「300年前から好きでした! 付き合ってください!!」 作:カンさん
東郷は落ち込んでいた。理由は、部長である風に強く当たってしまった事……。
そしてそれ以上に、恐怖から動けず自分だけが戦えなかった事。
その自己嫌悪が東郷の心を蝕み、親友である友奈の言葉を振り切って部室から逃げてしまっていた。
「はぁ……」
思わずため息を吐いてしまった。
一人になるとどんどん思考が沈んでいく。
だからこそ驚いてしまった。
「どったの、東郷さん」
予想外の人物の声に。
「なんか落ち込んでんねー。ほい、お茶」
「あ、ありがとう……」
自販機で買ったお茶を手渡して来るかがみ。それを素直に受け取る東郷。
普段いがみ合い、噛み付き合う二人だが、例外としてこのように衝突することなく接する時間がある。
それは、友奈が居ない時だ。
かがみは、東郷を目の敵にしている。友奈と仲良くする上で彼女を一番の天敵だと判断しているからだ。
しかし友奈が絡まなければ普通に接するし、むしろ好意的な態度を取る。
一人で落ち込んでいるのを見て、声をかける程度には。
「美人さんはどんな顔しててもモテるけど、私的には笑ってた方が好きだなー」
「……お世辞を言っても、何も出ませんっ」
東郷はぷいっと顔を背ける。元気付ける為とはいえ、嘘を吐かれるのは嫌だと、そう態度で示す。
それに困ったような表情をしながらかがみは笑う。
「お世辞じゃないよー。さっきそこで落ち込んでる東郷さん見て男子が『お、おい。今の東郷さん色っぽくないか』『あ、あぁ。お、俺ちょっとトイレ……!』『特にあの胸、たまらねー!』ってコソコソ話してたし」
「な!? ななななななな!?」
自分の胸を抑えて顔を真っ赤にし、かがみが差した方へと睨み付ける。
しかしそこには誰もおらず、残ったのは東郷の羞恥心のみ。
そんな彼女の反応にかがみは今度は面白そうに笑った。
「もう! 上里さん!」
「あははははは! ごめんごめん。でも、元気出たでしょ?」
かがみの言う通り、今の東郷に先ほどの暗さは無い。その事を指摘された彼女は言葉に詰まり、しかしすぐに負けを認めたかのように苦笑した。
友奈が絡まないと、彼女に口で勝てる気がしない。
こちらが気を使わないで良いように振る舞うから、自然とストレスが抜けていく。それを不思議に思いつつも、東郷は嫌では無かった。
他の勇者部の皆と違う関係性。できれば続けたいな、と思っている。
だからこそ……。
「そういえば、今日は風先輩から活動は休みって言われたけど本当?」
「──ええ。本当よ」
「ふーん……まぁ、いっか。なんか、先生も私に個人的に頼みとかあるみたいで、ちょっとそっちに合流しずらいみたいなんだよねー」
──私だけゴメンね? と、勇者部でありながら、別活動する事になっているかがみは申し訳なさそうに謝り、それを東郷は辛そうに見ていた。
上里かがみは勇者ではない。
犬吠埼風が作った勇者部は、本来なら人類の敵バーテックスに対抗する為の存在である勇者の適正がある者を集める為に作られた場所。しかしどういう訳か、全く関係の無い上里かがみが入部してしまっている。
当然、彼女は勇者にならず、友奈たちが戦っている事を知らない。
そして、この事を彼女に教えてはならない。
「あの、かがみさん……」
「ん? どったの?」
彼女の炎のように赤い瞳が東郷へと向けられる。
東郷は、そんな彼女の瞳の中の自分が酷い顔をしているのを見て──。
「……あなたが居ない間は、私がしっかりと友奈ちゃんをお守りしますからね!」
「なにおう! 結城ちゃんを守るのは私だ! メガロポリスは国防してな!」
友達を巻き込まないように、悲しそうに微笑んだ。
◆
「ふふふふふふ。結城ちゃん久しぶりですね~」
「かがみちゃんは相変わらず甘えんぼさんだね~」
友奈の家の友奈の部屋の友奈の膝の上で上里かがみは蕩けきっていた。
勇者部と別行動させられるという事は、当然友奈とも離れる訳であり、クラスが違うだけで色々と限界を超えるかがみが友奈欠乏症にかかるのは当然のことであった。
「でも流石に顔を押し付けて深呼吸するのはやめてね?」
「あい」
頭にたんこぶを作ったかがみが、友奈の釘刺しに素直に屈服する。
どうやら既にやらかした後らしい。
「……スー……スー」
「かがみちゃん?」
「鼻呼吸してるだけですが?????」
「もうっ。変な事するから膝枕終わり!」
頬を赤く染めた友奈が立ち上がってかがみを膝の上から追い出した。
「あぁん」と無駄に色気のある声を出すも、友奈にはスルーされる。しかしすぐにゴロゴロと床を転がって友奈の足元へと向かい。
「友奈ちゃん……太った?」
「かがみちゃんっ」
乙女への禁句を軽々しく口にし、割と本気で怒られる。
「かがみちゃんは仕方ないね」
「えっへん」
「褒めてないよ?」
デコからシュー……ッと煙を出しながら無い胸を張るかがみ。
そんな彼女に呆れて物も言えない友奈だが、いつものことかと諦めた。
しかし、それと同時にいつもと変わらない彼女にホッとしている友奈だった。
勇者になって、バーテックスと戦って。
その時は勇気を持って乗り越えたが──怖い物は怖い。
そして、それ以上に怖いのは大切な日常を失う事で、故に元気なかがみを見てしっかりと守れていると実感できた。
「かがみちゃん。東郷さんの事励ましてくれたんだね」
「まぁね。ライバルに塩を送るみたいで複雑だけど~」
「嘘。そんな事思っていないでしょ?」
「……」
「素直じゃないなー」
居心地悪そうに顔を逸らすかがみ。
友奈を前にすると、途端に東郷関係で意地を張る。
友奈が居ないと素直になる。
上里かがみは面倒くさい女であった。
「かがみちゃんって東郷さんの事気にしているよね」
「何言ってるの結城ちゃん。私が気になっているのは君だけさ☆」
「他のクラスの皆以上に気にしているよね。風先輩や樹ちゃんに対しても気にしてる」
「あれ? スルーですか?」
「……あまり答えたくない?」
「……」
友奈が不安そうな表情を浮かべると、軽薄な顔で誤魔化し続けていたかがみの口が止まる。
友奈の言う通り、上里かがみの人への態度は、勇者部とその他の人間と大分異なる、
疎かにしている訳ではない。ただ、勇者部を特別視しているのは確かだ。
かがみはその事を指摘されて困ったように眉を顰めて、どう答えたものかと困惑した。
やがて自分の中で整理がついたのか、ぽつりぽつりと語り出す。
「別に東郷さんが車椅子乗ってって可哀想とか、そう言う風に思ってないんだよね」
「分かっているよ」
「まぁ私は元々人を支えるタイプだったんだよね。それと東郷さん黒髪だし、暴走してやらかしそうだし」
「ひ、酷い言いよう……」
「──ま、今はその相手も居ないんだけど」
そう言って、何処か遠くを見るようにして何かを思い出すかがみ。
そんな彼女を見て友奈は心がざわりと揺れ動いた。
「かがみちゃん……?」
「ん……ごめん、まっ、つまり放って置いたらヤバそう。昔の癖で気にかけている。それくらいで思っていて良いよ」
「わ、わかった」
「──それにしても」
ずいっと友奈に体をにじり寄せて、顎を指先で上げると彼女は囁いた。
「もしかして……妬いちゃった?」
耳元で、魅惑的に。
「結城ちゃんも可愛い所があるね──」
「──」
中学生には、刺激的過ぎた。
友奈は心臓を高鳴らせてかがみから離れると、顔を真っ赤にさせてワタワタする。
「ちょおおおおおお!? かがみちゃん!?」
「ふふふ……結城ちゃん。あまり可愛い所見せたら……」
食べちゃうよ?
そう言ってかがみは怪しく微笑んだ。
◆
そして、次の日。
かがみは簀巻きにされて勇者部に連行されていた。
「うおおおおおおおお! 離せこのメガロポリスゥゥゥゥゥゥ!!」
「ダメです。昨日、あなたが友奈ちゃんに破廉恥な事をしたのは知っています」
東郷の後ろで友奈が無言で頷いていた。
頬がまだ赤く、かがみのことを警戒していた。
「上里さん。今日という今日は許しません。その腐った性根叩き直してあげます!」
「人の性根治す前に、自分の暴走癖治しませんか????」
「問答無用!」
「ぎゃああああ!」
汚い悲鳴を上げるかがみを余所に、友奈は風たちの所へ避難する。
簀巻きにされながらも友奈のスカートの中を見ようとしていたとかは関係ない。
逃げて来た友奈を迎え入れた風は、彼女に尋ねた。
「珍しいわね、友奈がそういう反応するの」
「は、ははは……」
彼女の問いに曖昧に返す友奈。風は首を傾げるが、追及せず東郷とかがみのやり取りを見守った。
だから、樹だけだった。
友奈が、かがみの事を──ちょっとだけいつもと違う目で見ていたことに気づいたのは。
「……!」
「ん? どったの樹?」
「な、なんでもない!」
──今日も勇者部は平和である。