キャプテン・デク / ザ・ロンリー・アベンジャー 作:minmin
暫く本誌の動向も見守りますが、とりあえずは「バッキー&翼」の要素を取り入れてプロットを書き進めて行くことにしました。ドラマはかなり人種差別について踏み込んでてよかったですね。そういう要素もこれからこっちでも出てくる予定です。
「……やはり衰えた。全盛期なら、5発も撃てば充分だったろうに。200発以上も撃ってしまったよ」
舞い上がる土埃のなか、平和の象徴が拳を掲げてニヤリと笑う。僕らが苦戦したあの暴力の塊、脳無を真正面からの撃ち合いでねじ伏せてしまった。とはいえ、衰えたというのは本当のはずだ。口の端からは血が溢れている。そして、残されているであろう時間もそう多くはないはず。それを知っているのは、この場では僕だけだろう。
この状況で、最も警戒しなければいけないのは、黒霧という男。僕の体を切断するつもりでいたあの方法で、生徒の誰かを人質に取られてしまうのが一番まずい。幸い、弱点はかっちゃんが暴いてくれた。もう、不覚は取らない。さあ、どう出る敵。
「凄いな。チートだよ……チート。脳無を殴り合いで吹き飛ばしやがった……あーあ、今度こそゲームオーバーだな」
死柄木がガリガリと顔を掻きながら言う。内容こそ不満気だが、その顔は――とても楽しそうに、歪んでいた。
「帰ろっか、黒霧」
「……よろしいのですか?」
黒霧が以外そうに問いかける。油断はしないけれども、僕からも死柄木はどこか気が抜けているように見えた。
「ああ、オールマイトは今はいい。それよりも、俺は――アイツを、殺したくてたまらない」
死柄木がそう言うと、黒霧も、オールマイトも、かっちゃんたちも。その場の全ての視線が、僕に集まった。
「いや、違うな。ただ殺したいわけじゃない。皆の前で、アイツを這いつくばらせて、心をへし折って、痛めつけて嬲って遊んで――アイツを、壊したいんだ」
……笑えない。いや、洒落じゃないし、死柄木が本気だということもわかっているけれども。心の奥底で、僕自身が納得してしまっていることが笑えない。どこかでわかっているんだ。僕も、死柄木と僕は、相容れない存在だということが。
そのまま素直に黒霧のワープゲートに入っていく死柄木。その姿が完全に闇の中に消える直前、唐突にまた口を開いた。
「お前、無個性なんだってな。……名前は?」
「……緑谷出久。いや――」
反射的に答えて、言い直す。僕はヒーローなんだという意思を込めて。
「僕は、キャプテン・デクだ」
「――そうか。ヒーローに、なれるといいな?」
「――雄英体育祭が迫ってる!」
「クソ学校っぽいのきたああああ!!」
クラスの皆の盛り上がりをどこか遠く聞きながら考えるのは、死柄木の最後の言葉だ。
『――そうか。ヒーローに、なれるといいな?』
あれは、どういう意味だったのだろう。皮肉なのは間違いないだろう。けれど、その真意は?
無個性がヒーローになれるわけがないということか。ヒーローになる前に僕を殺したり、はたまた雄英高校自体に何かをしかけるという意味か。……そもそも、ヒーローになるってなんなんだろうか。
「――ク君!デク君!もうお昼やよ?大丈夫?」
「あ、ああ。うん、ありがとう。行こうか」
かけられた声に我に返ると、麗日さんが心配そうな表情で僕の顔を覗き込んでいた。授業も上の空で聞き流しちゃったみたいだし、女の子にこんな顔させるなんてヒーロー失格だな。反省。
「なんでもないよ、ありがとう。早く行かないといっぱいになっちゃうね。飯田君も行こう!」
食堂へ向かって3人で歩く途中、ふと気になって麗日さんがヒーローになりたい理由を聞いてみた。返ってきた答えは――
「お金?」
「究極的に言えば……なんかごめんね不純で。飯田君とか立派な動機なのに私恥ずかしい……」
「何故!?生活の為に目標を掲げることのどこが立派じゃないんだ?」
飯田君が変な動きをしながら言う。その通りだ。それに、よくよく聞くと麗日さんのご両親も良い人だった。決して金銭欲だけからじゃない。それに――
「私は絶対ヒーローになってお金稼いで、父ちゃん母ちゃんに楽させたげるんだ」
真剣な表情でそう語る麗日さんは、間違いなく家族にとっての「ヒーロー」なんだろう。
それじゃあ、僕は。何の為にここにいる?資格を取るため?無個性なのに?
……ヒーローって、何だっけ。
『悪いことが起こると見過ごせないんだ』
あの時のキャップは、どんな気持ちだったんだろう。
「緑谷少年がいた!!ごはん……一緒に食べよ?」
「オールマイト先生」
この人には、何が見えているんだろうか。
「ハイ、お茶」
「ありがとうございます」
No.1ヒーローが手ずから淹れてくれた貴重なお茶を一口。うん、少し、落ち着いた。
「さて、緑谷少年。まずはありがとう。あの時機転を利かせてくれたおかげで、皆に怪しまれずにすんだよ」
USJの時のことだ。『先生!あそこの遥か上空に監視してる敵がいます!』なんて我ながら大雑把な誤魔化し方だとは思うけれども、あの状況で突っ込む人はいなかった。
「いえ、お気になさらず。……やっぱり、制限時間が短く?」
「ああ、1時間15分前後ってところかな?マッスルフォーム自体はまだ2時間くらいはいけるんだけどね。……ぶっちゃけ私が平和の象徴として立っていられる時間って、実はそんなに長くない」
以前聞いたとおり、オールマイトの力は少しずつ、けれど確実に衰えてきている。そして、それに気づいているのは『こちら側』だけじゃない。
「奴らも、気づいてましたよね」
「ああ。だからこそ、君に『私』と『力』を継いでもらいたんだけどね」
そう言って苦笑いする。流石に申し訳ない気持ちになった。
「優柔不断ですみません」
「いいさ、悩める若者を導くのは先達の役目だ。今も、何か悩んでるんだろう?」
……驚いた。実はこの人、以外に教育者に向いているのかもしれない。
ポツリ、ポツリと話し出す。ヒーローとは何なのか。その在り方。ヒーローを目指す理由。僕は、何のためにここにいるのか。本当にヒーローとして在るのならば、今この瞬間も動いていなければならいんじゃないのか。
一通り話終えると、オールマイトはふむ、と顎を撫でてこう言った。
「確かに、君の言うことにも一理はある。けれど、それじゃあ『安心』は与えられないぜ?」
「安心……?」
ああ、とオールマイトが頷いて一瞬でマッスルフォームになる。正直心臓に悪い。威圧感と画風が凄い。
「『私が来た!!』……ってのは、私を象徴する言葉でもあり、要救助者に安心感を与える言葉でもあるんだ。その安心を与えられるのは、私が積み重ねてきた実績と信頼があるからだ」
確かに、その通りだ。その台詞が聞こえただけで、もう安全だと確信してしまえるほどに。
「緑谷少年。君には、今すぐにでも実戦で通用する実力と、経験もあるんだろう。……何があったのかは聞かないけどね。けれど、今の君は何の実績もないヒーローの卵だ。そんな頃から『外れた』振る舞いをしていたら、信頼なんか得られない。事件を解決することはできても、人々に安心は与えられない」
「それは……」
「逆に言えば、確かな実力さえ真っ当な方法で示してしまえば、多少の無茶は効くかもしれない。実際私がそうだ。ちょくちょく特例を許してもらっているしね。そして、それにうってつけの舞台がもうすぐあるじゃないか!!」
雄英体育祭。
バッ!!とオールマイトが大きく両手を広げて叫ぶ。
「真っ当な方法で!!しかし圧倒的な実力を示して魅せろ、緑谷少年!!世界に『君が来た!!』ってことをね!!」
若干の今後のネタバレ
一応オリジナル要素として大筋で決めている変化が
1.インターン先のヒーローの変更(予想してる人多そうだけど
2.ヒーロー殺しのあれやこれや
が序盤で変化することになると思います。今後にご期待ください。