いつものようにバイトへ行くと、通されたのはデュエルフィールドではなく応接室だった。視線の先には赤いシャツの偉丈夫がこちらを見下ろしている。
「挨拶が遅くなって申し訳ない。俺はここの責任者でな、名前は風鳴弦十郎という。よろしく頼む」
風鳴さんはにかっと笑って握手を求めてきた。
「どうも、改めまして音羽遊蓮です。風鳴ということは翼さんとは……」
「うむ。俺は彼女の叔父にあたる。同じ風鳴でややこしいだろうからな。名前で呼んでくれてかまわん。まずは色々と事情があって挨拶が遅れたことを詫びよう。そして、そろそろ君にもうちのことを説明してもよいだろうと思ってな」
「なるほど。まあ、多少は気になっていたので助かります」
本当は説明なんてされずに終わると思っていたが、そうでもなかったらしい。
「ここはS.O.N.G.という組織でな。簡単に言うとデュエル関連の国際警察のようなものだ」
さすがにそれは予想外だった。セキュリティみたいなものかな? ヤツをデュエルで拘束しろ、的な。何かの研究所だと思っていたが、警察だったとは。
「主にレアカードを強奪するような、悪質なレアハンター共を相手にしている。巧妙な奴らだ。なかなか尻尾を捕ません」
やっぱりいるんだな、そういう奴ら。
「データ取りと称して調査していたのは、君のデュエルエナジーについてだ」
そっちのほうが驚きだよ。俺はいつの間にか『デスクロージャー・デュエル』をさせられていたのか。
「ええと、何のためにですか?」
「うむ。実はデュエルエナジーについてはよく分かっていない。この未知のエネルギーを活用する方法を模索しているのが現状だ。詳しいことは了子くんに訊いてくれ」
「……はあ」
「まあ、彼女が暴走するようなら……むっ」
そこで弦十郎さんは部屋の入口に視線を移した。不意に訪れた静寂を裂いて、大音でドアが開け放たれる。
「大変よッ! 遊蓮くんッ!」
「噂をすれば、か。どうした了子くん。そんなに慌てて」
乱入してきた櫻井さんは、弦十郎さんには目もくれず、俺へと詰め寄ってきた。
「貴方のお友達の立花響ちゃんが、病院に運ばれたらしいわ」
……なんですと?
病室には寝息をたてている響に、未来が付き添っていた。容体を尋ねると、外傷はなく心身が衰弱している状態らしい。深刻ではないが、しばらくの入院が必要だと。
「おばさんもきてたの。入院の準備をするために一度帰るって」
「そうか」
とりあえず命に別状はないようで安心する。先ほどあんな話を聞かされたからか、少し気になってベッドの隣に置かれている響のデッキに手を伸ばした。
……なくなっているカードはない。
「遊蓮くん、少しいい?」
「ええ、ちょっと待ってください。――未来、響のこと頼むな」
「え、うん」
いつも以上に真面目な表情の櫻井さんに促されて病室を出る。休憩室に腰を下ろすと、櫻井さんはゆっくりと口を開いた。
「響ちゃんはね、デュエルエナジーを吸い取られたのよ」
「デュエルエナジーを?」
「最近増えてるのよ。過労や衰弱で運ばれる人が。そして、その人達はデュエルディスクを装着していたの」
「つまり、デュエルで敗北して、デュエルエナジーを吸い取られたと?」
まるでアニメだな。自分でも妄想じみた言葉だと思ったが、櫻井さんはにこりともせず頷いた。
「暴行のあともないし、何かを盗られたわけじゃないから、警察も動いていないわ。本人にしてみても、デュエルをして疲れたとしか思っていないでしょうね」
「……なるほど。襲った相手のことは?」
「覚えていないらしいわ」
うーむ。言っている意味は分かるが、何が言いたいのかが分からないので続きを待つ。櫻井さんはしばらく口を噤んだが、ようやく言葉を続けた。
「……嫌な予感がするの。何かの予兆のような。弦十郎くんも動いてはいるみたいだけど、あまり芳しくないみたいね。だから貴方も……気を付けなさい」
気を付ける……か。起こってもいないことに対して不安になるのはどうかと思うが、とりあえず生返事をするしかなかった。
櫻井さんを見送って、特にできることもないと気付く。
響のお母さんに挨拶をして、未来と一緒に病院をあとにした。バス停で未来と別れ、ひとり歩く。夕焼けに染まる空を眺めながら。辺りの色が茜色から薄闇色に変わり始めたとき、景色が動いた。
「……音羽遊蓮。貴方にデュエルを申し込むわ」
直観的に理解する。目の前の女が響を襲った犯人だと。嫌な予感ほど当たるものだ。
「申し訳ないけれど、貴方に拒否権はないの」
女のデュエルディスクから光が伸びてくる。それは俺のデュエルディスクと繋がった。
「デュエルディスクが、勝手にデュエルモードに!?」
「さあ、始めるわよ」
「――チッ」
『デュエルッ!』
「俺のターン、ドロー。俺はモンスターをセット、カードを2枚伏せてターンエンド。……なあ、名前くらい教えてくれてもいいんじゃないか?」
音羽遊蓮 LP4000 手札3 モンスター1 伏せ2
――――――――――――
「いいわよ。どうせ忘れるでしょうけど、教えてあげるわ。私の名前は『M』」
さすがに本名は名乗らんか。
「マイターン、ドロー。魔法カード《デステニー・ドロー》を発動。手札の《D-HERO ディアボリックガイ》を捨てて、2枚ドロー。《D-HERO ドリルガイ》を通常召喚。そして効果発動、手札の《D-HERO ドローガイ》を特殊召喚し、ひとつめの効果を発動。お互いに1枚ドローする」
《D-HERO ドリルガイ》
星4/闇属性/戦士族/攻1600/守1200
「D-HERO ドリルガイ」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。
このカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ「D-HERO」モンスター1体を手札から特殊召喚する。
(2):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、
その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
《D-HERO ドローガイ》
星4/闇属性/戦士族/攻1600/守 800
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが「HERO」モンスターの効果で特殊召喚に成功した場合に発動できる。
お互いのプレイヤーは、それぞれデッキから1枚ドローする。
(2):このカードが墓地へ送られた場合、次のスタンバイフェイズに発動できる。
このカードを墓地から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。
「バトル。ドリルガイでセットモンスターを攻撃」
「セットモンスターは《仮面竜》。この効果でデッキから2体目の《仮面竜》を守備表示で特殊召喚」
「ドリルガイは貫通効果を持っている。続けてドローガイで《仮面竜》を攻撃」
「効果でデッキから《アームド・ドラゴン LV3》を特殊召喚」
「私はカードを1枚伏せてターンエンド」
『M』 LP4000 手札4 モンスター2 伏せ1
音羽遊蓮 LP3500 手札4 モンスター1 伏せ2
――――――――――――
「俺のターン、ドロー。スタンバイフェイズに《アームド・ドラゴン LV3》を墓地に送り、デッキから《アームド・ドラゴン LV5》を特殊召喚。さらに魔法カード《レベルアップ!》を発動。《アームド・ドラゴン LV5》を墓地に送り、デッキから《アームド・ドラゴン LV7》を特殊召喚」
《アームド・ドラゴン LV7》
星7/風属性/ドラゴン族/攻2800/守1000
このカードは通常召喚できない。「アームド・ドラゴン LV5」の効果でのみ特殊召喚できる。
(1):手札からモンスター1体を墓地へ送って発動できる。墓地へ送ったそのモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ、相手フィールドのモンスターを全て破壊する。
「アームド・ドラゴンの効果発動。手札の《アサルトワイバーン》を墓地に送り、その攻撃力以下の相手モンスターをすべて破壊する。ジェノサイド・カッター! 」
アームド・ドラゴンの放った風刃によって2体のD-HEROが破壊される。
「――クッ!」
「そして《アレキサンドライドラゴン》を通常召喚」
《アレキサンドライドラゴン》
星4/光属性/ドラゴン族/攻2000/守 100
アレキサンドライトのウロコを持った、非常に珍しいドラゴン。
その美しいウロコは古の王の名を冠し、神秘の象徴とされる。
――それを手にした者は大いなる幸運を既につかんでいる事に気づいていない。
「バトル。アレキサンドライドラゴンでダイレクトアタック」
『M』 LP4000 → 2000
「続けてアームド・ドラゴンでダイレクトアタック」
「それは通さない。《
「――チィ、カードを1枚伏せてターンエンド」
音羽遊蓮 LP3500 手札1 モンスター1 伏せ3
『M』 LP2000 手札4 モンスター0 伏せ0
――――――――――――
「マイターン、ドロー。スタンバイフェイズにドローガイを特殊召喚。ドローガイの効果は……発動しない。そして墓地のディアボリックガイの効果発動。このカードをゲームから除外して、デッキから同名カードを特殊召喚する。続けて魔法カード《融合》を発動。フィールドの――」
「それにチェーンして《崩界の守護竜》を発動。アレキサンドライドラゴンをリリースし、フィールドのカード2枚を破壊する。ディアボリックガイとドローガイを破壊。ディアボリックガイは墓地に、ドローガイはゲームから除外される」
「――な、くぅ!」
一度発動した融合は止まらない。不発にならないということは、手札に融合素材があるということだろう。ならば融合しなければならない。
「私は手札の《D-HERO ディバインガイ》と《D-HERO ダッシュガイ》を融合。来なさい、《D-HERO ディストピアガイ》」
《D-HERO ディストピアガイ》
星8/闇属性/戦士族/攻2800/守2400
「D-HERO」モンスター×2
「D-HERO ディストピアガイ」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが特殊召喚に成功した場合、
自分の墓地のレベル4以下の「D-HERO」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。
(2):このカードの攻撃力が元々の攻撃力と異なる場合、
フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊し、このカードの攻撃力は元々の数値になる。
この効果は相手ターンでも発動できる。
「墓地のドリルガイを対象に、ディストピアガイの効果発動。ドリルガイの攻撃力1600のダメージを相手に与える」
「チェーンして《ダメージ・ダイエット》を発動。このターン自分が受ける全てのダメージは半分になる」
音羽遊蓮 LP3500 → 2700
「《D-HERO ディシジョンガイ》を通常召喚してバトル。まずはディストピアガイでダイレクトアタック。ディストピアブローッ!」
「リバースカードオープン、《因果切断》。手札を1枚捨てて、ディストピアガイをゲームから除外する」
「ならばチェーンして手札から速攻魔法《融合解除》を発動。ディストピアガイをエクストラデッキに戻し、墓地のダッシュガイとディバインガイを攻撃表示で特殊召喚。バトル続行よ。ディバインガイ、ディシジョンガイ、ダッシュガイでダイレクトアタック」
音羽遊蓮 LP2700 → 1900 → 1100 → 50
「ダッシュガイはバトルフェイズ終了時に守備表示になる。私はこれでターンエンド。エンドフェイズにディシジョンガイの効果で、墓地のドリルガイを手札に加える」
『M』 LP2000 手札1 モンスター3 伏せ0
音羽遊蓮 LP 50 手札0 モンスター0 伏せ0
――――――――――――
「俺のターン」
手札は0。モンスターも伏せカードもなし。ライフは僅かに50。おそらくこれがラストドローになる。
デッキに触れる。カードから指先に熱が伝わってくる。今なら引ける。その確信がある。
響の声が、響の心が、響の魂が――。
「――俺に力を与えてくれるッ! ドローッ! これが俺たちの絆ッ! 魔法カード《ミラクル・フュージョン》を発動。墓地の《E・HERO エアーマン》と《アームド・ドラゴン LV7》を除外して融合召喚ッ!」
「エアーマンッ!? そんなカードいつ……そうか《因果切断》、あの時かッ!」
「繋がる絆が、新たな風を呼び覚ます! 疾風怒濤の力を見るがいい! 現れろ! 《E・HERO Great TORNADO》!!」
竜巻の中から風のヒーローが出現する。その衝撃波で3体の闇のヒーローがたたらを踏んだ。
《D-HERO ダッシュガイ》 守備力1000 → 500
《D-HERO ディバインガイ》 攻撃力1600 → 800
《D-HERO ディシジョンガイ》 攻撃力1600 → 800
《E・HERO Great TORNADO》
星8/風属性/戦士族/攻2800/守2200
「E・HERO」モンスター+風属性モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
(1):このカードが融合召喚に成功した場合に発動する。
相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力・守備力は半分になる。
「バトルッ! グレイト・トルネードでディバインガイに攻撃、スーパーセルッ!!」
『M』 LP2000 → 0
「――くうぅッ! まさか、私が負けるなんて。だが、目的は果たした。さらばだ、音羽遊蓮!」
「な、逃がすかッ!」
俺は慌てて追いかけようとしたが、それは叶わなかった。膝が笑っている。けっきょく俺は、風にたなびく鴇色の髪を、目で追うことしかできなかった。
響のデッキを確認したときに、3枚借りてましたというオチ。
もちろん書置きはしてます。
カードも後日返却しました。