キャプテン・デク / ザ・ロンリー・アベンジャー 作:minmin
――2018年。
ハロー、2年前の僕、聞こえますか。今僕はアメリカ、ニューヨークにいます。……異世界の。
おい、なんだ!何があった!?
キャプテンだ、キャプテン・アメリカだ!
「光栄だけど、ちょっと違うよ、っと!!」
思いっきり助走をつけて、ウイングボディのトラックの上にいる強盗に向かって飛び上がる。そのまま両足を突き出してドロップキック。吹っ飛ぶ貴金属店強盗。屋根に着地。
周囲を見渡すと、丁度こちらへ銃口を向けている男と目が合った。直後に連射される弾丸を盾を構えて防ぐ。その盾を見て、強盗が悪態をついた。
「くそ、このイエロー・キャップが!!」
「…………フッ!!」
若干複雑な気持ちになりつつ、リロードの瞬間を狙って盾を下に向かって投擲する。男の手前でワンバウンドした後に顎を跳ね上げて、放物線を描いて戻ってくる。――キャッチ。背中に背負う。最後の1人は――今、飛んできたウェブで僕が乗っているトラックの側面に貼り付けられた。同時に僕の真横に音もなく着地する全身赤タイツ。僕の親友だ。
「やあデク!あっさり片付いたね。やっぱり僕たちって息ピッタリ!後で一緒に写真撮って呟かない?ヤング・アベンジャーズってタグ付けてさ!ほらやっぱり若者だからこそできることっていうのがあると思うんだよね、それこそ――」
合流した直後によくもまあこれだけ喋ること思いつくな……正直凄い。僕には逆立ちしたってできそうにない。
「はいはい、呟くのはまた今度ね。今は任務に集中しないと。――カレン、内部のスキャンは終わった?」
「はい、デク様。2階に階段と人質を見張っている2人。3階に宝石などを回収している3人がいます」
スタークさんが開発した僕たち付きの人工知能、カレンが直ぐに返事をしてくれた。ワカンダの科学技術は諸外国とは段違いだけれども、そのワカンダやヒドラの技術に殆ど頼らずにあれこれ開発しているスタークさんはやっぱり天才なんだなってこういう時よく思う。
「OK、スキャンしたデータをピーターに送って。ピーター、どう?」
「……2階のが2人かたまってる。そっちの方任せていいかな?3階は僕が行くよ」
「了解、ウェブで運んでくれる?」 「OK!任せて!」
言うが早いが両手首からウェブを飛ばして屋上付近に貼り付ける。そのままちょっと体を引いて、パチンコの要領で飛び出していくピーター。僕も超人兵士としての身体能力と、キャプテンの指導もあってそこそこ移動能力はあるけれども、ピーターのそれは圧倒的だ。おそらく身体能力も僕以上。ウェブも相まって、緊急時の救助能力なら空を飛べるスタークさんよりも上かもしれない。屋上に上がってしっかりと踏ん張ったピーターが僕に向かってウェブを飛ばす。トラックの上で助走を付けて、飛び上がって――今!
空中でウェブを掴み、ターザン式で振り子のように2階の窓に接近する。窓越しに見える階段前の見張りに向かって思いっきり片手で盾を投げた。ガラスが割れるのに続けて体を丸めて中に転がり込む。
転がって勢いを殺しつつ直様立ち上がる。窓ガラスをぶち抜いて盾を当てた1人はノックアウト。もう1人は――殺気!サマーソルトキックのように飛び上がった直後に響く銃声。危なかった!
「チッ、クソ野郎がっ!!」
口汚い言葉と共に、硬いものを踏む感触。蹴りは外れたけれど、どうやら銃は奪い取れたようだ。そのまま横に蹴り飛ばす。声のした方に向き直ると、迷彩服にタクティカルベストを着た、いかにも軍人です、というような格好の男がいた。苦々しげな顔で僕を睨んでいる。
「お前、最近噂になってるキャプテン・アメリカの真似事してるっていうイエローモンキーだろ?ガキは大人しく家でヒーローごっこで満足してりゃあいいものを。調子に乗るからこんなとこに来て死ぬことになる」
厭らしく嘲笑いながらナイフを抜く男。そのまま刃を舐めている。……そんなことする人本当にいるんだな。
ただ、言動は下品だけど、隙はない。かなりの腕だ。腕を上げてファイティングポーズを取る。
「……真似事でも、貴方よりは上だと思うよ。試してみるかい?」
軽く挑発すると、一瞬で顔が怒りに歪んだ。
「元コマンドー部隊のベネット様を舐めやがって!」
激昂しながらも、基本に忠実に半身でナイフを突き出してくる男。素早く突き出されるナイフを後退しつつ躱す、躱す、腕を払って捌く、また躱す。やはり強い。けれど――
「――シッ!!」
しびれを切らして放たれたローキックにこちらもローを合わせる。それなりに力を込めた蹴りに、相手は後退しつつたたらを踏んだ。続けざまにこちらから踏み込んで左のストレート。両腕でガードされたけど、相手の顔は歪んでいる。
キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースの本気の攻撃は、一撃で体格に恵まれた成人男性を昏倒させる威力がある。全力の蹴りはまともに入れば鍛え上げられた軍人を地面と水平に吹き飛ばすほどだ。キャプテン・アメリカと同じ身体能力を持ち、陛下を始めとするワカンダの戦士や、超人兵士たるウィンター・ソルジャーに鍛え上げられた僕の攻撃は、真似事にすぎなくてもただ生身同士で打ち合うだけなら十分なアドバンテージなのだ。
とはいえ、不利を悟って人質に手を出そうとされても困る。……苦手なんだけど、ピーターの真似事で挑発してみるか。お互い円を描くようにジリジリと移動しながら声をかける。
「どうした?コマンドー部隊とやらは、ヒーローごっこしてる子どもにも勝てないのかい?」
「なんだとぉ!?」
よし……もう少し。もう少しで。
「来なよ!武器なんて捨ててかかってこい!」
「野郎ぶっ殺してやらああぁぁぁ!!」
プツン、とキレた泣き笑いのような形相で突っ込んでくる。ただ――残念。足元不注意だ。タイミングを合わせて僕の足元にきていた盾を踏んで跳ね上げる。前に出した右腕に吸い付く盾。突然防がれる視界に混乱するベネット。チェックメイトだ。
「ふんっ!!」
盾ごとの体当たりでベネットを吹き飛ばす。盾を下ろすと、大の字で昏倒したベネットの姿。……ちょうどピーターの方も終わったらしい。任務完了だ。
「怪我をしている方はいらっしゃいませんか!?」
部屋の隅に固まっていた人質に向かって声を張り上げると、口々にありがとう、大丈夫だという声が聞こえる。どうやら怪我人や急病人は出なかったらしい。一安心だ。ただ――
――イエローキャップだ――
胸をなでおろしているときに聞こえた、聞こえてしまった小さな声。……どうやら僕のヒーロー道は、世界をまたいでも困難に満ちているらしい。どうしたものかな。
そんなことを考えていると、通信が入った。またピーターから呟きの誘いかな、と思ったらスタークさんだ。慌てて応答する。
「はい、デクです。どうしました?仕事なら先程――え?ヴィジョンさんが?」
「――っていう感じでこっちに来たんですよ」
クインジェットの中でアイスを頬張りながらキャプテン、ナターシャさん、サムさんに事の経緯を説明し終えると、3人は皆同じような、そして苦笑いのような顔をしていた。
「まあ、人種や肌の色、国籍で人を見るやつってのはどこにでもいる。何年たってもな。お前は……あんまり気にしないでいいと思うぞ。ところで、お前何選んだんだ?」
サムさんがお土産のアイスの袋をごそごそやりながら言う。ナターシャさんも気にするなって言ってくれた。サムさんは黒人だし、ナターシャさんも元々はロシアの人だ。2人とも、アメリカだとそれなりに苦労することがあったんだろうことは想像できる。
「スターククレイジーナッツです。美味しいですよ」
指名手配中であるキャプテンたちに対して、スタークさんは何もしていない、というわけじゃない。僕が双方を行き来することでお互いの近況はそれなりに把握しているし、もっと上の、政府や色々な機関への働きかけで、キャプテンたちに捜査が及ばないように尽力もしている。それでも今回、ヴィジョンさんの信号が途絶えた、という緊急事態になっても直接連絡を取らないのは……仕方のないことなんだろう。そう簡単に割り切れるようなことだったら、僕が死にかけたあの場所で、2人は決裂しなかったんだから。
「俺は……マイティ・ソー チョコ&サンダーにするか」
そこまで言って、サムさんが顔を近づけて小声で続ける。
「(おいおい、なんでハルクのイケイケアイスがあるんだよ、気まずいだろ!!)」
「(僕はそういう方面はさっぱりなんですから、無茶言わないでくださいよ!!)」
同じく小声で言い返す。ワカンダや僕からの各種支援があるといっても、指名手配中である以上生活は色々と厳しいものになる。だからこそ、毎回こうやって都会らしい、アメリカらしいお土産を持参するんだけど……どうやら今回はチョイスがまずかった、らしい。サムさんと2人してそーっとナターシャさんを見ると、無言でハルクのイケイケアイスを食べていた。さっと目を逸らす。
キャプテンは……予想通りというかなんというか、キャプテン・アメリカのクッキーサンドを手にとっていた。キャプテンの盾の色をしたクッキーで、バニラアイスを挟んでるやつ。けれど、一口食べてからずっとそのままみたいだ。
「キャプテン?」
「……嫌な予感がするんだ」
心配して声をかけると、ポツリとそう呟いた。いつの間にか、サムさんとナターシャさんもキャプテンを見つめている。
「戦いの予感だ」
今にして思えば、これが始まりだったのかもしれない。真似事ではなく、僕が真にヒーローとして立たなければいけない、始まり。……戦いの、始まりだった。
MCUのフェーズ4の予告動画見て色々と楽しみになってきましたね!
ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネスで本格的にマルチバースの扉が開いたとき、ここのデク君はどうなるのか今からワクワクしております!