「大丈夫かな……母様」
母様愛用の弓を譲り受けてから今まで通りに趣味を嗜みつつ、二人三脚で上手く扱えるように練習をしたり、時にはレミリア姉様やフラン姉様と手合わせをしながら弓と魔法、余裕のある時に能力の腕を磨いたりする生活を送り始めてからおよそ2年が経ったある時、私は1人で地下室で練習をしていた。
始めた当初はまともに扱えなかった弓の腕も、今では数年前の母様の全力にはまだまだ遠く及ばないものの、姉様たちとの手合わせに使える程度までには上達し、雷魔法や能力の扱いも2年前の自分と戦えば普通に勝てるであろう位にはなれた。これも全て、母様や姉様2人のお陰であるが、私はこの上達を手放しで喜べなかった。何故ならここ最近、母様が体調を崩しているからだ。
その原因は、3年半前に母様たちが狩りに行った際に受けた銀の矢にかけられていた、吸血鬼や悪魔にとっては『タチの悪い呪い』であると言う事が、父様や館の人たちの調べで分かった。
ありとあらゆる種類の遅効性の退魔の術式が奇跡の割合で融合していて、解呪出来る確率が極めて低いとの事らしい。幸いなのは、同じ術は2度と出来ないであろう事だけど……
(本当は練習なんてしないで、母様の呪いを解く手伝いをしたいけど……母様の一生のお願いだから、頑張らないと!)
本来ならこんな事などしないで、趣味を嗜む時間も大幅削減して母様を助けるための手伝いをしたいところではある。ただ、とある日に母様と交わした『私に何があっても練習は続ける』と言う約束があるため、練習は1人でも続けていた。
(さて、もう少しで私の能力を併用した誘導する矢の初歩中の初歩が 出来上がる……!)
母様から教えられた事だけではなく、自分で考えた技の初歩術式が出来上がりそうになった時、地下室の扉が壊れたのではないかと言う位の音を立てて開き、中にレミリア姉様が憔悴しきった様子で入ってきた。もうこの時点で嫌な予感しかしなかったが、念のためにどうしたのか聞こうとした。
しかし、私が何が起きたのか聞く前にレミリア姉様は腕を思い切り掴むとそのまま地下室を出ていき、かなりの速さで階段を駆け上がって廊下を走り抜け、そのままの勢いで母様の部屋へと入っていった。
「レミリア姉様、これってまさか……」
「ええ。そのまさかよ、リーシェ」
そうして入った部屋で目にしたのは、床で横たわって動かない母様と、それにすがり付いてすすり泣くフラン姉様にメイドさん数人、この光景を絶望した表情で見つめる父様……決して当たって欲しくない嫌な予感が当たってしまった瞬間であった。
信じられずに能力で探知を掛けてみても、母様の反応は一切感じられない。何回やっても何十回やっても、神様に祈っても、喚き散らそうと何をしようとも母様が
「リーシェ、辛いでしょうけど……これが現実なのよ」
「レミリア姉様は……レミリア姉様は凄く冷静だけど、悲しくないの!? ねえ!」
「……そりゃあ、私だって辛いわよ! 心が痛いわよ!!」
「……ごめんなさい」
あまりにも辛すぎる現実に、私に落ち着くように話しかけてきたレミリア姉様に当たってしまった後、私だって辛いと思い切り涙を流されながら突き飛ばされてしまう。その時、レミリア姉様だって辛くない訳ないのに、当たってしまった事に対して悪いと思ったので、私は謝った。
「うぁぁ……」
レミリア姉様に謝った後は床に横たわる母様の横に正座して座り、その顔を見つめた。瞬間、私は後悔の念に駆られ、本当に胸が痛くなる位に精神が辛くなってきた。
もっと自分に知識があれば助けられたかもしれない。
力があれば助けられたかもしれない。
そもそも、私の練習に付き合わせなければ良かった。
趣味を嗜むなんて言う馬鹿な事をせず、母様を助ける方法でも調べるなり考えるなりすれば良かった。こう言った物だ。
「母様が死んだ……母様が居なくなった……もう永遠にお話し出来ない……遊べない……ふふっ……アハハハハハ!!!」
「「え……リーシェ!?」」
そんな感じで後悔の念に駆られていると、どう言う訳か急に堪えきれない位に笑いが込み上げてきた。こんな状況で大笑いなど正気の沙汰ではないと必死に抑えようとするも、結局は耐えられなくなって周りの目も憚らずに私は大笑いをしてしまった。
案の定、姉様たちを含む全ての人の視線が私に向いた。哀れみの目を向ける者、親が死んだと言うのに笑うなんてとんでもないと非難する者、あまりの豹変ぶりに唖然とする者など様々である。しかし、周りからどんな目を向けられようとも、込み上げる笑いを抑える事は自力ではもはや不可能であった。
「リーシェ、貴様ぁーー!! この状況で笑うとは……!」
すると、そんな様子見て激昂したらしい父様が、私を凄い勢いで吹き飛ぶ位に思い切り殴り飛ばしてきて、更に怒鳴り付けてきた。それらがひとしきり済んだ後、胸ぐらを掴まれながら私の部屋まで連れていかれると乱雑に放り投げられ、おまけに扉に何回も多重で魔法を重ねがけして、出られないようにされてしまった。
「しばらくお前の顔など見たくもないわ! そこで大人しくしていろ!!」
そうして最後に言われた後、父様はこの場を去っていった。まあ、自分の妻が死んだと言うのに笑う私に怒りを覚えるのも無理はない。元々、この容姿のせいで忌まれていたのだから尚更である。
「母様……ごめんなさい」
こうして私は、今まで生きてきた中でも最大級の絶望を味わう事となってしまった。
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