「300年前から好きでした! 付き合ってください!!」 作:カンさん
結婚してください結城ちゃん!
「起立、礼──神樹様に、拝」
今日も何事もなく授業が終わった。クラスの皆が鞄を手に思い思いに過ごす中、私は友達の東郷さんの後ろへと周る。
「東郷さん、行こ?」
「うん。友奈ちゃ──」
車椅子を持ち、部室へと行こうとした瞬間──ばんっ! っとすぐ近くの扉が開かれた。大きな音にびっくりして、思わずそちらへと視線を向けて──息を荒げている親友の姿を見た。
ここまで走って来たのか、ぜえぜえ言っている。
しかしすぐに呼吸を整えると、彼女はキリッとこちらを見据えて──。
「こんにちは結城ちゃん。結婚してください」
「こんにちはかがみちゃん。結婚は無理かなー」
彼女の名前は上里かがみ。
私が生まれた時からの大親友で、同じ勇者部で、ちょっと変わっている──でも、とっても大切な人!
勇者部の部室に向かう道中、かがみは不満そうな顔で友奈に物申していた。
「私はこんなにも……それこそ300年前から愛していると言っても過言ではないのに。なんで結城ちゃんは私の愛を受け止めてくれないんだ!?」
「あ、あははは……」
彼女の言葉に友奈は困った顔をして苦笑する。
最初は赤面してワタワタしていた友奈だったが、流石に10年以上求婚され続ければ慣れてしまう訳で……。
さらにかがみも挨拶の後に必ず求婚している為、周りから見れば語尾か何かだと認識されてしまっている。
「上里さんも飽きませんね。玉砕されるの」
「なにおうメガロポリス。大和撫子からほど遠い癖に」
「今は関係ないでしょう! セクハラで訴えるわよ!?」
友奈に車椅子を押して貰っている東郷、必死の叫び。しかしかがみには届かず。
絶妙に見辛い位置に陣取りクスクスと笑った。
そんな二人を友奈が「仲良くねー」とやんわりと注意する。
友奈に向かってかがみが暴走し、それを友奈が受け止めて東郷が横から注意し、そして二人が衝突して友奈が治める。
いつもの光景であった。擦れ違う同級生たちが「仲良いね、相変わらず」と微笑ましそうにしている。それに気づいた三人はそれぞれ反応を示す。友奈は嬉しそうに、東郷は恥ずかしそうに、かがみは誇らしげに。
愉快な三人は飽きることなく楽しそうに話しながら歩き続け、あっと言う間に部室に着いた。ガラリと扉を開けて中へと入る。
「お、来たわね」
「お疲れ様です、友奈さん、東郷さん、かがみさん」
勇者部部室には既に先客が居た様で、入って来た三人を出迎えた。
一人はこの勇者部の部長である犬吠埼風。三年生だ。性格は明るく、行動はアグレッシブ。いつも皆を引っ張って導いている。
もう一人は犬吠埼樹。風の妹で、姉とは違って引っ込み思案な性格。しかし心の根は太く強く、そして優しい。ふんわりと笑顔で彼女たちを見るその様子からも彼女の気質が窺える。
挨拶もそこそこに、勇者部の活動をする。
勇者部の活動は多岐に渡る。幼稚園児への出し物から屋根裏の修理まで。
共通するのは人の為に役立つ事をする、だろうか。
何はともあれ不思議だけど、頼りになる部活だと認識されている。
そんな勇者部の今回の活動は──。
「猫探しですか」
「そ! 今月だけでもう十件も来てる!」
「猫逃げられ過ぎじゃないですかね? 飼い主さんたち大丈夫なんです?」
「こらっ。変な勘繰りしないの! それに悪い飼い主だったら捜索願いなんて出さないわよ」
かがみの物言いに注意する風。
そんな二人のやり取りに苦笑する樹と友奈。
心情的には風と同じだが、かがみが言っている事も分かる東郷。
それでも結局は猫を探す事に決定した。
「まったく……とりあえず、今日は手分けして探しましょう」
「はい! 自分は結城ちゃんとが良いであります!」
「異議あり!」
「却下!」
「待て待て待て。かがみも東郷も暴走するじゃないよっ」
友奈の取り合いを始めた二人に、呆れた様子で止める風。
しかしこの二人の暴走を止めるには勇者部の部長の肩書きだけでは重過ぎた。
「だって風先輩、考えてみてもください。こういうイベントで二人きりになって何も起きない訳無いじゃないですか。このイベントで結城ちゃんの好感度上げてゴールインするのが賢いやり方です」
「うん。今のを聞いて一気にアンタと友奈一緒にしたくなくなったわ」
「そんな!?」
「私のかがみちゃんへの好感度高いよー?」
人間、本来なら取り繕う生き物だが、目の前のかがみは友奈に対する感情も欲求も何一つ隠していない。全て正直に伝えるのが正解だと思ったのだろうか。
逆に明け透け過ぎて風からはドン引きされてしまっている。
傷付いたかがみは受け入れてくれる友奈の胸の中で泣き、すぐに興奮してしまい東郷から引き剥がされた。
「風先輩! このように上里さんは不純の塊です。そんな彼女が友奈ちゃんと二人っきりになるなんて……あぁ、考えただけでもおぞましい」
「おぞましい事考える東郷さんも東郷さんじゃね?」
掴み合いの喧嘩を始める二人。
それをゲンコツして止める風。
頭を抑えて涙目の二人を見ながらため息を吐きつつ、彼女は部長として命令する。
「東郷は私と樹に着いて来て貰うわ」
「やったぜ」
「そんな……!」
ガッツポーズを決めるかがみと顔を青褪めて絶望する東郷。
「その代わり、友奈に変な事したらそれ相応の報復があるからね」
「……報復?」
「友奈」
風が短く彼女を呼ぶと、どこからともなく現れる瓦。
その真正面に立ち、構えて、拳を落とす。
すると軽い音が響いて瓦は綺麗に真っ二つになり、かがみはダラダラと汗を流しながらそれを見る。
「えっと……?」
「友奈、自己判断で防衛して良いからね」
「わかりました!」
「ちょ!? 私何かしたらこうなるの!?」
少なくとも法に触れるような事をすれば、勇者パンチが炸裂する事は確かであった。
それを見た東郷は一応の納得を見せて、友奈に遠慮無く行けと助言し、それに再びかがみが噛み付き、風のゲンコツがまた飛んだ。
「二人っきりだね……結城ちゃん」
「かがみちゃんって成績良いけど頭少し残念だよね」
シュッシュッとシャドーボクシングしてかがみを牽制しつつ言うと 彼女は頬を引き攣らせる。
下手な事をすれば、家に帰るまで引き摺り回されるかもしれない。
仕方なく、かがみは真面目に猫探しする事にした。
「猫ちゃ~ん。何処にゃ~ん」
「……ふふ」
それを見た友奈はおかしそうに笑う。
友奈の前では常におかしな態度を取るかがみだが、根元の部分は真面目だ。言動はふざけているが、実際は周りをよく見て見逃さないようにしている。
普段からそうだ。彼女はクラスでも周りをよく見て、クラスメイトと接する時さり気なくフォローしている。
人と人が争う事が嫌いなのだろう。言い争う者が居れば、少し空気が悪くなれば、彼女は道化のようにおちゃらけて、他者を引き込み搔き乱して、いつの間にか皆が楽しめる空間を作っている。
東郷とのやり取りも、傍から見れば犬猿の仲に見えるが……楽しんでいるのか、見ていて面白いと友奈は思っていた。
だから、友奈もまた思っていた。
彼女とは、本当に久しぶりに二人っきりになった……と。
「そういえば、結局口調戻っちゃったね。『中学生デビュー目指す!』って言っていたのに」
「そんな事も言っていたなー。でもお嬢様口調が死ぬ程似合わなかったから」
あと東郷さんとキャラ被りする。
そう宣うかがみの背中を見ながら、友奈は入学した時の事を思い出す。
讃州中学に入ると同時に赤茶色の髪を結び、態度も物静かになり、常に微笑んでいた。まるで勇者に寄り添う姫の様に。
だが、すぐにメッキが剥がれて今の様になった。友奈としては、そちらの方が彼女らしく好きなので良いのだが……。
もしあのままお嬢様ムーブを続けていれば、男子生徒にもモテていたのに、と今でも思う。
しかし、かがみは──。
『男と付き合っている姿が思い浮かばないな……それに、私は結城ちゃんが──』
などと言い、男は眼中に無いらしい。
かがみちゃんらしい、と考えてしまうのは大分彼女に毒されているのだろうかと友奈は思う。
「ねぇ、かがみちゃん」
「なぁに?」
「かがみちゃんは、私のどこを見て好きになったの?」
「顔」
「もうちょっと言い方なかったの?」
即答されて友奈は微妙な表情になる。
大抵こういう時、性格だとか、君の行動に惚れたとか、マンガやアニメであるものだ。
ここまではっきり言われるといっそ清々しいと思った。
「つまり三百年前から結城ちゃんの顔が好きな訳ですよ。一途でキュンとした?」
「ガッカリしたよ」
「なんで!?」
何故そこでショックを受けるのか分からない。
友奈はかがみの乙女心への理解力の無さにため息を漏らす。別にかがみに恋愛的な意味で好かれる理由にガッカリした訳ではない。無いったら無い。
ただ、見た目は可愛らしい女の子なのに普段の行動が残念で勿体ないと思っている。口調も若干男らしいし、行動的な所も男らしいし、よくお姫様抱っこしてくるし、時々男の子だったらなぁと思うし。
そこまで考えて、友奈は頭をブンブン振った。思い浮かんだ煩悩を払うように。
「どしたの? 顔赤いよ?」
「う、ううん! 何でもないよ?」
パタパタと手を振って誤魔化す友奈に首を傾げながらも、その動作可愛いな結婚しよと思うかがみ。
しかしお互いに相手の考えている事に気付かず、そしてバレないようにする為、雑談しながら猫を探し続ける。
「知ってる? 体育の松田先生と数学の国近先生付き合ってるらしいよ」
「え!? そうなの!? 私てっきり国語の椎名先生と付き合ってるのかと……」
「え? なんで?」
「だってこの前二人で歩いていたし……」
「そうなの? じゃあ、屋上のアレって……」
「……」
「今の話忘れて」
「凄く気になるのですがっ」
「あ、あの猫じゃない?」
「ん? ……いや、アイツは尻尾の先が黒いから違うね」
「そっか……あっ、じゃああの子!」
「一見この写真と同じに見えるけど、模様が逆だね」
「じゃあ……あの子!」
「あいつは……股の間に立派なものがあるので違います」
「ちょ、かがみちゃん!?」
「ハア、ハア……ゆ、結城ちゃん……」
「えいっ」
「あうち」
「見つからないからってセクハラしないよーに」
「……」
「見つからないねー」
「見つからないにー」
歩き回り続けて迷い猫の捜索を続けていた二人だったが、なかなか見つからない。
友奈はいつか絶対に見つかると諦めず、かがみは今見つからないのなら出直した方が良いと正反対の事を考えていた。
何となくお互いにその事を読み、しかし絶対に「もっと頑張ろう」とも「もうやめよう」とも言わない。
その代わりに出てくるのは別の言葉。
「結城ちゃんってさ、凄いよね」
「え?」
「絶対諦めないところが。どんなに苦しくても、どんなに辛くても……人の為なら何だってできるんだなーって」
かがみは友奈の事を深く理解していた。
「自分の事がどうでも良いって訳じゃない。ただ、隣に居る大切な人が……友達を守る為なら何だってできる。
そんな、物語の勇者様みたいだなって勝手に思ってる。
そんな結城ちゃんが好きだけど……ちょっと嫌いかな」
「え?」
「最も自分を大切にしろって事さ!」
そう言ってかがみは友奈の不意を突いて胸を押して歩みを止めさせると、近くの自動販売機から飲料水を買って彼女に手渡す。
春とはいえ、そこそこに熱い。ジットリと汗が出ていた事に友奈はようやく気付いた。
そしてかがみは、彼女が自分を日陰を歩かせていた事に気付いていた。
その優しさに嬉しく思いつつも、感受する事はできない。
「ありがとうかがみちゃん」
友奈はかがみと近くの公園のベンチに座り、水を飲んで喉を潤す。
火照った体を適度に冷やした後、友奈は先ほどのかがみの言葉のお返しと言わんばかりに口を開いた。
「かがみちゃんも凄いよ?」
「え? 急にどうしたの?」
「かがみちゃんって、普段何も考えてないように見せてるけど色々考えているよね?」
「うん。結城ちゃんの事」
「ふふふ……ありがとう。でも、それだけじゃないでしょう?」
「……」
「その色々が何なのか私は分からない。でも、いつも優しい目で私達のことを見てるのは分かってる。だから──」
「ちょい待ち。これ以上は恥ずかしいから勘弁して」
「ふふふ。ダーメ。いつも私に告白しているんだから」
友奈の事が大好きなかがみは、彼女に強く出る事が出来ず、しばらく褒め攻めされ続けた。
その後、猫を見つけて勇者部と合流する頃には、褒められ過ぎてショートしたかがみと、それを見て笑っている勇者部が居たとか何とか。