キャプテン・デク / ザ・ロンリー・アベンジャー   作:minmin

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そういえば「過程の説明なくキャプテンの真似事してるだけ」という意見があったのですが、時系列の前後がストレスになる読者さんも多いんでしょうか。作者としてはちょくちょく挟むMCUの話で少しずつ明らかにしていく……という形態を敢えてとっていたのですが、難しいものですね。


個性把握テスト2

 

「700m超ってマジかよ!?」

 

「個性使っていいんだ!?流石ヒーロー科!……今のは使ってないみたいだけど」

 

 『無個性』であるはずの僕の出した記録にクラスメイトたちがざわついている。驚愕、称賛、懐疑。その内容は様々だ。

 

 エイブラハム・アースキン博士の名は、人体改造という人道面への配慮や軍の機密により一般的には知られていない。けれども、彼は世が世なら間違いなく人類史に名を残した唯一無二の天才だった。ヒドラやシールド、その他数多くの組織が博士の開発した超人血清の再現、量産を試みたが、その尽くが失敗に終わっている。正確には似たようなものは作成できたが、その効果量はオリジナルには及ばなかった。目安として成人男性10人分、そして『人が人のまま到達できる最高の身体能力』というスティーブ・ロジャースの肉体ほどには強化はされない。ただ、その領域に最も迫ったのがヒドラの暗殺者、ウィンター・ソルジャーたちだった。

 

 僕が多次元宇宙を渡ったあの日、命を繋ぎ止める為にそのウィンター・ソルジャーの為の血清を不完全ながらも投与された。それだけなら、僕はちょっと身体能力が高いだけ、になっていただろう。大量の出血を補うために、ワカンダへ輸送中のジェットで急遽輸血されたキャプテンの血液がなければ。細かい理屈はわからないし、別段知ろうとも思わないけれども。兎に角、結果として僕はキャプテンに匹敵する肉体を得た。だからこそのこの記録だ。

 

「ははっ!スゲー面白そう!」

 

 その言葉に、相澤先生が反応した。

 

「……面白そう……か。ヒーローになる為の3年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

 

 ……あ、嫌な予感がする。真顔のまま静かにキレてるフューリー長官みたいな、そんな感じ。

 

「よし。トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」

 

「「「「「はあああああ!?」」」」」

 

「生徒の如何は先生の自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」

 

 えぇー……

 

 視界の端でドヤ顔をキメる先生を横目に、僕は内心ドン引きしていた。初対面から割と酷かった相澤先生の印象が更に悪化する。

 除籍ってそもそも先生個人で決定できるんだっけというのはこの際置いておこう。そういう権限を特別に持たされてるのかもしれないし。けどいくらなんでもまだ顔合わせて1時間も経ってない生徒を除籍させるのはダメでしょ……。まあ百歩譲って『心構えが甘い』という理由で除籍するとしても、せめてさっき『面白そう』って発言した生徒じゃないと。なんでそこで成績最下位の生徒なわけ?その最下位の生徒が、先生の言うところの腹づもりが超しっかりしてる、精神的に非の打ち所がない、けれどもこういうテストで記録を出しにくい個性だったらどうするんだろうね。あとここって一応国の認可を受けた高等学校だよね。除籍ってことは一生経歴にバツが付くんだし、こんな理不尽な理由でって保護者から教育委員会に訴えられたらどうするの?

 

「(まあそんな酷かったらいくらプロヒーローとはいえすぐにクビになるだろうから、実際には救済措置とかあるんだろうけど……顔が本気なんだよなあ)」

 

 それに。ヒーローであることと、完璧であること、人格者であることはイコールじゃない。僕はそれをあの人たちの傍らで学んできた。スタークさんも、ソーさんも、バートンさんも。バナー博士も、ナターシャさんも、あのキャプテンでさえ決して完璧じゃなかった。油断することもあった。間違いを犯すこともあった。皆が僕らと同じ等身大の人間で、悩み、傷つき、それでも彼らは間違いなくヒーローだった。

 改めて考えると、真っ先に浮かんだスタークさんもソーさんも、普通に面白そうって言いそうだな……。だから結成当初は色々ぶつかりあったんだろうし、2人を嫌ってるヒーローもいるんだろうけど。

 

 これでもし普通に除籍のみでなんのフォローもなかったら転校も考えないとな、なんて心の中で呟きつつ、とりあえずテストの続きを受ける。種目は8つ。ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈。個性を使っていいこと以外はごく普通だ。無個性の僕も普通に挑戦するだけ。

 

 取り敢えず最下位は回避できそうなので、皆の個性の活かし方を眺めつつ平常心でテストに望む。今朝のワタワタしてた女の子がソフトボール投げで∞を出したのには驚いた。個性との相性によっては測定不能なんてのも普通にあるんだなあ……。

 長座体前屈は至って普通。50m走、反復横跳びはそこそこ。僕は身体能力が高いだけであって、身体構造はあくまで普通の人間だ。人間の身体の摂理を超越はできない。エンジンで一気に加速できる飯田君や、峰田君の個性の活かし方には及ばなかった。立ち幅跳び、握力と上体起こし、持久走は1位をとれた。八百万さんがいきなり身体からバイクを創り出したのは驚いたけど、一般的なバイクくらいなら僕なら勝てる。そういえば、陛下とバーンズさんとキャプテンが車道でチェイスをしたことがあるって言ってたなあ。詳しくは知らないけど、カーチェイスならぬ生身チェイス。……追い越された走行中の車の運転手さんの衝撃はすごかったんだろうなあ。

 

 途中僕の記録に突然キレだしたかっちゃんが僕に襲いかかろうとして相澤先生に止められるひと悶着があったけれども(この時にわかったんだけれども、どうやら相澤先生はイレイザー・ヘッドらしい)なんとか個性把握テストは無事終了。最下位の自覚があるのか真っ青な顔で震える峰田君を前に先生が言う。

 

「ちなみに除籍はウソな。君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

 

「「「「「はあああああ!?」」」」」

 

 再びの絶叫。八百万さんはあんなの嘘に決まってる。ちょっと考えればわかる、なんて言ってるけれど……どうだろね。僕には誰かわからなかったけど、面白そうって言った生徒が最下位だったら容赦なく除籍にしてた気もするよ、あの先生は。

 

 

 

 

 

 ――放課後。

 

 飯田君も電車通学らしく、駅まで一緒に下校しようと誘ってくれた。勿論快諾する。折角なので青山君はどうなのかと聞いてみようとしたら、いつの間にか消えていた。うーん、彼の生態、割と謎だ。

 

「うーん、よくあるのは一瞬だけ加速してすぐに戻したり、常に緩い加速状態にしておく方法だけど……燃料式で、有限ならちょっと厳しいね」

 

「そうなんだ。短距離を高速移動すると、どうしても動きが直線的で単純になってしまう。どうにか改善したいと思っているんだが、これが中々難しくてね」

 

 お喋りの話題は個性の応用の話。飯田君が自分の個性について僕に詳しく話してくれるくらいに仲良くなれた。……うん。いいな、こういうの。

 

「お2人さーん!駅まで?待ってー!」

 

 背後からの声に2人して振り返ると、とてて……という擬音が似合いそうな可愛らしい走り方で駆け寄ってくる女の子がいた。

 

「君は∞女子」

 

 む、∞女子……ネーミングセンスが独特だな飯田君。

 

「麗日お茶子です!えっと飯田天哉君に緑谷……デク君!だよね!!」

 

「ああいや、本当は『いずく』で、デクはかっちゃん――掌爆発させてた男子が木偶の坊から付けたんだけど……」

 

「蔑称なのか」

 

 眉を顰める飯田君。うん、やっぱり良い人だ。

 

「うん、でも2人ともデクでいいよ。最近は――周りの人皆からずっと、そう呼ばれてたから」

 

 そうなの?ときょとんとして首をかしげる麗日さん。可愛いなあ、なんて見つめながら、僕はあの2人の言葉を思い出していた。

 

 

『イズク――ああもう呼びにくいな。もうボーイでいいだろう。ダメ?アジア辺りの名前は呼びにくいんだよ……何か他の呼び方とかないのか?ほら、あだ名とか。……デク?いいじゃないか、デクじゃあそれでいこう。蔑称?なら尚更だ。大いに自慢してやれ、そんなの気にするな。こういうのは開き直った方が勝ちなんだよ』

 

『キャプテン・アメリカだって、最初は軍のマスコットだったんだ。戦いもしない、国債を募るショーに出るだけのプロパガンダだって揶揄もされた。けれど、僕は今もこの名前を誇りに思っている。君も同じだ、イズク。デクという呼び名が、君の誇りになるように、頑張ろう』

 

 

「そう――キャプテン・デク。それが、僕のヒーロー名だからね」

 

 




そのうちシビル・ウォーとインフィニティ・ウォーの間のキャプテンとの話とか、トニーやピーターとの絡みとかもオリジナルで挟んでいこうかな、とは思ってます。
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