キャプテン・デク / ザ・ロンリー・アベンジャー 作:minmin
なにはともあれ古戦場お疲れ様でした!ハラキリさんもムゲンもいないので、うちはアテナと水着ティナと虚空槍で頑張りました。回避?数撃ちゃ当たります(
「オールマイト先生……なんですよね」
目の前で変化したとはいえ、一応確認する。そうしてしまうほどに僕の前で座り込んでいる姿はNo.1ヒーローからはかけ離れていた。ガリガリに痩せこけた身体。周囲が窪み影で黒く染まった目。戦闘は愚か人によっては日常生活ですら心配するレベルだろう。
「ああ。これが私の本当の姿さ……とは言っても、元々はここまで酷くはなかったがね。これが原因だ」
そう言って先生はコスチュームを捲る。その左脇、肺に近い部分に大きな傷跡があった。今はもう白く塞がっているけれど、明らかに何かを刺された、抉られたような丸い跡。そこから放射状に広がるいくつもの痛々しい縫合痕。……一体どんな攻撃を受ければこうなるというのだろう。庇い方からどこか痛めているのかもしれないとは思ったけど、まさかここまでだなんて想像もしなかった。
「5年前……敵の襲撃で負った傷だ。呼吸器半壊、胃袋全摘。度重なる手術と後遺症で憔悴してしまってね。私のヒーローとしての活動限界は最早1日約3時間ほどなのさ」
5年前……毒々チェーンソー?いや、違う。ここまでやられるとは思えない。
「僕は先生についてそれなり以上に知識を持っていると思います。けれど、そんな話聞いたことがない。公表されていないんですね」
先生が頷く。
「ああ。平和の象徴、No.1ヒーロー……私は常に抑止力であり、悪に屈するところを見せてはならない。私が公表しないでくれと頼んだんだ。知っているのは極僅かの関係者と……この学校の教師陣だけだ」
「教師陣……先程仰ってましたね、先生にはこの学校の教師になったのには事情があると。もしかして、後進の育成に本腰を入れる、とかいう理由で自然に引退しよう、ということでしょうか」
僕がそう言うと先生は『オールマイト』そのままの仕草で笑い声を上げた。
「HAHAHA!!まあ確かに将来的にそうできれば嬉しいが、それなら態々君に事情を明かしたりはしないさ。私の目的は……」
先生が、この手を取ってくれと言うように右手を僕に向かって差し出す。ただ、それは助け起こしてくれということじゃない。もっと大切な何かを譲渡するように。
「……私の『力』、私の『個性』。それは、聖火のように脈々と受け継がれてきたものなんだ。冠された名は『ワンフォーオール』という」
力。個性。それが――受け継がれる?何を言っているんだこの人は。
「私がこの学校に来たのは、後継者を探すためなんだ。……緑谷少年。私の力を、受け継いでみないか」
「――ません!すみません!もしもし!」
耳元で大きな声を出されてふっと我に返る。顔を向けると、テレビのレポーターにマイクを向けられていた。
「オールマイトの授業はどんな感じです?」
「とても為になる授業ですよ」
足を止めて、体を向けて笑顔で言う。こういう手合は、真面目に応えるのも無視するのもよろしくない。『私はきちんと相手をしました』というポーズを見せて、当たり障りのないことかどっちつかずのことを応えるのがコツだ。そうすれば印象に残らない地味な絵になるから大体カットされる、というのがナターシャさんの弁だった。
他の生徒に次々インタビューしているマスコミを後ろに教室へ歩き続ける。考えているのは勿論、オールマイト先生、いや、オールマイトからの話のことだ。
『大変嬉しいお誘いですが……少し、考えさせてください』
憧れのヒーロー。平和の象徴、僕がヒーローを志した理由。そのオールマイトからの誘いを、僕は咄嗟に受けることができなかった。少し前の僕なら、涙を流して喜んだだろうに。……理由は自分でもわかっている。それが余計に心をささくれ立たせてしまう。卑しい理由だと自覚しているから。
教室に着いても上の空のままだ。あぁ、だめだ。こんなんじゃいけないってわかってるのに、思考の堂々巡りが止まらない。
「――やちゃん、緑谷やちゃん。3票入ってるわよ」
肩をゆさゆさと揺すられて意識が現実に戻ってくる。何をしてたんだっけ。――そうだ、学級委員を決めてたんだった。飯田君の提案で投票になったはずだ。
「あ、ごめん。ありがとうあ――梅雨ちゃん」
少し照れつつも言い直した僕を見てにっこり笑う梅雨ちゃん。そんな僕たちを見て麗日さんが怖い顔をしていた。何故だ。
なるべく麗日さんの方を見ないようにしながら黒板を見やると、確かに僕に3票入っている。僕は飯田君にいれたんだけど、一体誰なんだろう。兎に角、このままだと僕が委員長になるらしい。それはちょっと――だめだろう。
「僕に票を入れてくれた人にも、皆にも悪いんだけど――個人的事情で、辞退させてもらえないかな」
「――それで?個人的事情とは一体何だ緑谷君。僕で力になれることなら相談にのるぞ?」
昼休み、食堂で麗日さんと並んで僕の向かいに座る飯田君がカレーを食べつつ言う。隣の麗日さんは満面の笑みで『お米がうまい』を連呼していた。というか今僕って言ったな。
「ちょっと思ってたけど、飯田くんて坊っちゃん?」
「坊っ!!!」
結構ざっくりぐいぐいといくよなあ麗日さん。飯田君の一人称が俺だったのはやっぱり態とだったらしい。代々ヒーロー一家の次男なんだとか。お兄さんはターボーヒーロー・インゲニウム。東京の事務所に65人ものサイドキックを雇ってる人気ヒーローだ。
「規律を重んじ人を導く愛すべきヒーロー!!俺はそんな兄に憧れヒーローを志した。だからこそ、まだまだ未熟だが、そんな俺を推薦してくれた君の力になりたいんだ」
僕の辞退と推薦で委員長になったことに色々感じるものがあったらしい。……眩しいなあ。お兄さんのことといい、地に足がついてるってこういうことを言うんだろう。僕とは大違いだ。
「例えば、僕がプロスポーツの選手だったとして」
「うん?」
突如始まった例え話に2人が首を傾げる。
「そのスポーツは2リーグ制で、僕は書類の不備とかそういう手違いでいきなりもう1つのリーグに無理やり移籍させられたんだ」
「酷い間違いやねえ」
実際の理由は酷い間違いどころじゃなかったけどね。
「仕方ないから僕は暫くそっちで頑張って――最近になって、ようやく元のリーグに戻って来られたんだよ。そしてなんと主将、キャプテンをやらないかと誘われたんだ」
「凄いじゃないか。君ならきっと務まる……いや、委員長も辞退するくらいだったな」
飯田君が難しい顔をする。そう、僕が躊躇う理由は――
「……うん。実はね、そう誘われて初めて、僕は自分が思っていた以上にその別のリーグに愛着が湧いていたことに気づいたんだ。もしも2度と元のリーグに戻れないとしても、もう1度誘われたらひょっとしたら自分から移籍してしまうかもしれないと思うくらいに」
――もしも、あちらの世界と再び繋がったら。もしも、ピーターやサムさん、ローディーさんに助けを求められたら。僕は、母さんや父さん、この世界の友だちに2度と会えなくなるとしても。あちらの世界に飛び込んでしまうかもしれない。そういう考えが頭をよぎる程に、あの6年間は濃密だった。……濃密過ぎたんだ。
「そんな考えで、僕は人を導くような責任を負う資格があるのかなって……そう思ったんだ」
「…………」
何を言ったらいいかわからないという感じで口ごもる2人。気にしなくていいよ、と言おうとしたところで――警報が、鳴り響いた。
たった6年間だけれども、間違いなく人生観が変わる6年間だったはず。
次回は久々のMCUフェイズの予定です。