原子操作術で、来たるべき時に備えよう。   作:非対称ジメチルヒドラジン

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第9話

「おう早ちゃん!久しぶりだなあ」

 

「あ、いっちゃんじゃねえか、久しぶりっ!」

 

駅で中学時代の友達、市原とばったり出くわした。

彼は当時かなりのワルだったが、今はちゃっかり名門大学に通っている。彼とは今でも連絡を取り合う仲だ。

 

「今度また飲みにでも行こうぜ!俺は結構暇だし」

 

「俺は最近かなり忙しくてなぁ、あまり時間が取れねぇんだよ」

 

「マジかよ、何かあったのか?」

 

市原は怪訝な顔をして言った。

コイツはかなり頼りになる。

人の悩みを真摯に受け止めてくれる奴だ。

 

情報を勝手に漏らしたりもしないだろう。

 

だが申し訳ない。今は言えないんだ。

 

「済まない、今は言えない」

 

 

市原は何かを察したような顔で言う。

 

「...分かった、深入りはしないでおこう」

 

「話せる時が来たらまた話すよ」

 

「ああ、何時でも良いぞ、あ、それと」

 

 

 

「何だ?」

 

「うちの大学に新型のスパコンが入ったんだ、良かったら見ていくか?」

 

「聞いたことないな、んでその性能は?」

 

「スパコン京に勝るとも劣らない程だ、俺ら学生の誇りだよ」

 

「はえー、それは凄い...名前は?」

 

「TSUBAME3.0って言うんだ。ま、気が向いたら来いよ」

 

「分かった、近いうちに行くよ」

 

 

「おう、じゃあな」

 

 

市原と手を降って別れる。

なるほど、スパコンか。

 

俺の家にも欲しいものだが、生憎そんな金はない。

 

もしかすると原子操作で作れるかも知れないが、膨大なアルゴリズムを組んでいる時間は無いのだ。

 

そんな事を考えながら駅のホームを後にする。

今から俺は不動産会社に向かう。

事務所はこの近辺にある筈だ。

 

さっさと面倒事を済ませるぞ。

 

 

 

市原不動産と書かれた事務所のドアを開ける。

上は司法書士の事務所だった。

 

 

ガラス戸が開き、鈴が鳴る。

 

「本日はどのようなご用件で?」

 

「先程電話した者です、例の土地を購入しに来ました」

 

「かしこまりました、書類はこちらになります」

 

2、3枚の書類を渡される。

 

「こちらにサインをお願いします。それ以降の詳しい手続きは、司法書士の方に任せるのが一般的ですよ」

 

「えーつまり、国に申請する書類のことですか」

 

「その通りです、上の階に司法書士の方がおられるので、その方にご依頼されてはいかがでしょう?」

 

なるほど、だから事務所が隣だったのか。

確かに司法書士も、不動産屋の隣に事務所を置いておけばその手の依頼で溢れかえるだろう。実に良く考えられている。

 

「それじゃあ上の階の人にお願いしておきますよ」

 

「かしこまりました、それではお呼びしておきますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不動産屋に195万、司法書士に8万を払い、後の手続きを全て丸投げしてきた。

 

権利証は一週間くらいで発行される。

つまり俺には一週間の準備期間が与えられたのだ。

 

その間に素材を調達しよう。

大量の鉄筋にセメント、木材。

 

輸送には大型トラックが必要だ。

運転免許が無いので業者に頼もう。

 

買った廃墟は鉄筋造りらしいが信用ならないので、分厚い鉄筋コンクリートで作り直す。軽い砲弾くらいなら止められる。防音にも効果てきめんだ。

 

断熱材は自前で合成しよう。

高性能な物を思う存分に使ってやる。

 

外壁は白塗り、窓ガラスには防弾ガラスを採用する。

ガラスの生成はあまり上手くいかないので、渋々アメリカから輸入する。

 

ガレージも作る。普通車が一台入ればそれで良い。

 

敷地には柵を設置しよう。鋼鉄で足の掛け場のない柵を。

 

庭には適当な花でも植えて、それっぽく飾ろう。

 

それから地下室。

違法な実験をする為に地下30メートル付近まで掘りぬいて、そこに巨大な秘密地下室を作る。今回家を買った真の目的でもある。

 

直通通路として、螺旋階段を設置しよう。

近いうちに電源設備も欲しいところ。

 

 

 

 

計画を立てておく。想定される材料費は50万前後。

鉄筋に至っては相場で1トン8万円くらいだった。

 

こうして材料費を計算してみると、今までどれほど施工業者に金を取られていたかが良くわかった。全く恐ろしいものだ。

 

それから俺は購入した廃墟に向かった。

劣化は写真で見たよりかなり進んでいた。

 

壁にはツタが生い茂り、地面は雑草地獄。

いかにも虫が湧いていそうな場所だった。

吐き気がする。

 

だがまずは草刈りから始めよう。

そして俺は芝刈り機を持っていない。

 

となると、打つ手はただひとつ。

 

 

「原子操作、ここの土壌から全ての炭素を奪え」

 

 

 

有機物の基本骨格をつくり、すべての生物の構成材料として、光合成など生命活動全般で重要な役割を担う炭素。

 

生命はわずかな炭素をかき集めて、

かろうじて生き長らえている。

 

だが無慈悲にも、それを全て奪い去る。

 

待つのは全面的な死のみ。

全ての生物、植物が死滅する禁じ手だっ!

 

 

術式は放たれた。

突然の突風で、おびただしい数の草が飛ばされる。

 

変色した草は次々と隣家に命中。

 

枯れている。素晴らしい。最高の除草技術だ。

邪悪な虫どもも即死は必至。

 

さっさとくたばるが良い。

今度は劇薬を散布するぞこの野郎。

 

更に風が吹き、ツタがブチブチと切れ落ちる。

フハハざまあみろ。思い知ったか。

 

 

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