キャプテン・デク / ザ・ロンリー・アベンジャー 作:minmin
あんまりにも暇なので再び更新。皆さんも感染にはお気をつけてね。
「――どう、出久。美味しい?」
「うん、凄く美味しいよ母さん。いつもありがとう」
親子団欒、穏やかな2人きりの食卓。白いご飯に味噌汁、焼き魚。温かい和食を、愛する家族と一緒に食べる。この世界、この国では多くの人が当たり前と認識していることが、僕たちにとってはこんなにも嬉しい。遠い世界、異国の地、そして――全宇宙の命の半分が消失した5年を過ごした僕にとっても、10日も行方不明になっていた息子が、変わり果てた姿で見つかった母さんにとっても。
「そういえば、入試の結果は今日明日くらいに着くんだっけ?」
「うん、そのはず。まあ心配はしてないけどね」
ずずっと味噌汁を飲みながら答える。自己採点したけどやっぱり英数理のおかげで筆記は合格ラインを余裕で越えていたし、実技の方も周囲のポイント獲得状況を見るに平均より上だった……はず。他の会場がよっぽどすごかったら別だけど。まあその場合でも筆記と合わせれば合格は問題ないと言い切っていいと思う。
「出久、本当に変わったわねえ。落ち着いてるというか、自信があるというか。体だって大きくなってるし……いつの間にか大人になっちゃったみたい」
「は、ははは…………そ、そうかな」
苦笑いで誤魔化しつつ頬を掻く。実際、もうハタチ過ぎてるからね、僕。母さんに嘘を付くのは気が引けるけど、まさか本当のことを言うわけにもいかない。事情もあるけれど……話したら話したで卒倒しそうだな、母さん。
母さんが洗い物をしてくれてる間にお茶の準備をする。お茶っ葉と湯呑、それに急須。ケトルに水を入れてスイッチ・オン。元々好き嫌いはなかったんだけど、最近の僕はすっかり日本好みになってしまった。ずーっとアメリカかヨーロッパにいたら誰でもそうなってしまうというのもあるけれど、周りの人の影響も多少、いや、結構ある。殆ど毎日チーズバーガー、たまにシャワルマの人とか、軍の粗食になれきってしまっている人とか。
お湯が沸くのを待つ間に郵便受けをチェックする。チラシの類に、検針票に……あ。
「母さん、通知来てた。もう開けちゃうね」
え、ええ!?ちょっと、ちょっと待って!なんて聞こえるが気にしない。今更慌てたって結果は変わりゃしないんだし。ビリっとな。中に入っていたのは書類と……なんか似たようなのシールドで見たことあるな。携帯型のホログラム装置?
『んっん~~……私が投影された!!!』
「オールマイト!!?」
え、なんでだ?雄英からだよね?
『驚いたかい?実は私は今年から雄英に教師として務めることになってね……そして!君の合否通知に私が投影された理由は…………緑谷少年!主席合格おめでとう!敵ポイント49ポイント!審査性救助活動ポイント30ポイント!合計で79ポイントだ!特に救助活動ポイントでは0P敵にチームワークで立ち向かったことが評価された!おめでとう!来いよ!君のヒーローアカデミアへ!』
オールマイトの姿が消える。主席合格か……あのチームワークが評価されたのなら嬉しいな。やったわね合格よそれも主席ですってすごいわねお祝いねと抱きつく母さんの声がどこか遠くに聞こえる。これが実感がわかないってことなんだろうか。少しずつ、ゆっくりと頬が上がり笑顔になっていく。なんだかんだ言って、やっぱり僕は雄英に入りたかったらしい。
――ところで。この精密機械各自で捨てなくちゃいけないの?リサイクルの適用とかどうなるんだろう……
――春。新生活始まりの季節。
「アヴェンジャーズ・タワーを思い出すなあ……」
僕は雄英高校の校舎、校舎というか最早高層ビルを眺めながら呆れていた。どれだけ金あるんだ雄英。というか、いくら個性社会、ヒーロー社会とはいえ、いち高等学校に与えていい規模じゃなくないかなあ。なんかこう、もっと敷地の広さとか建築法とかで規定ないんだろうか。
呆れながら校内を進むけど、内部もやっぱり色々でかいし広い。それでいて内装はどこか近未来的で、シールドや新しいアヴェンジャーズ基地を思い出す。あちこち眺めながら辿り着いた僕のクラス、1-Aのドアもやっぱりでかい。これはバリアフリーとか、異形型の個性に配慮してるのかな、これならハルクさんでも入れそうだな、なんて考えていると。
「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないとは思わないか!?」
「思わねーよてめーどこ中だよ端役が!」
中から聞き覚えのある声が2つ。……僕の高校生活、初っ端から波乱の予感しかしない。
「ボ……俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ」
「聡明~~~~?くそエリートじゃねえか。ブッ殺し甲斐がありそうだな」
「君ひどいな本当にヒーロー志望か!?」
ある意味予想通りといえば予想通りな会話。ちょっと話しただけで生真面目な印象を受けた飯田君とかっちゃんが絡めばこうなるよなあ。兎も角、いつまでもドアの前で突っ立ってるわけにもいかないのでドアを開けて声を掛ける。
「飯田君、かっちゃんは昔からそういう性格だからもう気にしない方がいいよ。まあ、最後の最後というか、破っちゃいけないとこは弁えてるはずだから……多分、おそらく、きっと……多分ね」
「緑谷「んだとクソデクこらぁ!ブッ殺すぞ!」君!」
「おはよう飯田君。それにかっちゃん、性格は今更変えられないのも、実際に殺したりは絶対にしないのも知ってるけど、ヒーロー志望が入学初日にクラスメイト怖がらせてたらダメでしょ。……はい、どうぞ」
ドアを開けたまま後ろでアワアワしていた気配の女の子に道を譲る。突然で驚いたみたいだったけど、おずおずと入ってきた。どこかで見たことあ――うん?僕の前で立ち止まったけど、何か用事?
「あ、ありがとう!それに、入試の実技の時も助けてくれてありがとう!」
僕と同時に飯田君もあっ、という顔をした。0ポイント敵の前で動けなくなっていた子だ。なら、少し屈んで視線をしっかり合わせる。相手が安心するような笑顔を心がける。
「どういたしまして。大きな怪我もないようでよかったよ」
自己犠牲はヒーローの本質で、見返りを求めるものじゃない。けれど、助けられた人々の中にはそれを屈辱に感じる人だっているかもしれない。そうじゃない人でも、お礼や感謝、謝罪を言いたい人もいるし、それを受け取ってもらえないことが精神的なしこり、負担になる人もいる。これも、向こうのヒーローたちから学んだことだ。だから、こういう言葉はしっかりと受け取るようにしてるんだけど……なんか余計アワアワしてないかこの子。カワイイけど。
「いいい、いえいえそんな今日って式とかガイダンスだけかな先生ってどんな人だろう緊張するよね」
「う、うん。そうだね、でもちょっと落ち着いて」
「――お友達ごっこしたいなら他所へ行け」
冷徹な声。振り返ると、何故か寝袋に入って転がってるおじさんがいた。
「ここは……ヒーロー科だぞ」
言いながら取り出したゼリー飲料を一気に飲み干すおじさん。怪しすぎる。
「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね。……担任の相澤消太だ、よろしくね」
寝袋を脱ぎながら立ち上がり挨拶するおじさん改め相澤先生。皆が『先生!?』とか『担任!?』とか心の中で思っているだろうけど、僕が気になったのは。
「合理性を求めるなら、もっと早くに教室にいて、もっと担任だとわかるような服装や説明をすればよかったのでは……?」
先生含め、シーンとなる教室。……僕は悪くない。その後、体操服を着てグラウンドに集まることになったんだけど。渡された体操服を配ると時に青山君が同じクラスだって気づいて嬉しかったのが救いだった。
「個性把握テストぉ!?」
10分後、グラウンド。要するに、個性ありの体力テストをやるってことか。入学式もガイダンスもなし。ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ、とのこと。
「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り」
……大丈夫かなあこの学校。いくら自由が売りだからって、最低限の教育規定とかあると思うんだけど。特例で許されてるとかじゃなくて、普通に傲慢で無視してるとかありそうで怖い。僕の勝手な妄想であってほしいけれど。
「――おい、入試1位の緑谷。ソフトボール投げやってみろ。円から出なきゃ個性使っても何してもいい早よ……と言っても、お前は無個性だったか」
無個性!?とか嘘だろとかクラスメイトがざわついている。嘘じゃない。僕は今でも無個性だ。個性因子だって持ってない。
渡されたやたらとハイテクなボールを軽く握る。溜めを作り、力を無駄なく移動させる全身運動。体全体の筋肉を効率的に稼働させて――放つ!
「――しっ!」
力を入れて握ると壊してしまいそうだったのと、普段投げている盾より軽すぎて難しかったせいか、ちょっと流れてしまった、反省。直後、ピピっと相澤先生の方から電子音が鳴る。
――710.1m。
「……本当に無個性でこの記録か。何食ったらそうなるんだか」
出た記録に再びざわつくクラスメイト。敵意剥き出しの目で睨んでくるかっちゃんと、呆れ顔の相澤先生。
――食べるんじゃなくて、薬物を注射するんですよ。という言葉は、心の中で留めておくことにした。
デクは今の所完全に無個性です。オールマイトとの絡みは……そのうち語られるでしょう。
次回はもしかしたら個性把握テスト2になるかも。普通にMCUに戻るかもですが。
今更だけど需要あるのかね?