「……」
聖女の攻撃を受けて苦しむ羽目になったフラン姉様を、すんでのところで守る事に成功したものの、その代わりに私自身が別の要因で苦しむ事となってしまっていた。
何時なんどきも忘れやしない、エルが死んだあの時と似た感じに、身体の内側から色々な感情や収まりきらない程に雷の力が湧き出てきたからだ。
首飾りに理性や気力を加えてさえ、フラン姉様を守りつつ僅かな反撃を行い、暴走しない様に極めて危ういバランスを保っているのが精一杯であり、その状況から心配の言葉をかける事に労力を割けなかった。
ただ、私の有り余る魔力と血をフラン姉様に分け与え、少しでもその痛々しい傷が早く治る様に促すと言う行動は起こせたのでまあ良しとしよう。
「ありがとう。それと、ごめんね……リーシェ」
「……っ!」
フラン姉様はそう言っているけど、決してそんな事はないと私は思う。と言うか、そもそもの話私がもっとしっかりしていれば、痛々しい傷を肩に負わせずに解決出来ていたかも知れないからだ。
故に私は、こんな状況下なのにも関わらず、数秒とは言え咄嗟に抱きしめてしまった。雷魔の結界を強固にしていたお陰で、攻撃は何とかその間通さずに済んだものの、次からは戦闘が終わってからにしようと誓う。
「『雷天使』リーシェ・スカーレット……! 人を喰らい、天に仇なす吸血鬼の癖して、天使様と見紛う容姿と二つ名……本物の天使様に対して、冒涜も良いところだわ!
「ジア! あの者の前でその発言は駄目っ!!」
そんな時、ジアとか言う聖女から聞き捨てならない言葉を耳にしてしまった。フラン姉様とレミリア姉様を、今までの罪の名の下に殺してしまうとの言葉だった。
他の吸血鬼さんたちの事は知らないけど、私や姉様2人は全く無意味な殺戮はしていないとは言え、食糧調達に家族や仲間の守護などの理由で沢山人を殺している。聖女たちを含む
しかし、例えそうだとしても私は、ジアの発言をどうしても許せなかった。この世でたった2人しか居ない、私の愛しの姉様の命を奪おうと言うのだから。
(ふぅ……ん?)
すると、その思いが頭から全身を駆け巡る感覚がした後、先程まで苦しみ悶える程に辛かったはずなのに、何故か一瞬でそれが消え去ると言う不思議な現象が起こった。
同時に、心が非常に澄んだ状態となり、私の身体から迸っていた稲妻の量が格段に増し、それによって発せられた光で目立つ事となってしまった。
どうでも良いけど、ジアの苦虫を噛み潰したかの様な表情を見るに、今の私はより一層『天使』の様に見えているのだろう。
「フラン姉様。レミリア姉様のところにまで行く力はある? 大丈夫?」
「えっ……あ、うん。傷もマシになってきたお陰で力も戻ってきたから……リーシェ、大丈夫なの?」
「大丈夫。今の私、とても心が澄んでいているの。余計な事をしない位には、ちゃんと自制も出来るよ」
頭の隅の隅で思いながら、今まで言えなかったフラン姉様への気遣いの言葉をかけ、私の力に関する心配に対しては制御しきれているとは言い難くとも、自分自身の意思によって危険でない程度には何とかなっている事を伝えた。
伝えてからすぐ、フラン姉様がレミリア姉様やパチュリー、美鈴の下へと向かった事を確認すると、攻撃によって崩壊寸前の雷魔の結界を解除してから、改めて『敵』と対峙する方向へとシフトする。
「さてと……もう、貴女たちに容赦はしない」
「っ!?」
そして、私の大好きな姉様2人や館の皆の危機になり得る聖女を始末するため、
私自身の魔力を限界まで押し縮めた矢を生成して放ち、当たった時に一気に押し縮めていた魔力を解放、その際の爆発で対象にダメージを与える魔法である。雷属性魔法が非常に効きづらい、または効かない敵に対して有効打を与える意図で開発した経緯がある。
ちなみに、今回聖女に向けて雷属性魔法を使わないでこの魔法を使ったのは、戦闘序盤に放った2発のサジタリウスの烈矢を防がれてしまったからだ。
普通に超絶耐久力の結界で防がれた可能性もあるけど、こういう時は臆病な位がちょうど良い。
「雷そのものは防いでも、副次的な熱による結界へのダメージが予想よりも大きすぎる……これは確かに、雷天使の異名も納得せざるを得ません」
「悔しいけどエルラートさんの言う通り、それは認めざるを得ない……か」
しかし、放った2本の矢は何故か勝手に雷属性が追加されていたらしく、お陰で相手に与えた損害が予想よりも少なく終わってしまった。聖女2人もそんな様な事を言っていたのと、着弾時に稲妻が見えていたので、それはもう確定である。
これが、私自身がちゃんと意識して放った結果であれば、そう言う面では特に気にならなかった。しかし、全くそう言う意図がないにも関わらず付与されていましたともなれば、気になってしまうのも必然と言えるだろう。
とは言え、今は勝手に無属性魔法が雷属性魔法となっていた理由を考える暇はない。敵を全員退け、落ち着いた後に考えれば良い訳なのだから。
「おのれ……こちらの攻撃は当たらず、吸血鬼の攻撃だけ命中なんてどうしろって言うの!?」
「全くミスをせずに最高のタイミングでの攻撃・回避行動、それらを行っている時の表情の乏しさ……まるでカラクリを相手にしているかの様です」
敵の攻撃を、宙に舞う綿毛の様に動いてかわしつつ、どうせ勝手に付与されるなら雷属性魔法を遠慮なく使ってしまえと思った私は、猛烈な威力を誇る雷を対象の上空から落とす『
無属性魔法や攻撃に何故か雷属性が付与されたお陰で、聖女の結界が壁としてより高く立ち塞がる様になってしまったものの、その分いつもよりも威力が増大している事もあってか、相対的に多少厳しい程度に抑えられているのが不幸中の幸いであった。
「おいおい、この弾幕を張っても当たらないとか冗談キツいぞ……聖女様ですらどうにも当たらないとか、レミリアみたく未来予知でもしてるんじゃ?」
「いや、未来予知であればそもそも私らに攻撃のチャンスを与えない行動をしてくるはず……一体どう言うカラクリなの?」
で、時間が経つにつれて私と戦う相手に親衛隊や他の騎士団の面々も加わり、あらゆる方向からレーザーやら火の玉やらの飛んでくる量が加速度的に増えてくる。
ただ、今のところは反射回避で大抵は当たらず、回避しきれないと
確実に1発は被弾している程の弾幕をかわせているのは、どう考えても暴走時に似た魔力増幅に加え、身体能力も上がっているからだろう。
この力がフラン姉様の『狂気の啓示』みたいに、きっかけ云々は関係なく私の意思で自由に使える様になれば嬉しいのだけど……
「うぐっ……はぁっ、はぁっ……ジア、大丈夫ですか?」
「え、エルラートさん……私を庇って……」
そんな感じで、急に使える様になった力に大いに助けられながら戦いを続け、上手いタイミングで次代の聖女を庇いに入った今代の聖女に初めて雷天の矢弾をまともに当て、戦闘続行が厳しくなる位の傷を与える事に成功した。
同時に、身体を取り巻いていた稲妻の勢いが衰え始めてきたものの、このまま行けば聖女1人なら始末出来るかもしれない。そう思い、再び雷弓を構えて雷天の矢弾を放った私であったが、今の今まで意識の外にあった近衛の献身的な妨害によって、達成する事は出来ずに終わってしまった。
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