「300年前から好きでした! 付き合ってください!!」   作:カンさん

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好きになるんじゃなかった結城ちゃん

 ──四国。

 

 2015年7月30日。

 天の神の尖兵・バーテックスによる襲来により、人類は滅亡の危機に瀕していた。

 各地で巫女と勇者が現れるも、多勢に無勢で。

 ほとんどの人類は四国へと逃げ落ちた。

 ■■もまた、どうにか生き延びていた。幼馴染である友奈が勇者に覚醒したからだろう。

 彼が生き延びたのは幸運で──彼の両親が命を落としたのは不運だった。

 

 ──此処から全ての歯車が狂いだしたのかもしれない、と彼は思う。

 

 友奈は守る力を欲した。彼の悲しみをすぐ近くで感じたからだろう。

 新しく設立された組織『大社』に従い、彼や家族と気軽に会えない事を承知して、丸亀城で勇者としての生活を始めた。

 

 彼は、支える力を欲した。

 自分の存在が友奈にとって重荷になっている事を自覚しているからだ。

 さらに、これからは生き残った全人類の命運を背負っていく事になる。

 だからこそ、彼は大社に入り自分の存在をアピールし、いざという時はその命を以て勇者を助ける捨て駒──防人となった。

 

 だが……彼/彼女達はただ──傍に居たかっただけだった。

 

 

 ◆

 

 

「なーなー。■■って友奈と幼馴染だったんだな」

 

 土居球子の言葉に、一瞬彼は動きを止めた。

 周りを見渡し、友奈が不在であることを知ると彼女にこっそりと尋ねる。

 誰から聞いた? と。

 

「他の防人の奴ら」

 

 その答えを聞いて彼は表情を曇らせる。

 彼は、友奈が勇者が不利にならないように立ち回っていた。

 自分の事も、友奈との関係も極力話していない。

 当然、許嫁の事もだ。

 しかし、こうして話が広がっており、彼は歯がゆく思う。

 

 防人は、32人存在する。それも、中学生が多い。

 その構成員の半分は神官の子どもが半分、勇者や巫女とは違った形の、神樹との適正値が一定水準ある者半分。彼は、こちらに属していた。

 

 防人の仕事は、勇者の護衛だ。そして、緊急時にはその命を差し出してでも守る捨て駒である。

 大社設立時代、まだ四国が混乱状態にありテロが起きていた頃、人類最後の希望である勇者を守る為に作り上げた役職。

 今ではすっかり定着した──本来なら存在しないお役目。

 人によっては生贄と考え 人によっては勇者の近づく手段と考え──彼にとっては、唯一友奈と近くに居る事ができる役職。

 

 彼は、球子にあまり言いふらさない事をお願いして、彼女の問いに肯定した。

 

「その割には話しているとこを見た事ないぞ」

 

 球子が首を傾げながらそう呟くと、彼は当然だと言い切る。

 勇者である友奈と防人である自分が親しくする事はできない。

 自分の存在が、もし彼女に悪影響を及ぼせば……大社は黙っていないだろう。

 だから彼は友奈と話さない。ただ、この身が彼女の力に成れば……と思っている。

 

 その為の防人なのだから。

 

 しかし、球子は納得していないようで、不満げに言った。

 

「タマは難しい事よくわかんねーけど、お前が友奈の事を大事にしているのは良く分かるぞ。杏を守っているタマと同じだ」

 

 ゆえに、彼女は彼を理解しない。

 

「でもよ、そうやって遠くから見ていても救えないものもあると思うぞ」

 

 それだけを言って、球子は杏の元へと戻った。

 彼女の言う事を彼は理解していた。

 しかし、友奈の事を思うと──彼は踏み出すことをしない。

 

 それから、たまに球子が彼に話しかけ、それに彼が応え、そこそこ仲良くなった。

 友奈と仲良くしてくれてありがとうお礼を言い、いつか普通に話せると良いなと本心を伝え合う程度には仲良くなった。

 戦いに赴き、傷ついている姿を見て心配するようになった。

 防人がどんどん減っている事に疑問に思い、問い質しても黙秘する彼と喧嘩する程には心を開いていた。

 

 

 その交流は、彼女が戦死するまで続いた。

 

 

 

 

「最近タマっち先輩と仲が良いですね。もしかして、ラブですか!?」

 

 球子と仲が良く、恋愛小説が好きな伊予島杏に捕まる事があった。

 彼女も友奈と彼の事を知っているのか、普段は気をかけるのだがエンジンがかかると暴走して球子に怒られる。

 しかし今日は彼と球子の関係を勘違いし、邪推したようで、いつもよりぐいぐいと来ていた、

 それに彼はため息を吐き、強く否定した、

 

「あ……ご、ごめんなさい」

 

 杏は反省するほど、彼の語気は強く──友奈への想いが強かったらしい、

 ……人類が滅び掛け、四国に逃げ、友奈とまともに話せなくなってから彼は自覚し始めていた事がある。

 その事を、彼は杏に話すことにした。先ほど怖がらせたお詫びに。

 

「え!? 良いんですか!?」

 

 彼は語り続けた。友奈と過ごしてきた日々を。

 当たり前だと思っていた日々を。

 しかし、失って初めて理解したこの気持ち。

 彼は、友奈と居る時間が好きだった。それを失いたくないから防人になった。

 だが、今こうして近くに居ながら話せない状況が続くと──自ずと心に変化が生まれ、そして理解する。

 

 自分は、高嶋友奈が好きなんだ。

 だから、自分の命を賭けてでも助けたいと思う。生きて欲しいと思う。

 

「はぁ……素晴らしい、ですね」

 

 彼の友奈の想いを聞いた杏が、胸の中の空気を全部吐き出すように、甘く重い息を吐いた。

 

「そこまで想われている友奈さんが羨ましいですね」

 

 彼女の言葉は、彼にとってこれ以上無い程嬉しいものであった。

 球子と一緒に友奈の話を聞くようになり、昔の話をして杏を悶えさせたりと交流が深まった。

 それを見た友奈が嫉妬している事を聞いて彼は申し訳なく思いつつも嬉しく想い、杏はその関係性に悶えていた。

 

 そして時には恋愛以外の話もし、初陣の際には励ましたり、生きて帰った時は喜んで迎え入れた。

 

 

 

 彼女が、球子と戦死したと聞くまでは。

 

 

 

 

 この世界の郡千景は余裕があった。

 彼が居る事により、友奈と仲良くすることで精神的な優越感に浸っていたからだ。

 しかし、それも彼と交流する事で終わった。

 戦いが続く度に防人の数が減り、千景に媚を売る者が居なくなった。

 初めは心地良く感じていたが、彼との交流が認識を変えた。

 

「高嶋さん……あなたの事気にしてたわ……」

 

 彼女の言葉を聞いた彼は、千景に礼を言った。

 それを、初めは他の防人と同じおべっかだと思っていた。しかし彼は違った。

 友奈と仲良くしてくれてありがとう、と。

 彼女と同じ勇者が、共に戦う者が、友達が傍に居るのは……安心できるから、と。

 

 それから、千景は言葉少なく、時間短く友奈の事を彼に教えるようになった。

 彼もまた友奈の過去の事を話し、少しづつ少しづつ歩み寄っていた。

 

「ルイズコピペというらしいのだけど……愛を伝える方法らしいわ」

 

 ネットを調べて、知らない事も教えてくれた。

 ……彼と友奈の関係を羨ましく思いつつ、昔のように戻って欲しいと一番考えていたのは彼女だった。

 しかし彼はその事で首を縦に振る事無く、ただただ友奈を傍で助けて欲しいと願っていた。

 

 

 

 精霊の闇を防人が受け止めきれず、精神を病んでしまうまでは。

 彼が千景と話したのは、遠征前の何気ない挨拶となった。

 

 そして、千景も命を落とした。球子と杏に続くように。

 

 この時点で、丸亀城に残っている防人は彼一人となっていた。

 勇者を守る存在である防人は、精霊使用におけるリスクである汚れも引き受ける存在だった。それを神樹は適性のある者を見出して、勇者の近くに置いた。

 

 彼の、友奈を……勇者を支えたいという強い願いに応えて。

 

 だが、それも無為と化し始めている。

 勇者は二人しか残っていなかった。

 

 

「まともに話すのは初めてだな」

 

 決戦前。乃木若葉は■■とコンタクトを取り、会話していた。

 友奈の事を知り、■■の事を知り……これからの戦いを想い、彼の説得に来たのだ。

 

「■■……次の戦いは厳しいものになる。そして、最後になるだろう。だから、その前に──友奈と話してくれないか?」

 

 若葉と話していた友奈は寂しそうだった。

 彼と話せない事が悲しそうだった。

 ──もう、会えなくなると思うと、涙が止まらなかった。

 

 彼も同じ気持ちだ。友奈の気持ちも理解している、

 だからこそ、理性が言う。

 今、会ったらだめだ。耐えられない。

 戦う事ができない。戦わせることができない。

 守ることができない。支えることができない。

 ──その手を取って逃げてしまう。

 だから、彼は──彼女と会わないと言い切る。

 

「──愚か者」

 

 しかし、若葉は強かった。

 

「友奈は強い。友奈が信じるお前は強い──大切な人を信じられなくて、どうするんだ……!」

 

 彼が、若葉の方へと視線を向ける。

 彼女の言葉は、強い者の言葉だ。聞く者によってはエゴでしかない。

 ただ──何よりも正しかった。

 

「行け。私は友奈を信じている」

 

 その挑発するかのような言いぐさに、彼は思わず笑って駆け出した。

 

 そして、友奈の元へと辿り着いた瞬間──アラーム音が鳴り響く。

 二人の視線が交じり合う。

 心がざわつく。不安そうな彼女の顔が──彼の胸を締め付ける。

 だから、彼は言った。

 

 ──また、ね。

 

 

 返事は──聞こえなかった。

 そして高嶋友奈と出会う事は二度と無かった。

 

 

 

 彼は、己の想いを、大切な人に伝える事ができなかった。

 

 

 

 この時の想いを彼は──300年間忘れる事ができなかった……。

 




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