「300年前から好きでした! 付き合ってください!!」 作:カンさん
(ここは……?)
かがみに胸を貫かれた友奈は、不思議な空間に居た。
視界全てが赤黒く染まった……まるで、肉が燃え尽きかけているかのような悍ましい色に染まった世界。
しかし、友奈はこの空間に嫌悪感を抱くどころか、安心感を覚え……それと同時に強く心の奥をかき乱される。
その正体が何なのか、彼女はすぐに理解した。
「もしかして……かがみちゃん?」
理屈は分からないが、友奈はかがみの魂の最も深い場所まで精神が潜り込んでいる状態なようだ。
二人とも御姿になった影響か。
もしくは呪いが起こした現象か。
とにもかくにも、友奈はチャンスを得た。かがみの本心を知るチャンスを。
「ごめんね、かがみちゃん」
そう言って友奈は強く願った。
あなたの事を教えて。
あなたの事を助けさせて、と。
すると、空間に変化が現れ──友奈は飲み込まれた。
◆
──キーンコーンカーンコーン。
「起立。気を付け、礼」
一日の授業が終わり、ホームルームが終わり、日直の気の抜けた声が響く。
それに従い教室に居る生徒たちも形式上は頭を下げながら、適当に声を出す。それが終わると空気が放課後特有のそれになり、少しだけ入っていた肩の力を抜いた生徒たちが思い思いに過ごし始める。
彼もそうだった。
名前は■■■■。
どこにでもある普通の名前だが、親から授かった名前を人並みに好いており、友達から呼ばれる苗字に愛着があった。
「■■。今度の休み、お前ん家に行っても良い? 一緒にゲームしようぜ」
クラスメイトであり、一緒に遊ぶ程度には仲の良かった男子生徒が彼の肩を組んでそう頼み込んできた。
彼としては、特に断る理由が無かったので了承の意を伝えると男子生徒は嬉しそうに笑った。
「やった! りっくんとあっくんも連れてくるよ! あ、ついでに今日一緒に帰られねぇ?」
彼は人から好かれるのだろうか、こういう何気ない会話で中心になることがあるし、好感情を向けられる事も多い。男子生徒が上げた名前の生徒たちが「いくいく!」と喜び、彼は苦笑しつつも応える。
そしてテンションが上がったままそう申し出ると、彼は申し訳なさそうにして断った。
男子生徒が「なんでだよー」と不満を口にするのと同時に、教室の扉が勢いよく開けられたのは同時だった。
パーン! と大きな音が響き、音に反応した教室内の生徒たちがそちらへと視線を向ける。すると、そこには一人の少女がいた。
その少女は彼の元へと駆け寄ると……。
「■■くん! 一緒に帰ろう!」
そう元気よく彼に抱き着いた。
彼は苦笑し、抱き着いて来た少女──高嶋友奈の頭をひと撫でした後、男子生徒に謝りつつ応えた。
300年前から先約があるんだ、ごめんね……と。
◆
「え? ■■くんと居て恥ずかしくないか……だって?」
友奈の問いに彼は頷いて肯定した。
■■と友奈の親は子どもの頃から仲が良く、彼ら二人が産まれる前から家族ぐるみの付き合いだった。
その中の良さは親友を超えてもはや家族のようで、まるで当然の如く■■と友奈は許嫁関係となった。
もちろんお互いに別の好きな人ができれば、本人の意志を尊重するだろうが……当人たちも特に嫌がっていなかったし、好き嫌いの前に常識のように当たり前の事のように、自分はそれぞれ相手と結婚すると思っていた。
だから友奈は彼に対して好意を全開でぶつけていくし、彼はそれを当然のように受け止めていく。
しかし、思春期になると周りの声が気になる年頃で、彼はクラスの男子生徒たちにからかわれて、恥ずかしくて、でもこの関係を否定したくなくて、照れ隠しのように友奈に問うた。
すると、友奈はきょとんととして「何故彼と一緒に居て恥ずかしく思うのだろう?」と彼の問い事態に意味を理解する事ができなかった。
その事に彼は嬉しく思いつつも、友奈に分かりやすく教えた。
小学校高学年になると男女はお互いの精神的、肉体的違いに興味を覚え、今までのように一緒に居るとからかいの的になる。しかしそこにあるのは幼稚な感情で、彼としては友奈と離れるつもりはない。
「えへへ……私も同じ気持ちだよ! ■■くん!」
友奈は彼と離れる事の方が、周りから揶揄われる事よりも我慢できない様子であった。
「だって、私は■■くんと結婚するから!」
子どもたちの微笑ましいやり取り。
大人が決めた事を受け入れ紡がれる関係。
常識となったソレは、果たして愛と言えるのだろうか?
彼は愛であると答える。友奈は愛なんじゃないかな、とよく分からないまま答える。
だが、彼らの間には両親とも、友達とも違う繋がりが、確かにそこにあった。
◆
「ふう……疲れた」
友奈は親の方針により武道を習っている。
初めは護身として始めた事だが、友奈の日常の一部となった今では立派な趣味となっている、反対に彼はそういう事が苦手で、弁当を作ったり、スポーツ飲料やタオルの差し入れをしたりともっぱら彼女のサポートに努めている。
内心は複雑ではあった。男であるならば、女の子を守りたいと思う。
そして、それを知っている友奈はいつもこう言う。
「男だとか女だとか、関係無いよ! むしろ■■くんが武道得意だったとしても、私は続けていたと思うし、絶対に■■くんより強くなろうとしてたと思う!」
何故そこまでするのか? いつの日かそう問いかけた時、友奈は簡略に答えた。
「好きだから」
その時の彼女の顔を、彼は忘れる事はない。
そして、その言葉を疑う事も──ない。
「んー! ■■くんの弁当、相変わらず美味しいねー!」
先生との稽古を終え、お弁当時間となった友奈は早速彼が作って来た弁当にパクついた。
体を動かす友奈の為に栄養を考えつつ、彼女の好物を入れて、味も友奈好みにしている対高嶋友奈特攻弁当は、彼女に見事にクリティカルし、あっと言う間に平らげた。
「ごちそうさまでしたー!」
お粗末様でした、と彼がコップに入れたスポーツ飲料を友奈に手渡す。それをゴクゴクと飲み切り、喉を潤した友奈は幸せそうな顔で言った。
「本当に美味しかった! 毎日食べたいくらいだよー」
その言葉に、彼は大人になったら毎日食べさせてあげる事ができるよ、と伝え、友奈も「確かにそうだね!」未来を想って嬉しそうにした。
「あ! でもでも! 私だってちゃんとお料理するからね! 家庭円満の秘訣は助け合いだと思うんだ!」
彼との生活を良きものにしたいと友奈はストレートに言葉にし。
彼は友奈との生活に何ら不安を抱かず、良きものになると信じて疑っていないためあえて口にする事はなかった。
この後どうする? と彼が尋ねた。
「んー久しぶりにかくれんぼしたいな! この前は■■くん、他の友達とゲームしてて遊べなかったし……」
ちょっと嫉妬しつつそう言えば、彼は困った顔をして彼女の頭を撫でてかくれんぼしようか、と伝える。
すると、パァ……ッと表情を明るくさせてずいッと彼の方へと身を寄せる。
「じゃあ! あそこの神社でしよう!」
その言葉に彼は、この前神主さんに怒られたの忘れたの? と問いかけた。
彼の言葉に友奈は「う……」と言葉を詰まらせる。
彼女たちはよく神社に行く、清掃のボランティアもするため覚えも良い。ただ、入ってはいけない部屋に入った事が何度かあり、その度に怒られている。
前回も怒られており、その事を指摘された友奈は「うーん。うーん」と唸り……。
彼は仕方なさそうに、気を付けたら良いよねっと伝え、彼女は嬉しそうに首を縦に振った。
そして二人仲良く怒られた。
◆
「どう? 気持ちいい?」
友奈の家の友奈の部屋の友奈の膝の上で、彼は彼女に耳掃除をされていた、
いつか始めたのか、どんな理由で始めたのかはもう覚えていない。
ただ、友奈の膝に頭を置き、身を任せている彼の顔は幸せそうで、彼女が手元を狂わせる事を全く疑っていない程に無防備だった。
彼は蕩けきった声で気持ちいいと伝えると、友奈は嬉しそうに微笑んだ。
「私、■■くんの耳掃除するの好きだなぁ」
巧みに手元を動かしながら友奈がそう呟くと、そうなのか? と彼が尋ねる。
彼としては、汚れている個所を綺麗にして貰っている為、少し気になるのが本音だ。
しかし彼女はそれを気にしないどころか、全てを曝け出してくれる彼の事を嬉しく思った。そして、彼の重みと温かさが好きだった。
ふう……と息を吹きかけて耳掃除が終わる。
その頃には彼は心地良さにウトウトしており、それに気づいた友奈が優しい手つきで彼の頭を撫でる。
「寝てて良いよ。今日はうちでご飯食べていくんでしょ? ゆっくりしていて」
彼はそれに逆らう事ができず、そのまま瞼を閉じてそのままスウスウと熟睡した。
綺麗な茶色の髪に指をからめ、サラサラと梳いていく。
友奈は、彼のこの顔も、この髪も、重さも、温かさも、自分だけが知っている事に胸が熱くなった。
だからこそ、友奈は悲しく思う。
彼は、確かに高嶋友奈の事が好きだ。将来は結婚すると思っている。
しかし──愛していないのだろう。
小学生である友奈だが、何となく理解していた。
彼は知らないだけだ、友奈以外に、彼女と同じくらいの好意を向ける事を。恋をすることを、愛する事を。
友奈もまた、そうだった。しかし、自分が好きなのは誰なのかを考えて──想い人が彼一人であることを、理解した。
だから、彼女は愛を囁き続ける。彼に。■■■■に。
例え──届かないとしても。
そしてしばらくして──世界は終わりへと進んだ。
結城ちゃんの膝枕では耳掻きされないのは御姿だから……という訳ではなく恥ずかしいから
高嶋ちゃんの膝枕で耳掻き任せるのは不安がないから