「300年前から好きでした! 付き合ってください!!」 作:カンさん
付き合ってくださいかがみちゃん!!
「──かがみちゃん」
上里かがみだった少年は間に合わなかった。
絶望した。
恨んだ。
だから、勇者の為に……人の為に、世界の為に、全てを神樹に捧げて300年焼かれ続ける事を選んだ。
多くの巫女による犠牲の元行われた奉火祭の裏で、天の神を討つために炎の一部となり。
四国内で起きる神樹にとっての反思想の人間を薪にさらに燃え上がらせ。
大切な人と同じ顔、同じ名を持つ少女を一度見捨て。
何もかもを捨てて──彼は、彼女は──此処に居る。
◆
友奈の意識が戻るのと、かがみが腕を引き抜くのは同時だった。
友奈の胸には何もなかった。貫かれた筈の穴も──天の神の祟りも。
その事実を認識する前に、友奈は何が起きたのか──否、彼女が何をしようとしていたのかを理解していた。
胸を貫かれた瞬間、友奈はかがみの半生を見た。そして──感情を聞いた。
「かがみちゃん!」
友奈が悲痛な声を上げる。
何故なら──かがみのその身に、天の神の祟りが刻み込まれていた。
「ぐ、うううううう……あああ……!」
「どうして……何で!?」
友奈は、かがみに問い掛けずにはいられなかった。
かがみの体は、魂は、その在り方は、300年前の時点で既に彼女のものではない。
かがみの役割は、その身を焼き続けて天の神を討つための弾丸だ。
その為に神樹と様々な契約を結び、その存在を強固なものにしていた。
だからこそ、神樹の意に反する行動は、そのまま呪いとなってかがみを襲う。
天の神の祟りを引き受けるという行為を、かがみは赦されていない。
寿命残り僅かとなっていたその命に、己の命を分け与える事を、かがみは赦されていない。
かがみの身に、天の神の祟りに加えて、神樹の呪いもまた加わる。
友奈は、それを知らされていた。
「かがみちゃん!」
「……ハアハア……思ったより、辛いね」
「どうして……! かがみちゃんは、300年前からずっと……!」
友奈の言う通り、かがみは300年前から天の神を討つために全てを捧げた。
だが、今この瞬間、全てが終わった。
神樹と紡いできた契約は消え、天の神の祟りに干渉した事により魂は傷つき、神樹の神婚相手である友奈の御姿に手を加えた事により、神樹の最後の一手も打てなくなった。
普通に考えれば、凶行としか思えない行動。
かがみは、友奈に問われて、自分でも不思議に思い──友奈の顔を見て理解した。
「多分、そうだなぁ……300年間の恨みよりも──結城ちゃんへの一目惚れが、強かったからかな……」
「──」
「結城ちゃんを初めて見た時ね、すぐに思った。俺の知っている友奈とは違う。アイツはもう居ないって」
それは、300年越しの失恋。
そして、300年越しの新たな恋。
「でも、それを認めたら世界が終わると思って、俺の……私の身勝手な恋で、惚れた結城ちゃんを死なせたくないなって思ってて……。
満開で体のほとんどを供物に捧げたって聞いた時は凄く焦った。神樹様がいつか返すって言った時はほっとして。
でも、天の神の野郎に汚いモノ付けられて、死にかけて、苦しめられて──耐えられなかった。
300年間焼かれていた事よりも、この呪いの痛みよりも……結城ちゃんが辛い事の方が、辛いんだ」
「かがみちゃん……!」
天と地の呪いが一気にかがみの体を蝕み、吐血する。
もう、内臓のほとんどが機能していなかった。
目も霞み、耳も聞こえなくなっていく。
好きになった人の顔も、好きになった人の声も分からなくなっていく。
それでも、かがみは最期の想いを伝える。
「いつもさ、顔が好みって言ってたけど……本当は、別の所が好きだったんだ。
君が、結城友奈である。それだけで好きだった。
優しいところも、うどんが好きな所も、ちょっとボケッとしている事も。
そして、皆に好かれている事も──全部全部、大好き」
「私だって……私だって……!」
「そんな、結城ちゃんを死なせたくない……だから、だからどうか──」
死にかけのかがみは──絞り出すように、願いを伝えた。
「私を──殺して」
──友奈のスマホから、樹界化警報が鳴り響いた。
◆
天の神の理に干渉し続け、神樹に反する存在となり、天の神の祟りをその身に宿したかがみは──天の神が降臨する為の器としては、これ以上無い存在だった。
火神。鏡。かがみ。まるでこうなる事が当然と言わんばかりに名付けられたその名は、本来なら天の神の祟りから逃れる為の保険。
しかし、直接引き抜いてその身に宿してしまえば意味はなく。
神樹と大赦が用意していた苦し紛れの最後の一手も、かがみと神樹と300年間かけて募らせた最初の一手も。
今この瞬間、儚く散った。
かがみの全身から赤黒い炎が噴き出し、纏わりつき、天の神の尖兵となる。
さらに結界の外からはバーテックス・星屑たちが入り込み、かがみと共に最後の戦いを人類に仕掛けた。
「かがみちゃん!」
即座に勇者に変身し、襲い来る星屑を蹴散らしかがみに肉薄する。
炎を纏ったかがみを掴んだ彼女の手が焼ける。
精霊のバリアを貫通するその熱さに思わず友奈の握力が弱まり、その隙をついてかがみから熱風が解き放たれた。
爆風ともいえるその威力に、彼女の体は吹き飛ばされ樹海に叩き落される。
牛鬼のサポートでダメージを減らされたが、それでも痛みに顔を歪める程度には、目の前のかがみは強かった。
これが天の神。
これが人類を滅ぼす天敵。
これが──かがみを苦しませ続けた元凶。
友奈が勇者なら──彼女は魔王だ。
【■■■■──】
かがみ──否、天の神が唸り声をあげる。
人に理解させる気の無い声で、人ならざる声で。
「かがみちゃん──」
しかし、友奈にとっては──。
「──嫌なんだ」
──大切な、囚われのお姫様だった。
立ち上がった友奈に星屑が噛み付きに行き──拳で撃ち返される。
踏み締めた足先に力が入り、瞳にはもう──迷いはない。
「かがみちゃんがこれ以上傷付く事も、辛い思いをする事も」
天の神が灼熱の炎を友奈に向かって放つ。
しかしそれは、牛鬼が逸らし、守り、友奈に辿り着かせない。
まるで、それは間違っていると。
あなたに人を傷付けて欲しくないと言わんばかりに。
「そんな思いをするくらいなら──私が、頑張る!」
「──■■■──!!」
──それが、嫌だから……私は……私は!
友奈の声に反応したのか、天の神は悲鳴を上げるように口を上に向け、そこから炎を吐き出す。空から火炎弾が降り注ぎ、樹界諸とも友奈を殺そうとする。
しかし、この世界の勇者は一人ではない。
「私たちが……でしょ!!」
大剣が、ワイヤーが、銃弾が、双剣が、槍が。
全ての火炎弾を蹴散らしていった。
友奈は目を大きく開いて、そして先ほどの自分の言動を思い出して、涙が溢れ出す。
「み、みんな……わ、私……!」
「友奈!」
しかし、風が彼女の言葉を止めた。
「みんな、言いたい事は分かっている。言いたい事もたっくさんある。でも、その前に──無事で良かった」
「……はい!」
彼女の言葉には、勇者部全員の想いが込められていて、友奈はそれをしっかりと受け止めた。
樹は嬉しそうに笑い、東郷は駆け寄りたい衝動を抑え、夏凛は穏やかな表情をし、園子はほっとした顔をした。
「そして──それ以上に、言いたい奴に、言いたい事がたくさんある!」
しかし、次の瞬間、友奈以外の皆が同じ感情を抱いて、同じ表情で、同じ相手を見た。
その視線の先は──かがみだった。
まず最初に跳んだのは風だった。
「こんの──大馬鹿者おおおおお!!」
大剣の側面を使った強い殴打に、天の神は受け止めようとして、三センチほど足場を動かされた事に驚いた。
「どこの誰か知らないけど! 勝手に居なくなって! 言うべきことも言わなくて──私に謝らせないとはどういう了見だコラァ!」
【……!】
「可愛い部員を信じられず、疑って、問い詰めて──そして忘れる事の辛さをちゃんと考えろおおおおお!」
ゴインッと鈍い音が響き、ついに吹き飛ばされた天の神は星屑を巻き込んで空へといく。
そして、それを追い越し、風は思いっきり想いの丈を剣と共に叩き付けた。
「ちゃんと──謝らせろおおおおおお!」
地面に落ちた天の神にダメージはほとんどなかった。
すぐに立ち上がると、空中で隙だらけな風を攻撃しようとし、ワイヤーに絡めとられる。
樹もまた怒っていた。
「どこの誰か知らないけど! 私の夢を応援したのなら……最後まで見届けてください!」
かつて失った声で、樹は夢をうたう。
「楽しい事を考える為には、嬉しい事を考える為には! あなたも居て欲しい! だから!」
【……!】
縛り付けていたワイヤーが燃やされる──しかし新たに展開したワイヤーで拘束しなおす。
「ちゃんと──見守ってくださぁぁぁあああい!!」
そして、力の限り上へと放り投げて──次へと繋げる。
それに対抗するように翼を形成するが……。
「それと!」
その翼はワイヤーで絡め取られ……。
「イマジナリー使ってみたら、みんなから心配されました! お姉ちゃんには『まさか……散華!?』って頭の心配されましたからねうわーん! ちゃんと謝ってください!!」
ワイヤーで粉々に引きちぎられ、身動き取れなくする。
そして、空中に投げ出された天の神に斬りかかるのは、完成型勇者、三好夏凜だった。
「うおおおおおおおおお!! どこかの誰かぁぁあああああああ!!」
夏凜の怒りの炎は、前の二人とはまた違っていた。
罪悪感も、優しさもない、純粋な怒り。
それが込められた双剣を想いの限り叩き付ける。
「アンタの所為で……アンタの所為でえええええええ!!」
しかし、それも無理もない。何故なら、彼女の、三好夏凜の怒りは──。
「歓迎会で友奈にやったあの気持ち悪い告白、全部私がやった事になっていたんだからねえええええ!!」
記憶の辻褄合わせである。
それが生んだ悲劇だった。
「身に覚え無いのに言った事になっていて! 風からはいつもネタにされていて! 園子からは「にぼっしーは変態さんなんだ~……変態型勇者さん?」って言われて──辛かったんだからねええええええええ!!」
若干、天の神の動きが鈍ったように見える。
それは、まだ残っているかがみの罪悪感からだろうか。
「でも! それ以上に!」
その隙を突くように夏凜の美しく、荒々しく、素早い連撃が天の神を襲う。
「アンタが居ない事が辛いんだからああああああ!!」
そして際の一撃を叩き付けて、離脱する。
連撃が止まった事を認識した天の神が反撃に移ろうとし──弾丸に撃ち抜かれる。
東郷だ。
「どこかの誰かさん──アナタと私は、よく喧嘩しましたね」
彼女もまた怒りを抱いている。
しかし、それと同時に、共感もしていた。
だから、彼女は語らない。
ただ黙々と弾丸を撃ち続ける。
撃ちながら、過去の事では無く未来の事を語る。
かつて、未来を捨て、過去を想い、現在を終わらせようとした少女が。
「これからも喧嘩をしましょう。そして時々は穏やかな時間を過ごしましょう。
それが、私たちでもできることです。それを、捨てるのは勿体ない。
だから──これ以上、友奈ちゃんを悲しませないで」
東郷の弾丸で動きを封じられている間に、天の神の上を取っている者が居た。
園子だ。
彼女は、かつて東郷美森が鷲尾須美だった時の事を思い出しながら、その時の戦いを思い出しながら──その後を想いながら、槍を強く握り締める。
「どこかの誰かさ~ん。あなたの想いは直接聞いているからわかるんよ~。だから、これだけを言うね~」
そして、槍を思いっきり刺し貫いた。
しかし、当たっては居ない。
友奈と戦い始めてから、かがみの肉体は別次元のものへと変化している。
その事を大赦のとある女神官から聞かされていた園子たちは、割と容赦なく攻撃してきた。
彼女を助ける為に。
そして、自分たちの怒りを教える為に。
「──信じてよ」
【……】
「300年も意固地になっているから難しいのかもしれない──それでも! 皆を助けたいなら、好きなら、愛しているなら──信じて!」
園子は、かがみの話を聞いて彼女を信じたいと思った。
しかし記憶を消されてしまった。
忘れられる辛さを知っている園子が、だ。
だから、いつか言い返してやろうと思っていた。
園子だけではない。
東郷も、夏凛も、樹も、風も。
みんながみんな、彼女に言いたい事がある。
だから、絶対にかがみを取り戻さないといけない。
「──みんな、こう言ってるよかがみちゃん」
最後に踏み出した友奈が力強く言う。
「私も言いたい事がまだまだある──だから!」
拳が、銃が、大剣が、ワイヤーが、双剣が、槍が、かがみへと向けられる。
『付き合って貰うよ──かがみちゃん!!』
最後の戦いが──始まる。