原子操作術で、来たるべき時に備えよう。 作:非対称ジメチルヒドラジン
その日の朝。ある程度の金を持って電車に乗る。
大体300万くらい。
財布には収まらなかったので封筒に入れた。
このくらいなら持っていても怪しまれないだろう。
通勤ラッシュの後なので電車の席はガラガラだ。
非常に気分が良い。
うとうとしながら車窓を眺める。
人生イージーモードだ。
あれだけの金があればもう何にも困らない。
非常に気が楽である。
昨日の夜は税務署にバレないラインを考えた。
そして導き出されたのは、300万の境界線。
300万以下なら、多分お尋ねの連絡は入らない。
もし疑われても、タンス預金と偽れば乗り切れるはず。
劣化の酷い廃屋を買い上げるには十分過ぎる金だ。
値段も付かない程無残な家を購入し、原子操作で改装、そして新築と見間違うような家にしてしまえば良い。
「ゲヒャヒャヒャッ!」
笑いが止まらない。
税務署の人たちには申し訳ないけど、
税金は殆ど取れまちぇーん。
残念でしたー。
電車で一人笑いする気持ち悪い奴になってしまったが、幸い周りに人は居なかった。セーフである。
家を探そう。
なるべく劣化が酷くて倒壊寸前の家を。
該当する物件はそう少なくない筈だ。
その前に、家のデザインを。
自分は建築士の資格を持っていないが、日本国において法律上、改装工事で特定の資格は要求されない。
これを利用する。
いやー悪いね。
シートで覆ってしまえば外からは見えないからね。
中で超能力使ってもバレないからね。
それじゃ、売り物件を探しますか。
手数料込みで195万円、2階建て倒壊寸前の物件を見つけた。
どうやら施工業者が悪徳だったらしく、施工から5年足らずで傾き、雨漏りが発生したらしい。
築25年、壁はカビだらけ、庭は雑草祭り。
オマケにネズミ、白蟻の発生。
これらの要素が絡んで買い手が全く現れないらしい。
だがこちらからするとただの良物件だ。
立地も悪くない。
行政に強制執行される前に買い上げよう。
そう決意してから、仲介業者に電話を掛ける。
相手はすぐに出た。
「はいこちら原田不動産です」
「購入したい物件があります、あの195万円のです」
単刀直入に話を進める。
前置きは必要ない。
「えー少々お待ちください、..ええ、畏まりました、カタログ番号27番の物で間違いないでしょうか?」
「えー、はい間違いないです、あ、引き渡しにはどれぐらいの日数が掛かりますか?」
「約一週間ですね」
「それは良かった、すぐ向かいます」
「はい、お待ちしております」
電話が切れてまもなく、電車のドアが開く。
しかし権利書を仲介業者が押さえてるのには驚かされた。
借金の抵当とか、そんな感じなのかしら。
後はさっさと家をリフォームするだけ。
写真で見た感じは普通の建て売り住宅っぽかったし、
そんなに変な造りでは無いだろう。
まあ詳しい書類手続きは全て司法書士に丸投げしよう。
そういうのはめっぽう苦手だし。