「り、リーシェさまぁ……」
「えっ、赤髪の妖精さん……? そんなにどんよりして、どうしたの?」
コルベルシア家とその傘下の襲撃からちょうど15年経った今日、相変わらず自室に閉じ籠って魔法の研究をしつつ、息抜きに窓から見える夜景の絵を描いていた時、部屋に訪れた赤髪の妖精さんに声をかけられて驚いてしまった。
何故なら、いつ如何なる時でも愉快な様子を見せてくれている赤髪の妖精さんが、目に見えてどんよりしている上に、今にも泣きそうな感じであったためである。
何があったのかは知らないけど、きっと何か相当まずい事でも起きたに違いない。そう思った私は、赤髪の妖精さんに一体何があったのかと訊ねたところ、想像を絶する答えが帰ってきてしまう。
「あのね、クレイナさまがね、
「えっ、それって……えぇ!? 分かった! 教えてくれてありがとうね!」
それは、クレイナが今にもいなくなりそう……つまり、死んでしまいそうだと言うものだったからである。衝撃的過ぎて、思わず変な声を出してしまった。
赤髪の妖精さんは続けて、私に絵なんか描いてないで早く行ってあげてと言っていたけど、まさにその通りだ。息抜きに描いていた絵なんかよりも、クレイナの死に目に立ち会う事の方が
故に、私は絵描きを即座に中断してクレイナの元へと向かう事を決断し、知らせてくれた赤髪の妖精さんに感謝の言葉を伝えてから、急いで部屋を飛び出した。
「リィさん、良かった……」
「クレイナ……!」
そして、言われた通りにクレイナの居る部屋へと向かうと、
出来れば、これはたちの悪い妖精さんの悪戯であって欲しかった。しかし、無情にも私のその願いは叶う事はなかった。分かってはいたけど、やはり辛いものである。
(あぁ……うっ、ふふっ)
その際、視界が白くぼやけて頭が痛くなり、身体から青白い雷のオーラの様なものが出かかるのを感じた。エルのお墓参りに初めて行った時よりも遥かに辛くて苦しく、また暴走してしまうのかと言う位だった。
が、首飾りの強力な抑制効果に暴走してなるものかとの気合い入れ、レミリア姉様に促されてやった深呼吸のお陰で高ぶる気分を抑えつけ、クレイナの手を優しく握る事に成功する。危うく、彼女の最期の記憶に暴走した私の様子を植え付けてしまうところであったため、ホッとひと安心だ。
「あの、リィさん。こんな時になんですけど……私から、どうしても叶えて欲しいたった1つのお願いがあるんです。聞いてもらえますか?」
「うぅ……当たり前でしょ! 何でも言って、クレイナ!」
すると、手を握っていたクレイナから弱々しくも真剣な表情で、どうしても叶えて欲しいたった1つのお願いがあると、そう言われた。
当たり前だけど、断るなどと言う愚かな選択肢など私にはないためそれを了承し、何でも言ってと促した。無茶なお願いでも、頑張って聞いてあげるつもりである。
「私が死んでしまうまで、どうか笑顔で居てもらえませんか?」
「えっ、そんな事で良いの? もっと無茶苦茶なお願いでも良いんだよ?」
「はい。むしろ、それが良いんです。私、時折見せてくれるリィさんの可愛い笑顔が、とっても好きなので」
ただ、言われたお願い事は予想に反し、私の笑顔を死んでしまうまで見せていて欲しいと言うものであったため、拍子抜けしてそんな事で良いのかと聞いてしまった。
しかし、クレイナの意思は鋼よりも強固だった様で、それが良いと力強く答えを返してきた。どうやら、私が見せた事のある笑顔が彼女にとってのお気に入りであったとの事らしい。
「そっか。うん、分かった! えへへ、こんな感じで良いかな?」
「うふふ……今までで見た事のない、最高の笑顔ですね。リィさん、ありがとうございます」
なら、見せない訳にはいかないと思った私は、悲しみのあまり思わず出かかった涙を無理矢理引っ込ませ、満足させるために頑張って笑顔を作った。
悲しみが今の私の心を満たしているから、こんなんで満足してもらえるか心配だったけれど、聞いたら最高の笑顔と言ってきたから、満足はしてもらえてる様ではある。
「さてと、そろそろ話すのも辛くなってきたので……最後にこれだけ、皆さんに言っておきます」
そんな感じの中、今までの思い出語りや皆からのお礼の言葉など、状況が状況なだけに楽しくはないものの、比較的良い感じに会話が進んでいた時、クレイナがそんな事を呟いた。確かに、声が先程までと比べてかなり弱々しくなっている上、表情にも辛さがにじみ出ている様に感じる。
遂にこの時が来たかと、私は感じていた。笑顔を維持するのも辛くなってきたけれど、クレイナの思いを台無しにする訳にはいかないと奮い立ち、レミリア姉様やフラン姉様に背中をさすってもらいながら笑顔の維持に力を注ぐ。
「私、紅魔館に来れて……とっても幸せ者だったと思ってます」
そして、皆に向けてクレイナは頬に涙を伝わせながらそう言うと、ゆっくり目を閉じていき、そのまま永遠に覚めぬ眠りへとついていった。奇しくも、その様子はエルが死んでしまった時のものと、全く一緒であった。
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