辺りが暗闇と静寂に包まれたある日の夜、私とプロデューサーさんは、プロデューサーさんの、灯りのない部屋で2人きりです。
「ほたる、本当にいいのか?心中なんて…」
取り返しがつかないぞ、と声をかけてくれるプロデューサーさん。私を大切に思ってくれているのが伝わってきて、ますます惚れちゃいます。
「はい、もう決めましたから。それに、プロデューサーさんが一緒なら何も怖くなんてないです」
私がそう答えるとプロデューサーさんは、そうか、と一言だけ返してリビングに行きました。これから使う練炭を取りに行ったのでしょう。
部屋に1人きりになり、私の鼓動がやけに大きく聞こえます。私にはそれが幸せに満ちた音色に聞こえて、少し可笑しくて笑ってしまいました。まるで死ぬ直前じゃないみたい…。普通じゃありえないですよね。…そういえば私は普通の人間じゃありませんでした。だから別に可笑しくはないのかも…?
私は生まれながらにして不幸体質でした。私の周りではことあるごとに超常現象的な不幸が起こっていました。お出かけしていると、急に雨が降ってくるのは勿論、突風に乗って植木鉢が飛んで来るなんてこともありました。この体質の所為か、アイドルに憧れていた私をたまたまスカウトしてくださったプロダクションは私が所属してすぐに倒産してしまいました。
プロデューサーさんと出会ったのは、私がその倒産したプロダクションから移籍したときでした。
「君が白菊ほたるさんだね。僕が、今日から君を担当するプロデューサーです。よろしくね」
と優しい笑顔で挨拶をしてくださいましたが、私は不幸で心が参っていたので思わず
「こんなに不幸な私でも、ここにいていいんですか?私も、アイドルになれますか?」
と聞いてしまいました。しかしプロデューサーさんは
「大丈夫。君なら絶対トップアイドルになれる。だからこれから一緒に頑張って行こう」
と嫌な顔一つせずに私を受け入れてくれました。思えばその時から私は惹かれていたのかもしれません。
どうやらプロデューサーさんもまた不運な人生を歩んできた人らしく、誰よりも私のことを受け入れて寄り添ってくれました。だからでしょうか、私はどんどんプロデューサーさんのことを好きになっていきました。勿論、アイドルが恋愛、ましてや相手が担当プロデューサーだなんてあってはいけないですから、その気持ちは胸にしまったまま、活動を続けていました。
活動を続けていくにつれてアイドルの仲間も増えていき、それに伴って超常的な不幸は減っていきました。メディアへの露出も増え、遂にはCDデビューも決定しました。しかし、その頃にはプロデューサーさんへの気持ちが抑えきれない程に膨れ上がっていました。どうしようかと悩んだ末に、私が姉のように慕っているアイドル仲間の鷹富士茄子さんに相談することに決め、いざ相談してみると茄子さんは
「それは告白するべきです。きっと受け入れてくれると思いますよ♪」
と背中を押してくれたので、意を決して告白することにしました。
数日後の事務所で、2人きりの時に私は告白しました。
「プロデューサーさん、私はあなたのことが好きです。付き合って下さい!」
「僕はプロデューサーでほたるはアイドルだ。それはできない。だから、ほたるがアイドルを引退したときに今度は僕の方から告白させてくれないかな?」
それからというもの、私はこれまでにないほどに幸せな日々を送りました。そう、今までの人生が嘘であるかのように。
そのツケが回ってきたのでしょうか、私とプロデューサーさんはパパラッチに抜かれてしまったのです。それから私の活動は大幅に減少し、プロダクションでの私たちの地位は地に堕ちてふたりぼっちになってしまいました。
その絶望感というのは、幸せの味を知ってしまった私にはあまりにも耐え難いものでした。日に日に衰弱していく私たち。いつからか私は心中のことばかり考えるようになりました。だって、それしか救われる方法がないから…。
そして今日、プロデューサーさんに心中のことを話してみると、思いの外あっさりと賛成してくれました。
「ほたる、準備できたよ」
プロデューサーさんが戻ってきました。私が、
「お願いします」
と言うと、プロデューサーさんは手に持った練炭を七輪にセットして火を着けました。それから暫くすると次第に息が苦しくなってきました。その時不意にプロデューサーさんが私の手を握って、
「ほたる、一緒に居てくれて、ありがとう。大好きだよ」
と言ってくれました。その一言で私の心は幸せに満ちて、生きた意味が分かった気がして…。
朦朧とする意識の中で私は言いました。
「プロデューサーさん、大好きです」
ほたるPの皆さま、ごめんなさい