羊の皮を被った萌え豚   作:暮影司

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告白の後はどこへ行く

「ちょ、押すなし」

「しょーがないでしょー」

「……」

 

 僕は女子部員3人と一緒に、木陰から部長を覗いていた。

 もちろん、イケメンの男の恥ずかしいところが見たいからなどという腐女子だけが喜ぶ理由ではない。

 池澤先輩が、莉美先生に告白するというイベントを見ないわけにいかないからである。

 部長が先生を呼んだこの校舎裏には、身を潜める場所がここくらいしかない。

 よって、おしくらまんじゅう状態になっているということです。

 

「ごめんね、テルくん」

「い、いえ」

 

 お礼を言いたいくらいなのに、謝ってくれるまなか先輩。背中に豊満な胸があたっているのです。ありがたや……。

 

「ここ座っていい? 中腰しんどい……」

「あ、はい」

 

 上ケ見先輩は片膝をついている僕の脚に、お座りになりました。この脚、一生椅子になっても構わない所存。

 

「……」

 

 出雲さんは黙っているが、表情で何を言いたいかはわかる。

 

「出雲さんも、どうぞ」

「ん……しょ」

「え?」

 

 僕の体をお好きにお使いください、とは思っていたが、まさか肩車とは。

 確かに膝立ちの僕に肩車をするとちょうど茂みに隠れつつ様子を伺えそうだけど。

 中腰のままなので、本当に跨っているだけ。立ちもしないので、太ももを掴む必要はないぞ。しかし、この首に当たる感触……なんか素肌じゃなくてコットンな感じ……。ごくり……。

 

「あぁ、先生。来てくれたんですね」

 

 先生が来たみたいだぞ!? ちょっと? 僕は全然動けないじゃないですか? 見えませんけど?

 

「ど、どうしたの池澤くん……」

 

 困惑しているみたいだぞ。顔が見えません!

 ただ、この状況を打破したいとも思いません。背中に胸。脚に尻。首に股。天国です。ブヒヒヒ……

 

「先生、好きです」

「っ……あ、ありがとう。先生として嬉しいわ」

「そんなんじゃありません。先生……いえ、莉美さん」

 

 すごいな、あのイケメン……よくすらすら言えるよ……。

 

「り、莉美さんって……」

 

 表情は見えないが、名前を呼ばれただけで動揺する莉美先生。チョロカワイイ……僕も呼びたいですね……。

 

「やば、リミセンの顔真っ赤じゃん。じゅんじょーって感じ」

 

 上ケ見先輩、ナイス実況です。その情報だけでブヒれますよ!

 先生は僕がちょっと告白じみたことをしただけで動揺していたからね。さぞ可愛く困ってることでしょう。ブヒヒ。

 

「莉美さんは、美人で仕事熱心だし、生徒思いだし、それで日本史とかのことは大好きなところが好きです」

「は、はうう」

 

 実況無しでも、先生の顔が思い浮かぶようだ。セリフは台本通りって感じだが、イケメンが真面目な顔で口説いているわけで、そりゃあ顔も鉄火場の熱い鉄みたいになっているでしょう。

 

「ヒップも素敵ですし、莉美さんのすべてが大好きです」

 

 それも言うんだ。本当に台本通りにしか出来ないのかな? 意外とアホなのかな?

 

「ど、どうしましょう……そんなこと言われたの初めてで……」

 

 まぁ思ってても言わないよね。お尻が好きとか。

 

「一人の女性として好きなんです。付き合ってください」

 

 言ったよ。すらすら言ったよ。すごいな。

 

「言ったねー」

「いつもどおりあっさり言うよね」

「……」

 

 僕の周囲にいるみなさんの声です。上にいる人は喋ってませんけど。

 

「あのね、気持ちは嬉しいけど、教師と生徒は……」

「そういう言い訳はやめましょうよ。莉美さんは俺をどう思ってるんですか」

 

 やだ、イケメン……この人マジでイケメンだわ……少女漫画みたい……。これは僕でも口説かれてしまうかもしれないですぅ……。

 

「きっしょ」

「やっぱキモいね」

「……うげ」

 

 僕の周囲にいるみなさんの声です。辛辣すぎてビビってます。僕が肩車している方ですら、思わず声が漏れてます。女の人コワイ。やはり遠くから愛でるだけにしておきましょうね。

 

「……そんなに知らないでしょ?」

「知らない?」

「私のことを、そんなに知らないよね?」

「いや、さっき伝えたと思うのですが……好きなところをたくさん」

 

 そうだね、ホワイトボードに書くくらい用意周到にね。意見のほとんどは上ケ見先輩だけどね。お尻以外は。

 

「……わかりました。じゃあ、一度お出かけしましょう。そうね、部活動ということなら問題ないから、恋愛研究部のみんなでどこかに行きましょう」

 

 えっ、やったー!? 池澤部長が邪魔ですけど!

 

「そうして、その後、もう一度話をさせて」

「は、はい」

 

 先生が去ったのだろう、まなか先輩が身体を離した。残念です。

 

「フラれた感じだね。初めてかも」

 

 常に告白は成功していたということか。まぁうっかり僕もときめいちゃったくらいなので普通はオチるよね。

 

「キモいのにモテるよねー」

 

 上ケ見先輩が僕という椅子から腰を上げた。残念です。

 ところで、アレがキモかったら我々はどうしたらいいのでしょうか。

 

「……」

 

 出雲さんは何も言わない、動かない。あれっ? 肩車継続ですか? ご延長、ありがとうございまーす!

 

「ねね、小羽(さわ)ちん、どこ行くー?」

「だねー? どこ行こっかー?」

 

 女子トークがスタートしたぞ。池澤部長と先生のデートだという認識はひとつもなく自分たちが行きたいところを勝手に決めるっぽいぞ? そういうところも好きです、ブヒヒ。

 

「ヅモちゃんはー?」

 

 まなか先輩が僕の上の方を見ながら言う。ヅモちゃんは出雲さんのことです。そういう仲良しな感じ、いいですね!

 

「……」

 

 ぽんぽん。

 

 無言で僕の頭を叩く出雲さん。よしよしされてるみたいで気持ちいい……ブヒィ……。

 

「ヅモちゃんは、オシテルが行くところに行きたいってことかー。ふーん」

「ふーん」

「……」

「肩車、降りないんだねー」

「降りないねー」

 

 まなか先輩と上ケ見先輩がニヤニヤしている。そういう表情、いいですよね……ブヒヒ……。

 

「別に」

 

 すっと肩に乗っていた体重が無くなる。ああ……寂しい……。

 

「で? オシテルっちは? あーしとドコ行きたいの?」

「テルくん、まなか先輩をどこに連れてってくれるのかな~?」

 

 ニヤニヤしたまま僕の顔を見ているまなか先輩と上ケ見先輩。からかい上手の先輩方に囲まれて僕は幸せ者ですッ!

 

「おいおい、俺のいない間に随分と盛り上がってるな」

 

 先生がいなくなったことを確認した部長がこちらにやってきた。みんな、勇者が帰ったぞー!

 

「あー、来ちゃった」

「来ちゃったのかよー」

 

 なにこれ、彼氏と家でデートしてたら早く帰ってきちゃったお父さんみたいな扱い。ってことは僕が彼氏役ですか。ウェヒヒヒ。

 

「おいおい、みんなヒドイな。善院凰(ぜんいんおう)君もそんなに睨むことないだろう」

 

 違うんですよ、ウェヒってるだけなんですよ。むしろ部長のことは少し尊敬していますよ。男は死ねとか思っててスミマセンでした。

 

「聞こえてたかもしれないが、みんなで出かけることになった。話し合いたいから部室に戻ろう」

 

 さすが、部長。みんなで話し合う。当然のことですね。なんで勝手に盛り上がってたんでしょうね。

 

「ハワイとかいいよね」

「ワイハいいねー」

 

 先輩たち聞いてなくね!?

 部室行きましょうよ?

 ただ、ハワイには行きたいですけど。

 僕と出雲さんが部長に着いていくと、二人も追ってやってきた。よかった。

 

「さて、みんなでどこに行くか、だが……」

 

 部室に戻ってきて、池澤部長がホワイトボードの前に立った。

 

「バリとか」

「バリヤバいバリ」

 

 居酒屋で旅行先の話で盛り上がるOLかな?

 

「あのな、海外旅行に行けるわけないだろ。部活動だぞ」

「えー。つまんなーい」

「サゲぽよ~」

 

 上ケ見先輩は本当は真面目なので、それはわかっていただろう。きっとまなか先輩に話を合わせていただけなんだよな。そういうところ、好きです。

 

「目的を整理すると、莉美先生のことをより詳しく知ることが出来る場所ということになる。それを踏まえた上で候補を上げてくれ」

「はい! ラブホテル!」

 

 まなか先輩は元気よく手を挙げる。ノータイムでよくその言葉が出ますね? ハワイとかバリとか言ってたのは何だったの?

 当然、凍りつく部室。逆に普段凍てついた表情が崩れてちょっと笑う出雲さん。ラブホと聞いて微笑む無口少女……たまらんな……。

 

「一応、理由を聞こう」

 

 聞くんだ。部長はやっぱり結構いい人なんだと思いますね。

 さっきまで一緒に盛り上がってた上ケ見先輩ですら、もはや無言ですよ。

 

「そりゃやることやれば、全部わかるでしょ」

「却下だ」

「なんでよー!?」

 

 理由を説明する必要があるのだろうか。ツッコミどころが多すぎて何から言えばいいのかわからないぞ。ただひとつ言えることは、まなか先輩のすべてを理解したいですね。ブヒヒヒヒ……。

 

「まず、俺たち六人で行くというのが駄目だろう」

 

 部長? そこなの? 二人ならいいということは無いと思いますが?

 

「えー、いいじゃん」

 

 いいの? いいんだ……魅力的ですね……。

 

「先生に言えるわけ無いだろう」

「がんばんなよ」

 

 頑張れば言える。まぁそうかもしれない。お尻が魅力的ですねとか言えるなら言えるに違いない。

 

「だいたいまだ付き合えないと言われているのに、ラブホテルなら行ってもいいなんてやつがいるか」

「ここにいるけど」

「まなかは特殊だ」

 

 そうですね、まなか先輩は特別な存在です。僕にとってもスペシャルです。

 

「そんなわけで却下な」

「ええ~」

 

 まなか先輩、僕と二人で行きましょう! そう言える勇気が足りない。勇気以外の何かが欠如してないと言えないかもしれない。

 

「お互いのことをよく知ることが出来る場所だよね」

 

 上ケ見先輩が真面目に考えている。少しもギャルっぽくない。見た目がギャルなのに真剣に考えてる感じ、イイんだよね~。

 まなか先輩のせいで脱線した議論の軌道修正を自然にしてあげてる優しさ。僕には伝わってますよ。おけまる水産です。

 

「うーん、カラオケとかか?」

 

 部長、必死で考えた結果がカラオケッ……!

 

「歌ってたらわからないでしょ。もっと話が出来るところじゃ……ねー?」

 

 もちろん、却下ッ……! そんで最後だけギャルに戻ったぞ! カワE!

 

「ふむ。話が出来る……ファミレスとか」

 

 おっ、やっぱり先生の素敵なところをドリンクバーだけで夜通し語り合うやつやりますか部長! 僕はいつでも構いませんぜ!

 

「そんなのどこかに行くって言わないじゃん」

「うーん、それって……どこだ」

 

 部長が進行役だったはずだが、いつの間にか上ケ見先輩と役割が交代していた。部長はアイデアを出す側にはまったく向いていないことが判明。

 

「今までないの? 誰かと親しくなれたなーっていうイベント」

 

 そして上ケ見先輩は司会としても有能です。メインMCがギャルのバラエティ番組、あると思います。

 

「うーん? どこにいても、心は伝わると思うんだけど」

「キモっ」

「ダサっ」

 

 先輩方は部長に対して容赦がない。おかしいな、イケメンってもっと女の子に優しくされると思っていたのに。でも、僕も罵っていただいきたいですぅぅぅ! ブッヒイイイ!

 

「じゃ、オシテルっち。仲良くなれるイベントとは?」

 

 司会から振られた! 仲良くなれるイベントとは。大喜利のお題みたいな感じで言われているが決してこれは大喜利ではないのでボケる必要はない。

 ここでハワイとかバリとか言うことで笑いを取る必要はない。さっき出ていた話をもう一度繰り返してボケる、天丼というテクニックだな。

 ここで下ネタをぶっこんで出雲さんを笑わすというのも捨てがたい。しかしラブホテルを超えるのは……

 

「むむむ」

「出た、テルくんの睨み攻撃」

 

 ブヒッてるだけ……ではない。これは本当に考えてたのだ。ここはボケるか、答えを出すか、どっちなんだ……。でも出雲さんを笑わすチャンスだぞ。ここはやっぱり下ネタだッ! 下ネタを考えろッ!

 

「オシテルっちは結構考えてるからね」

 

 確かに考えているが、ラブホテルを超える下ネタだよ? ハッテン場とかどうだろう……いや、普通に知らないかもしれないし、ホモだと思われたら困るし……だけど出雲さんの笑顔は見たいッ……! 言うか、言ってしまうかッ!

 

「修学旅行」

 

 えっ? それは下ネタなのか? 出雲さんの突然の発言に面食らう僕。

 

「あー、修学旅行って仲良くなれたよねー。懐かしー」

「うんうん、つまり合宿ってことね」

「なるほど、合宿か。部活で合宿。いいじゃないか」

 

 みんな納得ですよ。僕も納得です。ハッテン場なんか行くわけないよね。

 

 でもボケたかったな……。





オシテル、なぜか大喜利が好きなタイプ。
作者もツイッターで大喜利をやりがち。
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