面倒事の予感
「はぁ……吸血鬼の顔合わせに、仕方なくリーシェも参加させると約束した時に限って
いつも通り、何の面白味もない当主の仕事をしていた私は、メイド妖精より手渡された、差出人がレイブン伯爵の1通の手紙に書かれている文言を見て、一気に身体の力が抜けていくのを感じていた。
何故ならその文言が、数年毎に私たちの住む地域のほぼ全ての吸血鬼一家が集まり、交流ついでに相互に情報交換などを行う顔合わせの場に、傲慢無礼かつ閉鎖的で有名な上位吸血鬼一家の『コルベルシア家』が訪れると言うものだったからだ。
これが、私たち姉妹や館の皆に害がなければ『ヤバい奴みたいだから、出来る限り付き合いは希薄にしよう』と思う位で済んだのだけど、如何せんリーシェの事を散々こき下ろすわ、私とフランを含めた館の皆を見下すわ、他にも色々としてくれるものだから、今では顔を見るだけで虫酸が走る位になってしまった。
ちなみに、レイブン家の面々も私たち程ではないものの、似たような目にあった事が僅かながらあるらしく、中堅以下の吸血鬼一家に対しては、もはや語る余地なしの所業をしている様だ。
(全く、今日は本当に散々な日ね!)
15年前に行われた顔合わせを最後にバッタリ来なくなったから安心していたのだけど……何故、リーシェを参加させる約束を交わした今回に限って、当日ギリギリになってから参加を決めてくれたんだろうか。全くもって、不愉快極まりない。
「ふーん、アイツらが来るんだ……お姉様、来たら殺しても良い? 私の大事な妹をあそこまでこき下ろされて、思い出す度にむしゃくしゃするから」
当然、私と同様にコルベルシア家の面々と何度か相対し、リーシェを散々こき下ろしたのも確認済みであるフランの彼らに対する不快度は尋常なものではなく、うちの館に来ると分かった瞬間に殺してやるなどと、物騒な発言をする程であった。まあ、リーシェを溺愛しているフランであれば、この程度の発言は予想済みである。
「フラン。貴女の気持ちは痛い程理解出来るけど、だからと言って殺すのは流石に許可出来ないわ。しかも、腐っても上位の大人吸血鬼なのだから、仮にやろうとしても私たちだと多分厳しいわよ」
「むぅ……悔しいけど、仕方ないかぁ」
ただ、相手が館の誰かを殺したり傷つけにやって来たのであればともかく、未だに物理的な手段を使ってきていない上、私やフランよりも純粋な力そのものの強さで上回っている。リーシェやパチェによる遠距離からの魔法サポートがなければ、相当厳しい戦いになるだろう。
それ以外にも、他吸血鬼に対する根回しなどの問題もあるが故に、私はフランに何とかこれらの理由を説明して矛を納めてくれる様に願うと、不満そうにしながらも何とか矛を納めてくれた。流石、フランは何だかんだ言って物分かりは良い。
「それで、お姉様。皆とは約束したけどさ、本当にこのままリーシェを参加させるの? アイツら、リーシェの姿を実際に見たらきっとロクな事しないよ?」
「そこなのよね。悪魔たるもの、約束は守らなければいけないのだけど……地獄と分かっているのにも関わらず、わざわざ大切な妹を連れていく訳にもいかないし……」
すると、矛を納めてくれたフランが一転して話を変え、アイツらが来る顔合わせの場にリーシェを参加させる事に対しての懸念を話し始めた。
無理もない。本人が居ない状態ですらあのざまだったのだから、アイツらの目の前に本人が現れた際にどうなるのか、安易に想像が出来る訳なのだから。
ただ、固く交わした約束を守らないと言うのも、それはそれで大問題である。恐らく、信用を多少なりとも失う事になって、今後何かがあった時に私たちが不利益を被る事が増えるかもしれない。
「フラン。リーシェは参加させない事にしたわ。理由はそうね……急に精神的に不安定になり、危なっかしくなったからと言った感じかしら」
「ふふっ……そっか。まあ、そうだよね! お姉様ならきっと、そう言ってくれるって信じてた!」
しかし、それよりも遥かにリーシェの事が私たちにとっては大切である。信用を守れるなら守れるに越した事はないけど、リーシェの笑顔が守れるのであれば、多少の信用の切り捨てと不利益を被る事位ならば厭わない。
まあ、流石に全部丸ごと切り捨てるのはまずいから、納得出来る様なもっともらしい理由は作っておくけれど。
と言う訳で、フランにも私がそう考えていると伝えたところ、同じ事を考えていたらしく、満面の笑みを浮かべてそれに同意してくれたので、リーシェが顔合わせに不参加である事が確実になった。
「さて、早くリーシェにも伝えなきゃ。でないと、顔合わせの用意をして私の部屋に来ちゃうわ」
「そうだね! 後、今日1日はトイレ以外で部屋から出ないで欲しいって事も伝えないと!」
「ええ。後、その間のリーシェのお世話を、クレイナと愉快な妖精5人組にしてもらう様にもしないとね。パチェにも、何らかの形で協力を要請しようかしら」
その後、今日1日何が何でもリーシェがアイツらと相対する事がない様に、色々フランと相談しながらリーシェの自室へと歩みを進めた。
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