「うーん。傘下の勢力拡大などはあれど、未だに本格的な侵攻の気配はなし……か。あれ以来、動きが殆んどないのが不気味ね。一体何を考えてるのかしら……?」
コルベルシア家の奴らとの対立が確実となったあの日から、更に5年もの月日が経った日の深夜、いつもの様に当主の仕事をこなしながらパチェの召喚した偵察悪魔部隊の報告を少し前に聞き終えた私は、逆に頭を抱えていた。
あんな命令書を送ってくる位なのだから、すぐにでも本格的に侵攻してくると思っていたのに、奴らが5年経っても未だに侵攻に動いて来ない理由が分からないためだ。
本当なら来ない事を喜ぶべきなのだけど、奴らが侵攻を諦めたと確定出来る証拠などないし、むしろ勢力をどんどん増やしていっていると言う確定した事実があるからこそ、警戒を緩める訳には行かない。
後、逆に侵攻してやられる前に素早く奴らだけを叩きのめすと言う手を使おうとも思ったけど、私たちの個々の強さはともかくとして、パチェの召喚魔法の存在を考慮に入れても勢力の面で大きく劣っているから、この手は使えない。
パチェと美鈴を含めた5人で攻撃に出かけ、防衛を疎かにした隙を突かれれば、戦う術を殆んど持たない館の皆が地獄の様な目に合ってしまうのだから。
「ねえ、レミリア姉様。何か返事して」
「あっ……ごめんなさい、リーシェ。考え事をしてて気づかなかったわ」
そんな感じで悩みつつ、一旦紅茶でも飲んで休憩しようと思い立った時、私に対して呼び掛ける声が聞こえたため、声のした方に向いてみると、かなり近くにリーシェが居た事に気づいた。考え事に夢中になりすぎて、リーシェがいつの間にか部屋に来ていた事に気づかなかったらしい。
「ううん、謝らなくても良いよ。それより、凄く疲れてる様に見えるけど、大丈夫?」
「ええ。大丈夫だけど、疲れてるのも確かね。だから今、休憩するために食堂に行って、紅茶でも飲みながらのんびりしようって思ってたところなのよ」
何回リーシェが私を呼んでたのかは分からないけど、呼び掛けを無視してしまった事には変わりない。なので、気づかなくてごめんなさいと謝ったところ、気にしていなかったのか謝らなくて良いと言ってきた上、私の身体を気遣う発言までしてくれた。
実際、倒れる程ではないけれど、色々と考えすぎて疲れている事は確かである。だから、リーシェの問いかけに対して疲れているとは答え、休憩するために紅茶でも飲みに行こうかと思っていたと伝えた。
「そっか。なら、ちょうどレミリア姉様の疲れを癒す
「疲れを癒す魔法? 回復魔法かしら……っ!?」
すると、リーシェは何かを企んでいそうな笑みを浮かべた後、私の疲れを癒す良い魔法を使ってくれると言ってきた。それを聞き、いつの間にか開発していた回復魔法でも使ってくれるのかと思っていたら、予想の斜め上の行動を取ってきたため、驚いてしまう。
(えっ、魔法じゃなかったの……? まさかキスだなんて……)
それは、唇を一瞬だけ軽く触れ合わせる、ふれあいの時とは違う、とても優しいキスだったからである。しかも、キスしてくれた後に『私の大好きなレミリア姉様、元気になってね』と、囁く様にして言ってくれるおまけ付きだったから、思考がごちゃ混ぜになって顔が赤くなってきてしまった。
「えっと……レミリア姉様、どうかな?
「ふふっ……リーシェ、キスは魔法じゃないでしょ。でも、ありがとう。お陰で疲れが全部吹き飛んだわ」
「えへへ、レミリア姉様に喜んでもらえて良かった!」
で、今の魔法で心配そうに疲れが取れたかどうか聞いてきたから、思わず少し笑いながらキスは魔法じゃないでしょと突っ込んだ後、心を込めてありがとうとお礼を言った。いい気分にさせてもらった上、今ので本当に感じていた疲れが吹き飛んだからである。
とは言え、念のため紅茶を飲みながらのんびりする予定は、疲れを取る以外に気分転換の意味もあるから、一切変えないでおくけど。
「あ、そうだ。レミリア姉様に報告なんだけど、パチュリーとの共同で研究してる魔法、結構順調だよ。今すぐ使おうと思えば使えなくもないけど、色々と微調整と実験を重ねたいから、後1年って感じかな」
「あら、そうなの? 良かったわね」
「うん。それと、私1人でやってる魔法の研究開発・改良も良い感じ。パチュリーとの共同魔法を合わせれば、しっかり皆を守れるって自信があるよ!」
「頼もしいわね。いざと言う時、よろしく頼むわ。リーシェ」
「勿論、任せて!」
などと考えながらお礼を聞いて喜ぶリーシェを見ていると、突如として、ハッと思い出したかの様に魔法研究の進捗について話し始めた。報告と言っていたから、部屋にやって来た理由が魔法の進捗を伝えるためだと理解した。
あの日、館の皆にコルベルシア家とのやり取りを伝えてから行った話し合いの中で、リーシェに魔法研究の進捗をたまにで良いから教えて欲しいと、頭を下げてお願いしてから随分と進んでいるらしい。報告の最後に自信を以て守りきれると宣言してきたのを見るに、それが良く分かる。
「さてと、レミリア姉様。私のキスで疲れが吹き飛んだみたいだけど、紅茶を飲みながらの休憩を止めて、このまま仕事は続けるの?」
「続けないわ。疲れは取れたけど、気分転換もしたくなってきたからね」
そうして魔法研究の進捗の報告が終わった後、リーシェから休憩は止めて、仕事はこのまま続けるのかとの質問を受けた。
しかし、キスで疲れは取れたとは言え気分転換の意味もあるから、仕事は続けずに休憩をする予定はそのまま変わらないと答える。
「じゃあ、私も魔法研究の休憩ついでに、一緒に居ても良い?」
「ええ、勿論良いわよ。断る理由なんてないもの」
「本当? ありがとう、レミリア姉様!」
リーシェにそう答えたところ、自分も魔法研究の休憩ついでに一緒に居ても良いかとお願いされた。
1人で居たい訳ではなく、単に気分転換をしたいだけの私に断る理由なんてないので、リーシェのお願いを了承し、せっかくだから手を繋いで食堂へと向かって行った。
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