「デュエル大会?」
「うん、ふぁいこふぇ」
おにぎりをリスのように頬張りながら、響は一枚のチラシをこちらに手渡した。
ふむふむ、アイドルユニットのツヴァイウィングとコラボしたデュエル大会か。優勝者にはグッズセットとスペシャルパック。
「ね、いいでしょ? 一緒に出ようよ」
「未来は? 出ないのか?」
「未来はその日、用事があるって。あーあ、わたし呪われてるかも……」
どんな理屈か知らないが、それだとむしろ呪われてるのは未来じゃないか? まあ、あいつも色々と忙しいやつだからな。
「ふーん。ま、俺はその日予定はないから、つきあってやるよ」
「本当? よかったー、もうエントリーも済ませてあるから、断られたらどうしようかと思ってたんだー」
相変わらず無駄に行動力のあるやつだ。
というわけで、やってきました大会当日。
参加者は64人。かなりの倍率だったらしい。ふたりともがエントリーできたのは幸運だったな。
まずは32人がふたつのブロックに分かれてトーナメント方式で戦う。各ブロックの優勝者ふたりがタッグでツヴァイウィングとエキシビジョンマッチを行う。
トーナメントはともかく、即席のタッグで戦うというのはどうなんだろう。イベンターだかプロモーターだかの作為を感じる。正統派アイドルとして売っているツヴァイウィングがそんな小細工をするとも思えないし。
ああ、トーナメントは終了したよ。やりました、勝ちました、優勝です。
やったぜ。
まあ、お世辞にもレベルが高いとは言い難いやつらだった。デュエリストというよりはアイドルファンが必死でデッキを組んだって感じだったな。
響とは別ブロックに分かれたから、あいつと組めれば面白いデュエルになると思っていたのだが、とぼとぼと肩を落として歩いてくる姿を見て諦めた。分かりやすいやつ。
「……負けたのか? 響」
「うん、決勝まではいったんだけどねー」
ということは、響を負かしたやつとタッグを組むのか。
「どんなやつだった? どんなデッキ使ってた?」
「銀髪のかわいい女の子だったよ。使ってたカードはげんそうっていう、女の子カードだった」
……幻想……女の子……幻奏か。光属性、天使族。
だめだな。シナジーのあるデッキは持ってない。どうするか、勝ちに徹するなら、あのデッキを使うのも考慮すべきだが。
「わたしの代わりに頑張ってね、遊蓮くん。勝てば非売品の貴重なグッズとサイン入りのCDが貰えるんだからッ!」
俺はそういったものにあんまり興味がないから、グッズは全て響に譲ることになっていた。だから響も本気で俺を応援している。
「そうか、そんなに欲しいのか? ツヴァイウィングのグッズ」
「もちろんだよッ!」
響は鼻息を荒くしてそう言った。ならば仕方ない。今回限りは、勝利をリスペクトしよう。
鬼にならねば見えぬ地平がある!
「あんたがAブロックの優勝者か」
「ええ、音羽遊蓮。中二です」
「なんだ、あたしのいっこ下かよ。あたしは雪音クリスだ。よろしくな」
銀髪の女の子は、年齢のわりに豊満な胸を揺らしながら握手を求めてきた。
「よろしくお願いします。雪音さん」
「おう。で早速だけどよ、おまえはどんなデッキ使ってるんだ? あたしは【幻奏】デッキなんだけど、知ってるか?」
知ってます。てか組んだことも使ったこともあるし。こっちではないけど。
「ええ、天使族モンスターですよね。でも即席コンビで合わせようとしてもボロが出るだけです。今回はエキシビジョンですし、お互い好きにやりましょう」
「……へぇ。ま、いいか。あたしもごちゃごちゃと考えるのは性に合わないしな。けど、足引っ張るんじゃねぇぞ」
「ええ、その心配はありませんよ」
そのあと軽く雑談をしているうちに、アナウンスがあった。それに従い特設のデュエルフィールドに移動する。すでに観客は満員、ステージ衣装のツヴァイウィングのふたりが仁王立ちで待ち構えていた。これがエンタメデュエルか。
「よくきたな。勇敢なるデュエリストたちよ」
天羽奏がマイクを片手に口上を述べる。
「今宵は我らツヴァイウィングがお相手いたす」
風鳴翼がほほを赤らめながら、眼を伏せがちにそう続けた。
ちなみに、デュエル進行が速かったせいかまだ夕方と呼ぶのも少し早い。
「へッ! 面白れぇじゃねぇか。いくぜ、遊蓮ッ!」
「あ、はい」
『デュエルッッ!!!!』
四人の声がハーモニーのように重なり合う。観客の声がいっそう盛り上がった。
「がんばってー、ゆーうーれーんーくーんッ!」
最前列に陣取ってる響の声援が届く。デュエルディスクが点滅し、ターンの順序が決定した。
天羽奏 → 雪音クリス → 風鳴翼 → 音羽遊蓮
全員最初のターンはバトルできない。フィールド、墓地は各々で別。なのでタッグデュエルというよりは、バトルロイヤルに近い。できれば一番目がよかったが、妨害がないことを祈ろう。
「まずはあたしからだ、ドローッ! あたしは《激昂のミノタウルス》を召喚ッ!」
《激昂のミノタウルス》
星4/地属性/獣戦士族/攻1700/守1000
(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
自分の獣族・獣戦士族・鳥獣族モンスターが守備表示モンスターを攻撃した場合、
その守備力を攻撃力が超えた分だけ相手に戦闘ダメージを与える。
「カードを2枚伏せてターンエンドッ!」
天羽奏 LP4000 手札3 モンスター1 伏せ2
――――――――――――
「あたしのターン、ドローッ! 速攻魔法《サイクロン》を発動。あたしから見て右側のカードを破壊するッ!」
「――チッ、《幻獣の角》が……」
「そして《幻奏の音女アリア》を召喚。続けて魔法カード《トランスターン》を発動。アリアを墓地に送り、種族、属性が同じでレベルがひとつ高いモンスターをデッキから特殊召喚する。来いッ! エレジーッ!」
《幻奏の音女エレジー》
星5/光属性/天使族/攻2000/守1200
(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
自分フィールドの特殊召喚された「幻奏」モンスターは効果では破壊されない。
(2):特殊召喚したこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、
自分フィールドの天使族モンスターの攻撃力は300アップする。
「あたしはカードを1枚伏せてターンエンドだ」
雪音クリス LP4000 手札2 モンスター1 伏せ1
天羽奏 LP4000 手札3 モンスター1 伏せ1
――――――――――――
「次は私のターンね、ドロー」
「この瞬間、リバースカードオープン。《強化蘇生》、墓地のアリアを特殊召喚するッ!」
「――えぇ、このタイミングで?」
風鳴翼が困惑の声を上げる。これは鉄壁入ったな。
《幻奏の音女アリア》
星4/光属性/天使族/攻1600/守1200
(1):特殊召喚したこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、
自分フィールドの「幻奏」モンスターは効果の対象にならず、
戦闘では破壊されない。
「強化蘇生の効果でレベルがひとつ上がり、攻守が100ポイントアップ。加えてエレジーの効果で攻撃力が300アップだッ!」
これで幻奏モンスターは効果の対象とならず、戦闘では破壊されない。また特殊召喚された幻奏モンスターは効果では破壊されない。これはそう簡単には崩せないだろう。
風鳴翼も多少怯んだようだが、持ち前の舞台度胸でなんとか踏みとどまる。
「私は魔法カード《
「当たり前だろ。礼儀だぞ、礼儀」
「う、うん、えーと。青き闇を徘徊する猫よ! 紫の毒持つ蝶よ! 月の引力により渦巻きて、新たなる力と生まれ変わらん! 融合召喚! 現れ出でよ、月明かりに舞い踊る美しき野獣! 月光舞猫姫!」
やや照れながらも、風鳴翼は眼前で腕を組んで口上を言い切った。彼女のフィールドに妖艶な猫娘が姿を現す。
《
星7/闇属性/獣戦士族/攻2400/守2000
(1):このカードは戦闘では破壊されない。
(2):1ターンに1度、自分メインフェイズ1に
このカード以外の自分フィールドの「ムーンライト」モンスター1体をリリースして発動できる。
このターン、相手モンスターはそれぞれ1度だけ戦闘では破壊されず、
このカードは全ての相手モンスターに2回ずつ攻撃できる。
(3):このカードの攻撃宣言時に発動する。
相手に100ダメージを与える。
これによって会場は大盛り上がり。響も目をキラキラさせて腕を振り回している。
「私はカードを1枚伏せてターンエンド」
風鳴翼 LP4000 手札2 モンスター1 伏せ1
雪音クリス LP4000 手札2 モンスター2 伏せ0
天羽奏 LP4000 手札3 モンスター1 伏せ1
――――――――――――
「俺のターン、ドロー」
ようやく俺のターンが回ってきた。手札は悪くない、どころかかなり良い。希望は持てる手札だ。
「俺は《クリッター》を召喚。続けて魔法カード《モンスターゲート》を発動。クリッターをリリースし、通常召喚可能なモンスターが出るまでデッキの上からカードをめくり、そのモンスターを特殊召喚する。それまでにめくったカードは墓地へ送る」
ゆっくりとデッキをめくっていく。それは9枚目に現れた。
「《トレジャー・パンダー》を特殊召喚。めくった8枚のカードを墓地に送る。そしてクリッターの効果発動。デッキから攻撃力1500以下のモンスターを手札に加える。俺は《封印されしエクゾディア》を手札に加える」
『エクゾディアッ!?』
三人が驚愕の声を漏らす。この世界でもエクゾディアは知名度が高い。だが人気は低い。エクゾディアに限らず、特殊勝利デッキの人気がないのだ。確かに殴り合った方が盛り上がるし、面白いだろう。響だってやたらと殴りたがるし。一度バーンデッキで焼き殺したときは、三日くらい口きいてくれなかったなぁ。
《トレジャー・パンダー》
星4/地属性/獣族/攻1100/守2000
(1):自分の墓地から魔法・罠カードを3枚まで裏側表示で除外して発動できる。
除外したカードの数と同じレベルの通常モンスター1体をデッキから特殊召喚する。
「トレジャー・パンダーの効果発動。墓地の魔法・罠カードを裏側表示で1枚除外して、デッキから《封印されし者の右腕》を特殊召喚。再度効果を発動して《封印されし者の右足》を特殊召喚。再度効果を発動して《封印されし者の左腕》を特殊召喚。再度効果を発動して《封印されし者の左足》を特殊召喚」
なんだか呪文でも唱えてる気分だ。三人のみならず、観客の目も点になっている。あれほど盛り上がっていたのに。
「魔法カード《ブーギートラップ》を発動。手札を2枚捨てて、自分の墓地の罠カードを1枚選択してセットする。そしてこの効果でセットしたカードは、セットしたターンでも発動できる。俺が選択するのは《撤収命令》」
その瞬間、単純な比喩ではなく本当に息を呑む音が聞こえた。
「撤収命令をセットして、発動。俺のフィールド上のモンスターが全て手札に戻ります。……ご無礼、エクゾディアの完成です」
デュエルディスクから無情のブザーが鳴り響く。皮肉にもそれは、これまでのどんな歓声よりも大きく響いた。
ツヴァイウィングよ、これが絶望だ。