その日の俺はご機嫌だった。上機嫌だった。
先日の奏さんとのデュエルでいただいた「寸志」というのが、中学生にしてはなかなかの高額な謝礼だったのだ。それに釣られたわけではないが、あれ以降もたびたびデータ取りのバイトをしている。何のデータを取っているのかは教えてもらえなかったり、何故か他言無用と念押しされたり、毎度毎度アイマスクとヘッドフォンをつけられたりと、辟易することも多々あるが、それを差し引いても割の良いバイトだった。
「はむはむ、最近の遊蓮くんは羽振りがいいねぇー」
だからこそこうして、放課後に響に奢ってやることもできるわけだ。
「さてさて、お腹も膨れたことだし、そろそろ始めようか、遊蓮くん」
「なんだ、また俺の連勝記録を更新させてくれるのか? 響は本当にいいやつだなぁ」
「むー、そうはいかないよ。昨日、未来と一緒にデッキ調整したからね。遊蓮くんじゃ、すでに役不足だよ」
なんだこのデジャヴ。
『デュエルッ!』
――十五分後、そこには地面と濃厚なキスをする響の姿が!
「ずるいずるいッ! 封魔の呪印はさすがにずるいよッ!」
《封魔の呪印》
カウンター罠
手札から魔法カードを1枚捨てる。
魔法カードの発動と効果を無効にし、それを破壊する。
相手はこのデュエル中、この効果で破壊された
魔法カード及び同名カードを発動する事ができない。
「あそこでミラクルフュージョンを引けなかった響が悪いな。ちゃんとデスティニードローしろよ」
「ちゃんとデスティニードローするってなに!? そんなに都合良く引けないよッ!」
「都合良く引くのが主人公だろ。つまりおまえには主人公力が足りない」
「主人公力ってなにさ。それにわたしはどっちかっていうとヒロイ――」
「む、ちょっとまて、メールだ」
「今大事なとこだったのにッ!」
櫻井さんからか。えーと、今から? 随分急だな。
「悪い、響。急用ができた」
「また例のバイト? 何してるか教えてくれないけど」
「守秘義務があってな。まあ別にやましい仕事じゃないよ」
「……ならいいんだけど」
話してくれないのが不満なんだろうな。でも本当にやましい仕事じゃない……と思う、たぶん。
「遊蓮くんは主にドラゴンデッキを使ってるみたいだけど、やっぱり拘りとかあるのかしら?」
「これといって特には、強いて言うなら入手しやすさですかね」
櫻井さんの疑問に、迷いなく本心を告げる。この世界にも人気のカテゴリーというものがあって、ドラゴン族や戦士族は人気が高い。なのでカードが入手しやすいのだ。初心者は予算の問題もあって、大体この2種族から始めることが多い。俺も例外なくドラゴンデッキから始めて、今でもそれを使っている。響は戦士デッキだな。今ではちょっと中途半端なヒーローデッキだけど。
「そうなの? 実は、このデッキを使ってもらいたくてね。いいかしら?」
そう言ってデッキを丸々手渡してきた。それにざっと目を通す。ふむ、サイキック族か。でもなんか整合性がないような気もするが……まあいいか。
「いいですよ。知らないカードを使うのも面白そうですからね」
実際サイキック族ってほとんど使った記憶がないんだよな。
「よかった。それと、今日は私が相手するけど、手加減なんてしないでネ」
櫻井さんはウィンクしながらそう言った。不覚にもドキッとしてしまう。でもデュエルできたんだな、この人。
『デュエルッ!』
いつものようにバンドを装着しながらデュエルは始まった。
「先攻は私ね、ドロー。私は《先史遺産ネブラ・ディスク》を召喚。ひとつめの効果で《先史遺産クリスタル・スカル》を手札に加えるわ」
《先史遺産ネブラ・ディスク》
星4/光属性/機械族/攻1800/守1500
このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。
デッキから「先史遺産ネブラ・ディスク」以外の
「オーパーツ」カード1枚を手札に加える。
(2):このカードが墓地に存在し、自分フィールドのモンスターが
「先史遺産」モンスターのみの場合に発動できる。
このカードを守備表示で特殊召喚する。
この効果を発動するターン、自分は「オーパーツ」カード以外の
カードの効果を発動できない。
「そして手札のクリスタル・スカルの効果発動。このカードを捨てて、デッキから《先史遺産ゴールデン・シャトル》を手札に加える。カードを2枚伏せてターンエンドよ」
櫻井了子 LP4000 手札4 モンスター1 伏せ2
――――――――――――
「俺のターン、ドロー」
さて、相手はオーパーツか。パターンに入れば瞬殺されるな。うーん、どう動くかな。
「速攻魔法《緊急テレポート》を発動。デッキから《サイコ・コマンダー》を特殊召喚。そして《シンクロ・フュージョニスト》を通常召喚。レベル2のシンクロ・フュージョニストにレベル3のサイコ・コマンダーをチューニング。《マジカル・アンドロイド》をシンクロ召喚」
《マジカル・アンドロイド》
星5/光属性/サイキック族/攻2400/守1700
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
自分のエンドフェイズ時、自分フィールド上のサイキック族モンスター1体につき、自分は600ライフポイント回復する。
「シンクロ・フュージョニストの効果で《ミラクルシンクロフュージョン》を手札に加えます。そしてバトル。マジカル・アンドロイドでネブラ・ディスクを攻撃」
「リバースカードオープン、《重力解除》。フィールド上の全ての表側表示モンスターの表示形式を変更するわ」
激突寸前だったマジカル・アンドロイドとネブラ・ディスクが水を差されたように後退する。
「俺はカードを2枚伏せてターンエンド。エンドフェイズにマジカル・アンドロイドの効果でライフが600回復します」
音羽遊蓮 LP4600 手札3 モンスター1 伏せ2
櫻井了子 LP4000 手札4 モンスター1 伏せ1
――――――――――――
「私のターン、ドロー。私は永続魔法《先史遺産-ピラミッド・アイ・タブレット》を発動。フィールドの「先史遺産」モンスターの攻撃力は800アップするわ」
先史遺産ネブラ・ディスク 攻撃力 1800 → 2600
「そして条件を満たしたので、《先史遺産アステカ・マスク・ゴーレム》を特殊召喚」
《先史遺産アステカ・マスク・ゴーレム》
星4/地属性/岩石族/攻1500/守1000
自分のターンに自分が「オーパーツ」と名のついた魔法カードを発動している場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
「先史遺産アステカ・マスク・ゴーレム」は自分フィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
アステカ・マスク・ゴーレム 攻撃力 1500 → 2300
「ネブラ・ディスクを攻撃表示に変更してバトルフェイズに移行。まずはアステカ・マスク・ゴーレムでマジカル・アンドロイドを攻撃」
マジカル・アンドロイドがアステカ・マスク・ゴーレムのパンチで粉砕される。手札にはゴールデン・シャトルもあったはずだが、温存したのか?
「続けてネブラ・ディスクでダイレクトアタック」
音羽遊蓮 LP4600 → 2000
「メインフェイズ2に移行してネブラ・ディスクとアステカ・マスク・ゴーレムでオーバーレイ。《No.36 先史遺産-超機関フォーク=ヒューク》を守備表示でエクシーズ召喚」
《No.36 先史遺産-超機関フォーク=ヒューク》
ランク4/光属性/機械族/攻2000/守2500
「先史遺産」と名のついたレベル4モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターの攻撃力をターン終了時まで0にする。
この効果は相手ターンでも発動できる。
また、自分フィールド上の「先史遺産」と名のついた
モンスター1体をリリースして発動できる。相手フィールド上の、
元々の攻撃力と異なる攻撃力を持つモンスター1体を選択して破壊する。
出たな攻撃力0にするマン。ちなみにナンバーズは特別なカードではない。持っていると精神が汚染されるとか、世界に1枚しかないとか、ナンバーズはナンバーズでしか倒せないとか、そういうのは一切ない。本当にごく普通のカードだ。冷静に考えてみれば、そんな非ィ科学的なことなんてあるはずないしな。
「私はこれでターンエンド」
「エンドフェイズに《強制脱出装置》をフォーク=ヒュークに発動」
「あらぁ、酷いわね、せっかく召喚したのに」
緊張感のない、大して残念そうでもない声が漏れる。
櫻井了子 LP4000 手札3 モンスター0 伏せ1
音羽遊蓮 LP2000 手札3 モンスター0 伏せ1
――――――――――――
「俺のターン、ドロー。2枚目の《緊急テレポート》を発動。デッキから《クレボンス》を特殊召喚。そして伏せておいた《ミラクルシンクロフュージョン》を発動。フィールドのクレボンスと墓地のマジカル・アンドロイドを除外して《アルティメットサイキッカー》を融合召喚」
《アルティメットサイキッカー》
星10/光属性/サイキック族/攻2900/守1700
サイキック族シンクロモンスター+サイキック族モンスター
このカードは融合召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚する事ができる。
このカードはカードの効果では破壊されない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
また、このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分だけ自分のライフポイントを回復する。
「さらに《沈黙のサイコウィザード》を通常召喚。効果で墓地のサイココマンダーを除外します」
《沈黙のサイコウィザード》
星4/地属性/サイキック族/攻1900/守 0
このカードが召喚に成功した時、
自分の墓地に存在するサイキック族モンスター1体を選択してゲームから除外する事ができる。
このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
このカードの効果で除外したモンスターを特殊召喚する。
これで総攻撃力は相手のライフを上回った。攻撃が決まれば勝てる。ってこれ、完全にフラグだよな。
「バトルフェイズ。沈黙のサイコウィザードでダイレクトアタック」
「リバースカードオープン、《和睦の使者》。効果は知ってるわよね?」
「……メインフェイズ2に移行して、魔法カード《サイコ・フィール・ゾーン》を発動。除外されているクレボンスとマジカルアンドロイドを墓地に戻し、シンクロ召喚。《サイコ・ヘルストランサー》を守備表示で特殊召喚」
《サイコ・ヘルストランサー》
星7/地属性/サイキック族/攻2400/守2000
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
1ターンに1度、自分の墓地のサイキック族モンスター1体をゲームから除外して発動できる。
自分は1200ライフポイント回復する。
「効果で墓地のクレボンスを除外して、ライフを1200回復します」
音羽遊蓮 LP2000 → 3200
これでライフにはかなり余裕ができたが、終わるときは一瞬だからな。
「ターンエンドです」
音羽遊蓮 LP3200 手札1 モンスター3 伏せ0
櫻井了子 LP4000 手札3 モンスター0 伏せ0
――――――――――――
「私のターン、ドロー。私は手札の《先史遺産クリスタル・ボーン》を特殊召喚。そして効果発動、墓地のクリスタル・スカルを特殊召喚」
《先史遺産クリスタル・ボーン》
星3/光属性/岩石族/攻1300/守 400
相手フィールド上にモンスターが存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。
この方法で特殊召喚に成功した時、
自分の手札・墓地から「先史遺産クリスタル・ボーン」以外の
「先史遺産」と名のついたモンスター1体を選んで特殊召喚できる。
「続けて墓地のネブラ・ディスクの効果発動。自分フィールドのモンスターが「先史遺産」モンスターのみの場合、このカードを守備表示で特殊召喚できるわ。そしてゴールデン・シャトルを通常召喚」
《先史遺産ゴールデン・シャトル》
星4/光属性/機械族/攻1300/守1400
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。
自分フィールド上の全ての「先史遺産」と名のついたモンスターのレベルを1つ上げる。
あっという間に4体のモンスターが並ぶ。ああ、これは勝負あったな。
「ゴールデン・シャトルの効果発動。レベルがひとつ上がるわ」
《先史遺産クリスタル・ボーン》 レベル3 → レベル4
《先史遺産クリスタル・スカル》 レベル3 → レベル4
《先史遺産ネブラ・ディスク》 レベル4 → レベル5
《先史遺産ゴールデン・シャトル》 レベル4 → レベル5
「クリスタル・ボーンとクリスタル・スカルでオーバーレイ、《No.36 先史遺産-超機関フォーク=ヒューク》をエクシーズ召喚。続けてネブラ・ディスクとゴールデン・シャトルでオーバーレイ、《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》をエクシーズ召喚」
《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》
ランク5/光属性/機械族/攻2400/守1500
レベル5モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターの攻撃力と、その元々の攻撃力の差分のダメージを相手ライフに与え、
与えたダメージの数値分だけこのカードの攻撃力をアップする。
いやー懐かしいな。よく《ガガガガール》と一緒に使ってたわ。
「まずはフォーク=ヒュークの効果でアルティメットサイキッカーの攻撃力を0に、そしてマシュ=マックの効果でダメージを与えるわ」
音羽遊蓮 LP3200 → 300
「マシュ=マックの攻撃力は2900アップ。アルティットサイキッカーに攻撃。受けなさい、ヴリルの火をッ!」
音羽遊蓮 LP 300 → 0
デュエルディスクから無情のブザーが鳴り響く。
「参りました。強いですね」
「ふふ、まあそれなりにはね。それに貴方の本来のデッキじゃないんだから、自慢にはならないわ。ところで、身体の調子はどう? 気分は悪くない?」
「いえ、特には。まあちょっと疲労は感じますが、慣れないデッキを使ったからでしょう」
「……へぇ、なるほど、なるほど」
櫻井さんは得心がいったように何度も頷いた。ひとりで納得するのはやめてくれないかな。対応に困る。
「うんうん、これで研究も捗りそうだわ。じゃあ今日はこれまでにしましょう。つきあってくれて、ありがとネ。はいこれ、今日のお礼」
櫻井さんは俺に封筒を渡すと、上機嫌で去って行った。相変わらずよく分からない人だな。
ふぅっと息をついて、先ほどのデュエルを思い返す。なんとなく、決められたレールの上を走っているように感じたのは、きっと気のせいだろう。