「ここは、フラン姉様の部屋……?」
レミリア姉様をコルベルシア伯爵の攻撃から庇い、反撃に身体を張った奥義魔法を放って意識が朦朧としてからどれ程の時間が経ったのかは分からないけど、私の意識がようやくハッキリとしてきた。
あの後の記憶は殆んどないけど、私が生きていると言う事は何とかコルベルシア伯爵を含む大軍を撃退か撃破する事に成功し、館を守りきったのだと思われる。
そう思ったら、戦いが終わった後に皆がどうなったのかが気になり始めた。私がコルベルシア伯爵の攻撃をこの身に受け、奥義魔法で反撃をした時点で結構な数の敵が残っていたからだ。
しかも、その時点で皆は相当疲弊していたし、何よりコルベルシア伯爵自身が私の苦し紛れの反撃で殺せてしまう程の敵であったとは、到底思えなかった。もしかしたら、酷い怪我を負っている可能性だってあり得る。
(能力が、使えな……っ!?)
だから、能力を使って皆の様子を見ようと試したのだけど、普通に発動させようとしても何故かさせる事が出来なかった。なので、力を込めてどうにか使おうとしたのだけど、頭に耐えられそうにない痛みが走ったため、止めようと決意を固めた。
良く考えれば、私の身体はあの時相当危ない状態であったはずである。で、魔力も全力で使った上でそれ程の大怪我を負えば、いくら吸血鬼と言えども簡単には治る訳ない。身体を動かすだけで、耐えられない程ではないものの痛みが生じると言う事実が、それを表している。
そんな時に、平常時でさえそれなりに負担のかかる能力を使おうとすれば、こうなる事は当然と言えるだろう。
「あっ、リーシェ起きてたの……てか、身体がまだ治りきっていないのに、何で出歩こうとしてるのさ!? トイレに行きたいとかじゃなければ、早くベッドに戻って! 治りにくくなっちゃうよ!」
「あっ……その、ごめんなさい……」
そうなれば、皆の様子を見に行きたいと言うのなら、動かす度に生じる我慢しようと思えば出来る位の、痛みに耐えなければいけない事になる。何もなければじっとしていたのだけど、一緒に戦った皆……特に、私が身を呈して守ったレミリア姉様がどうなっているのかが気になったため、ゆっくりとベッドから身体を起こし、立ち上がって生じる痛みに耐えて歩こうとした時、部屋に食事を持ってきたフラン姉様と目が合った。
刹那、そんな私を見たフラン姉様が、身体が治りきっていないのに無理してトイレ以外で出歩こうとするとは何事かと、私に本気で怒鳴ってきた。
声を荒げて怒ってきたフラン姉様にかなり驚くも、言っている事は反論の余地などない程正しいものである。なので、ここは大人しく謝って、ベッドへと戻る。
「そう、それで良いの。リーシェはまだ完全には治ってないんだから、トイレに行かないとまずいって事態の時以外、1人で出歩こうとしちゃ駄目だよ。分かった?」
「分かった。身体が治るまで、トイレ以外で1人で出歩こうとはもうしない。約束するよ、フラン姉様」
「うん! 約束だよ!」
すると、さっきまで物凄く怒っていたフラン姉様の雰囲気が和らぎ、いつもの笑顔が可愛いフラン姉様へと戻った。相当、私の身体の事を心配してくれていたらしい。何だかとても、申し訳ない事をしてしまったと、改めて思う。
「あ、それとフラン姉様。聞きたい事が――」
「良いよ! リーシェがあの時お姉様を庇ってから、何が起きたのか教えるね! まずは……」
とは言え、私がレミリア姉様を必死に守りきった後、皆がどうなったのか気になるのは変わらなかったため、食事を持ってきたフラン姉様にその事を聞こうとしたら、そう聞く前に先に教えるねと言われた。私が聞こうとしていた事が、内容を聞かなくても分かったみたいだ。
何でもあの後、コルベルシア伯爵は結構なダメージを受けたらしいけど、戦える程には生きていたらしい。やはり、苦し紛れの反撃では殺せなかったみたいである。
で、コルベルシア伯爵は当たった対象から魔力などを奪う術を使い、自分の味方の吸血鬼に当てて回復、私とレミリア姉様を亡き者にしようとし、レミリア姉様は全力で回避に専念して何とか踏ん張ったとの事。味方を犠牲にする程とは、半端ない殺意を抱かれていた様である。
そして、その間にフラン姉様がパチュリーの協力の下、完成させた『禁星 燃え爆ぜる星』と言う奥義魔法を使う事を決意、自分の分身や皆の協力もあって詠唱を問題なく終えて発動させ、疲れて動けなくなりながらも何とかコルベルシア伯爵と残党の一部を巻き込んで消滅させ、何とか守りきる事が出来たらしい。流石、フラン姉様とパチュリーである。
皆が必死になった戦闘を終えた後、急いでパチュリーの部屋へと駆け込んで、私の治療をしている途中にレミリア姉様が倒れるまで魔力の提供をしてくれたお陰で、たった5日程度で私はパチュリーの部屋を離れ、フラン姉様の部屋で付きっきりにお世話されるまでには体調が快復してきた様だった。
ちなみに、幸いにもレミリア姉様は魔力の枯渇だけであったため、3日もすれば特に体調の不調もなく目覚めたらしい。フラン姉様は2日間自室での食事と睡眠のみで回復、美鈴は1日休んで元気いっぱいになり、パチュリーは現在付きっきりの治療による疲れを癒すために、自室でゆっくり魔力充填中との事だ。持病持ちなわけだから、尚更大変だっただろう。
「そっか。はぁ……攻撃からはレミリア姉様を守れたけど、倒れる位に無理させてまで助けられるなんてなぁ。魔力提供だって、疲れきってる時にすれば、下手したら死んじゃってたかもしれないのに……」
「リーシェ、そんなに落ち込む事はないよ! ねっ、お姉様!」
フラン姉様からの話を全部聞き終えた私は、思わずため息をつかざるを得なかった。コルベルシア伯爵からの不意打ち攻撃のせいではなく、私のせいで命を張らせてしまった訳だからだ。全くもって洒落にならない。
すると、フラン姉様はそんな私の様子を見てか、助かったのだからそんなに落ち込む事はないと言いつつ、ドアの方を向いて
「ええ。フランの言った通りよ。リーシェが落ち込む必要なんてないわ。魔力の提供は倒れはしても、あくまでも死にはしない位のものだったからね。むしろあの時、リーシェが守ってくれなかったら、私は恐らく死んでいたでしょうし。ありがとう。私のために、身を呈してくれて」
「……どういたしまして!」
そんな感じでフラン姉様に呼び掛けられたレミリア姉様は、その問いに対して肯定の意を示し、お礼の言葉を私に言いながら、フラン姉様の隣に同じ感じの姿勢で座った。
正直言って、多少なりとも命を張らせてしまった事に対する申し訳なさを感じているのだけど、レミリア姉様本人が笑顔でそう言っている訳だし、取り敢えずあまり気にし過ぎない様にしておこうと決めた。
「さてと、リーシェ。フランの持ってきた食事が冷めちゃう前に食べましょう。1人で食べられる?」
「うーん……自分1人で食べられない事はないよ。腕とか脚とか動かすと、それなりに痛いけど」
「そう。なら、私が食べさせてあげるわ」
「あっ、お姉様だけズルい! 私もリーシェに食べさせてあげたいの!」
「そんなに詰め寄らなくても、交代でやるつもりだったから、安心しなさい」
「やったぁ!」
頭の中でそう考えていると、レミリア姉様から食事は1人でも出来るかと聞かれる。なので、試しに寝たまま身体を動かしてみた結果、痛みはあるけど頑張れば1人でも食べられそうだったため、その事を伝えた。
すると、レミリア姉様とフラン姉様が2人交代で、持ってきてくれた食事を食べさせてくれる事になった。そう言えば、生まれてから今まで1回もこう言う経験がなかったから、何だかとっても新鮮な感じである。
「と言う訳でリーシェ。食べさせてあげるから、口を開けて」
「分かった。いただきます」
そんな事を思いながら、レミリア姉様がスプーンで掬って口まで運んできた、美味しそうな匂いのするスープを私は啜って飲んだ。
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