「300年前から好きでした! 付き合ってください!!」 作:カンさん
燃える。
燃える。
燃える……。
御姿から抜け出したかがみは、外の世界で焼かれ続けた。
そもそも、彼女が焼かれなかった日は無い。
御姿を得て、四国で友奈達と過ごしていた時も焼かれていた。授業を終え、下校した後彼女はすぐに大赦が用意した隔離施設に赴きそこで異界を展開。そしてその身を外界の炎に投げカグツチになる準備を続けていた。
そして、日常生活を送れるギリギリまで焼いた後、彼女は家に戻る。御姿がある以上、以前のような無理をすることはできない。無理をすれば日常で被っている仮面が剥がれ落ち、神樹と結んだ『ヒトらしい営みをする』という契約内容に反するからだ。
そうなれば、神に反する者としてかがみはその身に、その魂に呪いを受ける事になる。
そうなってしまえば、300年の想いが無駄になる。
だからこそ、かがみはギリギリまで自分の存在を騙し続け、人の中に居た。
故に、天の神の所業に我慢ならなかった。
大赦が保険として行っていた国造り。かがみが理を掌握しつつもあった事で、順調に行われた計画。しかし、それは、人類の希望を見出すどころか、絶望を知る結果となった。
(東郷さんも責任を感じてあんな所に……)
それを見てかがみが思うのは申し訳なさ。
東郷は、一度は世界を滅ぼそうとしていたが、親友である友奈、そして勇者部の皆の説得により考えを改め、最後は巨大バーテックスを倒した。
その選択をかがみは尊く思うくらいには心を動かされた。
だが、天の神は違う。
東郷の一連の行動を契約の破棄と見なして再度侵攻の兆しを見せている。そんなもの、300年前のあの日から変わっていないのに。
(お前は分かっていない。完全を求めるお前は、不完全でありながらも、一歩ずつ前に進む人類の頑固さを、理解していないから今更気付いて癇癪を起こすんだ)
だが、外の炎がさらに熱く燃え上がったのは事実だ。
故に大赦はかがみにとって記憶に残るあの忌まわしき──奉火祭を執り行い、巫女六人の命をもって天の神の怒りを鎮めようとして──東郷が自責の念から一人、高天原で生贄となり、焼かれ続けている。
理を乗っ取る為に身を焼いているかがみとは、比べるまでも無い程の痛みが彼女を襲っていると思うと……変わりたくなる、と思った。
だが、かがみは東郷を助けず、見送り、見捨てた。
天の神を殺すために。300年の恨みを晴らす為に。……想い人の仇を取るために。
今までだってそうだ。かがみはたくさんの命を見捨てて来た。自己中心的に、己の夢を叶える為。
だから今回もそうだ。今までと変わらない。
人でなしは人でなしらしく、人でなしの選択をする。
そう思っていた。
変わらないと思っていた。
天の神を殺すまで、同じ選択をし続けると思っていた。
──東郷を助けに四国の外に出て来た友奈たちを見るまでは。
──そして、東郷を助けた友奈の胸に天の神の呪いがあるのを見るまでは。
◆
かがみが勇者部の前から姿を消して、そして記憶から消えて数ヶ月が経った。
久しぶりに御姿で四国へ入ったかがみは──神樹の寿命の残り少なさに息を飲む。
(ここまで来てたのか……だから、神樹様は結城ちゃんを──)
そして、微かに感じる天の神の気配。
友奈の体に寄生虫の如くへばり付き、彼女の周囲の大切な人に猛威を振るう──反吐が出る呪い。
(本当に……お前は……!)
くすぶる300年の想い。
外の世界の炎以上に熱い怒りの炎がかがみの身を焦がし──。
「よくも結城ちゃんを──え?」
──自分が何に怒っているのか、それを無自覚に口にし、それに戸惑い……かがみは己が酷くブレている事に驚いた。
「なんで? どうして──?」
自分は、天の神を殺せばそれで良い。
その為なら、それ以外を見捨てると決めた筈だ。
だから、本来なら神樹と深く結びつく為に利用していた勇者部を、結城友奈を愛おしく思うこと自体がおかしいのだ。
それを彼女は理解しようとして、それができず、でも心では分かっていて──渦巻く感情を燃やして消した。
「違う……違う……私は、天の神打倒の障害になり得る不安要素を……天の神の呪いを調べに来ただけだ」
そう自分に言い聞かせてフラフラと歩くかがみ。
前を見ていなかったせいか、前から走って来た人にぶつかってその人物と一緒に倒れてしまった。
「い、いたた……ご、ごめんなさ──え?」
相手が震える声で謝ろうとして──言葉が止まる。
ただ、かがみはそれも仕方のない事だと分かっていた。
本来ならあり得ない事だが、目の前の少女はかがみと同じように神樹の御姿となっている。さらに、その生まれから神樹の手が加えられている天の逆手を持つ、かがみ以上の対天の神の最終兵器。
「か……が、み……ちゃん?」
「久しぶり──結城ちゃん」
讃州中学、勇者部所属──結城友奈なのだから。
◆
「かがみちゃんは……私の幼馴染じゃなかった」
近くの公園のベンチにて、かがみと友奈は二人揃って座っていた。
しかし、二人の間に再会を喜ぶ様子はなく、ただただ重く、苦しい、
「私がかがみちゃんと初めて会ったのは……讃州中学に入学してから」
「そうだよ。結城ちゃんの記憶は神樹様が作った偽りのもの」
「でも……私は、本当にかがみちゃんの事、大切な人だって思っている! だから──」
「──それも分かんないよ」
「……え?」
「私が契約を完了するために神樹様が作った嘘の感情なのかもしれない」
「そんな事ない!」
友奈は立ち上がって、かがみの言葉を強く否定した。
「一緒に部活動をするのが楽しかった! 一緒に家に帰る時間が好きだった! 一緒に食べるうどんも美味しかった! ……結婚してって言われて恥ずかしかったけど嬉しかった! この感情を、思い出を、嘘だなんて言わせない! 言わせたくない! 現に、私は覚えて──」
「それは結城ちゃんが御姿になったからだ」
「っ……!」
「現に、風先輩たちは覚えていないでしょ?」
「それは……」
かがみの言う通り、友奈以外はかがみの事を覚えていない。
それは21回も満開をした園子ですら例外ではなく、友奈はその事を悲しく思っていたし、周りの部員たちも心配していた。
かがみの関する記憶は燃え尽きている。神樹が東郷の存在を隠したのとはまた違う。
消失しているのだ。
それに抗えたのが友奈だけという話。
「でも……でも!!」
しかし──かがみは胸の奥が酷くざわついた。
それを振り切るように、口が勝手に開く。
「──それに、さ。結城ちゃん勘違いしているでしょ」
「え?」
「私がこの四国で勇者部の皆とおままごとをしていたのは、私の目的の為だけだよ」
「──」
「本当、つまらない日々だった。
ほとんど滅びているのに愛国だとか国防だとか叫び、いざ真実を知れば心中を図る女」
──誰よりも国を、人を愛し、そして悩み深い人で……憧れていた。
「自分が生贄になるなんて知らずに、勇者に価値を見出す物知らず」
──そのあり方に自分には無い熱を感じ……憧れていた。
「先の無い世界で夢を謳う怖がり」
──心に根を生やし、揺らがなく夢を抱くその姿に……憧れていた。
「人を巻き込みながら、最も覚悟のないリーダー」
──苦しみながらも、皆の前に立つその姿に……憧れていた。
口々に、かがみは言い続ける。
表裏一体の言葉を。
「そして結城ちゃん。私はアナタの事が──っ」
言葉がつまり、しかし肺の中にある空気と共に──吐き出した。
「──だいっっっきらいだった……!」
「っ……!」
「アナタを見ていると思い出してしまうっ! 胸が苦しくなる! 出会わなければ良かったと何度思ったか!」
「かがみちゃん……」
「だから……だから、もう!」
──どうか、私の事を忘れて欲しい。
「いや……」
しかし友奈は。
「いや!」
かがみの言葉を拒絶し、彼女を強く強く抱きしめた。
「そんな悲しい顔で嘘を言わないで! 自分を傷付けながら、嘘を言わないで!」
「嘘なんかじゃ──」
「だって! 私のことが嫌いなら──何で戻ってきたの!?」
かがみの言葉が、かがみの行動によって否定される。
「かがみちゃんはそんな酷い事を言う人じゃないって分かってる! 本当は優しい子だって分かってる!」
心が揺れて、しかし認めてはいけなくて、尚かがみば言葉を紡ぎ。
「──分かるはずが無い! だって、あの生活は全部嘘で──」
しかしそれを。
「だって──私が、かがみちゃんの事大好きだから」
友奈の言葉が吹き飛ばした。
「──」
動きの止まったかがみに、友奈が愛を囁く。
「どれだけかがみちゃんが嘘だって言っても、この気持ちは嘘じゃないって心から言える。
もしかがみちゃんが私の事を嫌っていても、私はかがみちゃんの事を好きでいる。
初めは神樹様が作り始めた嘘なのかもしれない。でも、今この時は本当の事なんだ」
「──」
「だから──もう、無理しないで」
「……!」
友奈はかがみの言葉を毎回真摯に受け止めて、そして嘘偽りのない心でもって返していた。
だから、かがみの心の変化と共に彼女も変化していき──かがみば彼女にとって大切で、特別で、無くてならない存在になった。
記憶を失う前の園子になんとか話を聞いて涙を流した。
もう会えないことに涙を流した。
……神婚する事に申し訳なさを感じた。
しかし、友奈は自分を犠牲にしてでもかがみを助けたかった。
「かがみちゃん……」
「……ごめん」
しかし、届かなかった。
「──!?」
「もう、私の事は放っておいて」
友奈の背中からかがみの腕が突き出していた。その腕は赤く染まっており──友奈の胸を貫いている証拠だった。
(あ──)
そして──結城友奈の意識は暗く染まった。