キャプテン・デク / ザ・ロンリー・アベンジャー 作:minmin
明日からまたKPするので間隔空くと思います。
――ワカンダが開国した。
ウンジャダカ陛下は「ワカンダの技術を各国へ輸出し、アフリカ全土を発展させ黒人の世界的地位を高めることでワカンダの国是が間違っていたことを証明する」つもりらしい。開国はその1歩目だそうだ。段階的ながら観光客や国外の企業の進出も受け入れていくとのことで、陛下の『スターバックスコーヒーワカンダ店でも誘致するか』という言葉にオコエさんが目を輝かせていて、それを見たティ・チャラさんがショックを受けた顔をしていた。
ティ・チャラさんは複雑そうな表情をすることもあるけれど、元気そうに見える。王子、王ではなくなったことで前より身軽になったのか、恋人らしき人に会いにしょっちゅう国外に出ているみたいだった。本人は『他にも連絡を密にすべき人物がいる』と言っていた。僕にも紹介しないと、と。
僕はといえば連日休む間もなくボコボコにされる日々が続いている。陛下曰く『身体は最高のものがある。お前に足りないものは技術と経験だ』とのことで、この世界の常識を学ぶ時間以外は殆ど戦闘漬けの毎日だった。ウカビさんに投げ飛ばされ、オコエさんに小突かれ、たまにふらりとやってくる陛下やティ・チャラさんにこれでもかというほどボコボコにされ、極めつけにバーンズさんの軍隊的トレーニングが待っている。
ワカンダの人たちに『ホワイトウルフ』、『バーンズ軍曹』と呼ばれているバッキー・バーンズさんは軍曹の呼び名の通り元は本職の軍人だったそうだ。ウカビさんやオコエさんに対しては身体能力任せでそれなりに粘ることができても、バーンズさんにはそれが全く通用しない。聞けば僕と同じ薬で身体能力を強化されているそうで、その上で肉体の使い方を熟知している。一矢報いることもできず、完全に遊ばれていた。ただ、本人は『俺はこっちのほうが好きだけどな』と言って銃を持つ構えをしつつ笑っていた。この上にまだ重火器の達人らしく、もうため息しか出ない。
そんな日々が暫く続いて、僕の身体に傷が増えにくくなり、それなりに戦えるようになった頃――僕は、彼に出会った。
デザインやカラーリングについて陛下に呆れられながらもあれこれ注文をつけてようやく完成した盾を受け取った数日後、ティ・チャラさんから突然呼び出されると、何故かそのまま航空機に乗せられて飛び立つことになった。近未来的なエネルギー・シールドを抜けて大空に飛び立つ未来飛行機。……パスポートとか大丈夫なんだろうか。
「私は王族だからな。問題ない。君は……どうしたって問題しかないんだから気にしたって無駄だろう。まあ心配するな」
そう言って朗らかに笑うティ・チャラさん。やっぱり前より明るくなった気がする。
「まあ確かに……僕、パスポートどころか戸籍もないですもんね。それで、今何処に向かってるんですか?」
この世界も、個性云々の話がないだけで基本的な歴史は僕の世界と変わらない。勿論戸籍だってある。元から存在しない人間がパスポートがどうこう心配しても仕方ないか。
「詳細は開かせないがヨーロッパのとある国にあるワカンダ所有の施設の1つだ。そこで君に会いたいという人物と待ち合わせしている。会いたい、会うべきだと言っているし、私もそうすべきだと思う」
「僕が、会うべき人……一体、誰でしょう」
この世界で僕を知っている人なんて、数えるほどしかいないはずだ。そしてその人達は皆ワカンダにいると思っていたけれど。僕がそう言うと、ティ・チャラさんはニヤリと笑った。
「スティーブ・ロジャース……キャプテン・アメリカ。君に輸血し命を救い、君の力の元となり、君と同じ盾を持つヒーローだよ」
「やあ。君がイズクかい?僕はスティーブ・ロジャース。よろしく」
そう言って右手を差し出してきたその人は、驚くほど穏やかな人だった。施設に着く前にジェットの中でキャプテン・アメリカについての映像を見たけれども、正直イメージとは違う。鍛え上げられた肉体はしているけれども、その柔和な雰囲気は軍人とはとても思えなかった。
「い、イズク・ミドリヤです……どうも」
握り返した大きな手に力が込められる。しっかりと力を込めて手がブレないようにすると、ロジャースさんが嬉しそうな顔をした。……なんだか嫌な予感がする。
「それじゃあ、少し身体を動かそうか!」
ロジャースさんの爽やかな笑顔を見て、僕は地獄を覚悟した。バーンズさんと同じ類だ、この人。
「うん、いいな。基礎はできてきてるみたいだし……センスがあるというよりは、考えて動くのが咄嗟にできて苦にならないタイプみたいだな、イズクは」
「あ、ありがとう、ございます…………」
座り込んでピクリとも動けないまま、息切れしつつどうにか返事をする。ずっと僕と同じように、それ以上に動いていたのにロジャースさんは多少汗をかいているくらいで平気な顔をしていた。どういう体力してるんだ、この人。
でも、キツイことを除けば本当に有意義な時間だった。身体の動かし方も、盾の使い方も、戦闘の心構えも……まるで 僕の思っていることが全部わかっているかのように的確なアドバイスをくれる。自分が成長しているのが実感できるから、ついついもうちょっとと頑張ってしまう。それであれだけ厳しいバーンズさんの訓練より消耗してるんだから、ある意味ではより酷いのかもしれないけれど。
「動きに癖……というよりは、オーソドックスな軍隊格闘の特徴があるのか。もしかして、バッキーに教わったのかい?」
バーンズさんを『バッキー』と呼ぶロジャースさん。そういえばさっき見たドキュメンタリーにあったけど2人は確か――
「そう、です……。2人は、幼馴染、なんですよね」
「ああ。幼馴染で、親友で、相棒だった」
その言葉に、一瞬胸が痛くなる。かっちゃん――もう会えない、僕の幼馴染。
「イズク、どうした?」
突然黙り込んだ僕を心配して、ロジャースさんがしゃがんで顔を覗き込んでくる。……純粋なだけじゃない。悲しみも、怒りも、全てを飲み込んだようなその瞳を見て僕は、
「僕にも、幼馴染がいたんです……」
気づけば、全て話していた。『個性』のこと。かっちゃんのこと。無個性である僕と、かっちゃんとの差。齢4歳にして突きつけられた、人は生まれながらに平等じゃないという、社会の現実。
「かっちゃんにとって、僕はずっと『デク』なんです。役に立たない、木偶の坊だから。だから……すみません。バーンズさんのことを嬉しそうにしゃべる貴方を見てたら、ちょっと辛くなっちゃって……」
涙は出ない。出るのは、渇いた笑いだけだ。もう何度も噛み締めた絶望だから。
「でも君は変わらなかった」
言葉と同時に、ロジャースさんが僕の肩に手をかける。顔を上げると、真剣な瞳が僕を見つめていた。
「君がこの世界に来たのは、その幼馴染を助けようとした時なんだろう?……イズク。ヒーローとは、特別な力を持っている者のことをいうんじゃない。心の在り方をいうんだ。善い心で、行動したものがヒーローと呼ばれる。完璧でなくとも、善良なままでいた君は――きっと、その場の誰よりもヒーローだったはずだ」
『――完璧でなくとも、善良な君のままで』
意識が不確かだったとき、死の淵で見た記憶が蘇る。あれは、この人の――
「キャプテン・アメリカだって、最初は軍のマスコットだったんだ。戦いもしない、国債を募るショーに出るだけのプロパガンダだって揶揄もされた。けれど、僕は今もこの名前を誇りに思っている。君も同じだ、イズク。デクという呼び名が、君の誇りになるように、頑張ろう 」
ロジャースさんが、傍らに置いてあった僕の盾を手に取る。オールマイトのコスチュームを模したデザインと、カラーリング。僕のヒーローへの憧れそのもの。それを、アメリカのヒーローの象徴たる人が、僕の手に付けてくれた。
「今日から君は――キャプテン・デクだ」
次回はヒロアカ世界の話に戻ります。
全体的なプロットは大まかに完成してるんですけど、話の進みが遅いな……例えばインターン先のヒーローは予め決めてたりするんですが、最近のジャンプ読んでると衝撃金……