シンフォギア世界とデュエルモンスターズ   作:乾燥海藻類

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夢を見るなら君と一緒がいい

精霊をいつから信じていたかなんてことはたわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいい話だが、それでも俺がいつから精霊などという見えもしない存在を信じていたかと言うとこれは確信を持って言えるが最初から信じていた。

実際に精霊がいるところを目撃したわけでもないのに精霊の存在を確信していたおかしい俺なのだが、運命力とかデッキとの絆とかエースが1体(1枚)なのは当然だとか、俺の知っている常識と少々ズレていると気付いたのは相当後になってからだった。

だがこの世界が俺のいた『前』の世界の延長線上の世界ではないことは、割と早い段階から察していた。

この世界でいうところの『デュエルモンスターズ』は数千年(・・・)の歴史をもつカードゲームだ。きちんとした形になったのは近年だが、大昔から石板や木板という形で存在自体はあったらしい。

基本的には『前』に触れたことのあるカードゲームとほぼ同じもので、俺も違和感なく始めることができた。

そして近所の子供たちと遊び始めて、ようやく思い出した。そこが魔境だったことに。

タイミングを逃す時の任意効果を発動するのはまだいい。収縮の効果処理が適切でないことも仕方ない。ミラーフォースの効果をサイクロンで無効にするのもまあ許そう。だが神の宣告をトラップ・スタンで無効にするのは勘弁してくれ。

当然、俺は優しく諭した。けんか腰にならないように、やんわりと理論立てて説明した。

だが子供というものは自分の過ちを認めたがらないのか、それともマウントを取られることを嫌ったのか、結局最後は「黙れッ! ドンッ!」でデュエルは強制終了されることになる。

そして「もうおまえとはデュエルしない!」と捨て台詞を残して去って行くのだ。

意外だったのは、これを大人たちが黙認していることだった。

いずれ戦いの舞台はテーブルデュエルからデュエルディスクへと移っていく。そうなれば間違った処理など起こさないだろう。

その時に知るのだ。自分の行為が間違っていたことを。いわゆる黒歴史というやつだ。そうして子供たちはルール把握に努めるようになる。

というのが、一応の理屈らしい。いまいち腑に落ちないが、それがこの世界の常識だというのなら従わざるを得ないだろう。

郷に従うならば、ここで俺が友人たちに頭を下げ、自分が間違っていたと謝罪すればよかったのだ。そうすれば問題は解決しただろうが、俺にはできなかった。

間違っていることを間違っていないとは言えなかったし、無法に対して無法で対抗するというのも、プライドが許さなかった。

転生者ゆえの精神の成熟が引き起こしたプライドの咆哮というわけだ。

そんなことを頭の片隅でぼんやり考えながら、俺はたいした感慨もなく小学生になり――。

 

 

 

 

 

立花響と出会った。

 

 

 

 

 

「ねぇ遊蓮くん。わたしたちって付き合ってるんだよね?」

「いきなりどうした? 俺たちはちゃんと付き合ってるだろ」

「最近『好き』って言われてない気がする」

少し口を尖らせながら響は言う。そういえば『言わなくてもわかる』ってのは、日本人の美徳でもあり、欠点でもあるって誰かが言っていたな。

「そうか、なら改めて言おう。響、俺はおまえが好きだ。響、俺はおまえが大好きだ。おまえの笑顔が好きだ。屈託のない笑顔はみんなの心を癒してくれる。おまえの手が好きだ。温かく、そして少し荒れた手は、人助けの勲章だ。おまえの優しさが好きだ。打算なく差し伸べる手は、多くの人の心を救っただろう。おまえの声が好きだ。楚々として、それでいて活力に満ちた声は、俺に勇気を与えてくれる。おまえの眼が好きだ。真っ直ぐで意志のこもった瞳は、迷った時に正道を思い出させてくれる。おまえの――痛いな」

照れ隠しだろうが、バシバシと叩くのはやめてくれ。地味に痛い。ひとしきり叩いて満足したのか、今度はにっこり笑って抱きついてきた。

軽く開かれた、健康的だがどこか艶っぽい唇から漏れてきたのは――甘ったるいムードを引き裂くような腹の虫の鳴き声だった。

それも「くぅっ」などと可愛らしいものではなく、「ぐるるるぅっ」といった感じのかなりやんちゃなものだった。

「――ふっ、ははははっ」

「い、いや、これは違くてッ! ほら、もうこんな時間だしッ!」

「ふっ、そうだな。もう昼過ぎか、どっか行くか。何が食べたい?」

「うーん、遊蓮くんに任せるよ」

「……ならサ店に行くぜ!!」

 

 

 

 

 

「イカにするか、ブタにするか……それが問題だ」

「エビという手もあるよ!」

「なるほど、一理ある。ならばここは《ふらわー焼き》にするか」

「結局それになるんだよね。おばちゃん、わたしもふらわー焼き。それとごはん大盛りで」

「はいよ、ふらわー焼き二つとごはん大盛り。すぐに焼いてあげるからね」

お好み焼きとごはんか。炭水化物と炭水化物の夢のコラボレーションだな。

注文を受けて、おばちゃんが忙しなく動き出した。この店は自分で焼くこともできるし、焼いてもらうこともできる。俺はもっぱら後者だ。素人が焼くよりプロに焼いてもらったほうがいい。

「そういや、進路は決まったのか」

「ううん、まだ考え中」

中三の夏休みも終わり、涼やかな季節から肌寒さを感じるようになってきた。響の進路は大きく分けて三つある。

 

一つめはデュエルアカデミアに入学する。忘れがちだが、響はアマチュアのワールドチャンピオンである。アカデミアは試験免除の特待生枠で響に誘いをかけている。

 

二つめはプロになること。プロに年齢制限はない。小学生でもプロ試験にクリアし、スポンサーと契約すればデビューできる。そのスポンサーを見つけることが普通は難儀するのだが、響の場合は了子さんが後押ししてくれるようだ。あの人は顔が広い。特許関係で多くの企業と付き合いがあるし、いざとなれば了子さん自身がスポンサーになってもいいと言っている。

 

三つめはS.O.N.G.に就職すること。精霊が見える人間というのは、この世界ではかなり希少らしく、手元に確保しておきたいのだろう。かなりの好条件を提示されたようだ。

 

あともう一つ、普通の高校に進学するという手もあるが、正直なところ響の学力では不安が残る。そもそもこの時期になって志望校すら決まってないのは、普通に考えてありえないことだろう。響自身もこの選択肢は外しているように思える。

 

「遊蓮くんはどうなのさ。もう決まった?」

「……俺か?」

俺の進路はもう決めてある。だが響には伝えていない。理由はまあ、自主性を重んじるというか、俺に依存させないためだ。

例えば俺がデュエルアカデミアに進学するとしよう。首尾よく合格すれば、俺はデュエルアカデミア本校に入学することになる。

デュエルアカデミアの本校は全寮制であり、洋上の孤島に存在する隔絶された世界だ。帰省できるのは長期休暇の時期くらいだろう。

また入島制限も厳しく、外部の人間が軽々しく訪れることはできない。

なので俺がデュエルアカデミアに行くと言ったら、響は自分を曲げてまでついてくるかもしれない。

自分がそこまで想われていると考えるのは自意識過剰かもしれないが、可能性はある。

だが状況は変わった。響と話をしていて、響の反応を見ていて、こいつのやりたいことは、実のところちっとも変わっていないのだ。

「俺は、プロになるよ」

「……本気?」

「ああ、了子さんには伝えてある。色々と動いてくれてるよ」

「わたしより先に了子さんに伝えてたんだ」

「色々と段取りがあるんだよ。おまえをないがしろにしていたわけじゃない。それに、おまえはS.O.N.G.に入りたいんだろ? だったら会える時間だって多いさ」

「……気付いてたんだ」

「おまえのやりたいことは、やっぱり人助けなんだよ。精霊の力を悪用している奴とか、精霊狩りみたいな輩がいるって聞いてから、随分と考え込んでたみたいだからな」

プロの世界は見た目ほど華やかな世界じゃない。勝負の世界なのだから、当然勝者と敗者が存在する厳しい世界だ。

そしてプロのデュエルが興行であることを忘れてはならない。観客はお金を払ってデュエルを見に来ているのだ。彼らを満足させ、お金を払った甲斐があった、また来ようと思わせる試合をしなければいけない。

観客を満足させ、スポンサーの意向に従い、興行主の意見を聞く。

華やかに見えるプロデュエリストも、隠れたところで苦労や努力をしているということだ。

プロの世界の実態を知れば知るほど、響に合っているとは思えなかった。

「ユベルもそう思ってるんだろ? ユベルの精霊としての力は、たぶんトップクラスなんだと思う。力を持つ者に伴う責任ってやつさ。もちろん強制するつもりはない。でも俺は、おまえとユベルが人間と精霊を繋ぐ架け橋になってほしいと思っている」

「…………」

沈黙のとばりが降りる。時折「うん」とか「でも」といった声が漏れるが、あれはユベルに対する返答だろう。

「待たせたねぇ。ふらわー焼き2つとごはん大盛り。ごゆっくりどうぞ」

「さて、食べようぜ。冷めないうちに」

「あ、うん」

焼きたてのお好み焼きは言うまでもなく美味かった。

 

 

 

 

 

少し遅めの昼食を終えた後は、適当に雑貨店やカードショップなどをひやかして回った。その後はカラオケに行って、気づけば2時間以上も歌っていた。

消耗したカロリーをたい焼きで補い、一緒に買ったカフェオレでのどを潤す。そろそろ影が長くなってきた。油断しているとあっという間だ。

ベンチの隣にあったゴミ箱にたい焼きの包み紙を放り込む。

「遊蓮くんが心配してたこと、たぶん当たってたと思う」

餡子とカスタードのたい焼きを食べ終えた響が、ぼそりと呟く。

「デュエルアカデミアに行くって言ってたら、わたしもついていったと思うんだ」

ああ、どうやら俺は自意識過剰の勘違い野郎にならなくてすんだようだ。

「わたしと遊蓮くんってさ、出会ってから大体ずっと一緒だったじゃない? だから怖いんだ。一度離れたら、そのままどっかに行っちゃいそうで」

離れたら、か。まさか俺の名前、遊「蓮」から連想したわけでもないだろうが。

「……俺の行くところが、他にあると思うのか? 俺がいるべき場所は、いつだっておまえの隣だ」

互いの視線が絡み合い、夕陽に照らされた影が重なる。

スピーカーから流れてきたパッヘルベルのカノンは、いつもより優しく耳に響いた。

 

 

 




今度こそ本当に終わりです。
最後までお付き合いありがとうございました。
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