原子操作術で、来たるべき時に備えよう。 作:非対称ジメチルヒドラジン
時は来た。今は夜2時。
権利書を入手したので、さっさと家を建て替える。
その為の技術実験などは一応一通り済ませてある。
さっさと片付けよう。
「原子操作、静かに家を解体」
音も無く屋根が消滅し、粉塵が吹き上げられる。
舞い上がった粉塵はそのまま何処かへ飛んでゆく。
「原子操作、骨組みを形成、図面通りに組み上げろ」
資材置き場の鉄筋が中に浮き、その形を変える。
鉄骨は家の重要パーツだ。
これがあるのと無いのとでは全然違う。
あっという間に骨組みが完成。次行こう。
「肉付け、コンクリートで壁を築き上げろ」
山積みのコンクリート砕石が形を変え、
骨組みを飲み込んでゆく。
あっという間に歪み無い外壁が出来上がった。
「原子操作、白色塗料を壁に塗れ」
ペンキ塗りは塗料自ら行ってくれる。
ムラ一つない完璧な仕上がりだ。
「原子操作、庭を舗装、コンクリートで固めて」
土壌は完全に潰す。これなら雨の日でも安心。
「原子操作、水道を再度繋いで」
最初に消し飛ばしたであろうインフラを再接続。
各種メーターは前の家から剥ぎ取った物を再利用する。
次は内装。
「原子操作、内壁を整備」
遮音性に優れた内壁、フローリングを整備。
モデルハウスをイメージしたデザイン。
床は黒、内壁は白色で統一した。
その方が高級感が出る。
「原子操作、電気配線を整備、図面通りに頼む」
予め用意した膨大な長さのケーブルが宙に浮き、壁にめり込み、そして電気回路が組まれる。一部は昇圧回路を組んで電圧を上げておく。
次。
「水道を整備、元栓はまだ開けないで」
塩ビ管を引いて水道を整備。
もう必須インフラは使える。
次。
「浴槽を整備、こいつを運び込んで」
セラミックス製の大きな浴槽を配備。
シャワーも運び込んでパイプと繋げる。
自家製。デメリットはお湯が使えない事だけだ。
いや、結構被害が大きいか。それは。
毎日凍えなければならない。
冬に至っては地獄そのものだ。
後はセラミックスのタイルを貼って浴室は完成。
ドアは防水仕様。
全力で水攻めしても一滴たりとも通さない。
「原子操作、家具とかを全部運び込んで」
ステンレス製の玄関ドアが開放され、
荷台に満載した家具が屋内に吸い込まれる。
照明類も全て設置。
電気屋でまとめて買ってきたのだ。
「エアコンを設置、4台全て運び込んでー」
機材が宙に浮き、ひとりでに壁に張り付いてケーブルが組まれる。室外機もいつの間にか設置されていた。
これで作業は終わり。新築一戸建ての完成だ。
家の外観は前の廃屋とあまり変わらない。
隣人に違和感を覚えられても困るからだ。
多分、壁を塗り直したとでも勘違いするだろう。
「点灯」
真っ暗だった屋内に、暖かな光が灯される。
モデルハウスよりも良い見た目に仕上がった。
だがこれからが本番だ。
「深さ30メートルの穴を掘って」
床に幾何学的な穴が空き、螺旋階段が形成される。
地下へと続く道だ。
内壁は強化コンクリートで分厚く固める。
更に、地下へと高圧電流を運ぶ電線が敷かれる。
螺旋階段はオールステンレス製。
崩落はあり得ない。
1分もしない内に、巨大な地下階段が出来上がった。
次。
「地下空間を形成、支柱を図面通りに配置せよ」
音もなく地下に巨大な空間が現れる。
そしてその空間はあっという間に広がり、
気が付けば家がすっぽり収まる程にまで拡大していた。
内壁は超高圧に晒された天然の岩石だ。
かなりの硬度を保持している。
少なくともコンクリート以上の。
術を使って岩を圧縮し、空間を切り開いた副産物でもある。
後は金属資材を持って降りるだけ。
「原子操作、鉄筋をここまで運んで」
地上の鉄鋼を操作、地下まで運び込む。
時刻は朝の4時。そろそろ日が昇り始める頃だ。
これにて一連の作業は終了。
徹夜作業だったし、今日はもう寝よう。
全高30メートルにも及ぶ螺旋階段を昇り、地上に出る。
「原子操作、床を修復」
穴の空いたフローリングを修復、元通りに直す。
施錠された玄関ドアにチェーンロックを掛ける。
バスルームに入り、蛇口をひねる。
シャワーヘッドから出てきたのは冷水。
凍えながらも頭を洗う。
シャンプーは取り敢えず高そうなのを買った。
元々貧乏性だったのでこのような物を使う機会は無かったのだが、今は金だけは大量にあるので惜しみなく買った。
かなりいい香りがする。悪くない。
ボディソープも同系列のものを。
シャンプーと似たような匂いがした。
体を綺麗に洗ったら、浴槽に冷水を張る。
それから術を使う。
「原子操作、水の温度を39℃に」
湯気が出る。
手を突っ込んでみたらいい湯加減だった。
浴槽に体まで浸かる。
リラックスタイムだ。
今日はかなりの進捗があった。
こうやって家を建て替えて、地下室まで作った。
将来的にはここを拠点として活動しよう。
だが勿論、公安には用心しなくてはならない。
この能力がバレたら確実に利用される。
強硬策で来るかもしれないし、こちらを懐柔しようとしてくるかも知れない。
だが少なくとも、放ってはおいてくれないだろう。
そのためには、能力を秘匿するのが一番だ。
バレなければこちらの勝ち。
バレたら向こうの勝ち。
反抗しても武力でねじ伏せられる。
こちらには今拳銃しかないのだ。
G18マシンピストル。
いくら高性能とはいえ向こうには装甲車がある。
肉弾戦での勝ち目は無い。
階段を昇り、寝室へと向かう。
有り余った金で高級な寝具を買っておいた。
寝心地も良さそうだ。
カーテンにドアを締め、外の光を遮断する。
ベッドに入り、明日の事を考える。
明日は武器の密造をやろう。
せめて機関銃は欲しい。
そんな事を考えながら眠りにつく。
いつ公安に狙われるか分からないので
枕元に拳銃を置いて寝る。
引き金さえ引けば何時でも発射できる。
そんな安心感に包まれ、まどろみの中へ。