キャプテン・デク / ザ・ロンリー・アベンジャー 作:minmin
「峰田君、準備はいい?」
「ああいいよもうどうにでもなれってんだよコンチクショー!」
割とやけにな声で叫びながら峰田君が頭のもぎもぎを矢継ぎ早にもいで空中に放り投げていく。さあ、いくぞ。ここからはスピード勝負だ。
「――はっ!」
まずは裏拳の要領で1個目を思いっきり弾き飛ばす。
「へぶっ!!」
そのままの勢いで下から掬い上げるように2個目を。身体を捻り、回り、時には飛び上がったりしながら、次から次へともぎもぎを敵を向けて弾き飛ばしていく。もぎもぎ自体に危険性はないと敵が認識するまでにどれだけ命中させられるかが勝負だ。
「ひでぶっ!!」
「あべしっ!!」
……変な悲鳴を上げながら敵たちが意識を失っていく。どうやらいくらある程度の弾力がある峰田君のもぎもぎとはいえ、僕の力で弾き飛ばせば、この距離があってもそれなりの威力になったらしい。予想外だけど好都合だ。僕に広範囲の水を吹き飛ばせるパワーでもない以上、過剰なもぎもぎが水面に広がってしまうことは僕にもひっついてしまう危険性が出てくる。
「クソが、なめやがって!」
ひたすら無心で敵を狙撃していると、ついに1人が水を噴射してもぎもぎを防いだ。そしてそのまま水中に消える。予想通り、水中から再び船自体を攻撃してすぐに沈めるつもりか。
「梅雨ちゃん、頼んだ!」
「ケロ。任せて」
予めしていた打ち合わせどおりに、梅雨ちゃんと同時に空中に飛び出す。梅雨ちゃんが僕の胴に舌を巻きつけながら着水して敵を追い、僕はその間に伏兵がいないか水中を警戒する。……もしかしたらと思っていたけど、どうやら本当にいないらしい。わざわざ雄英に入り込んで下調べ、準備をするくらいの計画だっていうのに、変なところで詰めが甘い。なんというか、チグハグな印象を受ける。
「緑谷ちゃん。いくわよ!」
っと。思考を中断して、梅雨ちゃに向けて頷く。梅雨ちゃんの蛙ならではの泳ぐ力、舌で掴んで振り回される遠心力、それに若干の僕自身の泳ぐ力が合わさって――見事な捻りも加わって、盾を先頭にかまえた人間、いや、超人砲弾になって僕が発射された。敵が驚く気配がするけど、もう遅い。組み付いてしまえば、僕なら水中でも対処できる!
こうして、水難ゾーンでの僕たちの戦いは終了した。
「……ケロ。これからどうするの?」
3人揃って水から久しぶりに上がりながら梅雨ちゃんが言う。周囲の情報が不確かなこの状況でどうするか、悩みどころだ。
「僕は相澤先生に加勢に行くよ。2人は……僕としては、このまま目立たないように隠れつつ、外を目指してほしい。誰か1人でも外部に救援を求めるのが成功した時点で状況はずっとよくなる」
「おいおいおいおいおい!それって俺たちだけで行動しろってか!?敵だらけでどこで鉢合わすかわからないこの状況で!?ふざけんなよ勘弁しろよついてきてくれよなぁ!?」
「…………」
峰田君が泣きながら僕にしがみつく。梅雨ちゃんは何も言わないけれど、よく見ると体が震えている。無理もない。いくら雄英高校の生徒、ヒーローの卵といえど2人はまだ実戦経験もない子どもなんだ。
「……なら、ここにいて。伏兵はいなかったし、水難ゾーンのさっきの敵たちが突破されたって情報がまだ漏れてないなら、梅雨ちゃんの水中での機動力があれば暫くは安全なはずだ。ただ、状況の把握と気絶させただけの敵が目覚めたときのためになるべく水際に」
服から水を絞りながら言う。何度も同じことをしていやになるけど、このままだと重いし体温が奪われていく一方だからやらないよりはましだろう。何より、実戦では服1枚が生死をわけることなんて珍しくもない。
「……わかったわ。気をつけて」
「緑谷ぁ!死ぬんじゃねぇぞぉ!絶対だ、絶対だぞ!」
不安そうな2人の声。背負った盾を、左腕につけて、軽く掲げる。
「――心配ないさ。僕は、キャプテンだ!」
――走る。全速力で走る。
腕を振り、全身の力を振り絞って一瞬でトップスピードに到達する。総合的には疲れ知らずの自動車には及ばないが、瞬間最高速なら公道を走る一般車を凌駕する。僕があちらの世界に飛ばされる少し前、ブラックパンサーとウィンター・ソルジャー、キャプテン・アメリカによる追いかけっこが真っ昼間の公道で展開されたことがあったらしい。全身金属スーツと、金属盾持ちと、片腕金属の大男たちによる超スピードのデッドレース。もし一般人が跳ねられていたら人同士とはいえ酷いことになっていただろう。つまり何が言いたいのかっていうと――
「動き回るのでわかり辛いけど、髪が下がる瞬間が――がっ!」
これくらいの距離なら、手男の左手に掴まれてた相澤先生の肘が壊される前に割り込めるってことだ!
トップスピードのまま飛び上がって顔面を狙った蹴りは、直前で身を捻られて肩にかすっただけだけど、先生を自由にするには十分だったらしい。たたらを踏んで後ずさる手男。油断なく盾を構える。
「大丈夫ですか、イレイザーヘッド」
「ああもうお前は本当に……!さっきから邪魔なんだよお前!?」
激高してその手を振るう手男。その掌を正面から盾で受け止める。今度は逃さないとばかりギリギリと押さえつけてニヤリと笑う。が、その表情が苛立ちに変わるまでそうはかからなかった。やはり、この男の個性も僕の盾には効いていない!
『そのもぎもぎ、僕の盾につけてみてくれないかな。……一応、端っこの方に』
『は?そんなことしたら折角の盾が……』
『いいから。多分、いや、きっと大丈夫だと思う』
結果として、盾にもぎもぎはひっつかなかった。峰田君は驚いていたけれど、僕の中ではある仮説が浮かんでいた。ヴィブラニウムは金属だ。単一の原子のみで構成されている物質。つまり、混じりっけなしの純粋な、異世界の物質。物質に直接影響を与える個性は、影響を与えることはできないんじゃないだろうか。
「ちっ、本当に鬱陶しい……まあいい。本命は、俺じゃない」
「緑谷!下がれ!」
背後から先生の声。同時に、真横から圧倒的な気配。反射的に盾を掲げると、重い拳が遠慮なく突き刺さった。ヴィブラニウムの衝撃吸収性能のおかげで受けた手首は無事でも、衝撃全体は受け流せないほどだ。踏ん張っている足元の地面が割れ、そのまま力づくで押し戻される。距離をとって見えたのは、脳が丸見えになっている、全身真っ黒、傷だらけの大男。
「対平和の象徴、改人“脳無”。オールマイトを殺すための特注品だ。個性を消す?増強型の身体能力?素敵だけど関係ないね。圧倒的な力の前にはつまりただの“無個性”だもの」
手男が嘲るように語る。自らの勝利を確信した、弱者をいたぶるための、悪意に満ちた笑み。
「緑谷、怪我はないか!?」
残りの敵たちを制圧したイレイザーヘッドが駆け寄って僕の横に並ぶ。個性は……発動、してるんだろうな。
「無傷です。イレイザーヘッド、やはりあれは……」
「さっきから個性は発動してる。効いてないようだがな」
やっぱりか。となると、先生ではあの脳無とやらの相手は難しい。1対1になった今なら、発動型の個性らしい手男の方が相性がいいはずだ。なら、僕のやるべきことは……応援が来るまで、あの改人を引き受け続けること。万が一にも、他の生徒のところへ行かせてはいけない。
――思い出せ、あの自信に満ちた、嫌う人も多く、でも何故か憎めないあの人を。
構えをといて、1つ息を吐く。そして拍手だ。ゆっくり大きく。しっかりと聞こえるように。
「……あ?なんだ、絶望のあまり気でも狂ったか?」
手男が訝しげに言う。言葉には出さないが先生もそんな目で僕を見ていた。さあ、緑谷出久、一世一代の演技の始まりだ。
「いや?実に感動的な話だったよ。素晴らしく有意義な意見だった。子守唄には最適だ」
「……あァっ!?」
手男が僕を睨みつける。そうだ、それでいい。
「あ、怒った?ごめんね、そんなつもりはなかったんだ。ほら、ゆっくり深呼吸して……カルシウムのサプリメント飲んでから、あっちで横になってるといい。2時間たったら起こしてあげるからさ、檻の中でね」
「もういい。脳無、バラバラに引きちぎってやれ」
手男の指示と同時に一瞬で距離を詰めてくる脳無。雑に振るわれたその拳を、今度は余裕を持って盾を掲げて受け止める。
「それから1つ訂正だ。僕は増強型の個性じゃない、無個性だよ。それと、圧倒的な力?僕に受け止められてる程度じゃまだまだだね。……せめて、ハルクくらいになってから出直してこい!」
――さあ、今こそ示せ。誰も傷つけさせないという盾の意思を。命を賭してヒーローであった、鉄の遺志を。
ヴィブラニウムが合金だったら破綻するにわか設定。いや、多分単一原子だと思うんですけど。。