あっという間に時間は経過し、今日は待ちに待った雄英体育祭。私たちは各クラスごとに用意されたれた部屋に待機して、入場時刻を待っていた。
「屋台のご飯美味しそうだったなー」
会場の外ではたくさんの屋台が並び、まるでお祭りのような盛り上がりだった。数えられないくらいたくさんのお客さんが私たちの活躍を楽しみにしてくれているところを見ると、自然と頑張ろうという気持ちが湧き上がってくる。もちろんプロヒーローからの注目も大切だけど、せっかくならみんなに楽しんでもらいたい。
先日の
私は今まで雄英体育祭をしっかりと観戦したことがない。もとの世界のオリンピックにも興味がなく、次の日のニュースで日本人がメダルを取ったことを知るくらいだった。だからオリンピックと同じ注目度といわれても正直ピンとこない。
でも規模なんて関係ない。みんなに負けないように全力で頑張るだけだ。
「みんな準備は出来てるか!?もうじき入場だ!」
バーンと大きな音を立てて開いた扉とともに現れた、飯田委員長の言葉が静かな控え室に響き渡る。
緊張よりも大きな期待でドキドキと高鳴る胸を抑えるように手をギュッと握りしめて笑顔を浮かべる。大丈夫、私はプリキュアになるんだもん。私の頑張っている姿で、見ている人たちに笑顔を届けるんだ。
「緑谷」
いよいよ入場だとそれぞれ気持ちを高めていると、轟君が突然緑谷君に話しかけた。轟君と緑谷君という珍しい組み合わせに、みんなの視線が集まる。轟君は自分と緑谷君の実力差や、彼とオールマイト先生の仲の良さを指摘すると、みんなの注目を集める中、戸惑う緑谷君に対して堂々と勝利を宣言した。
切島君が慌てて2人の間に入るけれど、轟君はばっさりと切り捨てて、そのまま背中を向けてしまう。そんな轟君に緑谷君は俯いたまま弱気な声で話し始めると、「僕も本気で獲りに行く」と最後は覚悟を決めたように轟を見据えて真剣な声で答えた。
「おい、転身。俺はお前にも負けねぇ」
「うぇ!?……う、うん?」
緑谷君の返事を聞いた轟君はなぜかチラリとこちらを見ると、ついでのように私にも勝利宣言をしてきた。轟君とは授業で対戦したりUSJでも一緒に戦ったり、何だかんだ一緒になることが多い気がするけれど……私、何か彼に意識されるようなことしたかな?
隣に座ってた響香ちゃんには、アンタ何したの?なんて聞かれるけれど、私も何が何だか全然分かんないよ!
「ていうか、ずっと気になってたんだけど何その
響香ちゃんが私の顔を指差して、質問してくる。今日の私は目を隠すような黒い
「うふふー、かっこいいでしょ!"個性"で作った"絶対に外れない
「転身さん、なぜ
「ちょっと"個性"の関係でね!よーし、頑張っちゃうぞー!」
それぞれの思いがぶつかり合う、雄英体育祭が始まる。
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『雄英体育祭!ヒーローの卵達が我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!どうせてめーアレだろ、こいつらだろ!?敵ヴィランの襲撃を受けたにも拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!』
ステージに近づいていくごとに、プレゼントマイク先生の楽しそうな実況の声と大きな歓声が聞こえてくる。ゲートの外の光景を想像したみんなの顔がよりいっそう引き締まっていく。私もドキドキと暴れまわる心臓を抑えながらその時を待つ。
『ヒーロー科!1年A組だろぉぉ!!?』
もったいぶるような沈黙の後、一際大きな声で呼ばれたクラス名と同時にステージに向かって歩き出した。コロッセオのような円形の会場の、すべての方向から送られてくるカメラのフラッシュと、爆発的な歓声に包み込まれる。
「こんなにたくさんの人たちが私たちを応援してくれてるんだね!頑張ろうね、響香ちゃん!」
「笑夢……アンタ相変わらずすごいメンタルだね。ウチも今だけアンタの心臓欲しいわ」
「え?そうかな、ありがとう」
「はいはい」
話しながらもステージの真ん中に向かって歩く。その後も続々と名前を呼ばれたクラスが入場し、最終的に私たちヒーロー科に、普通科、サポート科、経営科、全部で11クラスが出揃った。
「選手宣誓」
壇上に上がりピシャンと手に持ったムチを振り上げて宣言したのは、18禁ヒーロー《ミッドナイト》先生だ。先生は私が職員室に行くといつも相手をしてくれるとっても優しい先生なのだが、先生の
ざわざわと大きくなってきた生徒たちの話し声に、静かにしなさい!とムチをビシッと振るったミッドナイト先生は、高らかに選手代表の名前を読み上げる。
「選手代表!1-A、爆豪勝己!」
「えー!かっちゃんなの?」
ポケットに手を入れたまま猫背で壇上に向かう爆豪君を見て、びっくりしている緑谷君が小さな声で叫んでいる。意外なのかな?私は爆豪君ってリーダーっぽいし、頭も良いしぴったりだと思うんだけど。
爆豪君はマイクの前に立ってもいつもと同じように堂々としたまま、ゆるく選手宣誓を行なった。
「せんせー。俺が一位になる」
爆豪君の全員を前にしての勝利宣言に、あちこちからブーイングの嵐が巻き起こる。かくかくと手を動かしながら、品位を貶めるなという飯田君の怒りの声も混じり、壇上の下は大混乱だ。
しかし、爆豪君はそんな生徒たちを見下ろすと親指で首を切る動作をして、せめて跳ねのいい踏み台となってくれとさらに挑発するような言葉を放っていった。
さすが爆豪君だけど、テレビカメラの前で首切るのはダメなんじゃないかな?死ねっとか言ってないからセーフ?
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「さーて、それじゃあ早速第一種目に行きましょう!いわゆる予選よ!」
生徒たちの混乱をそのままに、ミッドナイト先生は早速といって第一種目の発表と競技のルールを説明し始める。
第一種目は全員参加の障害物競走。コースはなんとスタジアムの外周約4kmで、しかもコースさえ守っていれば何をするのも自由という大乱闘が予想されそうなものだ。
スタートとなるスタジアムのゲートの1つのに、生徒たちがゾロゾロと集まっていく。通路が狭すぎてすでにおしくらまんじゅう状態だ。そんな生徒たちの陰に隠れるようにして、私は変身をする。今日は他の人に怪我をさせることがないよう、パワーを抑えないと。
「よし!__プリキュア!メタモルフォーゼ!」
「はじけるレモンの香り!キュアレモネード! 」
『スターーーート!!』
ミッドナイト先生のスタート合図が聞こえるとともに大きく飛び上がり、ゲートの壁を走って大渋滞になっている他の生徒たちの上を駆け抜ける。一番後ろにいたから、急いで前に行かないと。
《さ~て実況してくぜ!解説Are you ready?ミイラマン!》
《無理矢理呼んだんだろうが》
プレゼントマイク先生と、先生に無理やり連れてこられたらしい相澤先生による実況の声が聞こえてくる。先生たちっていつも一緒にいるし、仲良しだよね。
《うぉおお!今カメラの前を駆け抜けていったのは、A組の……
《黄色いのは、レモネードだ》
《おお、そうだった!こいつについては後でしっかり解説していくぜ!__ぉおっと!?先頭に飛び出したのはA組の轟だ!更にゲートを凍らせて後続を妨害!》
ゲートの出口までもうすぐというところで、冷たい空気が流れ込み、たちまちゲートが凍りついた。轟君による妨害のようだが、地面ごと足を凍らせて動けなくしているだけだから、怪我人はいなさそう。
壁を蹴りつけて一気にゲートの外に飛び出す。A組のみんなも回避したようだ。バランスを取りながら凍った地面を走り抜ると、いきなり目の前が暗くなり、大きな影に覆われた。
《さあいきなり障害物だ!まずは手始め第一関門、ロボ・インフェルノ!》
「これって……試験の時の?」
目の前に並んでいたのは、実技試験で暴れまわった0ポイント敵だった。しかし、先頭の轟君は攻撃を加えようとしてきた0ポイント敵を一撃で凍らせると、さっさと走り抜けて行ってしまう。
《1-A轟焦凍!攻略と妨害を1度に!こいつぁシヴィー!!すげぇな一抜けだ!》
彼が凍らせた0ポイント敵が、後に続こうとしていた生徒たちの上に倒れ込んでくる。このままあの大きなロボットが降ってきたら、潰された人が危ない。
「輝く乙女の弾ける力、受けてみなさい!
___プリキュア!レモネードフラッシュ!」
急いで必殺技を叫び、たくさんの小さな蝶を0ポイント敵にぶつけて攻撃する。こちらに倒れこんできていた0ポイント敵は、ぞろぞろと出てきていた周りのロボットたちを巻き込みながら反対側にひっくり返った。
《おっと!轟による妨害を防いだのは同じく1-A、キュアレモネード!1人だけ服装が違うから目立ちまくってんな!さて、そろそろリスナーたちが気になってるこいつの解説をしていこうじゃねーか!イレイザー!》
《こいつは"個性"を使っていくつかのパターンに"変身"できる。そんで、"個性を維持するために"変身している間は、それぞれの変身に合わせた名前で呼んでほしいと頼まれた》
《おいおいそれじゃあ贔屓じゃねぇかって!?いやいや!本当の名前が呼ばれねぇんだからむしろマイナスだろ!ちなみに黄色いこいつの名前は"キュアレモネード"だ!》
先生たちが私の解説をしてくれている。そう、私は今日の体育祭で私の名前を呼ばないようにお願いしたのだ。先生たちにはそれぞれのプリキュアの特徴を伝えてあるから、変身している間はそのプリキュアの名前で呼んでくれるはずだ。
これがプリキュアをアピールしつつ、"私"という正体を隠す策だった。この二週間はできるだけ長く、たくさんのプリキュアに変身し続けるために、必死で体力増量に費やしたのだ。一応保険のために、素顔の時は
倒れたロボットたちを飛び越えて先頭を走る轟君を追いかける。彼はすでに第二関門に差し掛かったようだ。
《第二関門はどうさ!?落ちればアウト!それが嫌ならはいずりな!ザ・フォーール!!》
目の前に底が見えないほど深い崖が現れる。崖の間には大小様々な柱状の地面があり、地面同士は綱引きのような太いロープで繋がっている。
「はぁ、はぁ……ふぅーー……」
息を整えて集中する。大丈夫、あれだけ特訓したんだ。
できるだけ近い地面を選びながらぴょんぴょんと崖を飛び越えて行く。一度でも距離感を間違えると崖の底まで真っ逆さまだ。高く飛ぶごとに、それぞれの個性を活かしながらロープを渡ってくるみんなが見える。はやる気持ちを抑えながら、確実なコースを選んで第二関門を突破した。
《先頭は一足抜けて下はダンゴ状態!上位何名が通過するかは公表してねぇから、安心せずにつき進め!!》
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《早くも最終関門、かくしてその正体は……一面地雷原!怒りのアフガンだ!地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!目と脚酷使しろ!》
両脇をドクロが描かれた看板で挟まれた地面には、点々と何かが埋まっているのが見える。あの1つ1つが地雷なのだろう。トップを走る轟君と、そのすぐ後を追いかけている爆豪君の背中が見えた。必死で走っていたら、いつのまにか3位についていたようだ。
《ここで先頭が変わったー!喜べマスメディアー!お前ら好みの展開だァ!》
爆豪君が轟君に追いついた。もう2人は地雷ステージの真ん中あたりまで進んでしまっているようだ。他のみんなも続々と第三関門にたどり着いてきている。前の2人に追いつくためにも、ここは一気に走り抜ける!
「2人とも!危ないから止まって!
輝く乙女の弾ける力、受けてみなさい!
___プリキュア!プリズムチェーン!」
ドッカーーーン
《おいおいおい!またまたやらかしやがったぞ、キュアレモネード!目の前の地雷をまとめて爆発させやがった!!》
前にいる2人に当たらないよう気をつけながら、左右二本の光の鎖をまっすぐに伸ばし、地面に向けて叩きつける。この技は体力の消耗が激しく、今までの私では使うことができなかった必殺技だ。でも、私だって成長してるんだから!これでゴールへの道はできた!
叩きつけられた鎖の衝撃で大きな爆発音とともに、ピンク色の煙がもくもくと立ち上がる。私が起こした爆発に、巻き込まれた人はいないようだった。周りを確認してホッと胸をなでおろし、煙を振り切るように走り出す。
まっすぐ爆発させたといっても、その幅は私1人が通れるくらいしかない。さらにこの煙で、他の人には地面に埋まるどの地雷が爆発したのかは、よく見えていないだろう。心苦しいけれど、ここで私が全部の地雷を取り除いても、意味ないもんね……どうか私の作った道を安全に走れる人がいますように。
《キュアレモネードがまっすぐ突っ込んで来てんぞぉ!足の引っ張り合いしてる先頭2人は大丈夫かぁ!?__後続もスパートかけてきたぁ!!》
《お前"キュアレモネード"って言いたいだけだろ》
ドッカーーーン
「きゃぁ!__緑谷君!?」
私が起こした爆発のときとは、比べられないくらい大きな爆発音が後ろから響き渡り、凄まじい爆風が巻き起こる。驚いて後ろを振り返ると、鉄の板にしがみついている緑谷君が爆風に乗って空を飛び、私の頭の上を飛び越えていった。
《A組緑谷、爆発で猛追……っつーか!!抜いたあああああー!!》
飛んで行く緑谷君を見た爆豪君は両手の爆発を利用して一気に加速し、轟君も地面を凍らせながら走り出す。私も慌てて前の3人を追いかける。勢いをなくして落っこちてくる緑谷君に並んだ瞬間……
ボオオオンッ
「え?__きゃぁああ!」
緑谷君が自分が乗っていた板を地面に向けて叩きつけ、足元の地雷を爆発させた。大きな爆発に正面から巻き込まれて後ろにひっくり返る。咄嗟に受け身をとって急いで立ち上がった時には、緑谷君はすでに最終関門を突破して走り出していた。
《雄英体育祭1年ステージ!序盤の展開からこの結末を誰が予想できた!?》
急いで走り出すけれど、距離が開いてしまった緑谷君や、少し前を走る轟君や爆豪君の速さになかなか追いつくことができない。3人の少し後ろに続いて狭い通路を駆け抜ける。もうゴールは目の前だ。
《今一番にスタジアムへ還ってきたその男緑谷出久の存在を!》
たくさんの観客が待ち構えるスタジアムに、1番にたどり着いたのは緑谷君だ。機転を利かせることで、"個性"を使わずに彼は1位になったのだ。2位、3位と続いた轟君と爆豪君のすぐ後に、私もゴールに飛び込んだ。
転身笑夢
第一種目「障害物競走」結果:4位
ついに始まった雄英体育祭!プリキュアの"正体"は絶対に隠し通さなくちゃ!プリキュアの魅力をたくさんの人に知ってもらえるように頑張ろう!
次回、騎馬戦。
相澤先生に"キュアレモネード"って言ってもらえて満足です。
プレゼントマイク先生ならノリノリで呼んでくれるはず。