲高い音とともに空気へと溶けた。
宇宙が、晴れる。
「……キャ、キャロル」
意識を取り戻したエルフナインは這う這うの体でキャロルの袂まで来ると、優しく彼女の頬を撫でた。
「エルフナイン……。すまなかった。「破滅の光」に憑依されたのも、元はといえば、オレの心に世界を憎む邪な気持ちがあったからだ。そこに付け入られた。抑えきれぬ破壊衝動が、次第にオレの魂を塗り潰していった」
キャロルは沈鬱な表情で内面を吐露した。
「おまえの声は、確かに届いていた。おまえの声が、暗闇に沈むオレの魂を寸でのところで繋ぎ止めてくれたのだ。ありがとう、エルフナイン」
「うん……うん……キャロル……」
エルフナインは泣きながら、そして笑いながらキャロルの胸に縋りついていた。
「おまえにも礼を言わねばならんだろう、音羽遊蓮。エルフナインのことも、オレ自身のことも」
「別に、大したことじゃない」
潤んだ瞳を隠すようにそっぽを向く。だめだなぁ、俺はこういうのはだめなんだよ。
「そんなことより、事件が解決したなら島に戻してくれ。スターチップは集めたが、館に行かなきゃ達成したことにならないんだ」
「ああ、そういえば外では大会の途中だったな。では次元の扉を開こう。そのくらいの余力はある」
キャロルが右手を掲げる。それが光ったと思うと、次元の揺らめきが生まれた。そこから覗く景色は茜色に染まっている。
「もうこんな時間か。じゃあな、エルフナイン、キャロル、元気でな」
「は、はい。遊蓮さんもお元気で」
「いずれ改めて礼はする。達者でな」
「ほっほっ、よっと」
自然と足が急ぐ。もう陽も暮れかかっている。しかし、結構な距離を走っているが、誰ひとり目にしないのが気がかりだ。もしかして、もう予選は終わってしまったのではないだろうか。
とうとう館に到着するまで誰とも会わなかった。
「――遊蓮くん!?」
「ん? ああ、未来か」
買い物の帰りなのだろう。売店のビニール袋を提げた未来が驚いた様子でこちらに駆け寄ってきた。
「皆心配してたのよ。全然戻ってこないし、連絡もつかないし、どこでなにしてたの?」
「なにって……デュエルだよ。ほら、スターチップも十個集まったぞ」
「何言ってるの? 予選はもう終わって、本選もあとは明日の決勝戦を残すだけよ」
「……なん……だと」
思わず間の抜けた声が漏れる。まてまて、じゃあ俺はあの亜空間に丸一日以上いたってことになる。あれか、あの宇宙空間か?
「そんなことよりも、早く響に会ってあげて。すごく心配してたのよ。明日の決勝戦のプレッシャーもあって、ナーバスになってるの」
「ん、ああ。いや、ちょっとまて。響のやつ決勝まで残ったのか?」
「そうよ、遊蓮くんの分まで頑張るって張り切ってたのよ」
なるほど。それで決勝を前にして緊張状態が最高潮に達したというわけか。
未来に引きずられるように響の部屋に入る。そこにはベッドの上で体育座りをしている響の姿があった。相変わらず分かりやすいやつ。
「響、ただいまー」
「あ、未来。おかえ――」
俺の姿を視界に収めた響は、まるで幻影でも見たように、忘我の状態に囚われる。やがて溢れ出た涙とともに転げるように飛び込んできた。
「どこに行ってたんだよぉ。電話も繋がらないしぃ」
流れ出る涙を拭おうともせずに、こちらの胸へと顔をうずめる。まさか、亜空間でデュエルをして、世界を破滅から救ってきたとは言えるはずもない。
「ごめんな。でも響も頑張ったな。決勝まで行くなんて、大したもんだよ」
そう言って響の髪を撫でた。響は幾分か落ち着いた様子で、照れくさそうに笑みを零した。
「よし! じゃあ今日はみんなで寝よう。三人で川の字になって!」
何がよし、なのかは分からないが、響はとんでもないことを言い出した。
「いや、あのな。男女七歳にして席を同じくせずという言葉があってな」
「大丈夫! 席じゃなくてベッドだから」
「いや、席ってのはベッドと同義で……未来も嫌だろ? 俺と一緒に寝るなんて」
「んー、まあ、響が真ん中ならいいかな」
意外だった。てっきり猛反対すると思ったが。まあ、俺を端っこに追いやるあたりは未来らしい。
「それに、今まで何をしてたか聞きださないといけないし」
未来はにやけた表情でそう言った。
「……はぁ。分かったよ、俺が折れるしかなさそうだ。ちゃんと話してやるさ」
亜空間でデュエルして、世界を救った話を。
響に貰ったカードが命運を分けたのは、まあ言わなくていいか。
明けて翌日。元気を取り戻した響は朝食をぺろりと平らげて、意気揚々とデュエル場へと向かって行った。
響と相対するのは、見覚えのある女の子だった。銀髪をなびかせて登場したのは、いつかの幻奏の使い手。
「リベンジマッチだな」
『デュエルッ!』
「わたしのターン、ドローッ! いくよ、クリスちゃんッ! 今度はわたしが勝つからねッ!」
「だから! その呼び方やめろ! あたしの方が年上だぞッ!」
「わたしは《E・HERO エアーマン》を召喚!」
「聞いちゃいねぇ……」
雪音さんは諦めた様子で手札を見やった。
「エアーマンの効果でデッキから《E・HERO オーシャン》を手札に加える。そして《融合》を発動。フィールドの《E・HERO エアーマン》と手札の《E・HERO オーシャン》を融合。来て! 絶対零度の支配者《E・HERO アブソルートZero》!」
《E・HERO アブソルートZero》
星8/水属性/戦士族/攻2500/守2000
「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する
「E・HERO アブソルートZero」以外の
水属性モンスターの数×500ポイントアップする。
このカードがフィールド上から離れた時、
相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。
対象を取らない全体除去。さあ、相手はどうするかな。
「わたしはカードを2枚伏せてターンエンド」
立花響 LP4000 手札2 モンスター1 伏せ2
――――――――――――
「あたしのターン、ドロー。魔法カード《独奏の第1楽章》発動。デッキから《幻奏の音女アリア》を特殊召喚だ。続けて《幻奏の歌姫ソプラノ》を通常召喚。そしてソプラノの効果で「幻奏」モンスターの融合召喚を行う」
雪音さんは水のヒーローに目を向けながら、不敵に笑う。
「そっちが融合ならこっちも対抗するぜ。響け歌声! 流れよ旋律! タクトの導きにより力重ねよ! 融合召喚! 今こそ舞台へ!《幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト》!」
《幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト》
星6/光属性/天使族/攻2400/守2000
「幻奏」モンスター×2
(1):このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、
お互いの墓地のカードを合計3枚まで対象として発動できる。
そのカードを除外する。
このカードの攻撃力は、この効果で除外したカードの数×200アップする。
この効果は相手ターンでも発動できる。
「まずは効果発動。おまえの墓地の《E・HERO エアーマン》と《E・HERO オーシャン》と《融合》を除外する。コーラス・ブレイク!」
「それにチェーンして《
「だが2枚は除外される。マイスタリン・シューベルトの攻撃力が400アップだ。バトル。マイスタリン・シューベルトでアブソルートゼロを攻撃、ウェーブ・オブ・ザ・グレイト!」
立花響 LP4000 → 3700
「――クッ、だけど、ゼロの効果でマイスタリン・シューベルトを破壊する」
「それぐらいは想定内だ。あたしはカードを1枚伏せてターンエンド」
雪音クリス LP4000 手札3 モンスター0 伏せ1
立花響 LP3700 手札4 モンスター0 伏せ1
――――――――――――
「わたしのターン、ドロー。《E・HERO ブレイズマン》を召喚して、ふたつめの効果を発動。デッキから《E・HERO シャドーミスト》を墓地に送る。墓地に送られたシャドーミストの効果でデッキから《E・HERO ワイルドマン》を手札に加える。そして《融合》を発動。手札の《E・HERO フォレストマン》と《E・HERO ザ・ヒート》を融合。来て! 太陽の使者《E・HERO サンライザー》!」
《E・HERO サンライザー》
星7/光属性/戦士族/攻2500/守1200
属性が異なる「HERO」モンスター×2
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカード名の(1)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから「ミラクル・フュージョン」1枚を手札に加える。
(2):自分フィールドのモンスターの攻撃力は、
自分フィールドのモンスターの属性の種類×200アップする。
(3):このカード以外の自分の「HERO」モンスターが戦闘を行う攻撃宣言時に、
フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
「サンライザーの効果でデッキから《ミラクル・フュージョン》を手札に加えて、そのまま発動。墓地の《E・HERO フォレストマン》と《E・HERO ザ・ヒート》を除外して融合。来て! 紅蓮の勇者《E・HERO ノヴァマスター》!」
《E・HERO ノヴァマスター》
星8/炎属性/戦士族/攻2600/守2100
「E・HERO」モンスター+炎属性モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
(1):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合に発動する。
自分はデッキから1枚ドローする。
「バトル! ブレイズマンで攻撃! そして攻撃宣言時にサンライザーの効果発動。伏せカードを破壊する!」
「甘いんだよ、リバースカードオープン《強化蘇生》。墓地のアリアを守備表示で特殊召喚」
《幻奏の音女アリア》
星4/光属性/天使族/攻1600/守1200
(1):特殊召喚したこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、
自分フィールドの「幻奏」モンスターは効果の対象にならず、
戦闘では破壊されない。
強化蘇生は完全蘇生だ。パワーアップ効果は剥がれたが、アリアはそのまま残る。特殊召喚されたため、対象を取るサンライザーの効果では破壊できず、戦闘でも破壊できない。
「……バトルは中止。カードを1枚伏せてターンエンド」
立花響 LP3700 手札1 モンスター3 伏せ2
雪音クリス LP4000 手札3 モンスター1 伏せ0
――――――――――――
「あたしのターン、ドロー。速攻魔法《光神化》を発動。手札の《幻奏の音女セレナ》を特殊召喚。こいつは天使族モンスターをアドバンス召喚する場合、2体分のリリースにできる。セレナをリリースして《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》をアドバンス召喚!」
《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》
効果モンスター
星8/光属性/天使族/攻2600/守2000
このカードの効果を発動するターン、
自分は光属性以外のモンスターを特殊召喚できない。
(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。
手札から天使族・光属性モンスター1体を特殊召喚する。
「プロディジー・モーツァルトの効果発動。手札の《幻奏の音女エレジー》を特殊召喚!」
《幻奏の音女エレジー》
星5/光属性/天使族/攻2000/守1200
(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドの特殊召喚された「幻奏」モンスターは効果では破壊されない。
(2):特殊召喚したこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、
自分フィールドの天使族モンスターの攻撃力は300アップする。
「エレジーの効果で自分フィールドの天使族モンスターの攻撃力は300アップするぜ。バトルだ。まずはパワーアップ効果を持つサンライザーに攻撃。行け、プロディジー・モーツァルト!」
攻撃力は同じだが、アリアの効果でプロディジー・モーツァルトは戦闘では破壊されない。サンライザーが一方的に破壊される。
「続けてエレジーでブレイズマンを攻撃」
立花響 LP3700 → 2600
「あたしはこれでターンエンドだ」
雪音クリス LP4000 手札0 モンスター3 伏せ0
立花響 LP2600 手札1 モンスター1 伏せ2
――――――――――――
「わたしのターン、ドロー!」
かなり苦しい展開だな。相手の耐性はこんな感じか。
《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》 攻撃表示
戦闘・効果では破壊されない。
《幻奏の音女エレジー》 攻撃表示
効果の対象とならず、戦闘・効果では破壊されない。
《幻奏の音女アリア》 守備表示
効果の対象とならず、戦闘・効果では破壊されない。
「バトル。ノヴァマスターでエレジーに攻撃」
雪音クリス LP4000 → 3700
「ヘッ、かすり傷だぜ」
「わたしはこれでターンエンド」
立花響 LP2600 手札2 モンスター1 伏せ2
雪音クリス LP3700 手札0 モンスター3 伏せ0
――――――――――――
「あたしのターン、ドロー。バトルだ。プロディジー・モーツァルトでノヴァマスターを攻撃」
立花響 LP2600 → 2300
プロディジー・モーツァルトのシャウトでノヴァマスターが破壊される。これで響のフィールドはがら空きになった。
「こいつでラストだッ! エレジーでダイレクトアタックッ!」
「リバースカードオープン《波紋のバリア -ウェーブ・フォース-》」
「――んなッ!? そいつはッ!」
「プロディジー・モーツァルトとエレジーはデッキに戻ってもらうよ」
「ふん、やるじゃねぇか。ターンエンドだ」
雪音クリス LP3700 手札1 モンスター1 伏せ0
立花響 LP2300 手札2 モンスター0 伏せ1
――――――――――――
「わたしのターン、ドロー! わたしは《異次元の女戦士》を召喚。続けて魔法カード《平行世界融合》を発動。このカードを発動するターン、わたしはこのカードの効果以外ではモンスターを特殊召喚できない。除外されている《E・HERO フォレストマン》と《E・HERO オーシャン》をデッキに戻し融合召喚。来て! 地球の守護者《E・HERO ジ・アース》!」
《E・HERO ジ・アース》
融合・効果モンスター
星8/地属性/戦士族/攻2500/守2000
「E・HERO オーシャン」+「E・HERO フォレストマン」
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
(1):このカード以外の自分フィールドの表側表示の「E・HERO」モンスター1体をリリースして発動できる。
このカードの攻撃力はターン終了時まで、リリースしたモンスターの攻撃力分アップする。
「そして《フェイバリット・ヒーロー》をジ・アースに装備。そして、バトル。バトルフェイズ開始時にフェイバリット・ヒーローの効果発動。デッキから《摩天楼-スカイスクレイパー-》を発動する。それによってジ・アースの攻撃力は元々の守備力分アップし、相手の効果の対象にはならない」
《E・HERO ジ・アース》 攻 2500 → 4500
「――クッ、攻撃力4500かよ」
「バトルッ! 異次元の女戦士でアリアを攻撃ッ!」
「アリアは戦闘では破壊されない。だが――」
「うん。ダメージ計算後にそれぞれのモンスターを除外する」
激突によって発生した次元の狭間に、互いのモンスターが吸い込まれていく。
「ジ・アースでダイレクトアタックッ! アース・コンバスションッ!」
ジ・アースの胸から大口径のビームが放たれる。それは、デュエルの終焉を意味していた。
歌姫と英雄の激闘は終わり、デュエル場は歓声に包まれた。その後に行われた表彰式で、響には黄金の盾が、雪音さんには白銀の盾が送られた。
その時の太陽のような笑顔を、俺は生涯忘れないだろう。