言い出しっぺの法則と言うべきか、俺は切歌と休憩室でテーブルデュエルをしながら勉強会を行っていた。
「スペルスピードは重要だ。基本的にカウンター罠にはカウンター罠しかチェーンできない」
「なるほどデス」
「時と場合は常に意識しておけ。「~した時」と「~した場合」は違うものだからな。だからこの「時の効果」は発動できない。タイミングを逃すってやつだ」
「なる……ほど……」
「任意効果と強制効果、誘発効果と誘発即時効果、優先権も念頭に置かなければならない。つまりこの場合は……」
「…………」
切歌は項垂れるように机に突っ伏した。漫画的表現なら頭から白煙が昇っているところだろう。
「切ちゃん、大丈夫?」
様子を見に来た調があったかいものを差し入れてくれた。俺と切歌はそれを飲んで一息つく。
「なんとなくは分かったんデスよ、なんとなくは」
「その感覚は大事だぞ。処理自体はデュエルディスクがやってくれるんだから、何故そうなるのかが理解できてればいいんだ」
そもそも俺だって完璧に理解しているわけじゃない。というか完璧に理解できてる人なんているのかな。……了子さんならしてそうだな。
「焦らなくてもいいんだよ、切ちゃん。あ、そうだ。遊蓮さんはこれ、出るの?」
「ん? チラシ? ふむ、アマチュアの世界大会か」
「世界大会デスとッ!?」
どうやら琴線に触れたらしく、切歌は目を輝かせて肩口からチラシを覗き込んできた。
「おほー。島をひとつ丸々使っての大会デスか。こいつはどえれぇ大会デスよッ! 調、わたしたちも参加するデスよッ!」
「それは無理」
調はにべもなく言い放った。よほどに予想外だったのか、切歌は鳩が豆鉄砲を食ったように固まっている。
「切ちゃん、参加資格をよく見て」
「へ? 参加資格? えーっと、デュエリストレベル6以上……6以上デスとッ!?」
切歌は悲鳴じみた声を上げてのけ反った。デュエリストレベルというのは、柔道や空手の段位みたいなものと考えると分かりやすい。
デュエリストレベル4までは簡単な筆記試験に合格すれば取得できる。レベル5以上は公式大会に記録を残さねばならない。俺の身近な人たちのレベルはこんな感じだ。
風鳴翼 Lv5
天羽奏 Lv5
立花響 Lv6
小日向未来 Lv6
セレナ Lv7
マリア Lv8
翼さんと奏さんはアイドルが本業なので、公式大会に出る時間の確保が難しいらしい。勝率は足りているが、デュエル数が足りていないのだとか。
セレナさんはマリアさんの妹で、住所は日本に移したが、全寮制のデュエルアカデミアに通っているため、面識はない。
形だけとはいえ、俺の上司になったマリアさんは、元デュエルアカデミアのトップクラスだけあって流石のレベルだ。なんとか卒業が認められたため、晴れてレベル8となった。
ちなみに、俺のレベルは7である。
「クッ、デスが、我々は決して諦めてはいけないのデスッ! 司令なら、司令なら何とかしてくれるはずデスッ!」
なにやら妙なテンションになった切歌が突然駆け出した。溺れる者はなんとやら、か。
流石の司令も大会ルールを捻じ曲げることはできなかった。とはいえ、参加はできなかったが、同行は認められた。これだけ大きな大会だと、レアハンターなどのデュエル犯罪者が現れる可能性があるため、S.O.N.G.に出動要請があったのだ。
そしてS.O.N.G.が出立する前日、切歌が自信満々といった表情で勝負を挑んできた。
「マリアに色々と融通してもらって、ようやく新たなデッキが完成したデスよ。そんなわけで、勝負デスッ! わたしのレッドアイズが火を吹くデスよッ!」
ああ、確かにマリアさんはデュエルアカデミアのエリートで、様々な大会で優勝していると聞いた。つまりスペシャルパックの入手機会も多い。あの人も切歌や調には甘いからな。しかし、レッドアイズか……。
「デッキの最終確認をしたい。ちょっと待っててくれ」
「いいデスよー」
えーと、これとこれを抜いて、これを入れてっと、よし。
「じゃあ、やるか」
「やるデスッ!」
『デュエルッ!』
「わたしのターン、ドローデスッ! 《
《
星7/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守2000
真紅の眼を持つ黒竜。
怒りの黒き炎はその眼に映る者全てを焼き尽くす。
切歌の呼び声に応えて、真紅眼の黒竜が飛翔する。
「わたしはカードを2枚伏せてターンエンドデス」
暁切歌 LP4000 手札3 モンスター1 伏せ2
――――――――――――
「俺のターン、ドロー。まずは魔法カード《闇の誘惑》を発動。2枚ドローし、闇属性の《雷獣龍-サンダー・ドラゴン》を除外する。そして雷獣龍が除外されたことで効果が発動。デッキから《雷源龍-サンダー・ドラゴン》を守備表示で特殊召喚する」
この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに持ち主の手札に戻るのだが、まあ今回は関係ない。
「手札の《雷電龍-サンダー・ドラゴン》の効果発動。このカードを捨てて、デッキから同名カードを手札に加える。《雷源龍-サンダー・ドラゴン》をリリースして《超雷龍-サンダー・ドラゴン》を特殊召喚。そしてフィールドから墓地に送られた雷源龍の効果を発動。デッキから同名カードを手札に加える」
「相変わらず、訳の分からない動きをするデッキデスね。雷電とか雷獣とか雷源とか、頭がこんがらがるデスよ。あとやっぱり融合なしで融合モンスターを出すのはズルい気がするデスッ!」
「それを俺に言われてもな。まあ、言いたいことは理解できるが……」
訳の分からないというが、サンダー・ドラゴンの動きはある程度パターン化されていると思う。問題はカード名だな。回している俺でも、サンダー・ドラゴンがゲシュタルト崩壊しそうになるし。あと融合なしで融合するのは、俺もどうかと思う。
「《仮面竜》を通常召喚して、バトルだ。超雷龍で真紅眼の黒竜を攻撃」
「リバースカードオープンデス。《メタル化・魔法反射装甲》を真紅眼の黒竜に装備するデスッ!」
真紅眼の黒竜 攻2400 → 2700
「これで返り討ちデスッ! ダーク・メガ・フレアッ!」
「墓地の雷源龍を除外して、戦闘破壊を無効にする」
「けどダメージは受けてもらうデスッ!」
音羽遊蓮 LP4000 → 3900
「メインフェイズ2に魔法カード《竜の霊廟》を発動。デッキから《サファイアドラゴン》を墓地に送り、更に《魂食神龍ドレイン・ドラゴン》を墓地に送る。カードを2枚伏せてターンエンド」
音羽遊蓮 LP3900 手札3 モンスター2 伏せ2
暁切歌 LP4000 手札3 モンスター1 伏せ1
――――――――――――
「わたしのターン、ドローデスッ! 《
真紅眼の飛竜 攻2600/守2400
「バトルデスッ! 真紅眼の黒竜で仮面竜を攻撃。メタル化の効果で攻撃力がアップデスッ!」
真紅眼の黒竜 攻2700 → 3400
特大の火炎弾を受けて仮面竜が爆散する。
音羽遊蓮 LP3900 → 1900
「仮面竜の効果で、デッキからもう1体の《仮面竜》を守備表示で特殊召喚」
「ムムッ、それを破壊したらアームド・ドラゴンを出すつもりデスね。そうはいかないデス。バトルは終了。カードを1枚伏せてターンエンドデス」
なかなか慎重だな。まああれだけ俺のデュエルを見てれば警戒もするか。
暁切歌 LP4000 手札2 モンスター2 伏せ1
音羽遊蓮 LP1900 手札3 モンスター1 伏せ2
――――――――――――
「俺のターン、ドロー。魔法カード《封印の黄金櫃》を発動。デッキから《雷電龍-サンダー・ドラゴン》を除外する。その効果で、デッキから《雷龍融合》を手札に加えて、発動。除外されている《雷獣龍-サンダー・ドラゴン》と《雷源龍-サンダー・ドラゴン》と墓地の《雷電龍-サンダー・ドラゴン》をデッキに戻して融合召喚。雷雲を切り裂いて現れろ、《雷神龍-サンダー・ドラゴン》!」
《雷神龍-サンダー・ドラゴン》
星10/光属性/雷族/攻3200/守3200
「サンダー・ドラゴン」モンスター×3
このカードは融合召喚及び以下の方法でのみ特殊召喚できる。
●手札の雷族モンスター1体と、「雷神龍-サンダー・ドラゴン」以外の
自分フィールドの雷族の融合モンスター1体を
除外した場合にEXデッキから特殊召喚できる(「融合」は必要としない)。
(1):雷族モンスターの効果が手札で発動した時に発動できる(ダメージステップでも発動可能)。
フィールドのカード1枚を選んで破壊する。
(2):このカードが効果で破壊される場合、
代わりに自分の墓地のカード2枚を除外できる。
「手札の《雷源龍-サンダー・ドラゴン》を捨てて、雷神龍の攻撃力を500アップする。そして――」
「おぉっと、雷源龍の効果にチェーンして《戦線復帰》を発動デス。墓地の伝説の黒石を守備表示で特殊召喚するデスよ」
チェーンを挟んできたか。これは俺のミスだな。ダメージステップに発動すべきだった。
「ならバトルだ。雷神龍で真紅眼の黒竜を攻撃」
暁切歌 LP4000 → 3000
「俺はこれでターンエンドだ」
音羽遊蓮 LP1900 手札2 モンスター2 伏せ2
暁切歌 LP3000 手札2 モンスター2 伏せ0
――――――――――――
「わたしのターン、ドローデスッ! 魔法カード《闇の誘惑》を発動デス。2枚ドローして、《
切歌は手札を眺めて、ニヤリと笑った。大丈夫か? 雷神龍の効果忘れてないか?
「魔法カード《
《流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン》
星8/闇属性/ドラゴン族/攻3500/守2000
レベル7「レッドアイズ」モンスター+レベル6ドラゴン族モンスター
(1):このカードが融合召喚に成功した場合に発動できる。
手札・デッキから「レッドアイズ」モンスター1体を墓地へ送り、
そのモンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを相手に与える。
(2):このカードがモンスターゾーンから墓地へ送られた場合、
自分の墓地の通常モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
「融合召喚成功時の効果を発動するデスよ。デッキから《真紅眼の亜黒竜》を墓地に送り、元々の攻撃力の半分のダメージを相手に与えるデスッ!」
音羽遊蓮 LP1900 → 700
「ニヒッ! タイミングを誤ったデスね。発動した効果は雷神龍でも止められないデスよ。魔法カード《黒炎弾》を発動デス。《真紅眼融合》で特殊召喚したモンスターのカード名は「真紅眼の黒竜」として扱うので、問題なく使えるデスよ。勝ったッ! このデュエルは早くも終了デスねッ!」
《黒炎弾》
通常魔法
このカードを発動するターン、「真紅眼の黒竜」は攻撃できない。
(1):自分のモンスターゾーンの「真紅眼の黒竜」1体を対象として発動できる。
その「真紅眼の黒竜」の元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。
「良き力だ。だがそのコンボは想定内だ。《リフレクト・ネイチャー》を発動」
《リフレクト・ネイチャー》
通常罠
このターン、相手が発動したライフポイントにダメージを与える効果は、
相手ライフにダメージを与える効果になる。
「……へ?」
「俺が受けるダメージは、おまえが受ける」
「あーなるほど、そういうことデスか」
暁切歌 LP3000 → 0
「――ありえないデェェェスッ!!」
デュエルディスクから無情のブザーが鳴り響く。
終始余裕ぶってはいたが、実際のところ結構危なかった。やはりライフ4000だとバーンは怖い。
先攻で《真紅眼融合》と《黒炎弾》の2枚があればゲームエンドだからな。
あと切歌は勘違いしていたようだが、効果処理時に対象の《真紅眼の黒竜》がフィールド上に存在しない場合、ダメージは与えられない。
大会が終わったら、また勉強会だな。