「300年前から好きでした! 付き合ってください!!」 作:カンさん
あ、タグ追加しておきますね。展開入ったので。
犬吠埼風にとって、上里かがみは良く分からない存在だった。
友奈に執着しているヤベー奴……だからではなく。
大赦が彼女の存在を黙認するように、風に強く言いつけたからだ。
上里といえば、大赦において乃木に続く発言力を持つ名家だ。
かつて、300年前に戦った勇者である乃木若葉を導いた巫女である上里ひなたの血を引く一族。それを聞くだけで『上里』の存在の大きさが分かる。
だが、大赦の上里かがみへの扱いは──名家の令嬢だからとか、そういう感じではなかった。
上里かがみに勇者適正は無いが、勇者部に所属する事は黙認しろ。
お役目の事は、かがみに言ってはならない。
そう言い聞かされた風は、かがみを除け者にするようで心苦しく思いつつも、戦いに巻き込まなくて良かったと思っていた。
満開をするまでは。
その代償の重さを実感するまでは。
──満開で払った代償が、もう元に戻らないと知ってからは。
東郷の検証の結果、勇者は死ねない。死ななないのではなく死ねない。
満開をして敵を絶対に倒すために死ねない。
精霊はその為に存在している。
気が狂いそうだった。
復讐の為だけだったら我慢できた。
しかし、彼女は皆を巻き込んでしまった。
大切な部員たちを、大切な妹を。
時間が経つ度に心に暗雲が立ち込め、大赦への不信感が募り──上里かがみの特異な存在感に気付く。気付いてしまった。
──認めたくなった。
かがみもまた、大切な部員の一人のはずだ。
しかし、今の自分は普通じゃないと風自身が分かっていた。
だからこそ、呼び出した、
かがみを、誰も居ない勇者部部室へ。
◆
「どうしたんですか風先輩? 眼帯つけてそんな顔してると、普段よりも厨二っぽいですよ?」
「……」
「ありゃ? だんまり……他の皆はいませんね。でも仕方ないですかね。なんだか、皆最近疲れているようですし」
「……」
「まっ、私も勇者部に入りつつも割と早く家に帰っちゃうんですけどね。欠席多いの、私なりに気にしているんですよ?」
「……」
「あの、風先輩?」
焦げ茶色の髪の毛を揺らし、赤い瞳で風の顔を覗き込むかがみ。
風を心配しているのは演技には見えず、心底そう思って良そうで、だからこそ風は吐き出しそうになってしまう。胸の奥に溜まったドロドロしたこの感情を。
「──ねぇ、上里」
「なんですかー?」
「アンタってさ、友奈が電話してもなかなか出ないんだっけ? なんで?」
「そうですねー。まぁ、電話しなくても心が繋がっていますし? 別にいらないか」
「真面目に答えて」
「……電話に出れないから、ですね」
「なんで出れないの」
「そんなプライベート事話せませんよ」
「……」
風は質問を変える。
「アンタ、割とすぐに家に帰るけど、どっかから朝帰りしているんだっけ? 何してるの?」
「む……見られていたか、まぁ、良いじゃないですか。私にも色々とあるんですよ」
「……あまり、家には居ないのね」
「……まっ、そういう事になりますね」
踏み込んだ質問を、する。
「大赦は知っているわよね」
「当然」
「大赦のツートップ……乃木と上里っていうのよ」
「そうですか」
「そうですかって……」
「それで? それがどうしたんですか?」
「……」
「聞きたい事はちゃんと聞かないと」
かがみの言葉に、風は覚悟を決めた。
「……上里。アンタ──大赦の人間なの?」
もし、大赦がこの事を知れば全力で止めに来たのだろう。
かがみには、お役目に関する事を話してはならないと厳命されている。
しかし風は限界だった。
かがみを信じたい気持ち。事実を隠蔽している大赦への不満。
それをイコールで繋げて、変質させたくなかった。
だが──。
「良いんですか私にこんな事聞いて? 言っちゃダメって言われているでしょ?」
「──」
その返答だけで、全てが分かった。
風がかがみの胸元を掴んで、壁に押し付ける。
「アンタは……アンタは! 全部知っていたんだ!」
「……」
「私たちが戦っている事も! 二度と戻らない代償を払っている事も! それを知っていながら、アンタは──」
「呑気な顔して傍に居た……そう言いたいんですね」
「そうだ!」
「いやそれ、風先輩が自分に思っている嫌悪感そのものじゃないですか」
「──」
血のように赤い瞳が、風を射抜く。
まるで、心の奥底を見るように。
風の腕を掴み返して己の胸元から解放させると、かがみはグイッと顔を近付ける。
「危ないお役目を、皆に黙っていた。
自分の復讐心を隠して、世界の為だと言いながら。
これ全部風先輩が考えている事ですよ」
「っ! わ、私は……!」
「分かってますよ。満開の代償を知っていれば妹である樹さんは巻き込んでいなかった。
でも実際には巻き込んでしまっている。
取り返しのつかない状態に陥っている。
そう思うからこそ、風先輩は赦せないんですよね。
守るべきはずの、大切な存在である筈の──樹さんの声が二度と戻らない事が」
「っ……!」
ダラリと力なく腕を降ろす風。
彼女の感情が暗く落ち込んでいるのを確認したかがみは、先ほどの風の問いに答える。
「……皆が戦っている事は知っていました。
満開の代償は……もう答えなくても良いでしょう。現段階で知っている知っていないは問題ではありません。
私が憎いのなら、その勇者の力で私を殺しても良いですよ」
「──できる訳、ないでしょ」
力無く、風が応える。
「アンタは……アンタは、勇者部の一員じゃない」
「──」
「部長が、部員を見捨てて──どうすんのよ」
「……」
「……ごめん。私、家に帰る」
──樹に、話さないと。
生気の無い顔で、うわ言のようにそれだけを呟いた風は立ち去って行った。
よほどショックだったのだろう。
彼女のかがみを見る目は感情が複雑に入り乱れていた。
それでも、かがみの事を勇者部の仲間として扱っているのは……彼女の生来の性格から来るものだろう。
「……ダメ、だろうな」
だからこそ、風は暴走するとかがみは確信していた。
樹は、満開の代償により声を失った。
つまり、夢を失ったと言える。
その事を知った風がどのような行動を取るのか──考えなくても分かる。
「……」
かがみは、目を閉じて風とのやり取りを思い出す。
『風先輩ってなんで首輪つけているんですか? マゾですか?』
『チョーカーよ! おしゃれよおしゃれ! これで女子力アップ!』
『上がっているのは隷属力だと思いますけどね。可愛いワンちゃんだ』
『誰が犬よ!』
『犬吠埼じゃないですか。もし私が風先輩飼ったらタマって呼びますね』
『どこにタマ要素あった!? てかタマは猫に付ける名前でしょ!』
『そうですかね。まぁ、私は結城ちゃんを飼いたいというか、むしろ飼われたいというか──』
『風先輩って高校に行っても放課後になったら此処に戻って来そうですね』
『な、なによ急に』
『いや、部長ではなくなってただのJKその一になって無個性になった風先輩は、オールマイトに成長した樹さんの所でダラダラして青春無駄にしそうだなーって』
『女子力の塊である私になんて口の利き方してんのよ!』
『本当に女子力あれば、口にしなくても自然と分かりそうですよね。わざわざ主張しないといけない犬吠埼風の女子力たったの5か……フン、ゴミめ』
『なんかすごい罵倒されたー!?』
『でも体つきはエロいですね、女子力ありますね。その辺のおじさんが摂取しそうなポイントだな……』
『アンタ本当は私の事嫌い?』
『好きですよ。ただ結城ちゃんが居る以上有象無象の価値は全て等しいので……』
『照れ顔で謙虚そうな顔で言っているけど、内容がぶっ飛んでいるわね。流石上里だわ』
『こんにちはー』
『こんちー、はい。駆けつけ三杯!』
『うどん三杯とか頭おかしい。女子力の前に常識身に着けて、どうぞ』
「……楽しかったなぁ」
過去を思い出し、本音を呟き。
「──もう不要なものだけど」
これからの未来を想い、真実を口にする。
かがみは、スマホを取り出し電話をかける。
『……もしもし、かがみちゃん?』
「こんにちは結城ちゃん」
『珍しいねかがみちゃんがスマホ使うなんて』
「まーね」
『どうしたの?』
「うん──結城ちゃん、好き」
『え?』
「愛してる。今一番大好き。ずっと一緒に居たい」
『ちょ、いきなりどうし──』
「──でも、それももう無理かな」
『──え?』
「じゃあね」
通話を切る。そして、スマホを燃やし尽くした。
鉄の欠片一つ残すことなく、かがみはスマホを消した。
いや、スマホだけではない。
勇者部の部室を中心に『ありとあらゆる上里かがみに関する情報』が焼却していく。
写真からはかがみの姿が消え、日記にはいくつかの空所ができ、学校で彼女の事を覚えている者は居なくなった。
しばらくすれば勇者たちの記憶からもかがみの存在は消えるだろう。
それをかがみが望んだから、世界が応えた、
「その前に行く所があるな」
しかし、最後の仕事の為かがみは歩き出す。
大赦本庁へと。