人の通らない暗い廊下の隅に膝を抱えて座り込む。トーナメントの出場者はレクリエーションの参加が自由になるため、始まりと同時に逃げ出してしまった。せっかく用意してもらったチアガールの衣装もここに居たら誰にも見てもらえないや。
みんな、本気で戦うのだろう。
自分の夢を叶えるために、全力で……。
「プリキュアは、みんなを助けるために戦ってる。友達を、守るために……」
遠くから聞こえてくるレクリエーションで盛り上がる歓声から隠れるように小さく縮こまり、涙が滲む目を膝に押し付ける。
私はプリキュアになるために、ヒーローになるんだ。戦いたくないなんて甘えてる場合じゃないことはわかってる。
「"私"の力で戦うんだ」
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《ヘイガイズ!Are You Ready!?色々やってきたが、結局これだぜ、ガチンコ勝負!頼れるのは己のみ!心・技・体に知恵知識!総動員して駆け上がれ!》
ついに最終種目が開始する。ルールは相手を場外に落とすか行動不能にすること。他にも相手から「まいった」などの言葉を引き出すことができれば勝てるガチンコ勝負。
リカバリーガール先生が待機してるから、ある程度の怪我は無視して本気で戦え!もちろん命に関わる攻撃は禁止!という本当にシンプルな力のぶつかり合いだ。
予選Aを戦う庄田君と塩崎さんが登場すると、大きな歓声がスタジアムを包み込む。壁を挟んだ隣のB組の観客席からはとくに大きな応援の声が聞こえてきた。
スタートの合図とともに庄田君が塩崎さんに突っ込んでいく。見た目に反したその素早さに、会場のあちこちから驚きの声が聞こえてきた。それに対して塩崎さんは髪の毛を伸ばして間にツルの壁を作り出し、庄田君の攻撃を受け止めると、さらに彼を捕まえようと髪を伸ばしていく。
庄田君はツルに巻きつかれないよう素早く避けていたけれど、だんだんと逃げ場がなくなり、ついには身体中にツルが巻きついて行動不能になってしまった。予選Aは塩崎さんの勝利だ。
庄田君は負けてしまったのは悔しいけれど、しっかりと自分の力で戦うことができてよかったと笑顔を浮かべていた。
続いて始まった尾白君と鉄哲君の戦いは、まさに格闘技という戦いだった。尾白君が尻尾で機動力をつけた重たい打撃を鉄哲君が硬くした体で受け止め、鉄哲君の硬い拳を尾白君が体術で受け流す。バシバシと拳がぶつかり合う音が響くたびに会場は大きく盛り上がり、歓声が上がった。
長く続いたぶつかり合う2人の戦いは、攻撃を避け続けていた尾白君の体力の低下を見逃さなかった鉄哲君の鋭いパンチが決まり、予選Bは鉄哲君の勝利となった。
尾白君もやりきったという笑顔で鉄哲君と固い握手を交わしていた。周りの注目は、2人の様子に鼻血を流して喜んでいるミッドナイト先生がかっさらってしまったけれど。
2人とも、ちゃんと自分の力で戦えたことが嬉しかったみたいだ。ヒーローになるために、みんな"自分の力"で戦っている。たくさんの人の前で、プリキュアとしてみんなと戦うなんてできないし、したくない。私の憧れた彼女たちの力は、友達と戦うためじゃないから。
「お疲れ様、尾白君。かっこよかったよ!」
「転身さん……ありがとう。俺、あの場に立ててよかった。転身さんのおかげだよ」
「尾白君があそこに立てたのは、尾白君が頑張ったからよ!頑張ってくれてありがとう」
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2組の予選が終了すると、ついに本戦の開始である。対戦カードは緑谷君と心操君だ。
《START!!》
合図とともに緑谷君は何かを叫びながら心操君に向かっていく。しかし、途端にピタリと動きを止めてしまった。
「ああっ!せっかく忠告したってのに!」
「あ!緑谷君、心操君に返事しちゃったんだ!」
尾白君と2人で頭を抱える。
心操君の"個性"のトリガーは"返事をすること"。そして、"個性"を解くためには誰かとぶつかるなどの衝撃が必要となる。つまり1対1の戦いの場合、一回でも心操君の言葉に答えてしまうと、もう何もできなくなってしまうのだ。
感情が抜け落ちたような緑谷君は場外に向かってゆっくりと歩き出す。完全に"洗脳"されてしまったようだ。心操君に勝ってほしいけど、緑谷君にも負けて欲しくない……祈るように手を握りしめて2人の戦いを見守る。
緑谷君の足がステージを乗り越えそうになった瞬間、突然彼の側から突風が巻き起こった。緑谷君の足は___白線を越えていない。
《こっこれは……緑谷とどまったァァア!!》
「緑谷君……指が……」
「すげー……無茶を」
緑谷君の指が紫色に変色している。彼は"個性"を使って自分の指を骨折させた痛みで心操君の"洗脳"を解いたのだ。心操君は再び緑谷君に"個性"をかけるために話しかけ始める。その声はだんだんと大きくなり、私たちのいる場所まで彼の叫び声がはっきりと聞こえてきた。
「俺はこんな個性のおかげでスタートから遅れちまった!恵まれた人間にはわからないだろ。誂え向きの個性に生まれて、望む場所へ行ける奴らにはよォ!」
「心操君……」
私は"個性"に恵まれた。私は憧れの人たちに"なる"ことができる"個性"を持って生まれることができた。でも、だからこそ"私"は、彼の叫びにちゃんと向き合わなければならない。彼の、"ヒーローになる"という夢を応援したいと思った"私"の気持ちをちゃんと伝えたい。
「よし!私、ちょっと行ってくる!」
「え!?笑夢ちゃん?どこに!?」
いてもたってもいられなくなり、心操君が登場したゲートの近くに行くためにスタジアムの観客席を走る。私が移動している間も試合は進み、緑谷君が心操君を場外へと投げ出したのが見えた。第1戦の勝者は緑谷君だ。
《最終種目、真っ先に2回戦に進出したのはA組緑谷出久!!》
「聞こえるか?心操おまえすげぇぞ!」
ゲートの真上に近づくと、普通科の人たちが心操君にすごいと声をかけているのが聞こえる。私が走り抜けてきた、観客席にいたヒーローたちもみんな心操君のことをすごいって言ってた。
心操君、本当にすごいよ!
「はぁ、はぁ……しんそーくーん!」
普通科の人たちの横に並び、ゲートの前で立ち止まっている心操君に、手すりから身を乗り出して呼びかける。いきなり息を切らせて現れた私に、隣に並んだ普通科の人たちからの驚いたような顔が向けられる。心操君も緑谷君も私が
「私、騎馬戦のときにいきなり"個性"かけられたこと、許してないからね!次は、ちゃんと作戦会議しようね!みんなで協力して勝とうね!
___一緒にヒーローになろうね!」
私は、心操君の夢を応援したい!一緒にヒーローになりたい!だから、ヒーロー科に来ることを信じているから、次は協力して一緒に頑張ろうね。
「……覚えとけよ。今回は駄目だったとしても絶対諦めない。ヒーロー科入って資格取得して、絶対おまえらより立派にヒーローやってやる!」
そう言った心操君の目には、騎馬戦のときとは全然違う輝きがあった。
「えっと……あなた、ヒーロー科の?」
「あぁあ、乱入しちゃってごめんなさい!」
「それはいいんだけど、あなた匿名希望の人でしょ?目立ちまくってるけど……」
「だ、大丈夫!ほら、
「「「………」」」
続く第2戦は、轟君の圧勝だった。スタジアムの天井を超えるほどの大きな氷がいきなり現れ、瀬呂君はなすすべもなく降参。どんまい、瀬呂君……!
「アンタ、轟に宣戦布告されてたよね……。マジで何やらかしたの?」
「わ、わかんないよ、響香ちゃん!なんで!?」
さらに第3戦も、塩崎さんの圧勝。スタートと同時に上鳴君が特大の電撃を放つも、ツルの壁で防いだ塩崎さんは全くのノーダメージ。そして"個性"の使いすぎで「ウェーイ」となってしまった上鳴君は、ツルにぐるぐる巻きにされて瞬殺だった。
「転身さん、よくあのツルに耐えてたね……」
「ふふん!キュアミントのシールドはすっごく強いんだから!」
第4戦はなんだか面白い試合?だった。サポート科の発目さんが、自分が開発したサポートアイテムを飯田君を使って余すところなく宣伝していた。全国放送のテレビ中継もあるし、彼女のベイビーたちの知名度はうなぎのぼりだろう。
「私もアイテム作ってもらおうかな?こうしてほしいっていうアイデアはいっぱいあるから」
「ケロ、あの子に頼んだら要望通りにはいかなそうよ」
「転身さん。そろそろ控え室に行きましょう」
「あ、うん!」
すっかり自分の試合を忘れてみんなを応援する私を気にかけて、声をかけてくれた百ちゃんと一緒に席を立ってそれぞれの控え室に向かう。みんな頑張っているんだ、私もヒーローになるために頑張らないと。
控え室で1人、これからの試合について考える。
プリキュアの力は誰かを守るための力。だから、友達を傷つけるような攻撃はしたくない。最終種目はプリキュアに変身しないで"自分の力"で戦う。
これが、"私"が決めた覚悟。
ドリーム……私、間違ってないよね?
「あ、名前……どうしよう」
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《万能"創造"!推薦入学とあってその才能は折り紙つき!ヒーロー科八百万百!VS!こちらも万能"具現化"!っておい、変身してねーのかよ!ヒーロー科!名前は非公開!おーい、なんて呼べばいいんだ!?》
「えーと、な、なんかあだ名ください!」
《はぁ!?おい、どうするよイレイザー》
《出席番号とかでいいだろ》
名前を非公開にする私に会場のあちこちから戸惑いの声が聞こえる。最高のアピールの場なのに、名前が非公開で顔も隠しているという私は異質だろう。先生たちも、まさか私がそのままの姿で登場するとは思ってなかったようで、かなり困らせてしまった。
それでいいです。名前、出さないでくれてありがとうございます!
「転身さん、いつものように変身なさらないの?」
「……うん!だって
私が今まで重ねてきた、プリキュアの力を使いこなすための努力は"私"の力だ。この力で、みんなと戦うんだ。緊張と恐怖でドキドキとうるさい心臓を無視して、笑顔を浮かべる。
大丈夫、大丈夫、大丈夫、私はちゃんと自分の力で戦える。
《第6試合スタート!》
スタートと同時に、走り出しながら"絶対に切れないロープ"を"具現化"する。私の"個性"に必要なのは想像力だ。作り慣れているものであればあるほど早く、大量に生み出すことができる。これなら、USJで本当にたくさん作ったから生み出すのは一瞬だ。
百ちゃんはまだ"創造"の途中。彼女は知識さえあればなんでも作ることができるけれど、大きく複雑なものほど時間がかかる。それなら、"創造"している間に動きを止めさせることができれば!
「やあぁああ!」
彼女の腕ごと身体にロープを巻きつける。キュアレモネードの「プリズムチェーン」を使いこなすために、長い紐を操る練習をずっとしてきたのだ。
私の動きが予想外だったのだろう、百ちゃんはすごく驚いた顔をしている。プリキュアの力で怪我をさせてしまうのが嫌だから、私から攻撃しに行くことって少ないもんね。
手の動きを防ぐとともに、素早く後ろに回り込んで彼女の背中に"個性が使えなくなるシール"を貼り付ける。これでもう"創造"は使えない。手も足も"個性"も使えなくなった彼女を白線の外まで押し出す。
「八百万さん場外!2回戦進出、出席番号18番さん!」
《やっぱダセェよ、出席番号!でも変身無しでも全然強ぇな!おめでとう!》
《あいつの変身には元の身体能力が必要不可欠だ。変身したからって全く別の体になるわけじゃない。つまり、そういうことだろ》
《努力の結果ってやつか!》
「百ちゃん、シール外させてね。それとロープもすぐに解くからね」
「転身さん……私、手も足も出せずに……」
「百ちゃんの"個性"が怖かったから、すぐに動きを封じたの。物を生み出すことのできる"個性"の強さは、私が一番わかってるもん」
百ちゃんを自由にした後にしっかりと礼をしてステージを降りる。生み出したロープとシールは先生に渡しておいた。また、
ステージを降りてゲートをくぐった瞬間、足の力が抜けてずるずると床に座り込む。
自分の力だけで戦うのはすごく怖かった。
百ちゃんを怪我させることがなくてよかった。
先生は"私"の努力を見てくれていた。
ちゃんとできた___"私"がヒーローになるんだ。
控え室に戻ると次の試合に備える爆豪君が待機していた。たしか、爆豪君の相手はお茶子ちゃんだったはず。お茶子ちゃん、大丈夫かな?
集中しているところを邪魔しないように、荷物を持ったらすぐに部屋を出よう。
「おい、コスプレ……てめぇなんでさっき変身しなかった?」
「あ、見ててくれたんだね!……変身して、戦いたくなかったからだよ」
「あ"?__変身するまでもないってか」
「そうじゃなくて、私は"私"の力で戦うって決めたの。だから
「はあ!?さっきまでの競技でポンポン変身してたのは誰だよ」
爆豪君はいつもよりずっと静かなのに、すごく怒ってるみたいだ。どうして彼はこんなに怒っているのだろう。
「それは、今までの競技は誰かを傷つける戦いじゃなかったもの。それに
「チッ……」
爆豪君は大きな舌打ちをすると、私の隣を通り過ぎてそのまま部屋を出て行ってしまった。
なんで、そんな顔するの?
最終種目はガチンコバトル!?
タブーに勝てる気がしません。
劇場版のなぎさVSほのかがトラウマなので……