しばらく控え室で呆然としていた私が観客席に戻ってきたころには、もうお茶子ちゃんと爆豪君の試合が始まっていた。爆豪君が両手から起こす爆破で、ステージからもうもうと黒い煙が上がっている。
「お茶子ちゃん……」
急いで通路を走り抜けて最前列の手すりにしがみつく。2人の戦いは壮絶な光景だった。
爆破に吹き飛ばされている。
崩れたステージの瓦礫がぶつかっている。
火傷もしてるかもしれない。
もうぼろぼろなのに、お茶子ちゃんは何度も何度も爆豪君に向かっていく。爆豪君は何度も向かってくるお茶子ちゃんを容赦なく吹き飛ばしている。
「おいそれでもヒーロー志望かよ!そんだけ実力差あるなら早く場外にでも放り出せよ!」
「女の子いたぶって遊んでんじゃねえ!」
爆豪君に観客の人たちからブーイングがおこる中、それでも爆豪君は容赦なく攻撃を続けている。
どうして……
《爆豪はここまで上がってきた相手の力を認めてるから警戒してんだろう。本気で勝とうとしてるからこそ手加減も油断もできねえんだろうが》
相澤先生が爆豪君をブーイングしている人たちに厳しい言葉を放った。
2人とも本気で戦ってるから、爆豪君はお茶子ちゃんを認めているから攻撃をやめない。それでも……
「なんで……!」
お茶子ちゃんが両手を合わせる。これは彼女が"個性"を解除するときの動作。はっと空を見上げると、ステージの頭上いっぱいに爆豪君の"個性"によって破壊されたステージの瓦礫が大量に浮かんでいた。
空から、大量の瓦礫が2人に降り注いでいく。
「危ない!」
思わず下を向いてギュッと目を瞑ると___
BOOOOOOM
《爆豪会心の爆撃!!麗日の秘策を堂々__正面突破!!》
大きな爆発音とともに、激しい突風がスタジアムに巻き起こる。
爆豪君は降り注ぐ大量の瓦礫を
____一撃で吹き飛ばしてしまった。
そして、私が目を開けたときにはお茶子ちゃんは地面に倒れ込み、爆豪君の勝利が告げられた。
あれが、2人の本気の戦い。
相手を認めているから、容赦なく攻撃する。
勝つために、戦う。
_______________
《2回戦第1試合はビッグマッチだ!1回戦の圧勝で観客を文字通り凍りつかせた男!ヒーロー科轟焦凍!片やこっちはヒヤヒヤでの1回戦突破!今度はどんな戦いを見せてくれるのか!ヒーロー科緑谷出久!》
轟君と緑谷君……この2人の戦いも、ただでは終わらないだろう。それでも、大きな怪我はしないでほしい。
《今回の体育祭両者トップクラスの成績!まさしく両雄並び立ち!》
スタートと同時に轟君が氷結を繰り出し、それを読んでいた緑谷君が指を犠牲に超パワーを放つことで氷を破壊する。緑谷君が生み出した衝撃波による強い風が、スタジアムを駆け巡る。
「緑谷君、"個性"を使うと指が……」
緑谷君が"個性"を発動するごとに、骨折しているのだろう指が紫色に変色している。絶対に痛いはずなのに、轟君が繰り出す氷結を壊し続けている。けれど、もう右手の指は全て変色してしまった。
《轟、緑谷のパワーに怯むことなく近接!》
「轟君……緑谷君はもうぼろぼろなのに……」
緑谷君は第1戦で負傷した左腕も使って、これ以上"個性"を発動すると本当に危ない。でも、緑谷君はまだ諦めていない。
緑谷君は轟君に何かを話している。
「半分の力で勝つ!?まだ僕は君に傷ひとつつけられちゃいないぞ!全力でかかって来い!!!」
「轟君の、全力?」
半分の力って何?轟君はこれ以上の力を隠しているの?かろうじて聞こえた緑谷君の言葉は、信じられないものだった。
轟君の"個性"……"氷"と"熱"?
彼は意図的に熱の"個性"を使わないでいるの?
私が考え込んでいる間も2人の戦いは激しさを増していく。
《モロだァ~!生々しいの入ったァ!!》
緑谷君はぼろぼろの体で攻撃を繰り出していく。
轟君を、追い詰めている。
緑谷君は轟君に何かを叫びながら、彼に勝つために本気で戦っている。
「君の!力じゃないか!!」
緑谷君の叫びがスタジアムに響いた。
ゴウ
___轟君から炎が燃え上がる。
「焦凍ォオオ!やっと己を受け入れたか!そうだ、いいぞ!俺の血をもって俺を超えていき、俺の野望をお前が果たせ!」
「え?誰……?」
「No.2ヒーロー《エンデヴァー》、轟の父親。有名でしょ!?」
「ぇぇえ!轟君のパパ!?」
轟君パパってヒーローなの!?知らないの私だけ?
No.2ヒーロー《エンデヴァー》の声にスタジアムがざわつくのも構わず、2人は向かい合いって攻撃の構えをとっている。
まさか、お互いに攻撃をぶつけるつもりじゃ!?
思わず立ち上がった瞬間、轟君が大きな炎を放ち、反対側からは緑谷君が超パワーを繰り出した。
ドーーーーン
2人の本気の力がぶつかり合い、スタジアムに強風が吹き荒れる。観客席にまでステージの破片が飛んでくるせいで、目が開けられない。
2人は……
徐々に煙が晴れていくと、破壊されたステージ上に立つ轟君の姿が見える。緑谷君は、場外に吹き飛ばされていた。
「み、緑谷くん場外……。轟君、3回戦進出!」
2人の戦いに大きな歓声が響く中、どさりと席に倒れこむ。なんだか自分の試合の時よりも緊張してた気がする。本気の力のぶつかり合い……あんなに大きな力を……
「君の力……」
轟君は緑谷君の言葉で、炎を使った。どうして隠していたのかはわからないけれど、緑谷君の言葉が、轟君の心に大きく響いたのだ。
「……私の力って何?」
爆豪君とお茶子ちゃん
轟君と緑谷君
私は彼らと同じように、本気で戦えているのだろうか……
_______________
次の私の相手は、常闇君。
彼の"個性"はいまいちよくわからない。でも「ダークシャドウ」ってことはたぶん影?なのだろう。一か八かだけど、やってみる価値はありそう。
《レディ、スタート!》
「やぁぁああ」
スタートの合図と同時に、"光るボール"を生み出しては投げつける。光のイメージは太陽だ。手のひらサイズのボールなら、どれだけ生み出しても全然問題ない。
ダークシャドウは、やっぱり明るいのが苦手なようだ。私に突撃しようとしてたのに、手の中のボールを眩しがって避けた後は、全然攻撃しに来ない。なんだかどんどん小さくなってる気がする。
しかも、このボールはただのボールじゃない。
《18番がなんか光る玉を投げつけてるが…効いてるな……って!くっついた!?》
「これは……」
「うん、峰田君の"もぎもぎ"を参考にしたの」
常闇君の周りの地面にくっついた光るボールが煌々と輝いている。本当はダークシャドウに直接当てたかったけれど、しょうがない。どんどんボールを生み出しては投げ、ボールとボールをくっつけて足の踏み場をなくしていく。
「くっ……しまった」
常闇君が地面のボールを踏んで身動きができなくなったのをしっかり見てから、ロープを生み出してぐるぐると巻きつける。
「常闇君行動不能。3回戦進出18番さん!」
「よかった、勝てた……」
今回は本当に運が良かっただけ。予想した相手の弱点がたまたまぴったりだったから、こんなにうまくいったのだ。それに、ボールに太陽に"もぎもぎ"、全て見たことがあって、すぐに組み合わせて生み出せるものだったから……
いつのまにかベスト4に進んでいる自分が信じられない。もちろん必死だったし真剣だったけれど、あんなにぼろぼろになっても勝とうとしていた緑谷君やお茶子ちゃんを差し置いて、みんなのことを傷つけたくないとか言ってる"私"が、こんなところにいていいのだろうか……。
「爆豪君も怒ってたし……」
今頃ステージでは、爆豪君と切島君が戦っているのだろう。とぼとぼと歩きながら2人の戦いを想像する。きっとまたいっぱい爆発しているんだろうな。でも切島君なら爆豪君の攻撃にも吹き飛ばされることはなさそう。
「あーー!うじうじするな、私!」
友達に
体育祭は"私"の力で戦う。
それが、"私"の覚悟なんだから!
《爆豪エゲツない絨毯爆撃で3回戦進出!これでベスト4が出揃った!》
観客席に戻った時には、爆豪君と切島君の戦いの決着がついてしまっていた。勝者は爆豪君だ。
握りしめた手がカタカタと震える。私の次の対戦相手は爆豪君。1番になると言った爆豪君の前に"私"が立つのだ。
「笑夢ちゃーん!」
「あ…お茶子ちゃんに緑谷君、2人ともお疲れ様」
お茶子ちゃんは元気そうだけど、緑谷君はあちこち包帯だらけで痛々しい。緑谷君が持っているのは、前話してくれたヒーロー研究ノートかな?意外と元気なようだ。
「転身さんの次の相手はかっちゃんだよね。……頑張って」
「笑夢ちゃんのこと、むっちゃ応援してるから!」
「ありがとう、頑張るね」
_______________
《準決勝第2試合、爆豪対出席番号18番!マジで変身しないで勝ち上がるつもりかよ!?》
ついに爆豪君との戦いが始まる。ポケットに手を突っ込んでいつも通りに立っている爆豪君に対して、私は今までにないくらい足は震えているし、心臓は飛び出しそうになっている。
「おい、てめぇの1番強い変身だせ。……てめぇも舐めプしてんじゃねぇよ。本気でやれ」
「本気だよ。本気で戦いたいから、プリキュアには変身しないって決めたんだもの」
爆豪君がプリキュアに変身している私と戦いたいと思っているのはなんとなく感じていた。それに、爆豪君がずっと本気で1位を目指して戦ってきたのはわかってる。
でも、"私"だって____
《レディ、スタート!》
BOOOM
「ふ……ぐっ……」
スタートと同時に、爆豪君の"個性"による爆発で吹っ飛ばされそうになる。なんとか耐えて、次々と起こる爆発を避けようとするけれど、変身してない私なんかとは全然スピードが違う。
爆豪君の動きについていけない。
「きゃぁぁああ」
どうしよう、どうしよう、どうしよう……爆豪君の弱点、全然わかんない。どうすれば勝てるのか、全く想像ができない。
「……ぐっ…」
「おい、逃げ回ってんじゃねーよ」
《あー、これはまた……一方的な》
「てめぇはいつもそうだよなァ……戦う気がねぇくせに、いつもいつも」
BOOOM
爆豪君は爆破を起こしながら、倒れ込んだ私の近くに歩いてくる。彼はいつも私が、誰かに怪我をさせるような攻撃を避けていることに気がついてる。それで、こんなに怒ってるんだ。
「わ、わたしは、私だって自分の力で……
「チッ!そんな奴ら知らねぇんだよ……!てめぇのは覚悟なんかじゃねえ!自分の手汚したくねぇだけだろうが!!」
《あぁー!腹にパンチはヤベーって》
「ゴホ……だ、だってプリキュアの力は…みんなを守るための___
「他人事のふりしてんじゃねェ!俺がぶっ飛ばしてぇのは、てめぇだ!!」
BOOOM
身体中が痛くて立ち上がれない。
顔面も容赦なく狙ってくるから、ずっと顔をかばっていた腕の火傷がひどく痛む。
パンチされたお腹は絶対あざになってる。
何回も転んだせいで膝からはダラダラと血が流れている。
痛くて、それ以上に悔しくて、涙が止まらない。
___プリキュアとしてみんなと戦うなんてできないし、したくない。
___私の憧れた彼女たちの力は、友達と戦うためじゃないから。
___プリキュアの力は誰かを守るための力。だから、友達を傷つけるような攻撃はしたくない。
私は、"私"の覚悟は、人を傷つけるのが怖くて…自分の手を汚したくないから、プリキュアっていう大きな力に押し付けただけ?……他人事のふりをして、いろんなものから逃げてる?……そんな、そんなことない……だってみんな自分の力で戦ってるから、だから……わたしだって、ちゃんと本気で戦って、みんなを笑顔にできる……ヒーローに___
「だって、プリキュアは……私のヒーローは……」
_______________
「笑夢は将来何になりたいの?」
「んーとね、えむはプリキュアになるの!」
「プリキュア?……ごめん、ママわかんないや」
「プリキュアはねー、すっごくキラキラしててね、つよいんだよ!それでね、みんなをたすけてくれるの!だからね、えむもプリキュアになってみんなをたすけるの」
「笑夢の中にはプリキュアっていうヒーローがいるのね」
「うん!」
「ぅ…み、みんなプリキュアなんかしらないって…っ…どこにもいないって……」
「プリキュアはいるもん!嘘じゃないもん!」
ずっと心の中にあった存在。
"この世界"の誰も知らないけど私だけは知ってる。
キュアドリームの希望の光を
キュアルージュの情熱の光を
キュアレモネードの弾ける光を
キュアミントのやすらぎの光を
キュアアクアの知性の光を
たくさんの人に、光を与えるプリキュアの存在を私だけが____
「頑張れ!プリキュア !」
頑張れ!
頑張れプリキュア!
立てー!プリキュアー!
頑張れー!
プリキュアー!
「み…どりやくん……みんな……」
みんなの声が聞こえる。
頑張れって言っている。
「出席番号18番!行動ふ……続行します」
「はぁ、はぁ……ふふ」
反射的に立ち上がったはいいけど、足に力が入らない。痛すぎて、もう笑うしかない。本当に爆豪君、容赦ないね。どうしようかな、次に攻撃受けたら倒れちゃうな。
憧れの人の姿で人を傷つけるのは嫌。
大きな力で友達と戦うのは嫌。
でも、
たくさんの人に、私の頑張る姿で笑顔を届けたい。
ちゃんと、本気の爆豪君と向き合いたい。
だから、ちゃんと向き合って……この世界で……
活動報告に解説があります。