日常は突然に崩れ去った。
異変を感じたのは登校途中だった。
街に誰もいない。
学生はもちろん、通勤途中のサラリーマンも、ゴミ出しをする主婦も、毎朝散歩をするお爺さんも、誰も見かけない。
ついに学校に到着するまで誰の姿も見えなかった。そして異変は続く。校門が閉鎖されている。俺が一番に登校したということはありえない。
額から冷たい汗が流れる。これは異様な事態だ。暗灰色の空を見上げ、遅まきながらにその可能性へと思い至った。
――と、そこでポケットの携帯端末が振るえた。
「響、無事か?」
『よかった、繋がったよ。遊蓮くん、今どうなってるか分かる?』
「……いや、まるで街中の人間がいなくなったみたいだ」
『ユベルが嫌な気配がするって。邪悪なものが蠢いているって』
「とりあえず合流しよう。学校までこれるか?」
『うん、すぐに行く!』
どうやら穏やかには終わらないらしいな。
了子さんは……繋がらない。
司令は……ダメだ。
緒川さん……くそッ!
「――ッ!?」
俺が端末をいじっていると、視界の端で空間がひしゃげた。空間を裂いて現れたのは、サングラスをかけた短髪の黒ずくめの男。
「誰だ、おまえは?」
「ふふ、私は
期待して誰何したわけではないが、相手はあっさりと名乗りを上げた。
「貴様を始末し、覇王の力を暴走させる」
「ほぉ、そりゃあ完璧な作戦だな。不可能だという点に目をつぶればよぉー」
「威勢がいいな、ならばこれからそれを証明してやろう」
『デュエルッ!』
「私のターン、ドロー。《レスキューラビット》を召喚して、効果発動。このカードを除外して、デッキから《ヴェルズ・ヘリオロープ》2体を特殊召喚。そしてヘリオロープ2体でオーバーレイ。混沌と虚無の空間より現れよ、ランク4《ヴェルズ・オピオン》!」
《ヴェルズ・オピオン》
ランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2550/守1650
レベル4「ヴェルズ」モンスター×2
(1):X素材を持っているこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、
お互いにレベル5以上のモンスターを特殊召喚できない。
(2):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。
デッキから「侵略の」魔法・罠カード1枚を手札に加える。
「ヴェルズ・オピオンの効果発動。X素材を1つ取り除き、デッキから《侵略の反発感染》を手札に加える。私はカードを2枚伏せてターンエンドだ」
ミスターT LP4000 手札4 モンスター1 伏せ2
――――――――――――
「俺のターン、ドロー」
レベル5以上のモンスターを封殺か。以前のデッキならかなり厳しい戦いだっただろうな。これも巡り合わせか。
「俺はファント――」
目の前の男、ミスターTの姿はいつの間にか未来の姿へと変じていた。そして周囲が炎に包まれる。
「どうして私を見捨てたの? 響のことは助けたのに、私はどうでもよかったの?」
子供の頃、俺と響が未来の家で遊んでいた時に火事が起きた。俺は響と未来の手を握り、家の外へと避難した。だが外に出た時、俺が握っていたのは、響の手だけだった。
そんな記憶がよみがえった。
いや違う。流し込まれたんだ。そんな事実は、ない。
五感すべてを支配されたような、圧倒的な幻覚。
そう、これは幻覚だ。虚構だとわかれば、それは自制できる。
「無駄だ。そんな小細工、俺には通用しない。タネの割れた手品ほど惨めなものはないぜ」
「――貴様、ただの人間ではないな」
「ただの人間だよ。ちょっと普通じゃないけどな」
「精霊を視る力もない、凡庸な男だと思っていたが、認識を改める必要がありそうだ」
「そうかい、デュエルを続けるぞ。《幻影騎士団ラギットグローブ》を召喚。そして《幻影騎士団サイレントブーツ》を特殊召喚。このカードは自分フィールドに「ファントムナイツ」がいる時、手札から特殊召喚できる。レベル3のダスティローブとサイレントブーツの2体でオーバーレイ。戦場に倒れし騎士たちの魂よ。今こそ蘇り、闇を切り裂く光となれ! 現れろ! ランク3、《幻影騎士団ブレイクソード》!」
《
ランク3/闇属性/戦士族/攻2000/守1000
レベル3モンスター×2
(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、
自分及び相手フィールドのカードを1枚ずつ対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
(2):X召喚されたこのカードが破壊された場合、
自分の墓地の同じレベルの「幻影騎士団」モンスター2体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターのレベルは1つ上がる。
この効果の発動後、ターン終了時まで自分は闇属性モンスターしか特殊召喚できない。
ラギットグローブの効果で、ブレイクソードの攻撃力は3000となっている。このまま戦闘破壊でもいけそうだが、試してみるか。
「X素材を1つ取り除き、ブレイクソードの効果発動。このカードとオピオンを破壊する」
「ふん、自爆特攻か。だがそうはいかん。《スキル・プリズナー》を《ヴェルズ・オピオン》を対象に発動。その効果を無効にする」
やはりか。侵略の反発感染で魔法・罠から守り、スキル・プリズナーでモンスター効果から守る。盤石な態勢といったところだが――。
「ならば上から叩く! バトルだ。ブレイクソードでオピオンを攻撃!」
ミスターT LP4000 → 3550
「――ふん。この程度、大した傷ではない」
「バトルフェイズを終了し、墓地のサイレントブーツを除外して、デッキから《
音羽遊蓮 LP4000 手札2 モンスター1 伏せ3
ミスターT LP3550 手札4 モンスター0 伏せ1
――――――――――――
「私のターン、ドロー。《闇の誘惑》を発動。カードを2枚ドローし、手札の《ヴェルズ・ザッハーク》を除外する。《ヴェルズ・マンドラゴ》を特殊召喚。このカードは相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多い場合、手札から特殊召喚できる。続けて《ヴェルズ・ケルキオン》を通常召喚し、効果発動。墓地のヘリオロープを除外して、もう1体のヘリオロープを手札に加える。レベル4のマンドラゴ、ケルキオンの2体でオーバーレイネットワークを構築。闇の邪念は全てを侵喰する。闇に堕ちし姿を現せ! 《ヴェルズ・バハムート》!」
《ヴェルズ・バハムート》
ランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2350/守1350
「ヴェルズ」と名のついたレベル4モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。
手札から「ヴェルズ」と名のついたモンスター1体を捨て、
選択した相手モンスターのコントロールを得る。
「フフフ、いただくぞ、貴様のモンスターを。ヴェルズ・バハムートの効果発動。X素材を1つ取り除き、手札のヘリオロープを捨て、《幻影騎士団ブレイクソード》のコントロールを得る」
「《ヴェルズ・バハムート》を対象に《幻影霧剣》を発動だ。そいつの効果を無効にする」
「無駄だ。《侵略の反発感染》を発動。これで私のフィールドの「ヴェルズ」モンスターは、ターン終了時までこのカード以外の魔法・罠カードの効果を受けない」
堕ちた氷龍の視線を喰らい、ブレイクソードがフィールドを移る。
「バトルだ。《ヴェルズ・バハムート》で攻撃、ダークネス・フリージング・ブラスト!」
音羽遊蓮 LP4000 → 1650
「終わりだ。己のモンスターで沈むがいい。《幻影騎士団ブレイクソード》でダイレクトアタック!」
「そちらは通さんッ! 《幻影騎士団ウロング・マグネリング》を発動。その攻撃を無効にし、その後このカードを効果モンスター(戦士族・闇・星2・攻/守0)として特殊召喚する」
「凌いだか。ならば効果を使わせてもらうぞ。ブレイクソード自身と伏せカードを破壊する。貴様の墓地の「幻影騎士団」モンスターは1体。蘇生効果は使えまい」
「ならばチェーンして《幻影騎士団ウロング・マグネリング》の効果を発動。このカード自身と《幻影霧剣》を墓地に送り、2枚ドローする」
「ほぅ、私はカードを2枚伏せてターンエンド」
ミスターT LP3550 手札1 モンスター1 伏せ2
音羽遊蓮 LP1650 手札4 モンスター0 伏せ0
――――――――――――
「俺のターン、ドロー」
伏せが2枚に、墓地には《スキル・プリズナー》か。
「墓地の《幻影霧剣》の効果発動。このカードを除外して、墓地の《幻影騎士団ラギットグローブ》を特殊召喚。そして《幻影騎士団ダスティローブ》を通常召喚し、この2体でオーバーレイ。再び現れろ、《幻影騎士団ブレイクソード》!」
「この瞬間、《強制脱出装置》を発動。そいつはEXデッキに戻ってもらうぞ」
「ならば墓地の《幻影騎士団ラギットグローブ》の効果発動。このカードを除外して、デッキから《幻影翼》を墓地に送り、このカードの効果も発動だ。《幻影翼》を除外して、《幻影騎士団ダスティローブ》を特殊召喚。自分フィールドに「幻影騎士団」モンスターが特殊召喚されたことで、手札の《幻影騎士団ステンドグリーブ》を特殊召喚。この2体でオーバーレイ。ファントムナイツは倒れない! 来い、《幻影騎士団ブレイクソード》! そして効果発動。破壊するのはブレイクソードと伏せカードだ」」
「墓地の《スキル・プリズナー》を除外して効果発動。伏せカードを対象として発動したモンスター効果を無効にする」
使ったか。よほど伏せカードが大事らしい。チェーン発動しなかったということはフリーチェーンや召喚反応型の罠ではない。ということは――。
「魔法カード《おろかな埋葬》を発動。デッキから《幻影騎士団サイレントブーツ》を墓地に送り、効果発動だ。サイレントブーツを除外して、デッキから《RUM-ファントム・フォース》を手札に加える。そして墓地の《幻影騎士団ブレイクソード》を除外して、フィールドの《幻影騎士団ブレイクソード》を対象に《RUM-ファントム・フォース》発動。ランクアップ・エクシーズ・チェンジ! 来いッ! 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」
叛逆の翼翻し、漆黒の竜は空を舞う。
「ダーク・リベリオンの効果発動。X素材を2つ取り除き、《ヴェルズ・バハムート》の攻撃力を半分にし、その数値分を攻撃力に加える」
《ヴェルズ・バハムート》 攻撃力2350 → 1175
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》 攻撃力2500 → 3675
「さらに墓地の《幻影騎士団ダスティローブ》の効果発動。このカードを除外して、デッキから《RUM-幻影騎士団ラウンチ》を手札に加え、発動。舞えッ! 《アーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!!」
《アーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》
ランク5/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500
レベル5モンスター×3
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):X召喚したこのカードは効果では破壊されない。
(2):このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。
このカードの攻撃力は、このカード以外のフィールドのモンスターの元々の攻撃力の合計分アップする。
このカードが闇属性XモンスターをX素材としている場合、
さらにこのカード以外のフィールドの全ての表側表示モンスターの効果は無効化される。
この効果の発動後、ターン終了時まで自分はこのカードでしか攻撃宣言できない。
「アーク・リベリオンの効果発動。X素材を1つ取り除き、このカード以外のフィールドのモンスターの元々の攻撃力の合計分アップする。オーバーロード・ディスチャージ!」
《アーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》 攻撃力3000 → 5350
「バトルだ! アーク・リベリオンでヴェルズ・バハムートに攻撃、スパーキング・ディスオベイ!」
「《聖なるバリア-ミラーフォース-》を発動。貴様のモンスターを破壊する!」
「無駄だッ! X召喚したアーク・リベリオンは効果では破壊されない!」
「なんだとッ!? ――グァッ!」
ミスターT LP3550 → 0
「どうやら貴様は、油断ならぬ相手のようだ」
ミスターTはそれだけを言い残して消失した。