「平和ねぇ……」
吸血鬼にとっては最悪極まりない天気である大雨の夜中、相も変わらず惰性で当主の仕事を自室でこなしていた私は、そう1人で呟いていた。
コルベルシア家とその傘下の吸血鬼たちは変わらず動きもなく、聖教会や聖魔騎士団の面々も、禁忌と認定されてから殆んど襲来してくる事もなくなった。
例えあったとしても、襲いかかってきた実力不足な
加えて、ここ最近はレイブン家以外の館を訪れる来客は少なく、直近では聖教会を滅ぼす旗印になってくれと、あまり交流のない『ローカ家』と『イリネ家』が何故か直談判に来た位である。
不可抗力ならまだしも、現時点では紅魔館から聖教会に仕掛ける理由などない上、道中の町や村を蹂躙するのが楽しそうとか堂々と言いのけるものだから、ドン引きしつつも断って帰ってもらった。
吸血鬼であり、妖怪である私たちは生きるために人間の血や畏れが必要だから、ある程度の間隔を開けた上で定期的に殺すと言う判断を取るし、館へ攻め込んで来た人間は言わずもがな、皆を守るために躊躇なく殺している。
聖魔騎士団や吸血鬼狩り関係の町や村に報復しに行ったりもするけど、その際はやり過ぎないように自重もしっかりとしている。
しかし、彼らの様に無意味かつ過剰に人間の住む町や村を蹂躙し、それを楽しめる心は私たちは持ち合わせていないし、持ち合わせようとも思わない。
ローカ家やイリネ家の勢力だけが報復を食らって滅ぼされたり、壊滅的な打撃を受けるのなら別に構わないけど、こっちにまで飛び火してくるのだけはごめん被る。だから、どうかこの件には無関係で居れる様にと祈っておこう。
「さてと。仕事はこの辺にして、軽く湯浴みをしてから寝るとしよ……!?」
などと、頭の中でその時の出来事を思い出しながらきりの良いところまで仕事を終わらせ、湯浴みでもしてから寝ようと思い立ったその時、自室の扉が何かに弾かれたと言わんばかりの勢いで開かれたを目にする。
しかも、扉を勢い良く開いたのが妖精メイドたちではなくリーシェであると分かったため驚かざるを得なかったけど、あの子の様子を見て私は、思わずため息をつかずにはいられなかった。
「悪夢か。しばらく聞かなかったからてっきり治ったのかとおもったわ……おいで、リーシェ」
「……っ!」
何故なら、一時期頻発していたもののここ数十年は落ち着いていた『悪夢』が、忘れていた今頃になってやって来たと分かったからだ。私のところに来たと言う事は、リーシェの悪夢の中で私が出て来てしまったのだろう。
こうなると、落ち着いて再び眠ってくれるまで付きっきりでいる必要性が出てくるので、今日の湯浴みは出来ないけど問題はない。
「もう、私の前から……居なくならないで……ひとりぼっちは嫌だよ……」
「大丈夫。心配しなくても、ずっと一緒に居てあげるわ」
「ぐすっ……本当? 約束、だよ?」
それにしても、現実と夢がごちゃ混ぜになるくらい混乱する悪夢とは、頻発していた頃を入れてもかなり上位に入る酷さだけれど、どうして今更になって再び突然見る様になったのか、まるで疑問でしかない。
館の皆が居なくなるかも知れない程の出来事が起こった訳ではなく、敵対的な相手に怪我を負わされたと言った事もない。
これまで通り、定期的に姉妹のふれあいだって行っていたし、むしろ前よりも頻度は増やしている位だから、その面で心に負担を与えた訳でもないはず。
加えて美鈴やパチュリー、こあや妖精メイドたちとの関係は良好で、毎日幸せそうにしているのを見ているから尚更であった。
そう考えると、ここ数十年酷い悪夢が現れなかったのは偶然が重なった結果の産物で、200年以上前の出来事によって精神に与えられた影響は軽くなる事はあっても、これからもずっと完全に治る事はないのだろう。私の胸に顔を埋めて声を震わせ、強く抱き締めてきているリーシェを見ながら改めて実感した。
(ふぁぁ……何だか眠くなってきたし、このまま一緒に寝ようかしら)
頭の片隅で朧気にその時の事を思い出しつつ、撫でてあげたりしながら落ち着かせようと試みていると、中々強い眠気が生じ始めてきた。心地よいリーシェの身体の暖かさが、私にとってちょうど良かったから当然と言えば当然だ。
どのみち、湯浴みをしてから寝るつもりであったから、それが出来ないとなれば起きている理由もなかったし、リーシェを落ち着かせたらすぐに寝よう。着替えはまあ、起きた後に一緒に湯浴みをし終えたついでで良いだろう。
「レミリア姉様、あったかい……すぅ」
「あらあら……ようやく落ち着いてくれたみたいね。ふふっ、良かった」
そう考えてベッドに向かい合わせになる形で横になり、眠気に抗いながら会話や軽いスキンシップなどを続ける事20分、ようやく落ち着いてくれたらしい。声の震えや息の荒さがなくなり、表情もどこか穏やかな感じで眠り始めたのを見て判断した。
これにて今回はひと安心だけど、今後も似た様な事があると考えると可哀想でならない。どうか、一生こんな悪夢を見ないでくれる事を祈るばかりだ。
「おやすみなさい、リーシェ」
そうして、リーシェが落ち着いて眠りについてからすぐに私も限界へと近づいて来たため、おやすみとの一言をかけてから眠りについた。
ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りや評価をしてくれた方に感謝です。感想を書いて下さった方も、ありがとうございます。