「知らない天井……じゃないな。S.O.N.G.の医務室だ、ここ」
「あら、お目覚めかしら」
この声を聞くのも随分と久しぶりな気がする。ということは戻ってきたのか?
ベッドから身を起こす。途端、頭がふらついた。
「一週間くらい寝たきりだったから、軽い目眩かしらね。筋肉の方は大丈夫よ。低周波を流していたから、廃用症候群の心配はないわ」
「あー、それはどうも。で、俺はどうやって帰ってきたんですか? 響とマリアさんは?」
「はい、これ。まだ未完成だけど、今回の報告書よ」
軽い頭痛を意識の外に押しやりながら、了子さんから数枚の紙を受け取る。
ところどころ抜けているところは、俺が行動したところだろう。
なになに、そもそもはアダムがデュエルエナジーと精霊の力を使って、神を超える
そして次元を統合しようとしたのは、『
確かダークネスは人々の「心の闇」が溜まりに溜まることで降臨する自然の摂理、いわば特異災害のようなものだったはず。だから「心の闇」の発生源、絶対数を減らすことで先送りにしようとしたのか。
次元を統合するために必要なエネルギー、必要な犠牲。それを許容できるかどうか。
いけ好かないヤツではあったが、あの男はあの男なりに、この世界を案じていたのかもしれない。
まあだからといって「なんだ、アダムって本当は良いヤツじゃん」とはならないが。
で、神を超える力ってのが《ユベル》か。
……この流れでユベルが出てくるのか。
異世界に到着したのは時間差があったようだ。時空間を渡った影響だろう。
あの世界で起こったことを時系列順にまとめると、おおよそこんな感じだ。
1.響がカリオストロ(イレイザー)とデュエルして勝利。その後アダムの元に送られて敗北。アダムは響を幽閉して覇王の種を植える。
2.マリアさんがプレラーティ(ドレッド・ルート)に勝利。その後アダムの元に送られて敗北、エナジー化される。
3.アダムが響を洗脳。現実世界の侵略を始めたアダムにS.O.N.G.が壊滅という幻覚を見せられる。自我が希薄になり覇王覚醒の兆し。
4.俺がサンジェルマンに勝利。その後アダムにも勝利。アダムを破ったことで次元の狭間に幽閉されていた響が解放される。覇王化した響が十二の次元を統合しようとする。(アダムの洗脳により、この次元の生物を全て生贄に捧げて、新たな世界が生まれれば全てやり直せると思い込んでいる)
5.俺と響がデュエル。響は正気に戻る。俺はエナジー化されユベルの元へ。ユベル覚醒。
6.ユベルが覇王の力を取り込むために響にデュエルを挑む。
7.響とユベルが超融合!
8.ユベルが響の意思を汲み取って、エナジー化された人々(アダム以外)を元に戻す。
9.全員帰還。全ての次元が元通り。
色々とツッコミどころはあるが、ユベルと何があった?
「友達になったらしいわ」
なるほど、さすが響だな。
「精霊って本当にいたのね。私にも見えたらよかったのに」
「見えるけど、見えないもの。ですね」
「う~ん? 研究者としては、そういう抽象的な表現は受け入れたくはないのよねぇ」
口をついて出た言葉だったが、反応は芳しくなかった。
簡単な検査と質疑応答を終えて、俺は解放された。自宅に送ってもらい、いつもの半分ほどの厚みになっていたデッキを広げた。
俺のデッキからはサンダー・ドラゴンが消えていた。
雷神龍だけではなく、サンダー・ドラゴン一式、まるごとだ。
理由はまあ、なんとなくだが分かる。当て推量に過ぎないが、超融合だ。
俺のエース《雷神龍-サンダー・ドラゴン》と、響が最初に選んだヒーロー《E・HERO ワイルドマン》。その結果、あの異様なシャイニングが生まれた。
俺と響と覇王の思惑がないまぜになった結果だ。超融合ってのは、そういうものなんだろう。魂まで融合させるようなものだからな。
なんにせよ、新たなデッキを組む必要が出来た。
同じデッキを組むつもりにはなれなかった。サンダー・ドラゴンは役目を終えたのだ。俺にはそう思えてならない。
随分と薄くなったデッキを眺めながら、次はどんなデッキを組もうかと思索を巡らせる。
やはり初志貫徹してドラゴンか。最初サンダー・ドラゴンをドラゴン族だと勘違いしていたのは、我ながら抜けた話だ。戦士族か天使族なら響や未来と共有できるカードも多いな。
ソリッドビジョンの関係上、人気の低い昆虫族やアンデッド族なら安く上がりそうだが。
――と、聞こえてきた玄関の呼び鈴に、思考は霧散した。
『遊蓮くーん、帰ってるー?』
続いて聞こえてきた声に懐かしさを覚える。
「――よう」
「えへへ、目が覚めたんだね」
「ああ。ま、上がれよ」
「うん。お邪魔します」
訪ねてきた響をリビングに案内する。
「オレンジジュースでいいか?」
「え? あ、うん。お構いなく」
なんとなく違和感を覚えながら、飲み物の準備をする。
響の前にコップを置き、対面に座った。
「いただきます」
響はオレンジジュースを一口嚥下すると、小さく息を零した。
「――うるさいなぁ。そんなんじゃないってば」
「ん?」
唐突に響が支離滅裂なことを言い出す。視線は右に向いていた。
「あ、ごめん。なんでもないよ、あはははっ」
「ユベルか?」
「あー、知ってるんだ」
「了子さんからな。一応社外秘扱いみたいだけど」
当然だけど俺には見えないし、声も聞こえない。了子さんが言うには、透過率がどうとか、空気じゃなく魂が振動してるとからしいが。
「礼を言うべきなんだろうな。全部、元に戻してくれたんだろ?」
「まあ、ユベルもアダムって人に利用されてただけみたいだからね。神とかどうでもいいみたいだし」
「そうか。そういえば、どうやって仲良くなったんだ?」
そのあたりは報告書にも詳しく書いてなかったんだよな。
「あー、話してもいい? うん、ありがとう。えっとね、存在理由とか、何のために生まれたのかとか、生きる目的とかが納得できないというか、よく分からないって言うから、じゃあ一緒に探そうよってことになった」
「お、おう」
分かるような分からんような、カウンセリングとか自己啓発みたいな感じか。
「最初はひどかったんだよ。「私は私を生んだ全てを恨む」とか言ってさぁ」
なんか人類に逆襲でもしそうな台詞だな。
「あれ? ねぇ、あれって遊蓮くんのデッキ? 随分と薄くない?」
「ああ、こうなったんだ」
デッキをテーブルの上に広げる。響はすぐに気付いた。
「サンダー・ドラゴンたちがいないね」
「あいつらは役目を果たしたんだよ」
「役目? あー、え? そんなことってあるの? へー、そうなんだ」
たぶんユベルが何か言ってるんだろうが、
「じゃあ新しいデッキ組むの? ドラゴン族?」
「考え中。一新することも考えてる」
「なら戦士族にしようよ。色々分けてあげられるよ」
「そうだなぁ。それもいいかもな」
こんな何でもない会話が、とても懐かしく、尊いものだと感じた。
深く考える必要はない。大げさに考える必要はないんだ。
奇跡などを願う必要はない。支えて、支えられて、そこに偶さか精霊がいてもいい。
思えばこの太陽のような笑顔が、自分の原点だったような気がする。
「響、やっぱり俺は、おまえのことが大好きだ」
というわけで、ご都合主義エンドで終了です。
やっぱり半端な気持ちでデュエルの世界に入るもんじゃないですね。
デュエル構成の難しさやルールの煩雑さを痛感しました。
ともあれ、最後までおつきあいいただき、本当にありがとうございました。