「300年前から好きでした! 付き合ってください!!」   作:カンさん

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【荳企㈹縺九′縺ソ】の章
ごめんなさい結城ちゃん


 犬吠埼風が暴走し、東郷美森が世界の真実を知り絶望する中──乃木園子は大赦の病室にて、神官に懇願されていた。

 

 勇者の力を用いて、世界を守れ……と。

 つまり犬吠埼風と東郷美森を拘束、勇者システムの剥奪だ。

 

 大赦は、このような不測の事態に備えて乃木園子を確保していた。

 世界を救う為に。危険分子になり得る現勇者たちの抑止の為に。

 

「ごめんね~、それはできないんだ~」

「な……!?」

「あの子たちの気持ち、痛い程分かるから……。

 だから、どんな結末になろうと見守るって決めたんだ」

 

 だからこそ、彼女は満開の代償……散華の事を話した。

 東郷に世界の真実に辿り着けるように誘導した。

 全てを隠され、騙され、何も知らないまま戦わされた果て──それを知っているからこそ、彼女たちには自分の様になって欲しくないと強く願った。

 

「勇者様!」

 

 神官たちが顔を伏せてなお懇願するように叫ぶ中──聞こえる筈の無い声が響く。

 

「──それが、あなたの答えか乃木園子」

「──かがみ様!?」

「……誰?」

 

 大赦の神官たちが、酷くおびえた様子でかがみを見て。

 園子は、全く聞き覚えの無い名前に首を傾げる。

 別に記憶を失った訳ではない。

 元々、園子は彼女の事を知らないだけだ。

 何故なら──上里家にかがみという名を持つ人間はいない。

 

「……かがみ? 確か、結城ちゃんが──」

「そうです、そのかがみちゃんが私です」

「……あり得ない」

「ん?」

「だって、私はその事を知らされていない!」

 

 園子は、21回の満開を経て最高位の勇者となった。

 この四国で最も神樹に近い存在と言える。

 だからこそ、大赦は彼女を祀り、園子の問いかけには嘘偽りなく答える──筈だった。

 

「どういう事なの……?」

「それは……」

「その先は私から話しましょう」

 

 言い淀む神官の言葉を遮り、かがみが口を開く。

 

「黙っているように指示したのは私だ。『上里』の名を借りる上で、邪魔だったからね」

「……乃木と上里は大赦でもツートップ。その片方が懇意にしている存在が居ると知れば、私が動くと思ったんだね」

「まぁね。それだと、こちらとしても動きづらくなるから黙って置いて貰ったの」

 

 もうその必要も無いから、こうして話に来た訳だが──。

 

「でも、それでも分からない」

「ん?」

「上里……ううん、この分だと乃木、それどころか大赦全体があなたの意のまま。

 大赦は、私の言う事は何でも答える。でも、それ以上の扱いを受けているあなたは、いったい……?」

「そうだね……時間もまだあるし、話しておこうか。

 

 

 私の──いや、俺の話を」

 

 焦げ茶色の頭髪が変色する。

 赤く、紅く、アカク……。

 まるで炎が灯ったかのように、かがみは……いや、かがみと名乗るダレカはその存在を燃え上がらせた。

 

「これって……!」

 

 ソレを見た瞬間、園子はとある記憶を思い出した。

 それは二年前、結界の外に出て世界の真実を知った時に見た──灼熱の地獄。

 かがみのソレは、記憶のものと全く同じであった。

 彼女を起点に異界が作られ──園子はかがみと共に炎の世界へと堕ちた。

 空は暗く、大地は焦げ、空気が燃えている。

 光源は身を焼く炎のみで、園子は自分の体が汗を掻いているの実感した。

 

「俺は外の世界からやってきた──300年の恨みを晴らすために」

「300年……?」

「俺は──天の神を殺すために、全てを捧げた」

 

 

 ◆

 

 

 名前は既に覚えていなかった。

 己を構成する情報を供物にした彼は、その存在を抹消し、300年間外の世界で焼かれ続けた。死んだ人間の恨みをその魂に取り込み続けた。天の神への想いを募らせ続けた。

 あの日、勇者が負けたあの日から、彼は神樹と共に打倒天の神の為に──火の神、カグツチの神話を再現しようとしていた。

 

 四国の外に広がる炎は天の神が理を書き換えて異界にした。

 その異界で身を焼き、新たな存在になる事により、天の神を親──イザナミとする。

 そして、カグツチは神話においてイザナミを死に追いやった。

 さらにカグツチはイザナギに子殺しの咎を植え付け、穢れを黄泉の国から現世に持ち込む事により全能、完全の存在を否定する特性を持つ。

 

 ヒトを滅ぼし、天の神にとっての完全なる世界を否定するには、うってつけの存在だと言えた。

 

 天の神を殺すため、彼は焼かれ続ける。

 ずっと、300年間。

 

 恨みを忘れないように、邪魔なものを燃やし続けた。

 ずっと、300年間。

 

 ──それでも、忘れる事ができない愛した人が居た。

 あれから、300年。

 

 だから、ふと思ってしまった──高嶋友奈に会いたい、と。

 

 それを見た神樹は思った。

 天の神打倒の為に、人の魂のまま尽くしてきたその献身的な姿。

 評価に値する。

 故に願いを叶えよう、と。

 しかし、願いを叶え終えた後は──完全なる火種となり、天の神を殺せと約束(呪い)を取り付けた。

 

 この願いが果たされた時、彼の魂は対天の神としてさらなる位階へと進む事になる。

 それだけ、神との契約は強く、重かった。

 

 それからは早かった。

 神樹が用意した御姿に魂を注ぎ込み、上里とかがみの名を刻み込む。

 そして世界の記憶を弄り、上里かがみはこの世界にやって来た。

 

 300年前に伝えられなかった愛を、別の人に想いとして送り続けて。

 愛を囁く度に苦しかった、狂いそうになっていた。

 結城友奈に想いを告げる度に、高嶋友奈を侮辱していて。

 高嶋友奈の事を思い続ければ続く程、結城友奈を侮辱していて。

 

 いつしか──彼の中で、どちらの友奈が好きだったのか分からなくなっていた。

 

 満更でもなさそうな顔をする彼女が嫌だった。だから、断られやすいようにした。

 この想いを成し遂げてはならないと思ったから、東郷を炊き付けていた。

 

 燃えカスの心は、昔を思い出した。

 

 勇者である事を誇りに思い、素直じゃない三好夏凜にかつて郡千景を見る。

 しかし、郡千景はもう居ない。精霊の闇に飲まれ、凶行に走り──最後は仲間を守って死んだ。

 

 引っ込み事案で姉の背後に隠れる樹からは、伊予島杏を思い出した。

 活発で妹の手を引く風からは、土居球子を思い出した。

 最期はお互いを想い合い死んでしまった。

 

 全て失った。全員死んだ。

 元に戻らない。取り戻せない。

 だから彼は前を向く。だから彼女は忘れてでも忘れない。

 

 天の神を殺す。

 その為なら──彼は全てを供物に捧げるであろう。

 

 

 ◆

 

 

「勇者部の存在は有り難かった。結城友奈も居て、神樹様と近い存在である勇者が傍に居た。

 その近くで過ごすことで、予定よりも神樹様との契約を遂行できる。

 だから……私の存在に疑問を持つであろうアナタには気づかれる訳にはいかなかった」

「……なんで、今になって話したの?」

「もう隠す必要が無いのと……アナタが乃木若葉の子孫だから、だ」

「乃木……若葉……」

「ああ、……もし、アイツが居たら止めるだろうなって思って。

 それを無意識に子孫であるアナタにも向けていた。意外と、女々しい奴だな私も」

 

 昔を思い出そうとして、しかしほとんど燃え尽きている為思い出せず、それでもいいかと諦める。

 かがみは、もうほとんど人ではなくなっていた。

 

「……わっしーを止めるの?」

「ん? ……いや、どうだろう。本当に不味くなったら神樹様が私を使うよ。だったら、今は放置、かな」

「そういう事じゃないよ」

「……?」

「あなたは、どうしたいのって聞いているの! 

 300年掛けて天の神を倒そうとした想いがあったんでしょ!? 

 その想いとは別の強い想いがあったんでしょ!? 

 だったら……今、苦しんでいるあの子たちに何か思う事はないの……?」

「……あぁ、そうだね。普通だったらそうだね」

「……っ」

「そう思えなくなってきたんだ」

「……私、アナタの事好きじゃない」

「そっか」

「でも……嫌いにはなれそうにないよ……」

 

 その言葉に面を喰らった表情をして、かがみは笑った。

 

「ありがとう、多分嬉しいと思ってる」

「……」

「うん……そうだね。私も見守ってみるよ。彼女たちの選択を。もし間違っていても、何とかしてみせる」

 

 だから、君も。

 

「私を見届けて欲しいな」

 

 その言葉を最後に、かがみは園子の目の前から消えた。

 園子は大赦の病室へと戻り、騒ぐ周りの神官の声を無視して目を閉じる。

 世界が震えるのを感じる。

 おそらく東郷の仕業だろう。彼女は大切な人たちがこれ以上苦しまないように、彼女なりの最適の答えを出し──壁を壊した。

 これからどうなるのかは分からない。

 だが、園子はそれを受け入れる。かがみは見守る。

 この世界の未来を選ぶのは──勇者である彼女たちだから。

 

 

 

 

 そして。

 世界の行く末を見届けた上里かがみが、勇者部の前に現れる事は無かった。

 

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