シンフォギア世界とデュエルモンスターズ   作:乾燥海藻類

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今回はデュエルをしない話

震える膝に活を入れて、なんとか自宅に辿り着いた。食事もとらずに、そのままベッドへと倒れこむ。母が出張だったのは幸いだった。さすがに説明するのは面倒だ。

どうやらそのまま眠ってしまったらしい。気づけば宵闇は抜け、払暁となっていた。まだだるさは残っていたが、寝込むほどではない。

シャワーを浴びて朝食をとった後、櫻井さんに電話をかける。コールが数回鳴ったあと、少し気だるそうな声が聞こえてきた。

「朝早くにすいません。今大丈夫ですか?」

「……徹夜明けでね、緊急じゃないのなら、後にしてほしいってところかしら」

「では結果だけ。昨夜、襲われました。おそらく響を襲ったやつだと思います。詳しいことは放課後にそちらで話します。迎えをお願いできますか?」

電話口で息を呑む音が聞こえた。それでも櫻井さんは平静を保とうとしたらしく、俺は黙って返答を待った。

「こうして会話してるということは無事だったのね。相手はどんなやつだった?」

「性別は女、鴇色の髪で整った顔立ち、身長は165cm前後、年齢は十代後半、おそらく日本人ではない。そんなところです」

「なるほど、こちらでも調べておくわ。じゃあ放課後に、いつもの場所に迎えをよこすわ」

「はい、お願いします」

 

 

 

 

 

授業中に身体を休めたおかげで、随分と体調は回復した。放課後にいつもの場所へ行くと、見慣れた黒い車と黒服の男性、緒川さんが待機していた。

車に乗り込むと、そのまま走り出す。

「あれ? 目隠しとヘッドフォンはいいんですか?」

「ええ、司令からはそのように伺っています。遊蓮くんは信頼を勝ち取ったということですよ」

司令……弦十郎さんか。司令ね、しっくりくる呼び方だな。俺もそう呼ぼうかな。

車はとある学校のような施設に入っていった。学校ではない、学校のような施設だ。

「まさかデュエルアカデミアの敷地にあったとは……」

思わず声が漏れる。デュエルアカデミアは世界に六校あるプロデュエリストの養成所だ。そしてここ、デュエルアカデミア-リディアン校はその下部組織のようなもので、簡単に言えば一種の予備校にあたる。

落ちるようなエレベーターに乗り込み、通されたのはいつかの応接室。すでに司令と櫻井さんがこちらを待ち構えていた。

「まずは、これを見て」

櫻井さんは手に持ったタブレットをこちらによこした。そこに映っていたのは間違いなくあの襲撃者だった。

「間違いありません。俺を襲ったのは彼女です」

「そう。その娘は『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』。数か月前に失踪した、デュエルアカデミアの姉妹校、アークティック校の生徒よ」

「失踪……ですか?」

「ええ、彼女は優秀な生徒でね。成績もトップクラス、少し真面目過ぎるきらいはあったけれど、皆から慕われていた生徒だったわ。中等部の生徒とも交流があって、彼らの憧れの存在だったとも聞いてる。だからこそ、失踪した理由が分からない。何かの事件に巻き込まれた……なんて噂もされてるわね」

「…………」

なんと返して良いか分からず押し黙る。

「デュエルしてどうだった? 彼女の印象は」

「……楽しそうではありませんでしたね。義務感というか使命感というか、そういったもので戦っている。そんな印象を抱きました」

「やはりこれは、単純な襲撃事件ではなさそうだな」

司令は唸るようにそう言った。

 

 

 

 

 

あれから十日ほど経ったが、襲撃はピタリと止んでいた。あのとき『M』……マリアは『目的は果たした』と言っていた。目的というのは、やはりデュエルエナジーだろう。櫻井さんに言わせれば、俺のデュエルエナジーは稀なものらしく、総量も純度もかなり高い数値を示しているらしい。それが関係しているのだろうか。

S.O.N.G.も調査を続けているが、司令や櫻井さんの表情を見るかぎりは、進捗がないことは明白だった。

響はすでに退院しており、いつもの元気を取り戻している。響にカードを借りたことは書置きを残しておいたのだが、最初はそれに気づかず大層慌てたらしい。

帰り道、響と未来と別れてひとり歩いていた。そちらに視線を移したのは本当に偶然だった。

直観に近い感覚で走り出す。考えるよりも早く、足は動いていた。背後から声を掛けようと思ったが、また逃げられてはかなわないと思い、腕を取った。

マリアが振り向く。

「――ッ!?」

俺が発しようとした言葉は空気に溶けた。マリアはこちらを振り向いたが、瞳は俺を映してはいなかった。ただ茫洋として、視線の焦点が定まっていない。

一瞬の間があって、マリアはようやく自分の腕が掴まれていることに気付いたのか、一度そちらを見やってから、茫然としたままこちらへと瞳を向けた。

「…………幻魔」

マリアはただ一言そう言い残して、意識を手放した。

 

 

 

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